遺産相続コラム
株式投資好きの父親や母親が亡くなった場合、多種多様な株式が遺産として残されている可能性があります。
東京証券取引所が令和6年(2024年)7月に発表した「2023年度株式分布状況調査の調査結果について」の資料によると、個人株主数は7445万人(前年度比462万人増)で10年連続で増加しており、株式投資を行う方が年々増えているようです。
相続財産に株式が含まれているときは、どのように相続手続きを進めていけばよいのか、よく分からないという方は少なくありません。
本コラムでは、上場株式の相続について、証券会社への問い合わせ方法をはじめ、株式評価額の評価方法や遺産分割の進め方などをベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
株式を相続したときには、その株式が東京証券取引所などの株式市場で売買されている「上場株式」なのか、親族の会社の株式のように株式市場での売買を予定されてない「非上場株式」なのかによって、とるべき対応が異なります。
父親や母親が、「株をやっている」などと話している場合は、その「株」とは上場株式であるのが通常です。上場株式は、証券会社などで口座を開設すれば気軽に売買できるので、資金さえあれば容易に保有できるからです。
一方で非上場株式とは、証券取引所には公開されておらず、一般に流通していない株式です。非上場株式が問題になるのは、父親や母親が会社を経営している場合や、親族や知人の会社に出資している場合などです。
非上場株式は、「○○の会社に出資している」といった言い方をするのが通常で、「株をやっている」といった表現を通常は使いません。「株をやっている」と言っていた父親や母親の遺産相続事案であれば、相続財産は上場株式と考えてまず間違いないでしょう。
上場株式の相続の際には、株式を預けている証券会社が判明しているか判明していないかで対応が異なります。以下ではそれぞれに分けて、対処方法をみていきましょう。
●証券会社が判明している場合
自宅に証券会社からの通知書や粗品などを見つけて問い合わせるなどして、証券会社が判明している場合、株式の遺産相続手続きは、以下のようにして進めます。
①証券会社に連絡を入れる
まずは株式を預けている証券会社へ連絡をして、名義人である被相続人が死亡したことを知らせます。そして、相続人に名義変更したい希望も伝えます。
②必要書類をそろえる
相続人が株式の相続手続きを行うための必要書類をそろえます。多くの証券会社では戸籍謄本、住民票や本人確認書類、遺産分割協議書、遺言書等が必要となるでしょう。また、口座振替の申請書などを書かなければなりません。証券会社によって書式が異なるので、送ってもらいましょう。
③相続人の証券口座を用意する
株式を相続するときには、被相続人名義から相続人名義に書き換えた株式を相続人の証券口座に振り替えてもらう必要があります。預金と違い、有価証券の場合には「口座そのものの名義変更」ができないので、必ず「相続人名義の証券口座」が必要です。
今証券口座をお持ちの方はその口座を使ってもかまいませんが、口座のない方の場合には新規で開設する必要があります。新規口座を開設する場合には、本人確認書類やマイナンバーカードの写し、その他証券口座開設のための申込書などの準備が必要です。
④相続人の口座へ被相続人の株式を振り替えてもらう
相続人名義名着の口座と必要書類がそろったら、証券会社に申請書を提出しましょう。すると、被相続人名義の株式を相続人名義に変更した上で相続人名義の証券口座へと振り替えてもらえます。
その後は株式が相続人名義となるので、株主宛の通知などもすべて相続人宛に届くようになり、配当金も受け取ることができます。
●証券会社がわからない場合
株式を預けている証券会社がわからない場合には「証券保管振替機構」に問い合わせると、どこの証券会社と取引があるのか開示してもらえます。証券保管振替機構とは、証券を預かって管理している機関です。開示請求書に必要事項を記入して、必要書類とともに郵送すれば、取引情報が記載された資料を郵送してもらえます。
情報開示請求の際には、最低限以下の書類が必要です。
※1 事前に法務局を通じて法定相続情報一覧図にかえることができます。
株式を相続したときには、その株式にどの程度の価値があるのかは重要な問題になります。
法定相続人が相続分に従って遺産分割協議を進める際、株式の価値がわからなければ各自の相続分を計算することはできません。
また相続税についても検討しければなりません。
そこで、相続の際に使われる株式の価値のひとつである相続税評価額の評価方法をご説明します。
上場企業の株式の場合、評価方法としては以下の4つの価額のうち「もっとも低い金額」を採用できます。
被相続人が死亡した日が土日祝日の場合、証券取引所は休みであるため、取引の金額を求めることができません。そこで、相続発生日にもっとも近い日における終値を相続発生日の終値として計算します。
たとえば、土曜日に死亡したら、前日の金曜日の価格を基準に評価します。死亡日が連休の中日のケースでは、連休前の終値と連休後の終値の平均額を相続発生日の終値として評価します。
株式の銘柄が複数ある場合には、それぞれについて「もっとも低い金額」を選べます。
相続税は遺産の相続税評価額に応じて金額を算定されるため、相続財産の評価額が低ければ低いほど税額が低くなります。節税をするためにも、どのようなルールなのかは知っておくとよいでしょう。
被相続人が亡くなった日が仮に9月20日であって2000株の資産が残されており、株価が以下のとおりであった場合を例に取り上げます。
上記のうち、もっとも低い価格は7月の最終価格の平均額2800円です。そこで2800円×2000株=560万円をこの株式の相続税評価額とすることで節税ができます。
上場株式の場合、株式の終値や平均額はインターネットで検索するとすぐにわかります。
たとえば「Yahoo!ファイナンス」にアクセスすると、銘柄を指定して無料で終値を確認できます。また、日本取引所グループのサイトでも、月間の最終価格等を調べられます。
他にも、証券会社に依頼して残高等の証明書を発行してもらうこともできます。上記の4種類の残高、評価額についての確認書類の発行を受ければ、それぞれ数値を比較して、どれが1番低額になるかを確認できるでしょう。
父親(母親)名義の株式を相続するとき、相続人が1人であればその相続人がそのまま株式を相続するだけです。しかし、相続人が複数いる場合は「遺産分割」をしなければなりません。
株式の遺産分割方法には、以下の3種類があります。
①株式を誰かがそのまま受け継ぐ(現物分割)
ひとつ目は、ある相続人が株式をそのまま相続する方法です。
たとえば子どもが3人いる場合、次男が株式を相続して次男へ名義変更します。3種類の株式があれば、ひとつを長男、もうひとつを次男、3つ目を三男などにすることも可能です。1500株あれば、1人500株ずつに分ける方法などもあります。このように、株式の形を変えず代償金などの方策もとらずにそのまま分ける方法を「現物分割」と言います。
②株式を売却して、代金を相続人で分配する(換価分割)
2つ目は、株式を売却して売却代金を相続人間で分配する方法です。誰も投資や株式の所有に関心がない場合におすすめです。
売却代金は、話し合いによって分配することもできますが、一般的には法定相続分に従って分配します。たとえば、子ども3人のみが相続人になっていて株式が1500万円で売れたのであれば、1人500万円ずつの売却金を受け取ります。
③1人の相続人が株式を相続し、代償金を他の相続人が受け取る(代償分割)
3つ目は、株式を1人の相続人が相続し、他の相続人には「代償金」を支払う方法です。株式を取得する相続人は、他の相続人の「法定相続分」に応じて代償金を支払います。
たとえば子どもが3人いて1500万円分の株式が残されている場合、長男が株式を全部取得するなら他の兄弟にそれぞれ500万円ずつの現金を支払います。
株式を遺産分割の対象とする場合、以下のような点に注意が必要です。
●株式が下がったタイミングで売却すると、損になる
上場株式の評価額は、日々変動します。土地などの不動産も価格変動はありますが、株式はさらに極端な値動きを見せるケースが多々あります。相場を調べないで安易に売却すると、下がったタイミングで売却することによって損をしてしまう可能性があります。
株式を売って代金を分ける場合には、焦らずできるだけ高くなったタイミングを狙って売却しましょう。
●代償金計算が不公平にならないようにする必要がある
誰か1人が株式を取得し、他の相続人に代償金を払う「代償分割」の場合にも、株式の評価額との関係で問題が発生します。株式が下がったタイミングで評価すると他の相続人の代償金が低くなって不満が噴出しますし、株式が上がったタイミングで評価すると代償金が高額になって今度は株式を取得する相続人が不満を感じるからです。
代償金計算の際にも、株式の評価が不公平にならないよう配慮する必要があります。
●準確定申告が必要
被相続人が株式取引をしていた場合、本来なら本人が確定申告すべきであったケースがあります。しかし本人は死亡しているので、自分で確定申告できません。この場合、相続人が被相続人に代わって「準確定申告」をしなければならない可能性があります。準確定申告には「相続開始後4か月以内」という期限があるので、早めに手続きしましょう。
●相続人が相続放棄した場合
相続人の1人が相続放棄をすると、その相続人ははじめから相続人ではなかったことになります。その相続人を除く他の相続人は遺産分割協議を行い、株式についての相続方法を決定することになります。
株式の相続手続きが完了しない間は、株式は相続人全員の「準共有」状態となります。準共有の状態で議決権などの株主権を行使するには相続人のうち1人を「権利行使者」として定め、株式発行会社へ通知する必要があります。配当金は受け取るたびに相続人間で分配するなどしなければなりません。
準共有状態は不安定であり、手間も余計にかかってしまうので、早めに相続手続きを進めることをおすすめします。
多種多様な上場株式を相続すると、相続財産調査の手続きだけでなく、評価や相続税の計算も相続人にとって大きく負担になるものです。
株の相続にあたって、実際にどのように対処していこうか、お悩みの方も多いでしょう。そのような方は、ぜひベリーベストグループまでご相談ください。
ベリーベストグループには弁護士だけでなく税理士も在籍しているため、必要に応じて各士業が連携し、ワンストップで株式の遺産相続に対応することが可能です。
遺産相続に詳しい弁護士や税理士が親身になってサポートをいたしますので、投資家だった父母が持っていた株式の遺産相続のことで迷われた際は、お気軽にお問い合わせください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
日頃から仲が良い兄弟姉妹であっても、遺産相続のようにお金が絡む問題になると、感情的になり対立してしまうことも少なくありません。
特に、被相続人(亡くなった方)が生命保険を契約していた場合は、受取人として指定されていた1人の相続人が保険金を受け取ることになります。
その際、生命保険金を独り占めして他の相続人に分配せず、その上でその他の相続財産も均等に分けるよう主張してきたときには、他の相続人としては到底納得できないでしょう。
このように、遺産相続においては親の生命保険金の扱いで兄弟姉妹のトラブルが起こってしまうケースがあるため、注意が必要です。
本コラムでは、生命保険と遺産相続の関係について、みなし相続財産や特別受益なども踏まえながら、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
亡くなった方(被相続人)が独身で、子どもや親兄弟がおらず法定相続人に該当する人がいない場合や、法定相続人がいても全員が相続放棄をするような場合は、相続財産(遺産)を管理する人がいないことになります。
相続人がいないことに伴う不都合があるときには、家庭裁判所に申し立てを行って、相続財産清算人(相続財産管理人)を選任してもらいましょう。
申し立てにあたっては、相続財産清算人(相続財産管理人)の選任方法や必要になる費用などについて、事前に知っておくべきポイントがあります。
本コラムでは、相続財産清算人(相続財産管理人)制度の概要や必要になるケース、選任申し立ての方法や流れ、費用について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
株式投資好きの父親や母親が亡くなった場合、多種多様な株式が遺産として残されている可能性があります。
東京証券取引所が令和6年(2024年)7月に発表した「2023年度株式分布状況調査の調査結果について」の資料によると、個人株主数は7445万人(前年度比462万人増)で10年連続で増加しており、株式投資を行う方が年々増えているようです。
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