遺言の執行と実行手順

遺言の執行について

遺言の効力が発生した後は、遺言内容を実現させる段階となります。
しかし、遺言者はすでに亡くなっていますから、遺言者に代わって遺言を執行する人が必要になります。
この遺言を執行する人として「遺言執行者」を指定することができます。
遺言執行者は必ず定めなければならないものではありませんが、子の認知や推定相続人の廃除・取消し等、遺言執行者を指定しなければ執行することが出来ない手続きもあります。
そのような内容が遺言になかったとしても、遺贈・遺産分配等のためにそれぞれの不動産毎に登記申請や引き渡しを行ったり、遺言者の相続財産をすべて把握し相続人の配分・指定に従って遺産を引き渡す等、専門家ではない人が行うのは複雑で負担が大きいことが多いです。また、利害関係のある相続人により遺言書を実現しようとした場合には、遺言書の適正な実現がなされず、紛争になる恐れがあります。
そこで、専門家を遺言執行者に指定しておくことで、遺言書の適正な実現や相続人間の無用な紛争を防止することが出来るというメリットがあります。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者の選任方法は3つあります。
1つめは遺言者が遺言書において、遺言執行者を指定する方法です。
遺言執行者になって貰いたい人物の名前、住所等を遺言書に記載することで指定することが可能で、その人物の事前の承諾は要求されていません。ただし、余計なトラブルを防ぐためには、事前に執行者に指定したい人物に許可をとっておくのが望ましいです。
2つめは遺言者が遺言書において、遺言執行者を決めてくれる第三者を指名する方法があります。
遺言者が生前に遺言執行者を指定しておいても、状況が変わってしまい遺言執行者に適さなくなったり、その人物が先に亡くなってしまったりする場合も考えられます。この方法によれば、遺言者が亡くなった際の事情を踏まえ、遺言者が指名した第三者が、遺言執行者としてもっとも適した人物を指定してくれることを期待することになります。
3つめは、遺言執行者がいない場合や、遺言執行者が亡くなってしまった場合に、相続の利害関係人が家庭裁判所に請求することで遺言執行者を選任してもらう方法です。

遺言執行者を解任または辞任する場合

遺言執行者を解任する場合、利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者等)が家庭裁判所に遺言執行者の解任を請求し、家庭裁判所において解任事由の有無が判断されることになります。解任の審判が確定すると、遺言執行者の任務は終了します。
解任事由は、「解任について正当な事由があるとき」とされており、条文では、「遺言執行者が任務を怠ったとき」がその例とされています。他の正当な事由としては、行方不明等があります。
遺言執行者自ら辞任する場合でも、勝手に辞任することはできず、解任と同様に家庭裁判所へ申し立て、許可を得ることが必要です。辞任する場合にも、長期にわたる病気、業務の急激な多忙、遠隔地への移転等の辞任をすることの正当な事由が必要とされています。

遺言の実行手順について

遺言の内容を通知する

遺言執行者は、遺言執行者に就職することを承諾したら、直ちに任務を行わなければなりませんが、任務開始の際には、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。平成30年の相続法改正で、相続人への通知義務が明確化されました。

遺言者の財産目録を作成する

遺言執行者がいる場合、遺言執行者は財産を証明する登記簿、権利証などをそろえて遺言者の財産を一覧にした財産目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。財産目録には、不動産、預貯金、現金、保険契約、株券などのプラスの財産だけでなく、負債についても記載する必要があると考えられます。財産目録は、遺言執行者にとっては相続財産に対する管理処分権の対象を明確化し、相続人からすれば遺留分権利者である場合にその行使を判断する資料となったり、財産の範囲が見落とされていないかチェックしたりする機能があります。

遺産分割方法の指定をし、遺産の分配を実行する

遺言書の内容に沿って、相続人の相続割合や分割の方法等を指定し、実際に遺産を分配します。
その過程で、不動産の所有権移転登記の申請、預貯金の払出し、金銭の支払い等を行うこともあります。
場合によっては、金銭化のために不動産を売却する等、処理が大変になることもあります。
このような遺言執行者の権限は、遺言の内容を実現するためのものであること(つまり、相続人の利益のために行うものではないし、遺言の内容の実現に必要な範囲を超えた包括的な管理権限を持つものでもないこと)が、平成30年の相続法改正により明確化されました。
また、この改正では、遺言執行者が遺言執行者であることを示して権限内の行為を行ったときには、その行為の効果は直接相続人に生じることも規定されました。
さらに、遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は、遺言執行者だけが行えることも明確に規定されました。
また、遺産分割の指定として、特定財産を特定の相続人に相続させるという遺言がなされたときには、登記手続など、その相続人が対抗要件を具備するために必要な行為については、遺言執行者が行うことができるようになりましたし、預金の払い戻しや解約もできることが明確に定められました。ただし、遺言者は、遺言でこれとは異なる定めをすることができます。

相続財産の不法占有者に対して明け渡し、移転の請求を行う

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な相続財産の管理や、その他遺言の執行に必要な行為をすることができるとされています。
相続財産の不動産に不法占有者がいた場合、不動産の明渡しや、登記移転の請求を行います。
不法占有等の妨害をするのは全くの他人に限られません。相続人の一人が遺言に反して不動産登記を自己の名義に書き換えてしまった場合、正当な権利に基づくものではありませんから、遺言執行者としては、不動産の移転登記の抹消登記を求めることができることになります。

遺贈受遺者に遺産の引き渡しを行う

相続人以外に財産を遺贈したいという希望が遺言書にあった場合、その配分および指定に従って遺産を引き渡すことになります。遺言執行者が指定されていなかった場合は、遺贈を受ける人は他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請をしなければなりませんが、遺言執行者がいれば遺言執行者と遺贈を受ける人だけで共同して登記申請ができるので、他の相続人の協力を仰ぐ必要はなくなります。

認知の届出を行う

認知とは、婚姻していない男女から生まれた子について父親としての親子関係を生じさせる行為です。認知自体は生前でも出来ますが、父親側に事情があり、生前には認知できない場合、遺言書による認知をすることになります。
遺言による認知は、遺言の効力が発生したとき(遺言者の死亡のとき)に成立します。遺言執行者は、遺言執行者に就職した日から10日以内に認知の届けを役所に提出しなけなければなりません。

相続人廃除、廃除の取消しを家庭裁判所に申し立てる

被相続人に対する虐待や重大な侮辱等の原因により、相続人の相続権をはく奪することを「廃除」といいます。相続人廃除の旨が遺言書に書かれてあった場合、遺言執行者は、家庭裁判所に対して相続人廃除の申し立てをすることになります。申し立てを受けた裁判所は、諸事情を考慮し、廃除の審判を行います。廃除の審判が確定すれば、相続発生時に遡って推定相続人の相続権がなくなることになります。
一方で、「廃除」は生前、遺言者本人から申し立てを行うことも出来ます。これにより廃除の審判が確定していても、これを取り消す旨の遺言があるときには、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の取消しを申し立てます。取消しの審判が確定すれば、相続発生当時に遡って相続権を有していたものとして取り扱われます。

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