不動産は、すぐに換金できない難点がありますが、相続税評価額を下げ納税金額を低くするのに一番利用しやすい資産です。相続開始時に現金がある場合は、その金額が相続税評価額となります。
それでは、相続開始前にその現金で不動産を取得した場合はどうでしょう?
一般的に不動産の相続税評価額は、実際の取引価格より2割~3割低額といわれています。その不動産が貸付用の建物である場合は、さらに相続税評価額を下げることができます。
また、小規模宅地の特例の適用があれば、一定の割合で相続税評価額を減額することができるので、相続税額を低くすることが可能となります。
生前対策として次のものが挙げられます。
「相続時精算課税制度」とは、相続時に精算することを前提として、2500万円までの財産について贈与税を非課税にする制度です。贈与の年の1月2日に60歳以上であった親から20歳以上の子(代襲相続人である孫を含む)に、2500万円までの財産を贈与した場合、翌年の3月15日までに申告すれば贈与税がかかりません。ただし、暦年贈与と併用できず、この制度の適用を受けた年以降は暦年贈与ができなくなるので、注意が必要です。
60歳以上の親が、その所有する土地に無借金で6000万円の賃貸用アパートを建て、相続時精算課税制度を利用して20歳以上の子にアパートを贈与します。この場合の贈与税の価格は2520万円です。
6000万円×0.6(固定資産税評価額)×(1-借家権割合30%)=2520万円
贈与税は、(2520万円-2500万円)×20%=4万円
そして親との間で定期借地権を設定すれば、土地の相続税評価額が20%減になります。
資産保有会社の所有建物の大規模修繕工事を実施し、同族会社に多額の損金を計上させ、同族会社の株式評価を引き下げさせた段階で、相続時精算課税制度を利用して、低い株価で同族会社株式を受贈者に贈与します。
遺言作成は、相続税対策にもなります。小規模宅地の特例による評価減(後記)や配偶者の相続税額の軽減(遺産額の2分の1または1億6000万円)などは、遺産分割協議ができていないと適用することができません。しかし、遺言で遺産全部の分割内容を具体的に定めれば、遺産分割協議がなくても、前記特例や相続税額の軽減が受けられます。ただし、遺言が公正証書遺言なら、無効になる可能性はほとんどありませんが、公正証書だから安心というわけではありません。争族にならないためには、遺留分に配慮した詳細な配分内容を定めることが不可欠です。
同族会社設立による所得分散は、毎年の節税と将来の相続税納税資金準備にためのものです。
その方法としては、以下3つがあります。
資産の一部が不動産から株式になり、相続対策の工夫の幅が広がります。
その他には、中小企業退職金共済に加入し、共済金を損金計上しながら退職金の支払いに備えるという方法もあります。
会社経営者の節税方法は次の通りです。
評価額が1株20万円の会社株式を1000株(100%)保有するオーナー株主が、従業員持株会を作り、そこに300株を譲渡します。1株20万円でも、会社支配に無関係の従業員には、配当還元価額という非常に安い価格で譲渡できますので、財産評価額20億円を14億円に減らすという節税効果があります。その際、従業員の株式は、配当優先議決権制限株式にすれば、会社支配が揺らぐ心配がありません。
親が所有する土地に、親を無限責任社員にした合名会社名義で銀行ローンを借入れて、1棟マンションまたはテナントビルを建築します。そして、土地を所有する親とは保証金不要の定期借地契約を締結します。建物建築後3年を経過すると、建物評価額は相続税評価額になり、敷地も20%評価減となります。さらに合同会社は、相続税評価上は債務超過会社になり、無限責任社員に相続が発生すると、債務控除が可能になります。
小規模宅地の特例(事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)とは、相続財産のうちに、次のものをいいます。
上記①②のいずれも満たしたものについて、一定の面積までの土地についての評価額を減額できる制度です。
土地の要件が複雑なのでここでは割愛させて頂きますが、50%~80%の評価減が可能なため、非常に節税効果が高いものであるといえます。
大きな土地を保有している方が知らなければ損するのが、地積規模の大きな宅地の評価です。大きな土地は、「地積規模の大きな宅地の評価の利用」によって評価額が下がる可能があります。地積規模の大きな宅地の評価を利用するかしないかだけで、納税額が数百万円から数千万円違ってきます。土地の評価額が最大で65%も下がるため、納税額にも大きな違いが出てきます。
また、平成30年1月1日以後の相続、遺贈により取得した広大地については、要件、評価方法の見直しが行われています。地積規模の大きな宅地の評価を利用出来るかどうかは、要件や評価方法が非常に複雑なため、自分で判断するというのは難しいものとなっています。大きな土地を保有している方は、相続税に特化した税理士さんに、地積規模の大きな宅地の評価を利用することが出来るのかを相談してみた方がいいでしょう。
最大1200万円までの住宅取得等資金贈与にかかる贈与税が非課税となります。暦年贈与(その年の1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産額の合計)の基礎控除額をプラスすることで、さらに合計1310万円まで贈与税が非課税となります。対象者は、父母および祖父母(直系尊属)からの贈与で、対象は贈与する年の1月1日に20歳以上の子・孫に限ります。適用要件は、平成33年12月31日までに契約した住宅取得に適用されます。この規定の対象の住宅は、非常に範囲が細かいことから、不動産会社や税理士さんにご確認いただくことが重要になるでしょう。