遺産相続コラム
相続では、被相続人の財産を相続人が引き継ぐことができますが、借金がある場合にはそれも原則として引き継ぐことになります。相続というと、財産の取り合いのようなイメージがありますが、借金が多い場合には別の対応が求められます。
たとえば、被相続人が複数の不動産を所有していて、不動産ローンも多く残っているという場合や消費者金融からの督促状が見つかったという場合、借金は誰が支払わなければならないのでしょうか。
本コラムでは、相続財産に債務が含まれていた場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続が開始すると、被相続人の財産は相続人に承継されます。その際、被相続人に負債・債務がある場合にはそれも承継されます。
相続した借金は誰が支払うのかと言えば、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議に関わらず法定相続分に応じて負担することになります。これは、債権者からの請求に対して、「遺産分割協議が済んでいないから」や「借金は長男が負担することになっている」などと債務者の都合で弁済を拒否されては困るからです。
具体的に説明すると、120万円の借金があり、相続人が子ども3人だけという場合、1人40万円ずつ借金を負担することになります。また、金銭債務以外に不可分債務(賃貸不動産の使用収益させる義務など)がある場合には、債権者は各相続人に対して、 そのすべてについて履行を求めることができます。
ただ、被相続人の借金などの負債や債務を必ず受け継がなければならないとすると、相続人にとって過酷な場合があります。そのような場合も想定されるので、債務を引き継がなかったり、相続財産の限度での支払に応じるということもできるように、「相続放棄」と「限定承認」という制度が設けられています。
「相続放棄」とは、文字通り相続する権利を放棄するというものです。負債だけでなく資産についても相続ができなくなります。法的な視点では、相続財産を放棄した相続人は相続開始のはじめから相続人ではなかったとみなされます。
相続放棄をするには、家庭裁判所に相続放棄の申述をします。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が申述をする場所になります。手続きは自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があり、この期間を経過すると相続放棄ができなくなります。
それでは、相続の承認ではなく相続放棄を選択するポイントはどこにあるのでしょう。
まずひとつ目は、相続財産が資産よりも負債の方が多い場合です。資産よりも負債が大きければトータルでマイナスになるからです。二つ目は、相続争いに巻き込まれたくないという場合です。負債より資産が多くても兄弟などで争うのであれば、相続を放棄して関与しない方がいいという場合に有効です。
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、負債を弁済するという留保付きの相続をするというものです。たとえば、自分の資産を持ち出してまで弁済するのは嫌だという場合や、そもそも負債がどれだけあるのかわからず、もしかしたらプラスの財産のほうが多いかもしれないという場合に有効な手段です。
ただ、相続放棄と違って、限定承認は相続人全員で行う必要があるため、ひとりでも賛成しない人がいれば限定承認はできません。また、限定承認によって不動産を取得した場合,相続人が被相続人から時価で取得したとみなされます。そのため被相続人には譲渡所得税が課され、準確定申告により申告して、そこで発生した税金の納付についても限定承認の中で解決する必要があります。このほかの手続きも煩雑で手間がかかるため、限定承認を選択する人は多くありません。
住宅ローンやクレジットカードであれば、不動産に抵当権が設定されていたり、被相続人の住所に明細書が送られてきたりします。このようなものは比較的簡単に調べられますが、個人に貸していたお金があるかということや、被相続人が誰かの連帯保証人になっているかどうかを調べることは容易ではありません。遺品の中に借用書がないか、連帯保証人になっている契約書がないか調べたり、預金通帳から定期的に引かれているものはないか、あるいは特定の日に振り込みがなされていないかなどから調べるしかありません。
金融機関からの借り入れを調べる方法としては、信用情報機関に情報開示を求めるという方法があります。信用情報機関とは、借り入れの情報を管理している団体です。
信用情報機関は、銀行が利用している「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」、クレジットカード会社が利用している「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」、消費者金融会社等が利用する「株式会社日本信用情報機構(JICC)」の3つの団体があります。これらの機関に対し、相続人であることを証明する書面を提出し、手数料を支払い情報開示請求すれば、ローンの状況などの情報を知ることができます。
なお、住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入していることもあります。加入していると、被相続人が死亡した場合には、支払われる保険金で残債の返済ができますので、そのような場合には相続人が負担する必要はなくなります。
調査した結果、故人の負債が判明した場合には、次のいずれかの処理を選択しなければなりません。それぞれの手続きについて解説します。
何もしなければ「単純承認」となります。
負債も含めてすべての遺産を相続人が引き継ぐというものです。相続税が発生する場合には相続税の申告が必要になりますが、それ以外の手続きは必要ありません。負債があっても総資産と比べて少ないという場合には、ほとんどの場合が単純承認を選ぶことになるでしょう。
明らかに資産よりも負債の方が多い場合や、相続争いに巻き込まれたくないという場合には、相続放棄を選択することが考えられます。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄申述書と戸籍謄本等の必要書類を提出して手続きを進めなければなりません。ただ、調査に時間がかかるような場合には、例外的に期間を延長することができます。なお、いったん相続放棄をしてしまうと、取り消しを求めたり、無効原因があるときには無効を主張することはできますが、撤回することはできません。
相続放棄の手続きには、基本的に、①被相続人の住民票除票または戸籍付票、②申述人(放棄する方)の戸籍謄本、③被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本を添付しなければなりません。(戸籍謄本が必要なのは、被相続人の死亡の事実のほか、被相続人と申述人との関係を明らかにするためでもあるので、相続人が被相続人の兄弟姉妹だったり、代襲相続が行われているような場合には、複数の戸籍謄本が必要になってきます。)
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の負債を弁済するという留保付きの相続の承認です。
明らかに資産より負債が多い場合には、相続放棄をしてしまえばよいですが、資産と負債のどちらが多いのかわからないという場合、限定承認を選択するという方法が考えられます。また、相続財産に手放したくない不動産があるといった場合には、鑑定人が評価した評価額を支払えば、その相続財産を競売せずにおくことができます。
限定承認をする場合には、「相続の開始を知った時」から3か月以内に、共同相続人全員で家庭裁判所に申述をします。ただし、調査に時間がかかるような場合には、例外的に期間を延長してもらうことができます。その後、債権者や遺産内容の調査が行われ、必要な支払いなどを行います。
限定承認の手続きには、基本的に、①被相続人の住民票除票又は戸籍付票、②申述人全員の戸籍謄本、③被相続人の出生から死亡までの総ての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本を添付しなければなりません。相続財産の目録も作成して添付する必要があります。
参考:相続放棄と限定承認の違い
①遺言による債務の指定
前述の通り、被相続人の債務は法定相続分に応じて配分されます。たとえ遺言で「借金については全額長男Aが承継するものとする」と記載があっても債権者はこれに従う必要はありません。ただし、相続人の間では有効なので、たとえば、次男が借金の一部を支払った場合には、長男にその支払い額を請求することはできます。
②遺産分割協議による債務の指定
遺産分割協議において、特定の相続人がすべての債務を負担する旨が決められた場合、相続人の間ではそれが有効となります。しかし、債権者は遺産分割協議の内容に拘束されないので、法定相続分に従い請求することができます。
もっとも、債権者がその内容に同意した場合には、特定の債務者に債務を負担させることも可能です。その場合には「免責的債務引受」の契約となり、特定の相続人に債務を負担させるけれども、支払えなくなったとき別の相続人が支払うようにするには「重畳的債務引受」の契約となります。
遺産分割協議がまとまらず遺産分割の審判が行われる場合でも、遺産分割の対象となるのはプラスの財産のみで、マイナスの財産は遺産分割の対象とはなりません。したがって、債権者との関係では、法定相続分の割合にしたがって債務を負担することになります。
相続においてマイナスの財産の方が多い場合、「相続放棄」をするか「限定承認」をするかを決めることになります。特に、限定承認を選ぶ場合、相続人全員で合意する必要があるので、相続人同士でしっかりと話し合って決める必要があります。
今回は、相続において借金などの負債がある場合の対処法について解説してきました。
債務も試算も承継しない相続放棄や、債務に対する責任を相続財産の限度に留める限定承認をする場合にも「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期限があり、家庭裁判所での手続きなどわからないことも多いと思います。このような時は弁護士を活用することをおすすめします。財産の調査や、相続放棄や限定承認の手続きなどについてすべて任せることができるからです。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士や司法書士も在籍していますので、相続に関してワンストップで対応することが可能です。相続について不安があるという方はぜひお気軽にご相談ください。
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何らかの理由で、生前に相続放棄をしておきたい、または相続人に相続放棄を求めたい、と考える方もいるでしょう。
たとえば、後の相続トラブルに巻き込まれないように事前に相続放棄をしておきたい、と思ったり、高齢になって再婚するときに、自分の子どもに財産を残せるよう再婚相手に相続放棄をしてほしいと思ったりすることもあるかもしれません。
しかし、被相続人(亡くなった方)の生前に相続放棄をすることは認められていません。この場合、被相続人に遺言書を作成してもらうだけでなく、遺留分の放棄も行うことによって対応する必要があります。
この記事では相続放棄と遺留分放棄との違い、そして勘違いされやすい相続分放棄との違いについて、注意点を交えながらベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。