遺産相続コラム
婚姻期間の長さを問わず、配偶者である妻には亡き夫の財産を相続する権利が民法で認められています。
一方で、義両親にも死亡した夫の遺産を相続する権利が認められるケースがあることに、ご留意ください。このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、子どもがいない夫婦において、夫が死亡したときに妻が知っておきたい義両親の相続権や、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
夫が死亡した場合、夫の財産を誰が相続することになるのかは、民法でルールが定められています。
特に、義両親に相続権が認められるかはケース・バイ・ケースです。
まずは、夫が死亡した場合に法定相続人がどのように定まるかと、各法定相続人の法定相続分について解説します。
民法上、常に相続人となるのは配偶者です(民法 第890条)。
配偶者以外の相続人については、相続できる順位が定められています。
子どもは、第1順位の相続人です。
ただし、被相続人(亡くなった方)の子どもが相続開始以前に死亡した場合、または欠格事由該当もしくは廃除によって相続権を失った場合には、さらにその子ども(被相続人の孫やひ孫)が代襲して相続人となります。
被相続人の子ども・孫ともに存在しないか、相続権を失っている場合、そこで初めて義両親に相続権が発生します(民法 第889条第1項第1号)。
夫の直系尊属(義父母など自分より上の世代)がいずれもすでに死亡している場合、または相続権を失っている場合には、夫の兄弟姉妹が相続権を得ることになります(同項第2号)。
子どもがいない・欠格事由に該当するなどの理由で義両親が法定相続人となる場合、配偶者と義両親の間で法定相続分を分け合うことになります。
この場合、配偶者に3分の2、義両親に合わせて3分の1の法定相続分が認められます。
たとえば、義両親が両方とも存命しているケースでは、義両親ふたりで3分の1の法定相続分を分け合うことになるため、各相続人の法定相続分は以下のとおりです。
なお、夫の兄弟姉妹が相続人となる場合には、配偶者と義兄弟姉妹の間で法定相続分を分け合います。
このようなケースでは、配偶者に4分の3、義兄弟姉妹に4分の1の法定相続分が認められます。
夫が亡くなった途端、普段からそれほど連絡をとっていなかった義両親から夫の財産を渡すように要求されたとしたら、妻としては面食らってしまうことでしょう。
夫と生活を共にしていたのは妻なのですから、夫の財産を相続するのは妻であるのが筋のようにも思われますが、義両親に相続権がある場合、基本的に義両親の相続に関する要求を妻がすべて拒否することはできません。
ただし、遺言書がない場合とある場合によって、相続分の決定方法についての取り扱いが変わります。遺言書がない場合とある場合に分けて、妻と義両親の間でどのように相続分が決まるかについて解説します。
夫の遺言書がない場合は、妻と義両親の間で遺産分割協議を行って、それぞれの相続分を決定することになります(民法 第907条第1項)。
遺産分割協議の中で、妻が夫の財産をすべて相続することに義両親が同意してくれれば、妻が単独で夫の財産を相続することができます。しかし現実的には、相続権のある義両親が妻単独での相続を認めてくれる可能性は低いでしょう。
したがって妻としては、遺産分割協議の中で、義両親に対して財産を妻が相続できるように交渉するという方針になります。
もし遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てて、解決を図ることになります。
以上のように、遺言書がないケースでは、義両親に全く相続財産を与えないということは現実的に難しく、妻としても法定相続分を超えた財産を取得することは困難といえるでしょう。
一方、遺言書がある場合には、法定相続分の規定にかかわらず、遺言書で指定された相続分に従った相続が行われます(民法 第902条1項)。
ただし、遺言書による相続分の指定が行われた場合には、「遺留分」という権利の存在に注意する必要があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められた、相続に関する最低保障金額をいいます。
遺言書による相続分が指定されていても、遺留分権利者は遺留分を侵害した受遺者・受贈者に対して、遺留分侵害額相当の金銭の支払いを求めることができます。
義両親が配偶者とともに法定相続人となるケースでは、各相続分に2分の1を乗じた額が遺留分になるので(民法第1042条1項2号)、義両親の遺留分は、合わせて6分の1です。
仮に遺言書において「妻に全財産を相続させる」という内容が規定されていたとします。
このとき、妻が義両親から遺留分侵害額請求を受けた場合には、妻は義両親に対して、相続財産全体の財産から、その財産の価格の6分の1(義理父に12分の1、義理母に12分の1)に相当する金銭を支払わなければならないのです。
参考:遺留分とは
夫が妻を受取人とした生命保険に加入していた場合、夫死亡時には妻が生命保険金を受け取ることが可能です。
しかし、生命保険金が相続財産に含まれるとなれば、義両親に生命保険金の一部を渡さなければいけなくなります。そもそも、生命保険金は相続財産に含まれるのかどうかを解説します。
生命保険金は、受取人の指定がある場合には、保険契約に基づいて受取人に対して支払われる金銭です。そのため、受取人固有の財産になると解されます。
つまり、この場合生命保険金は被相続人に帰属する財産ではないため、原則として生命保険金が相続財産に含まれることはありません。
ただし、生命保険金が高額であり、相続人の一部のみが多くの利益を受けてしまう場合は、相続が著しく不公平になることがあります。この場合は、生命保険金が故人から受け取った特別な利益である「特別受益」と準じて持ち戻しみなされ、例外的に生命保険金も遺留分算定や遺産分割協議の対象として考慮される可能性があります。
判例によると、「保険金受取人である相続人と、その他の共同相続人との間に生ずる不公平が、民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象になると判示されています(最高裁判所 平成16年10月29日)。
また、「特段の事情」の有無については、以下の事情などを総合的に考慮して判断されると判示されました。
夫の両親との関係が良好とはいえない場合、妻としては、夫の死亡後は姻族としての縁を切りたいと考えることもあるでしょう。
その場合、「姻族関係終了届」を提出することで、義両親との姻族関係を終了させることができます。しかし、ここで気になるのが相続への影響です。
民法上、夫が死亡したという事実だけでは義両親との姻族関係は終了せず、妻の側から姻族関係を終了させる意思表示をすることが必要とされます。
姻族関係を終了させるためには、本籍地または居住地の市区町村役場に、姻族関係終了届を提出します。なお、姻族関係終了届には特に提出期限はなく、妻が単独の判断で提出することが可能です。
相続への影響を考え提出を悩む方もいるかもしれませんが、姻族関係終了届を提出したとしても、相続に関する権利関係には全く影響はありません。もちろん、法定相続人としての権利を失うこともなく、相続放棄をしたことにもなりません。
そのため、たとえ義両親との間で遺産分割協議が進行中であったとしても、姻族関係終了届を出すことは可能であり、引き続き協議を行うことに何ら問題はないでしょう。
相続に関するトラブルは親族同士の問題であることから、感情的な対立になってしまいがちです。当事者同士で話し合ってもこじれるだけのケースが多いため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
特に義両親が絡む相続トラブルは、愛する夫の遺産が絡む問題であり、どうしても感情面が先立ってしまうこともあるでしょう。
苦しい状況に悩んでいらっしゃる方は、精神的なご負担を和らげるためにも、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
遺産相続に関する知見・経験豊富な弁護士が、お気持ちに配慮しながら丁寧に状況をヒアリングし、相続トラブルの解決に尽力します。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
日頃から仲が良い兄弟姉妹であっても、遺産相続のようにお金が絡む問題になると、感情的になり対立してしまうことも少なくありません。
特に、被相続人(亡くなった方)が生命保険を契約していた場合は、受取人として指定されていた1人の相続人が保険金を受け取ることになります。
その際、生命保険金を独り占めして他の相続人に分配せず、その上でその他の相続財産も均等に分けるよう主張してきたときには、他の相続人としては到底納得できないでしょう。
このように、遺産相続においては親の生命保険金の扱いで兄弟姉妹のトラブルが起こってしまうケースがあるため、注意が必要です。
本コラムでは、生命保険と遺産相続の関係について、みなし相続財産や特別受益なども踏まえながら、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
亡くなった方(被相続人)が独身で、子どもや親兄弟がおらず法定相続人に該当する人がいない場合や、法定相続人がいても全員が相続放棄をするような場合は、相続財産(遺産)を管理する人がいないことになります。
相続人がいないことに伴う不都合があるときには、家庭裁判所に申し立てを行って、相続財産清算人(相続財産管理人)を選任してもらいましょう。
申し立てにあたっては、相続財産清算人(相続財産管理人)の選任方法や必要になる費用などについて、事前に知っておくべきポイントがあります。
本コラムでは、相続財産清算人(相続財産管理人)制度の概要や必要になるケース、選任申し立ての方法や流れ、費用について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
株式投資好きの父親や母親が亡くなった場合、多種多様な株式が遺産として残されている可能性があります。
東京証券取引所が令和6年(2024年)7月に発表した「2023年度株式分布状況調査の調査結果について」の資料によると、個人株主数は7445万人(前年度比462万人増)で10年連続で増加しており、株式投資を行う方が年々増えているようです。
相続財産に株式が含まれているときは、どのように相続手続きを進めていけばよいのか、よく分からないという方は少なくありません。
本コラムでは、上場株式の相続について、証券会社への問い合わせ方法をはじめ、株式評価額の評価方法や遺産分割の進め方などをベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。