遺産相続コラム
中小企業において、「事業承継」と「相続対策」はとても重要な課題です。しかし、業務が忙しく、後回しになっていることが多いのではないでしょうか。
相続対策に関しては、相続開始後に行うことができないものであるため、早めに対応するようにしましょう。
「自分の会社は小さいから、特に自社株の相続対策は必要ない」とお考えの方もいるかもしれませんが、非公開株は、思いがけず高額に評価されることもあります。その結果、多額の相続税を支払うことになり、事業の継続が困難になる場合があることに注意が必要です。
本コラムでは、自社株の相続における評価や事業承継税制について、べリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
① 株の買い取り
オーナー企業の場合、オーナーは自ら出資しているため、その企業の株式を保有しています。オーナーが自分の子に会社を継がせたいと思った場合、株式を譲渡するのが最も簡単な方法です。
ただ、子に株式を買い取るだけの資金がなければ、この方法を採ることはできません。
② 生前贈与
子が株式を買い取ることができない場合、株式を生前贈与するという方法があります。
贈与なので、子に資金がなくても株式を譲渡することができますが、相続発生時に他の相続人から遺留分の主張がなされる可能性があります。また、贈与税は高い税率なので、株式の評価額が高い場合、多額の贈与税が発生します。
③ 遺言による自社株の相続
「自社株」とは、本来、会社自体が自分の株式を保有することをいいますが、オーナーが保有している株式も「自社株」と呼ぶこともあります。ここで言う自社株は後者を指します。
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、遺言によって、オーナーが所有していた株を後継者に相続します。
● 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で作成する遺言書です。紙に自筆で書くものなので、誰でも簡単に作れるのがメリットです。
具体的には、全文を自筆で書くこと(財産目録はワープロ等で作成可能)、作成日があること、署名があること、押印があること、遺言の内容が理解可能であることが必要です。
自筆証書遺言のデメリットとしては、法律上細かい決まり事があるので、それに違反すると、そもそも有効な遺言とはならないことです。また、あまりにも発見しにくいところに保管しておくと、被相続人の死亡後、発見されずに終わってしまうというリスクもあります。
さらに、遺言書を発見した場合には、勝手に開封することは許されず、家庭裁判所で検認の手続きを経なければなりません。ただし、法務局に遺言書の保管を依頼した場合には、未発見のリスクはなくなり、裁判所による検認の手続も不要になります。
● 公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を話し、公証人がその内容に基づいて、遺言を作成するものです。公証人は、元裁判官や元検察官などが担いますので、最も確実な遺言書と言えます。
公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されており、紛失したり改ざんされたりするリスクがありません。また、家庭裁判所の検認手続が必要ないというのもメリットです。
一方で、公正証書遺言を作成する場合には、原則として公証役場に行く必要があり、証人2人の立ち会いが必要という点は面倒です。また、財産の価格に応じた手数料が発生するというのがデメリットです。
● 秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で封を閉じ、同じ印章で封印し、公証人及び証人2人の面前で、自己の遺言書である旨等を述べ、公証人、遺言者、証人2人が封紙に署名押印するものです。
秘密証書遺言は、内容を誰にも知られないという点がメリットです。ただし、遺言内容を確認してもらうことができないため、内容に不備があると、遺言の効力がなくなってしまいます。また、秘密証書遺言は法務局による保管制度はないため、必ず家庭裁判所による検認手続が必要になります。
参考:事業承継とは
① 遺産分割で揉める可能性がある
遺言などが作成されていなかったり、適切に作成されたりしていない場合、遺産の分割の仕方について相続人間で争いになることがあります。
相続人全員での遺産分割協議によって株式の配分など決めることになりますが、誰が後継者になるかについて争いになることがあります。
② 相続税や贈与税が高額になる
オーナー企業の株式は非上場株式であるため、時価額を定期的に調べないこともあります。会社の業績が良いと、思いのほか株式の評価額が高くなり、相続税や贈与税の負担が大きくなってしまうという問題があります。
③ 親族が遺留分を主張してくる
相続人が複数いる場合、遺言によって後継者を1人決めて自社株を相続させたとしても、その他の遺留分権利者が十分な遺産相続を受けられなかった場合、遺留分侵害額請求※をしてくる可能性があります。そのため、被相続人は、遺留分権利者に対して最低限遺留分相当の自社株以外の財産を配分できるよう考えておく必要があります。
2019年7月1日以降に亡くなった方の相続については、遺留分を侵害された相続人は『遺留分侵害額請求』をすることができます。なお、これ以前に開始した相続の場合には『遺留分減殺請求』となり、生前贈与や遺贈を受けた人に対して遺産の返還を請求することになります。
例えば株式の場合、請求によって共有になります。こうなると複雑な共有状態が生じてしまって不都合であることから、金銭を請求できる権利に改正されました。
法人版事業承継税制とは、後継者である受遺者・相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の認定を受けている非上場会社の株式等を生前贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税や相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等の場合には納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除されるという制度です。
平成30年度税制改正では、通常の措置に加え、平成30年から10年間、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の3分の2まで)が無くなり、相続税の納税猶予割合の引上げ(80%から100%)等がされた特例措置が創設されました。
したがって、当面の間は、要件を満たせば、税負担なく自社株式を後継者に承継できます。
このような特例が創設された理由は、中小企業の事業承継がスムーズにいかなければ、廃業に追い込まれることになるからです。そうなると、日本の経済にとってもマイナスになります。そのため、税の優遇を認めました。
事業承継税制を受けるためには次の要件を満たす必要があります。
● 会社の主な要件は次の会社のいずれにも該当しないこと(贈与、相続で共通)
● 先代経営者等である贈与者の主な要件
● 担保提供
納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
② 相続の場合
● 後継者である相続人等の主な要件
● 先代経営者等である被相続人の主な要件
● 担保提供
納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保を、税務署に提供する必要があります。
なお、特例措置を受けるためには、認定経営革新等支援機関の指導と助言を受け、「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。認定経営革新等支援機関とは、税理士や商工会などです。その上で、「都道府県知事の認定」、「税務署への申告」の手続が必要となります。
[参考:事業承継税制(特例措置)【法人向け】|岡山県ホームページ]
事業承継税制の特例を使う場合には、実質的に相続税を免れることができますが、要件が複雑なため、通常の相続をするという場合、自社株の評価を下げておかないと多額の相続税が発生します。
非公開株式の相続での評価方法は、「原則的評価方式」と「特例的評価方式」の2つがあり、親族が相続する場合には、「原則的評価方式」になります。
原則的評価方式は、評価する株式を発行した会社を総資産価額、従業員数及び取引金額により大会社、中会社又は小会社のいずれかに区分して、原則として次のような方法で評価をすることになっています。
(ア) 大会社
大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。
類似業種比準方式は、類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」の三つで比準して評価する方法です。
(イ) 小会社
小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。
純資産価額方式は、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。
(ウ) 中会社
中会社は、大会社と小会社の評価方法を併用して評価します。
上場株式の株価は非公開株式に比べ高い傾向があるため、類似業種比準価額は高く評価される可能性があります。また、順調に企業業績を伸ばしてきたような会社は純資産も大きくなっているため、純資産価額で算出した場合でも高くなる場合があります。
種類株式とは、権利の内容が異なる株式です。相続人が複数いる場合、後継者に株式を相続させた場合、他の相続人から遺留分の侵害が主張され、多額の遺留分侵害額請求を受けてしまうことになりかねません。
後継者以外には議決権制限株式を相続させることで、後継者以外の相続人に配当などの金銭的メリットは与えつつ、議決権は後継者だけが行使できるようにすることができます。
遺留分対策としては、後継者以外の相続人には遺留分を満たすだけの相続財産を準備しておく必要があります。その方法として「役員退職金」の活用があります。
後継者には自社株を生前贈与し、遺留分権利者には役員退職金を支払うことで金銭的な満足を与えるという方法です。
経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例」とは、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、遺留分の算定基礎財産から除外(除外合意)する、または、遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)することができるというものです。
この制度を活用することにより、後継者に確実に自社株を移転することができます。
2018年の民法改正により、特別受益は相続開始時から10年間のものに限定されることになりました。これにより、相続開始時から10年間より前に行われた自社株の生前贈与は、特別受益とみなされなくなります。
そのため、10年以上前に生前贈与しておけば、その分については遺留分を主張されなくなります。
中小企業の多くは譲渡制限株式なので、定款を変更して、株主に相続が発生した場合には、その相続人に対して会社が当該株式の買い取り請求をできるようにしておくことが考えられます。そうすることにより、株式が第三者に渡ることを防止することができます。
経営者にとって、自分自身に万が一のことがあった場合に、事業を継続できるのかどうかの点は最も気になることだと思います。これまで築いてきた信用や従業員らを守ることについて責任があるからです。
事業承継は必ず発生するものですが、事前に対策することができます。円滑な事業承継をするためには、定款の変更や税金対策など法的な対応が必要になります。弁護士にこれら依頼することで、万全の体制で事業承継に望めます。
ベリーベストには弁護士の他に税理士も在籍しているので、節税対策や株式の評価なども含めてワンストップで相続や事業承継について対応することが可能です。
今回は、自社株の相続等における注意点や税金対策について解説しました。事業承継は、株価対策、定款変更、相続対策、事業継続など、やるべきことは多岐にわたり、おひとりで対応するには限界があります。
弁護士や税理士をうまく活用して、スムーズな事業承継を実現するべく、なるべく早い段階から準備しておくことが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士の他に税理士も在籍しており、ワンストップで対応することができます。顧問サービスも実施しておりますので、事業承継について相談がある場合にはお気軽にお問い合わせください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
遺産相続が始まったとき、相続人同士による相続争いが起きないようにするためには、生前に相続対策を講じておくことが重要です。
さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
本コラムでは、生前にできる遺留分対策や弁護士相談の有効性などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。