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生前に相続放棄は可能? 遺留分放棄や相続分放棄との違いについて弁護士が解説

2019年01月24日
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生前に相続放棄は可能? 遺留分放棄や相続分放棄との違いについて弁護士が解説

高齢者の方と再婚するときなど「相手の親族に財産目的と思われたくないから生前に相続を放棄しよう」と考えることがあります。しかし、生前の相続放棄は認められていません。この場合、生前に相続を放棄しようという希望を叶えるのであれば、高齢者の方に遺言を作成してもらったり、生前贈与をしてもらったりして、相手の親族に財産が渡る手配をするとともに、「遺留分の放棄」を行うことによって対応する必要があります。この記事では相続放棄と遺留分放棄との違い、そして勘違いされやすい相続分放棄との違いについて、注意点を交えながら弁護士が解説していきます。

1、生前に相続放棄はできない

世間には「将来相続しないためには、生前に相続放棄すれば良い」と考えている方がいるかもしれません。
しかし法律的に「生前の相続放棄」は認められていません。
相続放棄とは、相続人となった方が、資産も債務も含めて一切の相続をしないと表明することです。単に口頭で「相続を放棄します」と言えばよいものではなく、家庭裁判所に「申述」をして、受理される必要があります。申述は相続開始後にしかできないので、生前の相続放棄はできません。

このように「生前に相続放棄する方法」は一切存在しないので、まずはこの点をしっかり押さえておきましょう。

2、生前に相続放棄の代わりにできる対策、遺留分放棄とは?

それでは、相続人としての相続を希望しない場合、生前に相続放棄の代わりにできることはないのでしょうか?
この場合には「遺留分放棄」によって対応できる可能性があります。

  1. (1)遺留分とは?

    遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限度の遺産取得割合のことです。被相続人が、遺言や贈与によって第三者や他の相続人に遺産を譲り渡し、子どもや配偶者などの遺産取得分がなくなったとしても、遺留分減殺請求をすれば、最低限遺留分まで遺産を取り戻すことが可能です。

  2. (2)遺留分が認められる人

    遺留分が認められるのは、兄弟姉妹とその代襲相続人のおい、めい以外の法定相続人です。法律の妻や夫、子どもや孫やひ孫、親や祖父母などの相続人に遺留分が認められます。

  3. (3)遺留分放棄とは?

    遺留分は放棄できます。遺留分放棄は相続放棄と違い、生前でも手続き可能です。遺言書を作成して遺留分権利者に一切の財産を残さないように遺言書を作成してもらったうえで、遺留分放棄をすれば、遺留分放棄をした者は一切相続財産を受け取らないということができます。

    そうすれば、遺留分放棄をした再婚相手は、相続財産を受け取らないことになりますので、親族からの財産目当ての結婚だという謂れのない非難を避けることができますし、相続財産に関する紛争を予防することもできます。

  4. (4)生前に遺留分を放棄する際の手続きの流れ

    生前に遺留分放棄をするときには、遺留分権利者本人が、家庭裁判所に「遺留分放棄の許可申し立て」をして、遺留分放棄を認めてもらう必要があります。
    申し立ては、被相続人(予定)の住所地を管轄する家庭裁判所にて行います。
    必要な書類は、遺留分放棄の許可申立書、被相続人(予定)の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本です。必要な費用は、収入印紙代800円と、連絡用の郵便切手代です。
    これらをまとめて家庭裁判所に提出すれば、家庭裁判所で審理が行われ、問題がなければ遺留分放棄の許可審判がなされます。

  5. (5)生前に遺留分放棄する際の注意点

    生前に遺留分放棄をする場合には、いくつか注意点があります。それは、常に遺留分放棄が認められるとは限らないことです。
    まず、遺留分放棄が、遺留分権利者の自由意思に基づくことが必要です。被相続人や他の親族(長男次男、長女など)による不当な干渉によって遺留分放棄の申し立てが行われた場合には、申立人の自由意思に基づくものではないとして却下されてしまうでしょう。
    また、遺留分権利者に相応の補償が行われていることも、裁判所が遺留分放棄の許可審判を出すうえで重要なポイントです。すなわち遺留分放棄の代償として、相当な財産の生前贈与が行われたり特別受益に該当する贈与が行われたりされていると、家庭裁判所が、この遺留分放棄申し立ては許可相当であると判断して許可の審判をする可能性は高まります。
    さらに、遺留分放棄の必要性、合理性も判断要素となります。たとえば財産の散逸を防ぐ目的や不動産などの細分化を防ぐ目的など、合理的な理由が認められる申し立てであれば、遺留分放棄が認められる可能性は高いでしょう。何らかの理由がないと、遺留分放棄が認められない可能性が高いです。

    遺留分は重要な権利ですので、遺留分放棄の許可申し立てを行いさえすれば、簡単に許可してもらえるというものではないのです。

3、相続放棄と相続分放棄との違い

次に、相続放棄と間違えられやすい「相続分放棄」についても知っておきましょう。

  1. (1)相続分放棄とは?

    相続分放棄とは、遺産相続をした方が、自分の相続分放棄することです。
    相続放棄のように家庭裁判所に正式に申述して受理してもらうのではなく、相続分を放棄するという、相続人単独の意思表示で行うものです。例えば、被相続人の死後、相続人らが遺産分割協議をするときに、ある相続人が「私は一切相続財産を受け取りません。相続分を放棄します。」と表明することにより、相続分を放棄します。
    相続分放棄をすると、その相続人はプラスの相続財産を受け継ぎません。

  2. (2)相続放棄と相続分放棄との違い

    相続放棄と相続分放棄にはどのような違いがあるのでしょうか?

    ●方法の違い
    相続放棄と相続分の放棄では、手続きや方法がまったく違います。相続放棄するときには、放棄者が家庭裁判所に「相続放棄の申述」をして受理してもらう必要があります。
    これに対し相続分の放棄の場合には、方式は定められておらず、相続分を放棄する相続人が意思表示することで行うことができます。

    ●効果の違い
    相続放棄と相続分の放棄は効果も大きく異なります。
    相続放棄の場合には、相続放棄をした方は、はじめから相続人ではなかったことになるので、資産も債務も一切承継しません。
    これに対し相続分の放棄の場合には、相続人ではなかったことにはならず、いったん相続した方が相続分を放棄するという形なので、相続債権者には対抗できません。つまり、相続分を放棄しても、負債については法定相続分に対応する部分を相続してしまいます。そこで負債を相続したくないのであれば、相続分放棄ではなく相続放棄をする必要があります。そうしないとプラスの資産は相続できないのに負債だけ相続する形になってしまいますので注意が必要です。

    また相続放棄の場合には、放棄をした方が、はじめからいなかった前提で法定相続分を計算しますが、相続分の放棄の場合には、相続分を放棄した方の相続分を、他の法定相続人にその相続分で割り振るので、どちらの方法を使うかによって、他の相続人の法定相続分も変わってくる可能性があります。例えば、配偶者と子ども2人が相続人のとき、子ども1人が相続放棄をすると、相続人は配偶者と子ども1人になり、2分の1ずつ相続することになります。しかし、これが相続分の放棄となると、相続分を放棄した子どもの相続分4分の1を、2分の1の相続分を有する配偶者と、4分の1の相続分を有するもう1人の子どもが、2分の1対4分の1(すなわち2対1)で分け合うので、配偶者の相続分は2分の1+4分の1×3分の2=3分の2、子どもの相続分は4分の1+4分の1×3分の1=3分の1となります。

    ●期限の違い
    相続放棄には、「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月」という期限があります。基本的には、相続開始後3ヶ月以内に相続放棄の手続きをとる必要があります。
    これに対して相続分の放棄には期限はありません。

    ●相続手続きにおける違い
    不動産の名義書き換えなどの相続手続きにおける必要書類にも違いがあります。
    相続放棄の場合には、家庭裁判所から受けとった「相続放棄の受理通知書」または「受理証明書」が必要となりますが、相続分の放棄の場合には、遺産分割協議書のほかに、実印を押捺して印鑑証明書を添付した、放棄者が相続分を放棄したことを示す「相続分の無きことの証明書」などの書類が用いられることもあります。

4、遺留分を放棄した再婚相手に財産を残す方法

財産目当ての結婚ではないということを解ってもらうために、再婚相手が遺留分を放棄したとしても、自分としてはその再婚相手にもなにがしかの財産を残したいと考えることがあるものです。ここでは、その方法をいくつかご紹介します。

  1. (1)遺言書を活用して別に財産を残す

    ひとつは、遺言書によって財産を残しておく方法です。遺留分を放棄した方に対しても、遺言によって財産を残すことは認められますので、遺産の全部を親族に残さなくてもよいのであれば、遺言で、再婚相手にも最低限残してあげたい財産を受けとれるようにしておくことが考えられます。

    遺言書を残すときには、必ず「公正証書遺言」にしておくことをおすすめします。
    遺言書の方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」がありますが、中でももっとも確実で効果が高いのが公正証書遺言だからです。
    特に、家族が反対する中で再婚するケースなどでは、ご本人の死後に親族同士で争いが発生する可能性があります。遺留分まで放棄してくれた再婚相手に、ささやかな財産を残そうと思っていても、そのささやかな財産に対してまで、自筆遺言証書だと、「偽造」だとか、「無理やり書かせた」など難癖をつけられる恐れがないとはいえません。
    公正証書遺言を作成して、子どもや再婚相手に、「公正証書遺言を作成しているから、死後にきちんと見てそれに従って遺産をわけなさい」と伝えておけば「偽物」など言われるリスクはずいぶん小さくなります。

  2. (2)生命保険のお金を残す

    次に、生命保険を活用する方法があります。生命保険の死亡保険金は、原則的に相続財産に入らないことになっています。つまり指定された受取人が全額受け取ることができますので、他の相続人と遺産分割協議によって分け合う必要がありません。
    そして遺留分放棄した方に生命保険を受けとらせることも可能ですので、再婚相手を生命保険の受取人に指定しておけば、再婚相手の生活をある程度保証することもできます。

  3. (3)生前贈与する

    もうひとつの方法が生前贈与です。生前贈与とは、あなたが亡くなる前に財産を贈与しておくことです。生前贈与すると贈与税がかかりますが、贈与税には、毎年110万円までの贈与であれば基礎控除の範囲内に収まるなど、いろいろな控除制度があるので、亡くなるまでの間、現金などを贈与したり不動産を少しずつ贈与したりすることができます。
    なお、20年以上連れ添った配偶者であれば、2000万円までの居住用不動産そのものや不動産購入・建築費用の贈与が無税になる制度もあります。これは、高齢になってからの再婚では利用が困難かもしれませんが、念のためにご紹介しておきます。

5、まとめ

高齢になってから再婚しようとする場合、家族が遺産相続を心配して反対するケースがあります。
そのような複雑な状況において、将来の遺産相続をスムーズに進めていくには弁護士によるアドバイスを受けることも検討されてみてはいかがでしょうか。再婚や相続放棄や遺留分放棄に関してお悩みがありましたら、ぜひとも一度、ベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。

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