親が亡くなるなどして相続が開始すると、これまで仲が良かった兄弟でも、遺産分割について揉め、関係が悪化することがあります。
遺産分割についておこるトラブルは、
多岐にわたります。
遺産分割後の地位を安定したものにするためには、ある財産が遺産に含まれることの確認を求める民事訴訟を提起して、その判断がでてから遺産分割協議を始めるのがよいでしょう。
一部分割を行うことも可能ですので、将来において新たに遺産に含まれる財産が発見されたときは、その分についてあらためて分割をするという留保をつけて、一部のみの分割協議を進めるのがよいでしょう。
前述のとおり、一部分割も有効であると認められていますので、すでに成立している遺産分割は有効で、新たに発見された遺産のみについてあらためて相続人間で分割協議をして分割すればよいというのが原則です。
もっとも、協議の中で脱落していた遺産や新たに発見された遺産が一部の相続人によって故意に隠匿されたものであった場合や、遺産全体の中で大きな割合を占める財産価値を有している場合には、遺産分割をする上で重要な部分に錯誤があったことになるので相続人としては、遺産分割の無効を主張する余地があります。
遺産に不動産が含まれる場合、トラブルが生じやすい傾向にありますが、大きく分けて2つの点についてもめることがあります。
不動産は現金や預金とは違い、単純にそのままの状態で相続分に応じて分けるということができません。
そのため、不動産を相続する際には、
のいずれかの方法を取ることになります。
上記方法のいずれを取るかについて相続人間で意見の対立が起こることが多々あります。
遺産分割の際には、不動産の評価が必要になりますが、不動産の評価方法は複数あり、いずれの評価方法を取るかにより評価額が大きく変わってしまうため、相続人間で意見の対立が生じやすいのです。
遺言がなく、協議でまとまらない場合は、調停を申し立て、調停でもまとまらない場合には、審判により裁判所の判断を仰ぐことになりますので、争いが長期化する傾向にあります。
したがって、不動産が遺産に含まれる場合には、生前に遺言書を作成しておくのをおすすめします。
相続人の1人が遺産を独り占めしようとしている場合、遺産分割協議が進みませんので、調停を申し立て、それでもまとまらない場合には、最終的には審判に進まざるをえません。そうすると、長期間にわたって遺産分割に悩まされることになります。また、相続人間の仲も修復不可能になってしまう可能性が高くなってしまいます。
この問題に対処するためには、生前に遺言書を作成しておくことをおすすめします。その際には、後に遺留分侵害額請求をされることのないように、遺留分に配慮した遺言内容とするよう注意が必要です。
内縁関係の配偶者には相続権がないためにトラブルが生じます。
婚姻届を出した夫婦と同様に共同生活を送り、財産を共同で形成してきたとしても、現在の民法では、婚姻届を出していない内縁関係の配偶者には相続権が認められません。したがって、内縁の夫(妻)が死亡した際に、その死亡した内縁の夫(妻)が所有する家に住んでいる場合には、内縁の夫(妻)の相続人から明渡請求がなされ、場合によっては、内縁の配偶者はその家を追い出されてしまうおそれがあります。
死後に内縁の配偶者が受ける不利益を避けるためには、生前に遺言書を作成しておくことが大切です。この場合、内縁の配偶者が後に遺留分侵害額請求を受けないように、法定相続人の遺留分に配慮しておくことが重要です。
親と同居していた相続人がいる場合、その相続人は親の介護をしていたり、家業を手伝っていたりすることが多く、その分自分の相続分を増やしてほしいと考えている場合が往々にしてあります。一方で、他の相続人は、親のために介護や家業を手伝うのは当然であると考え、親の介護や家業の手伝いをしていた相続人の相続分を増やし、自分の相続分を減らすことに納得しないことがあります。このように意見が対立してしまい、トラブルになることもよくあります。
この問題を法的には「寄与分」と言いますが、まずは寄与分を認めるかという点について争われ、その後、寄与分を認めるというところまで合意しても、どの程度と評価するかというところでさらに揉めてしまい、最終的な結論が出るまで非常に長い時間がかかってしまうこともあります。
この問題に対処するために、親が生前に遺言書を作成しておくことをおすすめします。同居する相続人の相続分を多くしたい場合にはその旨の、同居する相続人とその他の相続人とで相続分を変えたくない場合には法定相続分どおりに分割する内容の遺言にしておきます。同居する相続人の相続分を多くする旨の遺言書を作成する際は、他の相続人の遺留分を侵害しないように注意しましょう。
なお、被相続人の親族で被相続人に対して無償で療養看護するなどして労務提供したことによって被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をしたときには、その親族は相続人に対して寄与に応じた金銭の支払いを請求できる「特別寄与料」という制度が別途存在します(民法1050条)。
最近では高齢化社会が進み、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいるという事例も少なくありません。
そこで、相続人の中にそのようなものがいる場合には、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて成年後見人を選任してもらい、成年後見人と遺産分割協議をすることができます。
遺産分割において、親と未成年の子がともに相続人となる場合には、お互いの利益が反するため親が未成年の子を代理することはできません。したがって、そのような場合には、家庭裁判所に子のために特別代理人の選任を請求することになります。
遺産分割前の遺産は各相続人の共有に属するので、通常は勝手に処分することはできないはずです。
他方、遺産分割前に、財産処分がなされた場合、原則として、その処分された財産は遺産分割の対象にはならないと考えられています。しかし、それでは、財産を勝手に処分した相続人の取得分が増えて、他の相続人との間で不平等が生じる恐れがあります。そこで、相続人間の公平を図るため、共同相続人全員が同意をすれば、処分された財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとされています(民法906条の2)。なお、当該財産を処分した共同相続人の同意は不要です。
遺産分割により取得した遺産が後日他人のものとされた場合、遺産分割は当然には無効となりませんが、後に取り戻された財産が遺産の大部分を占めるような場合は無効となり、そうでない場合は有効となるというのが実務の運用です。
遺言書の内容が相続人の1人にすべてを相続させる等、一部の相続人のみに利益のあるものだった場合、遺言書により不利益を被る相続人が遺留分侵害額請求を行う可能性があります。
すなわち、兄弟姉妹を除く法定相続人は、遺留分を有しており、この遺留分が遺言書により侵害された場合には、その侵害された相続人は、利益を受けている相続人やその他の受遺者に対し、自らの遺留分について支払うよう求める、遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分侵害額請求をして遺産の返還を求めると、感情的な対立が激しくなり、仲が修復不可能になるばかりではなく、遺留分侵害額請求訴訟が起こり、長期間争うこともあります。
遺言内容によるトラブルを防ぐためには、遺言書を作成する際に遺留分を侵害しないような内容にしておかなければなりません。
遺言が出てきて10年間遺産の分割を禁じるなどの記載があった場合、分割禁止の期間は、相続開始のときから5年を超えることは出来ませんので、5年を超える分割禁止の遺言がある場合には、5年の禁止と考えられます。ですので、5年後に分割することになります。
相続人間の話し合いがまとまらない場合、いつまでも遺産分割ができない状態が続いてしまいますので、家庭裁判所で遺産分割調停・審判をしなければなりません。遺産分割調停・審判となると、平日の日中に家庭裁判所に赴かなければならず、手間もかかりますし、紛争も長期化してしまいます。
また、遺産分割がスムーズに進められないと、配偶者控除等各種の相続税控除を受けられなくなるおそれがあります。
さらに、遺産分割が終わらないと、相続財産を活用できないまま時間が経過してしまうということになります。相続財産に不動産が含まれる場合、本来であれば、相続人の誰かが住んだり、または賃貸に出して収益を得たりすることや、売却により換価することも可能なはずですが、遺産分割がまとまらない段階ではそういったことも難しく、せっかくの不動産を持て余し、毎年、固定資産税や都市計画税だけ支払い続けるということになります。
最後に、相続トラブルが起こると、もともと仲が良くても、当事者同士が強く憎み合うようになり、遺産分割が終了しても、絶縁状態になってしまうことがままあります。そのような事態は被相続人(となる人)も望んでいないことでしょう。