亡き夫の親から「法定相続分どおり、3分の1の遺産を分けてほしい」と言われました。
遺産は現在私が住んでいる家しかなく、貯蓄もありません。
住居を売るしかありませんか?
配偶者が亡くなったときの遺産分割は、子どもがいるかがポイントです。
子どもがいる夫婦の場合、法定相続人は配偶者と子どもになるため、故人の親に遺産を分ける必要はありません。よって、亡き夫の親から遺産を分けてと言われても、分ける義務はありません。
一方、子どもがいない夫婦の場合は、配偶者と故人の親が法定相続人となります。この場合、法定相続分は以下のとおりです。
・配偶者:全財産の3分の2
・故人の親:全財産の3分の1
配偶者が遺言書を残さずに亡くなった場合には、配偶者の親と遺産分割協議を行い、上記の法定相続分に沿って遺産分割を行います。
一方、配偶者が遺言書を残していた場合には、それに沿って遺産分割を行います。ただし、兄弟姉妹を除く法定相続人には、遺留分という、相続に際して最低限取得できる割合があります。配偶者と故人の親が相続人となる場合は、遺留分は以下のとおりです。
・配偶者:全財産の2分の1×3分の2=全財産の3分の1
・故人の親:全財産の2分の1×3分1=全財産の6分の1
故人の親が複数いらっしゃる場合には上記の6分の1を等分します。
家をあなたに相続させる旨の遺言書がある場合に、両親から遺留分を請求されれば、両親の遺留分に相当する金銭を支払わなければなりません。
貯金がない場合には、家を売って現金化するほかありません。
ただし、この場合、ご自身から遺言書とは異なる内容で遺産分割協議をすることを提案することは可能です。
また、遺言書がない場合にも、両親と遺産分割協議を行います。
遺産分割協議をする際も、相続財産が住んでいる家しかないという場合、その家を共有とするか、売却して現金を分割するか、取得する人が他の相続人に対して自身の財産から代償金を支払うかという方法しかありませんでした。
しかし、令和2年4月に「配偶者居住権」という新たな制度ができました。
これは、被相続人が死亡した際、その配偶者が被相続人所有あるいは夫婦共有の建物に住んでいた場合に、遺産分割協議や調停、審判、または、遺贈や死因贈与によって配偶者居住権を取得すれば、その建物の所有権はなくても、その建物にそのまま居住し続けることができる権利です。これによって、所有権と配偶者居住権を分けることができますので、配偶者居住権は自分に、所有権は両親にということが可能になります。
こうすることで、ご自身が取得するのは配偶者居住権だけになり、その評価額、つまり相続する金額も下がりますので、自身の財産から代償金を支払わずに家に住み続けることが可能になる可能性が高くなります。
なお、配偶者居住権は遺言書において遺贈する旨を記載することで設定できます。亡くなる前でしたら、あらかじめ遺言書を作成されることをおすすめします。
配偶者居住権の詳しい条件や、子どもがいない夫婦の相続についての詳しい解説は、関連記事をご確認ください。
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