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個人事業主の相続対策や事業承継における手続きについて弁護士が解説

2020年09月29日
  • 事業承継
  • 個人事業主
  • 相続

個人事業主の相続対策や事業承継における手続きについて弁護士が解説

日本では高齢化が進んでおり、個人事業主についても高齢化が深刻になってきています。特に後継者不足に悩んでいる事業主も少なくありません。

また、親が高齢になり、個人事業について引き継ぐにはどうしたらよいのか、あるいは、相続対策としてどのような準備をすればよいのかわからないという方もいると思います。

そこで、本コラムでは、個人事業主の相続対策や事業承継における手続きなどについて解説していきたいと思います。

1、個人事業を廃業する場合の手続き

個人事業主が廃業する場合の手続きには次のようなものがあります。

  1. (1)個人事業の開業・廃業等届出書(所得税)

    個人事業を廃業した場合、所轄の税務署に、「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する必要があります(所得税法229条)。提出期限は、廃業後1か月以内です。

  2. (2)所得税の青色申告の取りやめ届出書(所得税)

    多くの個人事業主の方は、税制上の優遇が受けられる「青色申告納税者」だと思われますので、青色申告をしている場合には、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を所轄の税務署に提出しなければなりません(所得税法151条)。提出期限は、青色申告をやめようとする年の翌年3月15日となります。

  3. (3)給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(所得税)

    従業員を雇用している場合には、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出しており、廃止する場合には原則として廃止届を提出する必要があります(所得税法230条、所得税法施行規則第99条)。提出期限は、廃止後1か月以内です。
    ただし、廃業をする場合には、個人事業の廃業届を提出するのでこの書類は提出する必要はありません。

  4. (4)事業廃止届出書(消費税)

    消費税の課税事業者が事業を廃止した場合には、事由が生じた場合、すみやかに「事業廃止届出書」を提出する必要があります(所得税法230条、所得税法施行規則99条)。

  5. (5)事業開始(廃止)等申告書(個人事業税):東京都の場合

    税務署への手続き以外としては、都道府県税事務所への手続きがあります。廃業する場合、所轄の都道府県税事務所へ「事業開始(廃止)等申告書」を提出することが必要になります。届出書のタイトルや様式については都道府県により異なりますので、ホームページなどで確認するようにしてください。提出期限についても、各都道府県税事務所によって異なります。

  6. (6)個人事業者の死亡届出書(所得税)

    個人事業主が死亡してしまった場合には、相続人は、死亡後すみやかに所轄税務署に「死亡届出書」の提出が必要になります(消費税法57条1項4号、消費税法施行規則26条1項5号)。その上で、事業を廃業する場合には、上記廃業の書類が必要になります。

2、個人事業主から事業承継する場合の手続き

事業を承継する場合には、承継する人が、次の書類を提出する必要があります。

  1. (1)個人事業の開業・廃業等届出書(所得税)

    事業承継する場合、承継する人が個人事業を開業することになるため、「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄税務署に提出する必要があります(所得税法229条)。提出期限は、事業の開始等の事実があった日から1か月以内です。

  2. (2)所得税の青色申告承認申請書(所得税)

    事業承継者が青色申告の優遇措置を受けようと思う場合には、「所得税の青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります(所得税法144条、所得税法166条)。提出期限は、青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を相続により承継した場合は、相続開始を知った日(死亡の日)の時期に応じて、それぞれ次の期間内になります。

    1. ①その死亡の日がその年の1月1日から8月31日までの場合・・・死亡の日から4か月以内
    2. ②その死亡の日がその年の9月1日から10月31日までの場合・・・その年の12月31日まで
    3. ③その死亡の日がその年の11月1日から12月31日までの場合・・・その年の翌年の2月15日まで
  3. (3)青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書(所得税)

    事業承継者が青色申告納税者になり、生計を一にしている配偶者その他の親族が納税者の経営する事業に従事する場合、これらの人に対する給与は原則として必要経費にはなりませんが、一定の要件を満たせば必要経費にすることができます。この措置を受ける場合には、「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」を所轄税務署に提出することが必要です(所得税法57条)。提出期限は、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までになります。

  4. (4)事業開始等申告書(個人事業税):東京都の場合

    事業承継する場合、承継する人が個人事業を開業することになるため、「事業開始等申告書」を都道府県税事務所に提出する必要があります。届出書のタイトルや様式については都道府県により異なりますので、ホームページなどで確認されることをおすすめします。提出期限についても、各都道府県税事務所によって異なります。

  5. (5)消費税について

    消費税については、初年度は課税が免除されるので、手続きは必要ありませんが、初年度から課税事業者になる場合には、「消費税課税事業者届出書」や各種消費税の特例を受けるための届出書の提出が必要になります(消費税法57条1項1号、消費税法施行規則26条1項1号)。たくさんの種類があるので、該当する手続きを選択して申告することになります。

    参考:事業承継の基礎知識

3、平成31年度税制改正で導入された「個人版事業承継税制」について

個人版事業承継税制とは、青色申告をしている事業者の後継者が、個人の事業用資産を贈与または相続などにより取得した場合に、その事業用資産に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予する制度です。なお、後継者が死亡した場合には、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除されます。

これまで、個人事業については税制優遇がほとんどなく、事業承継時に重い税負担があるため、廃業を余儀なくされていました。この状況を改善すべく、平成31年度税制改正で個人事業主についての事業承継税制が創設されました。

この制度の対象となる「特定事業用資産」は、事業の用に供されている青色申告書の貸借対照表に記載されている資産に限られます。具体的には、以下のような資産が対象になります。

  1. ①宅地等(400㎡まで)
  2. ②建物(床面積800㎡まで)
  3. ③固定資産税の課税対象とされているもの
  4. ④自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
  5. ⑤その他一定のもの(乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形固定資産)


注意しなければいけないのは、受贈者に年齢制限があることです。贈与税に関しては、受贈者が贈与時において18歳以上(2022年3月31日までの贈与については20歳以上)であることが必要です。また、対象期間が2019(平成31)年1月1日から2028(令和10)年12月31日までの相続や贈与に限られています。その他、猶予された税額に見合う担保の提供が必要です。この他、贈与税の納税猶予については、受贈者側における事業従事や事業用資産の保有などといった他の要件を満たす必要があります。

個人版事業承継税制を活用するには、事前に経営承継円滑化法に基づく都道府県知事による認定を受けることが必要になります。また、2019年4月1日から2024年3月31日までの事業承継計画を都道府県に提出しなくてはなりません。

税務署との関係では、贈与した年の翌年3月15日までに認定書の写しと、贈与税の申告書を提出する必要があります。また、その後も、3年に1回「継続届出書」を提出する必要があります。

個人版事業承継税制は、メリットの大きい制度ですが、制度を利用する場合、満たすべき要件も細かいので、事前に専門家と相談しながら検討することをおすすめします。

4、個人事業主の相続対策でするべきことは?

  1. (1)遺言書を書く

    個人事業主の場合、事業用財産は個人が所有しているものなので、事業用財産も相続の対象となってしまいます。法定相続分に従って配分されると、事業に必要な財産が散逸し、事業の継続ができなくなる可能性があります。そのため、遺言書を作成し、事業の承継人に事業用財産を相続させるよう、遺言書で指定しておくことが重要です。

    自筆証書遺言等には厳格な要件があるので、要件を満たさない場合、無効となってしまいます。また、遺留分(一定の相続人の最低の取り分)を侵害しないようにしなければならないので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

  2. (2)業務管理簿を作成しておく

    業務管理簿は、業務内容をまとめたものです。個人事業主が亡くなった場合でも業務に支障がないよう、仕掛かりの状況や取引先との取引状況など、業務に関する情報を共有しておくことが重要です。積極的な業務の内容ばかりではなく、債務の状況や資金繰りなどの情報もまとめておく必要があります。こうしておくことで、後継者の人がスムーズに業務を引き継げるようになります。

  3. (3)法人化を検討する

    個人事業の場合、事業用財産にも相続税が掛かるため、事業用財産が多いと、相続税の支払いが多くなり、事業の継続が困難になる場合もあります。しかし、法人化すれば、事業用財産には相続税が掛からないので、事業の継続がしやすくなるわけです。

    また、相続人を役員にして役員報酬を支払うことができるので、事業で得た財産を相続人に分配することができます。事業承継についても、後継者に株を持たせておくことでスムーズに行うことができます。その他、法人化すると保険料なども経費として認められるようになるなどその範囲が広くなります。

    他方、法人化をする際の注意点としては、法人を設立するには費用が掛かるということです。法定の費用の他、手続きを弁護士や司法書士などに依頼する場合、その費用も発生します。また、個人事業であれば、赤字の場合、税金は発生しませんが、法人の場合、市町村民税と都道府県民税の均等割が発生するので、資本金の額に応じて変わりますが、最低でも7万円は掛かります。

    その他、役員や従業員について社会保険に加入しなければならず、半分は法人が負担しなければなりません。社会保険の手続きや会計処理なども複雑になるので、社会保険労務士や税理士に依頼すると、費用が発生します。

    このように、法人化には節税のメリットがある反面、手続きが煩雑になり、費用も掛かるなどデメリットもあります。法人化した方がよいのかについて、事前に弁護士や税理士などの専門家にアドバイスを受けることをおすすめします。

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5、まとめ

今回は、個人事業主の相続対策や節税対策について解説してきました。特に重要なのは、遺言書をしっかりと作成しておくことと、ある程度の事業規模の場合には、法人化も検討するということです。
法人化する場合には、定款の作成や登記などの手続きが必要になりますので、専門家への相談をおすすめいたします。

ベリーベスト法律事務所では、弁護士以外に税理士も所属していますので、ワンストップでの対応が可能です。個人事業の相続対策や法人化についてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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