遺産相続コラム
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。
たとえ大勢いる相続人のひとりと連絡が取れない場合であっても、勝手に相続手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
本コラムでは、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
音信不通などで連絡が取れない相続人がいても、遺言書によってすべての遺産相続方法が指定されていたら遺言により相続財産を取得した人は相続手続きを進められます。
しかし、遺言書がない場合には、法定相続人が自分たちで遺産相続方法を決めなければなりません。連絡が取れない相続人を除外して、やり取り可能な相続人だけで遺産分割協議を進めることは法律的には認められません。法定相続人が全員参加しない遺産分割協議は無効になります。無効な遺産分割協議にもとづいて作成された遺産分割協議書も、当然ながら無効です。
遺産分割協議が無効だと、合意した相続人の間では合意した内容を主張できても、対外的に主張することができません。たとえば不動産や車、株式などの相続財産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、一切の相続手続きを進めることができなくなります。
たとえ連絡が取れない相続人がいる場合でも、相続手続きをするためには、法定相続人が全員そろって遺産分割協議をすることが必要です。
連絡が取れない相続人がいる場合の説明に入る前に、連絡は取れているけれど無視されて返事がもらえないケースで、どのように相続手続きを進めていけば良いのかを解説します。
なぜ相続手続きについての連絡を無視する相続人がいるのかについては、さまざまな理由が考えられます。よくあるのは、以下のような事情です。
●疎遠で一度も会ったことがない
もともと疎遠で一度も会ったことのない親族がいる場合です。特に、被相続人が再婚していて前妻の子どもがいる場合や、父親が認知した子どもがいる場合など、お互いが顔を合わせたことがないというケースでは、いきなり連絡しても無視されることがあります。
●不仲
親族同士がもともと不仲や疎遠、という場合もあります。たとえば長男が亡くなって母親と配偶者(長男の妻)が相続するときなど、嫁姑問題で不仲であれば連絡を取りにくく、無視される可能性も大きいでしょう。
●音信不通
無視されるというのではありませんが、もともと音信不通、生死不明の相続人もいます。その場合、連絡の取りようがありません。この場合の手続きは、3.で説明します。
連絡をしても無視する相続人がいるとき、まずじは相手が行方不明ではなく、どこにいるのかがわかっている場合には、「放っておくとどのような問題があるのか」を伝えましょう。
たとえば「このままでは家庭裁判所で遺産分割調停をせざるを得なくなるけれど、そのようなことはお互い面倒」「いつかは相続手続きをしなければならないのだから、早めに対応しておいた方がお互いにとって良いと思う」などと言って、穏便に説得するのが得策です。
このように対応することで、相手も気を許して話し合いに応じてくれる可能性があります。
相手が強硬な場合や、すでに深い対立関係になっていて連絡が取れない場合には、どんなに説得しても遺産分割の話し合いに参加してくれない可能性もあります。
その場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて話し合いを進めるしかありません。
調停を申し立てると、家庭裁判所から相手の住所地に呼び出し状を送ってくれます。そのため、自分で相手に連絡を取る必要はありません。調停でも話し合いが成立しない場合には「遺産分割審判」となって、裁判所が遺産分割の方法を決定します。
相続人のうち一部の人の居場所がわからず連絡が取れない場合には、どのようにして相続手続きを進めたら良いのか、その流れを解説していきます。
まずは、相続人の住所地を調査しましょう。通常、人は住民票のある場所に住んでいるので現在住民票が置かれている場所を確認できれば、連絡を取れる可能性があります。
住所地は、その人の「戸籍附票」をみたらわかります。
今の本籍地がわかるのであれば、本籍地の役所にその人の戸籍附票を申請して取得すると、住民票上の住所が書いてあります。
ただし、戸籍附票は他人には取得できません。相手が独立して戸籍を作っている場合、戸籍附票を取ろうと思っても役所は発行してくれないことに注意が必要です。
相手が未婚などで、まだ被相続人を筆頭者とする戸籍の中に入っている場合や、相手が兄弟などで自分と同じ戸籍に入っている場合には、被相続人や自分の戸籍の附票をまとめて取得することにより相手の住所地を確認できます。
相手の住所がわかったら、手紙で連絡を入れてみましょう。相手からの返答があれば、そのまま相続手続きを進められます。
住所地を特定しても、すでにその場所に居住していないケースもあります。
このように、本当に「行方不明者」となって連絡が取れないのであれば「不在者財産管理人」という制度を利用しましょう。
不在者財産管理人とは、財産管理人を置かずに行方不明になっている場合において、本人の代わりに財産管理をする人を選任する手続きです。
共同相続人であれば、利害関係人として不在者財産管理人の選任申し立てをすることが可能です。
不在者財産管理人になれるのは、相続に利害関係を持たない被相続人の親族や、弁護士・司法書士などの専門家です。共同相続人が自ら不在者財産管理人になることはできません。
親族の中に適切な候補者がいない場合、家庭裁判所が専門家の中から適当な人を選任します。不在者財産管理人の選任申し立ては、不在者の最終の住所地のある家庭裁判所で行います。
その際、以下の書類が必要です。
費用は、収入印紙800円分と予納郵便切手です。
連絡が取れない相続人が生死不明の状況が7年以上経過しているなら「失踪宣告」ができます。失踪宣告とは、長期にわたって行方不明になっている人について「死亡した」と同様の扱いにする手続きです。
普通失踪と危難失踪の2種類があり、通常の失踪者のケースでは普通失踪を申し立てます。危難失踪が宣告されるのは、戦地に臨んだ場合、沈没した船舶中に居た場合などの危難に遭遇したなど特殊なケースに限られます。
普通失踪の場合、7年間生死不明であれば申し立てができます。危難失踪の場合には危機が去ってから1年で失踪宣告の申し立てが可能です。
失踪宣告が行われると、その相続人は「死亡した」扱いとなるので、遺産分割協議に参加なくて済むことになります。もし、失踪宣告を受けた者に相続人がいれば、その相続人を参加させなければなりません。
以上のように、相続人の中に連絡が取れない人がいると、家庭裁判所での不在者財産管理人申し立てや失踪宣告申し立てなどの煩雑な手続きをとらなければなりません。疎遠で不仲な相続人と話をしたくないケースもあるでしょう。
そのようなとき、連絡が取れないからといって遺産分割をせずに放置したら、どのような問題が発生するのかを見ていきましょう。
相続財産の中に不動産がある場合、きちんと遺産分割協議をしないと不動産を活用できません。というのも、相続が起こると不動産は法定相続人の「共有」状態となるからです。共有状態で不動産を賃貸、増改築、解体、建て替え、売却などを行うには、すべての共有者の合意が必要です。
遺産相続のための連絡すら満足に取れない状態では、協力して不動産の活用を進めることなど不可能でしょう。不動産の活用もできないのに、毎年固定資産税だけがかかり続けてしまいます。
きちんと遺産分割を行っておかないと、相続財産を第三者が勝手に譲渡したり利用したりする可能性が発生します。
また、共有している一部の共同相続人が、自分の法定相続分に相当する部分のみを売却するケースもあります。売却はしなくても、放置されている建物内などに勝手に入り込まれて犯罪などのために使われてしまうリスクもあります。
相続財産の中に預貯金が含まれている場合には、遺産分割協議書を作成しないと全額の払い戻しができない不利益があります。法定相続人であれば法定相続分の範囲において一部の払い戻しが認められますが、全部は引き出せないので中途半端な状態で預貯金が放置されてしまいます。
相続財産が一定以上多額なケースでは、相続税の申告と納税が必要ですが、遺産分割協議を行わないと税金申告の場面でも不利益を受けます。遺産分割協議が成立していないと、相続税の配偶者控除や小規模宅地の特例などの適用を受けられないからです。
遺産分割協議が3年以内に成立する見込みがあれば、その旨報告して後に控除や特例を適用してもらうことも可能ですが、それすら不可能であれば、高額な相続税を払ったままの状態になります。
相続税が多額になると相続人全員が不利益を受けるので、相続税が発生するケースでは必ず相続人同士がまとまって遺産分割協議を進めましょう。
相続人の中に連絡が取れない人がいると、どうしても相続手続きが面倒になります。しかし、放置しておくと不利益が大きくなりますし、かといって連絡を取れる相続人だけで行う遺産分割協議は無効です。
連絡が取れない相続人がいるときでも、その人を説得するか遺産分割審判で家庭裁判所に分割してもらうことを検討しましょう。
また、全く連絡が取れないときには不在者財産管理人を申し立てる、長期間にわたる生死不明で死亡とみなして手続きをするときには失踪宣告を申し立てるなどして、適切な方法で対応することが必要です。
弁護士ができることとしては、依頼者に代わってその相続人と交渉したり、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てたり、不在者財産管理人や失踪宣告の申し立てを行ったりすることが挙げられます。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関するお困りごとをスムーズに解決できるように、遺産相続専門チームを組成しております。遺産相続のことでサポートが必要の際は、知見・経験豊富な当事務所にお問い合わせください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
令和6年4月1日の法改正により、相続登記の義務化が始まりました。義務が発生するのは4月1日以降の相続だけでなく、それ以前に発生した相続も対象になります。
そのため、期限までに相続登記を終えなければ過料の制裁を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
こうした制裁リスクを回避できるように新しく創設された制度が、「相続人申告登記」です。
相続登記をするには、遺産分割協議で遺産の分配を決める必要がありますが、期限内に遺産分割に関する話し合いがまとまらないケースもあるでしょう。そのようなときに、この相続人申告登記の制度を利用することで、より簡単に相続登記の申請義務を履行できるようになりました。
本コラムでは、相続登記の義務化に伴い、新たに導入された相続人申告登記の基礎知識について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。
たとえ大勢いる相続人のひとりと連絡が取れない場合であっても、勝手に相続手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
本コラムでは、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
民法・不動産登記法が改正され、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。対象となる相続登記は、法改正以降に発生した相続だけでなく過去の相続も含まれるため、注意が必要です。
相続登記を行う期限は、「改正法の開始日(令和6年4月1日)」もしくは、「不動産を相続により取得したことを知った日」の、どちらか遅い日から3年以内、遺産分割協議で取得した場合は、別途、遺産分割協議成立日から3年以内となるため、ご自身の場合の期限がどこになるかを見極めて、早めに手続きを進めていくことをおすすめします。
今回は、相続登記義務化の概要と登記しなかった場合の罰則、すぐに相続登記ができない場合の救済措置(相続人申告登記)について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。