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特定の個人に相続させる旨の遺言をする上での注意点は? 弁護士が解説

2020年05月12日
  • 遺言
  • 相続させる旨の遺言

特定の個人に相続させる旨の遺言をする上での注意点は? 弁護士が解説

自分の遺産を自分の意思で相続させる方法として「遺言」があることは多くの方がご存じだと思いますが、財産の分配方法について遺言でどこまで指定できるのかご存じでしょうか。

自分の死後、子どもたちが相続でもめないようにするために、特定財産を特定の個人に分配できないかと考えている方も多いと思いますが、「遺言についてどう書いていいかわからない」という方がほとんどでしょう。

そこで、今回は、特定の個人に特定の財産を相続させる場合の遺言の注意点について解説していきます。
なお、以下では「相続財産」、「遺産」という言葉が出てきますが、いずれも同じ意味で使用しています。

1、「相続させる」とはどういうこと?

遺言において「相続させる」とはどういうことなのでしょうか。相続させる旨の遺言とは、共同相続人のうちの特定の相続人に対し、特定の相続財産を相続させる旨の遺言をすることをいいます。

たとえば、「A土地を長男甲に相続させる」と遺言に書く場合です。誰にどの相続財産を相続させるかを被相続人(亡くなった方)が指定できるというものです。相続人以外の人に相続財産を譲り渡す場合には、遺贈するしかありませんが、相続人の中で誰にどの相続財産を相続させるかについて指定する場合には、この方法が便利です。

「相続させる」旨の遺言の効力について、以前は学説が分かれていましたが、現在の判例・通説は、原則として遺産分割方法の指定であり、遺産分割を経ずに相続人は当該遺産を取得できるという「遺産分割方法の指定」であるという考え方を採用しています(最高裁判所第二小法廷 平成3年4月19日判決)。

上記の判例・通説の考え方は、相続させる旨の遺言がなされた場合には、原則としてそれは遺産分割方法の指定であると考えます。そして、(「相続させる」という遺言により遺産を取得した相続人を含めて全員で遺言と異なる遺産分割を行うことに同意すれば別ですが、)遺産分割という手続を経ることなく、遺言の効力発生時に、対象となる遺産が特定の相続人に承継されるとする見解です。そのため、遺産分割をする必要はなく、単独で所有権移転登記をすることができ、遺言に記したとおりの効果を実現することができます。

なお、「相続財産の〇%」というように割合のみを指定した場合には、その内容を決める必要があるため、遺産分割協議が必要になります。
現金や預貯金などのように機械的に割合に応じて分けられるものは簡単ですが、不動産など割合に応じた分割が難しいものの場合、評価の仕方も含め、分割方法をめぐり争いが生じる可能性があります。

また、遺言書は、「相続させる」旨の遺言に限らず、法律で定められた要件を満たすものでないと無効になりますので、注意が必要です。

参考:遺言とは

2、「相続させる」遺言と遺贈の違いとは?

遺言において、「相続させる」や「遺贈する」という記載がなされますが、内容には違いがあります。

人が亡くなると、その人が生前有していた財産上の権利・義務は法定相続人に帰属することになります。法定相続人に法定相続分と異なる分配をしたい場合に使われるのが「相続させる」という表現です。法定相続人以外の人には「相続させる」という遺言をすることはできません。

法定相続人以外の人に相続財産を分配した場合には、「遺贈する」と記載します。遺贈は、遺言によって財産を譲ることをいい、譲る相手に制限はありません。そのため、法定相続人にもすることができます。遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。

包括遺贈とは、遺産を特定せずに遺産全体に対する割合で与える遺贈のことをいい、負債も含みます。たとえば、「全財産の4分の1をAに」などと指定する方法です。
これに対し、特定遺贈は、遺産のうち、特定の財産を譲る遺贈です。「土地をAに」などと指定する場合です。それゆえ、遺贈された特定の財産の中に負債がなければ、負債を譲り受けることはありません。

逆に、法定相続人は、相続放棄又は限定承認を行わない限り、相続債務の負担を免れることはできません。例え遺言で、債務は〇〇に承継させると定めても、債権者に対抗することはできず、相続人間でどのように負担するかはともかく、債権者に対しては法定相続人に応じた債務の負担をしなければなりません。

不動産について、「相続させる」旨の遺言の場合、指定された相続人が単独で所有権移転の登記申請をすることができますが、「遺贈する」旨の遺言の場合、遺贈を受ける者は他の法定相続人全員)と共同で所有権移転の登記申請をしなければなりません(遺言執行者がいれば、遺言執行者と共同、あるいは遺言執行者単独で登記をすることが可能ですが、遺贈者単独では登記はできません)。

なお、相続法の改正で、「相続させる」遺言の場合であっても、遺言執行者が登記することもできるようになりましたが、「相続させる」遺言により不動産を取得した人が単独で登記申請することができることに変わりはないと考えられています。

なお、受遺者が、被相続人の一親等の血族(被相続人の両親や子どものこと。代襲相続人を含む)および配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額に、その相続税額の2割に相当する金額が加算されます。そのため、法定相続人以外の人に遺贈がなされた場合、相続税額が高くなるという違いがあります。

また、通常の相続税には「基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)」がありますが、遺贈によって遺産を取得する人の数が増えても法定相続人の数は変わらないため、遺贈が基礎控除額に影響することはありません。

法定相続人以外の人に不動産が特定遺贈された場合、不動産取得税がかかります。それに加えて、不動産を譲り受ける場合は法務局に登録申請を行う際、登録免許税が必要になります。登録免許税の額が、法定相続人が譲り受ける場合0.4%なのに対し、法定相続人以外の人が譲り受ける場合には2%になります。不動産価格が3000万円の場合、相続なら「3000万円×0.4%=12万円」なのに対し、遺贈なら「3000万円×2%=60万円」の登録免許税が掛かります。

なお、相続発生以前に、遺言で当該遺産を受け取る人が死亡していた場合には、遺贈であれば、効力が発生しないことは民法上明らかです(民法994条1項)が、「相続させる」遺言の場合には、明文の規定はなく、考え方は区々でした。しかし、最高裁判所が、平成23年の判決で、原則として、「相続させる」遺言の場合にも代襲相続人が相続するものではないと判断しましたので、「相続させる」遺言の場合にも、当該遺産を相続させるとされていた人が相続開始時点で死亡していたら、効力が発生しないというのが原則になります。

ただ、この最高裁判例でも、遺言者が、代襲相続人にも相続させるという意思を有していたと認められる場合には、代襲相続人が相続すると判示されており、遺贈の場合ほど明確に線が引かれているものではありません。

そうは言っても、こうした判例がある以上、「相続させる」遺言を書く際には、相続発生時にその財産を相続させるとした人が死亡していたときにはどうするかまで考えて、代襲相続人にも相続させたいときにはもちろんのこと、代襲相続人には相続させないということであっても、具体的に明記しておく必要があるでしょう。

3、相続人には遺留分という権利がある!

  1. (1)遺留分とは

    遺言は、被相続人の意思の表れです。被相続人は、自らの財産を自由に処分できるのが原則です。しかし、推定相続人には、遺産に対する期待があり、それを保護する必要があります。遺族の生活保障という観点もあり、民法では、最低限の取り分として「遺留分」が認められています。

    つまり、一定の相続人に対しては、被相続人であっても侵害し得ない相続分(遺留分)があるということです。一定の相続人とは、兄弟姉妹を除く法定相続人を指します(民法1042条1項)。被相続人に配偶者と子どもがいる場合には、「配偶者」と「子」、被相続人には配偶者だけで子どもがいない場合には「配偶者」と「直系尊属(両親、祖父母など)」、被相続人に配偶者も子どもいない場合には、「直系尊属(両親、祖父母など)」になります。ただ、遺留分が認められるためには、相続人であることが前提なので、相続人の欠格事由がある場合、廃除が認められた場合、相続放棄が行われた場合には、遺留分も認められなくなります。

    そのため、「全財産をお世話になった知人に遺贈したい」と思っていても、妻や子どもなどの遺留分権利者がいる場合には、遺留分権利者に一定の財産(この場合は全体の2分の1)を与えなければならず、全財産を知人に遺贈することはできません。

    遺留分が認められる割合は、直系尊属のみが相続人になるときは、相続財産の3分の1(民法1042条1項1号)、その他の場合には、相続財産の2分の1になります(同2号)。
    たとえば、相続財産が6000万円で相続人が配偶者と子ども二人という場合、遺留分は、相続財産全体の2分の1であり、法定相続分は、配偶者が1/2、子どもが1/2なので、具体的な遺留分額は、配偶者が「6000万円×1/2×1/2=1500万円」、子どもがそれぞれ「6000万円×1/2×1/2×1/2=750万円」ということになります(民法1042条2項、900条1号)。

    参考:遺留分とは

  2. (2)遺留分侵害額の請求について

    遺留分侵害額の請求とは、被相続人(亡くなった人)が一部の相続人や法定相続人以外の人に全財産を相続させたような場合に、(他の)相続人が自身の遺留分を侵害されたとして、遺留分を侵害する内容で財産を譲り受けた人に対して、遺留分相当額の金銭の支払いを求めるものです(民法1046条)。

    遺留分侵害額の請求を行える人は、遺留分権利者とその承継人になります。兄弟姉妹はそもそも遺留分が認められていないので、遺留分侵害額の請求を行うことはできません。

    遺留分侵害額の請求ができる期間は、相続の開始及び遺留分侵害の事実を知った日から1年間なので、1年を過ぎると時効により消滅し、請求できなくなります。また、相続開始の時から10年間が経過したときも請求できません(民法1048条)。

    自身の遺留分を請求する方法として、相手と交渉できるのであれば、相手に対して遺留分を侵害しているので、遺留分相当額について支払うよう求めるのが簡単でしょう。その請求に対して支払わない場合には、遺留分侵害額の請求権を行使する旨の意思表示を示した事実を証拠として残すため、内容証明郵便でその意思表示を行う必要があります。この証拠を残しておかないと、相続の開始及び遺留分を侵害する額の請求を1年間以内に行ったということを立証できなくなります。

    それでも支払わない場合には、調停や訴訟によることになります。原則としては、訴訟の前に調停を申し立てる必要がありますが、全く話し合いにならなかったりで、調停を行うのが無意味なときには、調停を申し立てることなく訴訟を提起してしまうことを考えざるを得ないこともあります。

    訴訟を提起する場合には、請求する金額が140万円以下であれば簡易裁判所に、140万円を超える金額であれば地方裁判所に訴状を提出することになります。

    参考:遺留分侵害額請求

4、遺言書を作った後に財産や相続人に変更があったら?

  1. (1)遺言書の作り直し

    遺言書を作成したけれど、財産に変動があったり、相続人が亡くなったりすることもあります。そのような場合、遺言書は作り直しできるのでしょうか。結論から言うと、遺言書は、いつでも作り直すことができます。財産や相続人に変動がなくても、気が変わればいつでも変更可能です。

    作り直しは、新たに遺言書を作成するだけです。新しい遺言書と古い遺言書で両立しない内容が記載されている場合、古い方の内容が撤回されたものとされ、新しい方の内容が優先されます(民法1023条1項)。もっとも、遺言書がいくつも存在しているとトラブルの元になりやすいため、古い遺言書は廃棄したり、撤回しておくことが望まれます。

    なお、公正証書の場合、遺言書の原本は公証役場に保管されているので、公証役場に行って、新たに公正証書遺言を作成するなり、古い公正証書遺言は撤回するという公正証書を作成したりして、古い遺言書は撤回したことを明らかにしておく必要があります。理屈から言えば、古い公正証書遺言を撤回する新しい遺言書は、自筆証書遺言であっても構わないのですが、自筆証書遺言は、令和2年7月10日から施行される遺言書保管法により法務局で預かってもらわないと、保管面に不安があり(自宅での保管などでは紛失・破損等の恐れがあります)避けたほうが良いでしょう。

  2. (2)指定した相続人が先に亡くなったら?

    「相続させる」旨の遺言で、指定された相続人が死亡している場合どうなるかについては、二つの考え方があります。指定された相続人が亡くなった以上、無効になると考える説と指定された相続人の代襲相続人が相続するという説です。これに対し、前述したとおり、判例では、原則として代襲相続はされず、遺言の当該部分は効力が生じないとしています(最高裁判所第三小法廷 平成23年2月22日判決)。

    この判決は、「指定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、・・・当該指定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じることはないと解するのが相当である。」とするものです。

    そのため、指定した相続人が死亡した場合でも代襲相続人に相続させたいと考える場合には、特段の事情が必要ということになります。特段の事情は、遺言書が記載された当時の事情等を総合的に判断していくことになりますが、実務的には、具体的に、「指定した相続人が死亡した場合は、その子に代襲相続させる」と、予備的に遺言書に明確に記載して、代襲相続人に相続させる意思があるのかどうかを明確にしておくべきです。

    このような予備的な指定もなく、効力がないと判断された場合には、「相続させる」遺言の効力が認められなかったた遺産は、相続人全員で遺産分割協議をして分配しなければなりません。

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5、まとめ

相続はいつ起きるかわかりませんが、誰しもに必ず起こるものであり、準備が可能なものです。その最たるものが遺言ですが、遺言の形式に誤りがあり、または、内容が不十分だと無効になったり、意図したとおりの効果が得られなかったりします。

「相続させる」旨の遺言の場合であっても、遺留分を侵害するような配分だと、相続人間でもめることも多々あります。トラブルに発展しないように遺留分に配慮した遺言を作成することが求められます。

トラブルに発展しないよう確実な遺言書を作成するためには、やはり弁護士などの専門家に依頼するのが安心です。ベリーベスト法律事務所では、遺産相続問題を弁護士と税理士によってトータルにサポートする体制が整えておりますので、相続についてお悩みの場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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