遺産相続コラム
被相続人(亡くなった方)の相続財産の中に、会社の株式が含まれていることがあります。
一般的な上場会社の株式であれば、市場価格があるためにその評価も容易です。しかし、非上場会社の株式であった場合には、評価方法および相続手続きなどにおいて、いくつか注意しなければならないことがあります。
そもそも、「株のことはよくわからないし、非上場株式を相続したくない」とお考えの方もいるでしょう。
本コラムでは、相続財産に非上場株式があった際の注意点と相続手続きの流れ、相続したくない場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
非上場株式を相続することになった場合には、以下の点に注意が必要です。
非上場株式とは、証券取引所に上場していない株式のことです。非上場株式には、上場株式のような市場価格というものが存在しませんので、相続の場面では、非上場株式をどのように評価するのかが問題となります。
非上場株式の相続税を計算する方法としては、会社の規模や、被相続人が少数株主であったか、会社の経営に関わっていたのかによって異なってきます。また、市場価格が存在しないため、相続人(財産を相続する人)も株式の価値を正確に把握していないことがあり、予想以上に高額な相続税の負担を強いられることがあります。
そのため、非上場株式を相続することになった場合には、その評価方法をしっかりと理解しておくことが大切です。
なお、非上場株式を発行した会社の後継者である相続人が非上場株式を取得した場合は、相続税の納税猶予や免除などを受けることが可能です。しかし、後継者ではない相続人が非上場株式を取得した場合は、このような特例措置は適用されません。
非上場株式の評価方法については、被相続人が保有していた株式の割合に応じて、「原則的評価方式」と「配当還元方式」という2つの方法に大別されます。
① 原則的評価方式
原則的評価方式には、会社の規模に応じて以下の3つの計算方法があります。
被相続人および相続人の株式保有割合が一定以上ある同族株主に該当する場合には、この原則的評価方式によって非上場株式を評価することになります。
② 配当還元方式
配当還元方式とは、非上場株式の配当金の金額をもとにして評価額を計算するやり方です。同族株主に該当しない場合には、この配当還元方式によって非上場株式を評価することになります。
非上場株式は、証券取引所での売買ができないため、相続したとしても売却が難しいというデメリットがあります。さらに、非上場株式の評価額が高額になった場合には、高額な相続税が課税されることになり、相続人にとって大きな負担となるケースもあります。
もし非上場株式の相続を避けたい場合には、後述する「非上場株式を相続したくない場合」の対処法を検討するとよいでしょう。
非上場株式を相続することになった場合は、以下のような流れで相続手続きを進めていきます。
まずは誰が相続人に該当するかという相続人調査を行います。
相続人に漏れがあった場合には、一度遺産分割協議が成立したとしても、やり直さなければなりません。そのため、遺産分割協議前に被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などを取得して、相続人の範囲を確定させる必要があります。
被相続人がどのような財産を有していたのかについても、相続人の調査と合わせて調べなければなりません。
上場株式の場合には、証券会社への問い合わせや証券保管振替機構への照会によって、被相続人が保有していた株式を明らかにすることができます。しかし、非上場株式の場合には、証券会社や証券保管振替機構によって株主の管理を行っていませんので、そのような方法では非上場株式の保有の有無を明らかにすることができません。
非上場株式の有無については、対象会社の株券、株主総会招集通知、配当金の支払通知書、確定申告書の控えなどから株式発行会社を調べて、直接株式発行会社に連絡をし、確認することが必要です。
被相続人が遺言書を残していた場合は、原則として、遺言書の内容に沿って遺産分割を行います。
一方、被相続人が遺言書を作成していなかった場合には、相続人調査と相続財産調査の結果を踏まえ、相続人全員で行う遺産分割協議によって遺産の分け方を決めていきます。
非上場株式が相続財産に含まれる場合には、被相続人が当該会社のオーナーであることが多いです。この場合、非上場株式を引き継ぐ相続人は、当該会社の後継者として事業承継を行う必要もありますので、その点も踏まえた話し合いが求められます。
また、非上場株式の相続税評価額をいくらにするかによって、遺産の分配方法が大きく異なってきます。そのため、非上場株式の相続税評価額を算定する際には、税理士に相談することが必要となるでしょう。
なお、遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。
非上場会社の株式を相続した相続人は、株主名簿の書き換えを行うために、株式発行会社に株式を相続した旨連絡をして、名義書き換えの依頼をします。株式発行会社が株式名簿管理人を置いている場合には、株主名簿管理人に連絡をします。
なお、非上場株式の名義書き換えの手続きは、株式発行会社によって異なりますが、おおむね、以下のような書類が必要となるでしょう。
詳しくは、株式発行会社に問い合わせてみてください。
相続財産の総額が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要です。
なお、相続税の申告は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりませんが、10か月以内に遺産分割協議がまとまらない場合、配偶者控除の特例や小規模宅地の特例など相続税額を低くする特例が使えなくなってしまいます。
もっとも、相続税申告時に「3年以内の分割見込書」を提出すれば、その後遺産分割が成立した際に更正請求を行うことで、特例の適用を受けて納めすぎた金額の還付を受けることは可能です。
同族経営などの場合は後継者がそのまま非上場株式を相続することが多いですが、自身に関係のない会社の場合は、相続したくないという方もいるはずです。
そのような場合には、相続放棄や第三者からの買い取りといった手続きを検討することになります。詳しく見ていきましょう。
相続放棄とは、相続に関する一切の権利・義務を放棄する手続きのことです。
相続放棄をすれば、貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続する必要がなくなります。そのため、主に被相続人に多額の負債があるような場合に利用される手続きです。
相続人がもともと当該会社の経営に関与していなかった場合には、積極的に相続を望まないこともあるでしょう。
相続放棄を希望するなら、相続が開始したことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述という手続きをしなければなりません。
ただし、前述のとおり、相続放棄はすべての相続財産を放棄する手続きのため、たとえ非上場株式を相続したくなかったとしても、相続財産の中に取得したいものがある場合は、相続放棄を選択できないこともあります。
たとえ非上場株式を相続しても、自分の手元に残さず、非上場株式を発行した当該会社や取得を希望する第三者(株主など)に非上場株式を買い取ってもらいたい、ということもあるでしょう。
もちろん、直接、当該会社に対して、非上場株式の買い取りを交渉することは可能です。また、当該会社が買い取りに消極的な場合は、株主などの第三者に買い取ってもらうこともできます。
ただ、非上場株式のほとんどの場合は、「譲渡制限株式」になっています。「譲渡制限株式」とは、株式を譲渡する場合に会社の承認が必要とされている株式です。
そのため、非上場株式を相続した相続人が、当該株式を第三者に譲渡しようとする場合には、当該会社の承認を得なくてはなりません。当該会社から承認を得られた場合には、譲渡の条件等について、相続人と第三者との間で協議を行いましょう。
もし、当該会社が第三者への株式譲渡を承認しない場合には、会社または会社の指定する指定買取人が非上場株式を買い取ることを、会社に請求することが可能です。
非上場株式の相続に限らず、相続に関する問題が生じた場合には、弁護士に相談することがおすすめです。
遺産相続が始まると、被相続人の遺産を相続人で分けることになります。そのためには、相続人調査や相続財産調査、遺産分割協議を行うことが必要です。
遺産分割協議自体に期限はありませんが、相続放棄をする場合には3か月以内、相続税申告が必要な場合には10か月以内という期限があります。そのため、遺産相続開始後は早めに手続きを進めなければなりません。
しかし、遺産相続に関する知識や経験がなければ、手続きをスムーズに進めていくことが難しいといえます。そのため、期限内に相続手続きを終えるためにも、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。
弁護士に依頼をすることによって、遺産相続に関する複雑な手続きや遺産分割協議を任せることができるため、相続人にかかる負担を大幅に軽減することが可能です。
相続財産に非上場株式が含まれている場合には、非上場株式の評価が非常に重要となります。また、非上場株式は証券取引所での売買ができないため、相続後も売却が難しい点には留意しなければなりません。
ベリーベストグループには、弁護士だけでなく税理士も在籍しておりますので、非上場株式が含まれる遺産相続であっても、税理士と連携したワンストップサービスの提供が可能です。
株式の相続をどうするべきか悩んでいたり、遺産分割でトラブルになっていたり、遺産相続に関してお困りごとがある際は、知見・経験豊富な弁護士が在籍するベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
遺産相続専門チームの弁護士がお話を親身に伺いながら、最適な結果となるようにサポートいたします。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
令和6年4月1日の法改正により、相続登記の義務化が始まりました。義務が発生するのは4月1日以降の相続だけでなく、それ以前に発生した相続も対象になります。
そのため、期限までに相続登記を終えなければ過料の制裁を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
こうした制裁リスクを回避できるように新しく創設された制度が、「相続人申告登記」です。
相続登記をするには、遺産分割協議で遺産の分配を決める必要がありますが、期限内に遺産分割に関する話し合いがまとまらないケースもあるでしょう。そのようなときに、この相続人申告登記の制度を利用することで、より簡単に相続登記の申請義務を履行できるようになりました。
本コラムでは、相続登記の義務化に伴い、新たに導入された相続人申告登記の基礎知識について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。
たとえ大勢いる相続人のひとりと連絡が取れない場合であっても、勝手に相続手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
本コラムでは、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
民法・不動産登記法が改正され、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。対象となる相続登記は、法改正以降に発生した相続だけでなく過去の相続も含まれるため、注意が必要です。
相続登記を行う期限は、「改正法の開始日(令和6年4月1日)」もしくは、「不動産を相続により取得したことを知った日」の、どちらか遅い日から3年以内、遺産分割協議で取得した場合は、別途、遺産分割協議成立日から3年以内となるため、ご自身の場合の期限がどこになるかを見極めて、早めに手続きを進めていくことをおすすめします。
今回は、相続登記義務化の概要と登記しなかった場合の罰則、すぐに相続登記ができない場合の救済措置(相続人申告登記)について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。