遺産相続コラム
不動産に関する相続手続きのなかでも、特に問題となりやすいものが「未登記建物」です。未登記建物を相続する場合、遺産分割協議書の作成には、十分に注意しましょう。
本コラムでは、未登記建物の相続に関わる問題点や遺産分割協議書の作成方法など、一連の相続手続きにおける未登記建物の取り扱いについて、相続業務を幅広く取り扱っているベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、表題部の記載のみで、所有権保存登記などの権利部の記載がない建物は、多数存在しているのが実情です。そして、そのような建物も未登記建物と呼ばれることもありますが、本コラムでは、表題部すらない未登記建物に限定して説明します。
「登記」とは、不動産などの権利や義務を公示する法制度のひとつです。そして「未登記建物」とは、登記がなされていない建物のことをいいます。
より厳密にいえば、登記簿には不動産の物理的な情報を記載している「表題部」と、不動産の権利に関する事項を記載している「権利部」に分かれており、表題部の情報が記載されていない(表題登記がない)建物が未登記建物です。
なお、不動産登記法第2条1項20号は、表題登記について「表示に関する登記のうち、当該不動産について表題部に最初にされる登記をいう」と定めています。
表題登記がなされない限り、権利に関する登記はできないため、表題部の記載がある一方で権利部の記載がない登記は存在しますが、表題部の記載がなく権利部の記載だけがある登記は存在しません。
遺産相続が始まったとき、未登記建物の扱いについて疑問に思う方もいらっしゃいますが、未登記建物も他の財産と同様、相続の対象です。
したがって、未登記建物の所有者が死亡した場合、未登記建物を相続する相続人は、不動産登記法の規定に従い、その建物の表題登記の登記申請義務を負担することになります。
被相続人(亡くなった方)から不動産を引き継ぐときは、被相続人から相続人へと名義変更することが必要です。このような名義変更を「相続登記」といいます。
この相続登記は、令和6年4月1日、法改正によって義務となりました。
このような法改正に至った背景には、所有者が特定できない空き地や空き家の増加があります。相続登記を行わず放置していると、登記簿上と今現在の実際の所有者が一致せず、不動産の所有者が誰であるかがわからなくなってしまうのです。
所有者不明の不動産については、以下のような弊害が生じるなどの社会問題となっています。
そこで、所有者がわからない不動産の発生を防止する目的で法改正が行われ、相続登記が義務化されました。
相続登記の義務化に伴い、不動産を相続する相続人は、相続の開始および所有権取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。これに違反した場合は、10万円以下の過料の対象となってしまいます。
また、相続登記が義務化されるのは、改正法の施行日(令和6年4月1日)以降に発生する相続だけではなく、それ以前に発生した相続も対象です。
つまり、相続登記が済んでいない不動産をお持ちの方は、改正法の施行日または相続により所有権の取得を知ったときから3年以内に相続登記を行わなければ10万円以下の過料の対象になるため、注意しなければなりません。
なお、相続登記をするためには、相続人による遺産分割協議が必要になります。事案によっては、相続登記の期限までに遺産分割がまとまらないこともあります。そのような場合には、「相続人申告登記」という新たな制度を利用することで、過料のペナルティーを避けることが可能です。
相続人申告登記とは、不動産を相続した人が「自分が不動産の相続人です」と申し出て、登記を申請する制度のことをいいます。正式な相続登記よりも簡単な手続きで申請することかできますので、すぐに相続登記ができない場合には利用してみるとよいでしょう。
不動産を相続した場合の相続登記については、法改正により令和6年4月1日から義務化されましたが、新築した建物の表題部登記については、法改正前から登記の義務がある点に注意してください。現行法でも表題部登記が義務とされているのは、行政が固定資産税や都市計画税といった税金を確実に徴収することが目的です。
相続登記が未了であったとしても、行政は、表題部の記載に基づいて計算をした税金を相続人の代表者に対して課税ができます。しかし、表題部登記が未了だと、税金の課税に必要な情報がなく、誰に、いくら課税すればよいのかがわからないため、表題部登記は法改正前から義務となっていたのです。
不動産登記法では、新築した建物を取得した場合には、所有権を取得した日から1か月以内に表題登記の申請をしなければならないと定めています。これに違反した場合には、10万円以下の過料に処せられることになります。
なお、表題部登記には、土地と建物の2種類があります。このうち土地に関しては、表題部登記が未了の土地を新たに取得する機会はほとんどありません。そのため、表題部登記に関しては、主に建物に関して問題となります。
建物を新築したときやまだ登記されていない建物を購入したときには、期限内に表題部登記が必要となることを忘れないようにしましょう。
未登記建物をそのままにしておくと、いくつかのデメリットが生じる可能性があります。「表題登記は義務だから」という理由だけでなく、自分の所有権を守るために、きちんと表題登記と所有権の登記を行っておくことが不可欠です。
ここからは、登記すべき理由を3つご紹介します。
遺産分割協議書を作成する際は、どの相続財産(遺産)を遺産分割するのか明らかにするために、相続財産を一覧化した「財産目録(遺産目録)」を作成することが一般的です。
財産目録は、遺産分割の対象となる相続財産を明確にするものであるため、相続において未登記建物も記載しておかなくてはなりません。そのため、相続財産のなかに未登記建物が含まれていないか、まずは確認するようにしましょう。
財産目録を作成するためには、被相続人が所有していた財産の調査が必要ですが、未登記建物は登記されていないため、法務局で調査することができません。
未登記建物の調査の重要な手掛かりが、納税通知書です。未登記建物であっても、自治体により課税されていることがほとんどなので、納税通知書には、未登記建物も記載されていることが通常です。調査の手掛かりである固定資産納税通知書が残されていない場合は、名寄帳により調査することになります。
名寄帳には、固定資産税を課税する市区町村役場が管轄する地域内で被相続人が所有していた不動産が一覧化されており、未登記建物も記載されています。
また、納税通知書がある場合でも、非課税物件は記載されない、共有物件の場合には代表者にしか納税通知書が送られないなどの例外もあるので、名寄帳の確認は必須です。
被相続人が遺言書を残していなかった場合には、被相続人の遺産は、相続人による遺産分割協議で、誰が、どのような遺産を、どのような割合で相続するのかを決める必要があります。
遺産が現金や預貯金のみであれば、法定相続分に応じて簡単に分けることができますが、未登記建物などの不動産が含まれている場合には物理的な分割ができません。
そこで、以下のような方法により、未登記建物を相続する人を決めることが必要です。
注意点として、未登記建物を共有分割により相続人の共有名義にしてしまうと、将来、不動産の利用や活用が困難になったり、世代交代により権利関係が複雑化したりするなどの弊害が生じてしまうことがあげられます。
そのため、共有分割は、それ以外の3つの方法で遺産分割ができない場合の例外的な分割方法と理解しておくとよいでしょう。
なお、遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成し、相続人全員の署名押印と印鑑証明書の添付が必要になります。
遺産分割協議で話し合い、まとまった結果について書面化したものを遺産分割協議書といいます。遺産分割協議書には、その遺産分割の対象となる相続財産をすべて記載することになり、財産を特定的に記載することが重要です。
登記建物であれば、登記されている項目(所在・家屋番号・種類・構造・床面積)をそのとおり記載すれば、十分な特定になります。しかし、未登記建物は登記簿が存在しないため、登記簿から建物を特定する情報を転記することはできません。
したがって、固定資産評価証明書や名寄帳に記載されている事項を転記して、未登記建物を特定することが必要です。また、未登記建物の表示のなかに(未登記)と記載して、その建物が未登記建物であることを明確にしておくとよいでしょう。
相続が始まったときは、通常、すでに所有権保存登記など権利の登記がなされている不動産については、登記簿上の所有権者の名義を被相続人から相続人に変更するために、相続を原因とする「所有権移転登記手続」の申請を行います。これが、いわゆる相続登記の手続きです。
未登記建物の表題登記に必要な書類は各種ありますが、主なものは次のとおりです。下記の書類等をそろえて、未登記建物が所在する地域を管轄する法務局に申請します。
なお、未登記建物を使用せずに直ちに取り壊す場合、不動産の状況を正確に反映するという不動産登記法の趣旨からいえば、表題登記を行ってから滅失登記を申請するということになります。
しかし実際には、そこまで厳密な手続きを取らず、市区町村役場の資産税課などに「家屋滅失届出書」を提出して、取り壊し以降の固定資産税の負担をしないようにしておくことで済ませてしまうのが、ほとんどではないかと考えられています。
遺産相続に関する手続きでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
未登記建物は登記がされていないため、登記事項証明書は存在しません。そのため、相続人であっても、被相続人の相続財産に未登記建物が含まれていることを把握していないことも少なくないのが現状です。
未登記建物が漏れた状態で遺産分割協議を行ってしまうと、遺産分割協議のやり直しなどが必要になる可能性もありますので、正確な相続財産調査が求められます。
弁護士に依頼をすれば、名寄帳の取り寄せにより未登記建物の有無を明らかにすることができるだけでなく、それ以外の相続財産に関しても迅速かつ正確な調査により明らかにしていくことが可能です。
遺産分割協議の場面では、相続人同士の利害関係が衝突することになることから、遺産の分け方などをめぐりトラブルが生じることも少なくありません。
遺産分割方法だけでなく、特別受益や寄与分といった相続制度に関しての正確な知識がなければ、適正な内容で遺産分割協議をまとめることは難しいといえるでしょう。
弁護士であれば、相続人に代わって遺産分割協議に参加することが可能です。相続に関する経験豊富な弁護士が遺産分割協議に参加し、公平妥当な遺産分割方法を提案することができれば、他の相続人の納得も得られやすくなり、スムーズな遺産分割を実現することができるといえるでしょう。
未登記建物がある場合の特殊な遺産分割協議書の記載方法に関しても、弁護士に任せることで、不備なく手続きを進めてもらうことが可能です。
相続手続きにおいて未登記建物の取り扱いにお困りのことがあれば、ぜひベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。
遺産相続について豊富な知見と実績のある弁護士であれば、相続財産に未登記建物が存在するかどうかの調査や、未登記建物が存在するときの適切な遺産分割協議書の作成対応などはもちろん、万が一他の相続人とトラブルが発生したときも、あなたの代理人として解決に向けた対応をすることが可能です。
ベリーベスト法律事務所では、相続業務に豊富な知見と実績のある弁護士が多数在籍しております。また同グループには、税理士、司法書士といった相続に関する各士業も在籍しているため、ワンストップで相続のお悩みをご相談いただくことが可能です。
ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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民法改正により令和元年(2019年)7月1日から新たに特別寄与料の制度がスタートしています。この制度により、夫の親が亡くなった際、夫の親の介護に尽力した妻などもその苦労が報われる可能性があることをご存じでしょうか。
これまでは、被相続人(亡くなった方)の介護などに尽力した人がいたとしても、相続人でなければ寄与分を請求することができませんでした。しかし、特別寄与料は、相続人以外の親族が請求できるものになります。
本コラムは、特別寄与料の制度概要や特別寄与料を請求する方法などについて、ベリーベスト法律事務所の遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
父親が亡くなり、遺産相続が始まった際は、遺産(相続財産)の分割について相続人間で話し合う必要があります。
しかし、母親が高齢で認知症にかかっているケースでは、そのまま遺産分割協議を進めることはできません。協議を進行するためには成年後見制度の利用を申し立てなければなりませんが、後見人等による横領のリスクには十分注意が必要です。
本コラムでは、父親が死亡し、母親が認知症にかかっている場合における相続手続きの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。