遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で全ての相続人が合意した内容を書面にとりまとめたものです。
遺産分割協議書には様々な効果があります。作成の際には、後にその内容が無効だと争われることのないよう十分に注意することが必要です。
以下で、その効果や作成の際の注意点をご説明いたします。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で全ての相続人が合意した内容を書面にとりまとめたものです。文面を作成後に、全ての相続人が署名押印をする必要があります。
遺産分割協議書には、誰が何を相続したのかを第三者に主張することができるようになるという効果があります。ただし、債務の帰属(相続人の一部のみ引き継いでいること)を債権者に主張することはできません。
また、遺産分割協議をして全員が結論に合意しても、遺産分割協議書を作成しなければ、不動産の相続登記や、預貯金や株式、自動車等の名義変更ができませんので、このような手続きを行うためにも必ず作成しなければなりません。
さらに、後に誰かが「そのような合意をしていない!」、「合意はこういう内容だった!」などと自身に有利なことを主張し始めたときに、口頭での合意だけだと、合意をしたことや、その合意内容を証明することができません。しかし、書面を残しておけば合意の有無や内容をきちんと証明できますので、そのような事態を防ぐという効果もあります。

遺産分割協議書のサンプル・雛形

遺産分割協議書の作成は、手書きでもパソコンでの作成でもどちらでも構いません。
下に遺産分割協議書のサンプルをお示しします。
もっとも、遺産分割の対象となる財産やその分割の方法はケースバイケースであり、下のサンプルがそのまま使えるとは限りません。したがって、実際に作成する際には、下のサンプルは、あくまでも協議書の内容や書きぶりのイメージとして参考にするにとどめてください。また、ご自身で作成する場合でも、不適切な内容が含まれていないか、最終的には弁護士に確認してもらうなどするのをおすすめします。

遺産分割協議書のサンプル(docx/15KB)

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遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書の作成にあたっては、いくつかの注意点があります。以下の点に注意して、後の争いを防ぐ遺産分割協議書の作成を目指しましょう。

遺産分割協議は相続人全員で行う

遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりません。したがって、まずは被相続人の出生から死亡までの戸籍を調査して、全ての相続人を把握し、協議に参加させる必要があります。
たとえば、被相続人の相続人がその配偶者とその間に生まれた子どもだけだと思って遺産分割をしたところ、後に被相続人が過去に離婚歴があり、その以前の結婚で子どもがいることが発覚したという場合には、前回の遺産分割は無効となり、最初からやり直しになってしまいます。このような事態を防ぐためにも、相続人の調査は必ず行うようにしましょう。
また、相続人全員の参加が必要ですが、一堂に会する必要はなく、電話やメール、手紙でのやり取りでも構いません。
なお、法定相続人のうち相続放棄をした人や、欠格事由(民法891条)のある人は参加することができませんので、ご注意ください。

被相続人の名前、相続開始日(死亡日)、本籍地および相続人の名前を明記する

相続の内容を特定するために、被相続人の名前、相続開始日(被相続人の死亡日)、本籍地および相続人の名前を遺産分割協議書に記載しましょう。

遺産の表示方法に注意する

不動産については、その後の相続登記に支障を来してしまいますので、その表示は住所ではなく、登記簿に記載されたとおりの表記にするようにしましょう。
預貯金については、銀行名だけでなく、支店名、口座番号も記載します。
株式は、会社名と保有株式数を記載します。

遺産分割協議書に、相続人全員が名前と住所を自署し、実印を押印する

後々の紛争やトラブルを防ぐためにも、記名や署名代理は避けて、相続人全員が名前と住所を自署するようにしてください。相続人に未成年者がいる場合は、協議での未成年者の代理人が署名押印します。
署名押印は、全ての相続人が同時に行わなければならないということではなく、作成されたものを持ち回りして、1人が署名押印し、別の相続人に郵送するなどして、順に押していくということでも構いません。
印鑑は実印でないと、遺産分割協議書に基づいて不動産登記や銀行口座の名義変更や預金の払戻しなどの各種手続をすることができませんので、必ず実印を押すようにしてください。

複数ページになる場合は、相続人全員の実印で契印をする

遺産分割協議書が複数ページになる場合、それが一体であることを示すために、相続人全員の実印で契印をしてください。

印鑑証明書を添付する

遺産分割協議書に押した印鑑が実印であることを示すために、相続人全員の印鑑証明書を添付しましょう。

相続人の数だけ作成する

遺産分割協議書は、相続人の数だけ作成し、すべての遺産分割協議書が同一であることを示すために、相続人全員が実印で割印をしましょう。

場合によっては、公正証書にすることも検討する

公正証書とは、法務大臣が任命した公証人が作成する公文書のことです。公正証書は、通常の合意書面に比して証明力が強く、また内容によっては裁判によらずに強制執行が可能となるなど特別な効力があります。

メリット

  1. 作成後の手続きがスムーズ
    公正証書にすると、自主的に作成した協議書に比して信用性が高いため、不動産の登記や預貯金口座の名義変更など各種の手続きがスムーズに行えます。
  2. 紛争予防に優れている
    公正証書を作成する場合、公証人が相続人全員の意思を確認して作成しますので、協議書の内容について後々争いとなる可能性が低くなり、また、合意の存在やその内容についての証明力が高いため、仮に争いになったとしても、決着が容易です。
  3. 偽造や変造を防ぐことができる
    公正証書は公証役場に原本が保管されますので、紛失のおそれがなく、偽造・変造を防ぐことができます。

デメリット

  1. 作成に費用がかかる
  2. 公証人を間に入れるため作成までに時間や手間がかかる

もっとも、費用はそれほど高額ではありません。具体的には公証役場にお問い合わせいただくのがよいでしょう。
合意はできたものの協議でかなり揉めてしまった場合、後のトラブルを防ぎたいという場合などには、公正証書にすることを検討することをおすすめします。

遺産分割で知っておきたい注意すべきポイント

遺産分割協議の参加者である相続人についても注意が必要です。

相続人に未成年者がいる場合

相続人に未成年者がいる場合、未成年者は法的に遺産分割協議ができませんので、

  • ① 未成年者が成年に達するまで待ってから遺産分割協議をする
  • ② 未成年者の法定代理人が遺産分割協議をする

という2つの方法から選択しなければなりません。
上記②の方法をとる場合、注意しなければならないことがあります。
未成年者の法定代理人は通常その親ですが、たとえば未成年者の父が死亡したことにより開始する相続では、未成年者とその母が同順位の相続人となります。この場合、母が相続放棄をしない限り、母と未成年者の利益が相反することがありますので、母が未成年者の法定代理人として分割協議をすることはできません。
また、父が死亡した際、未成年者が2人おり、母が相続放棄をした場合には、2人の未成年者を母が1人で代理することはできません。
れらの場合には、未成年者のために、特別代理人を選任しなければなりません(民法826条)。
特別代理人の選任のためには、まず、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。申し立てることができるのは、未成年者の親権者や後見人、利害関係人です。
たとえば、特別代理人として祖父を選任してほしいといった内容での申し立ても可能ですので、特別代理人を入れた場合であっても、親族内で協議を進めることが可能です。
申し立てにあたっては、親と子の利益相反状況を具体的に示すために、遺産分割協議書(案)を申し立て書に添付することが望ましいです。

胎児がいる場合

相続開始時に胎児である場合も、相続人になります(民法886条1項)。これは無事に生まれてきた場合だけで、死産となった場合には、はじめから相続人ではなかったということになります(民法886条2項)。
そのため、胎児を無視して遺産分割をしてしまうと、胎児が無事に生まれてきた場合に、遺産分割をやり直すことになってしまいます。
したがって、相続人となる胎児がいる場合は、権利関係を複雑にしないためにも、胎児が生まれてきた後に遺産分割協議を開始することをおすすめします。

相続人に認知症の人がいる場合

続人に認知症の人がいる場合、そのまま協議を進めてしまうと、後に無効となってしまいますので、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、その成年後見人を交えて遺産分割協議をする必要があります(民法859条)。
なお、すでに成年後見人がついているが、その成年後見人も相続人である場合には、成年被後見人の住所地の家庭裁判所に対し、特別代理人の選任を求める必要があります(民法860条、826条)。申し立てることができるのは、成年後見人と利害関係人です。
ただし、後見監督人が選任されている場合は、後見監督人が被後見人を代表する(民法851条4号)ため、特別代理人の選任は不要です。この場合も、成年後見人と成年被後見人の利益相反状況を具体的に示すために、遺産分割協議書(案)を申し立て書に添付することが望ましいです。

相続人に行方不明者がいる場合

相続人に不在者がいる場合、そのままで遺産分割協議をすることはできませんので、

  • ① 失踪宣告されるのを待ってから遺産分割協議をする
  • ② 不在者のための財産管理人を選任して、その財産管理人を参加させて、遺産分割協議をする

という2つの方法から選択しなければなりません。
①の方法をとる場合、家庭裁判所に対し、失踪宣告の申し立てを行います(民法30条)。申し立てることができるのは、他の相続人等の利害関係人です。
②の方法をとる場合、不在者のための財産管理人を選任するためには、家庭裁判所に対して、財産管理人の選任を申し立てます(民法25条1項)。申し立てることができるのは、利害関係人または検察官です。不在者とは、必ずしも行方不明であることや生死不明であることを要さず、広く、従来の住所や居所から離れており、容易に帰ってくる見込みのない者を意味します。

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