遺産相続コラム
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
本記事では遺言無効確認訴訟について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が詳しく解説します。
遺言無効確認訴訟(遺言無効確認請求訴訟)とは、被相続人が作成した遺言書が無効である旨を裁判所に確認してもらう訴訟手続きのことです。
遺言無効確認訴訟の目的は、不適切な内容・方法で作成された遺言書が無効であることを確定し、遺産分割協議ができる状況を整えることにあります。
遺言書が有効であれば、原則として遺言書に記載された内容のとおりに遺産を分割します。しかし、後述するさまざまな理由により、遺言書が無効になるケースがあります。
遺言書が無効であれば、改めて相続人間で遺産分割協議を行うことが必要です。その前提として、遺言書の無効を確定させなければなりません。
相続人間の話し合いで全員が「遺言書は無効である」と同意すれば、そのまま遺産分割協議を行うことができますが、一部の相続人が遺言書の有効性を主張する場合は、調停や遺言無効確認訴訟によって争うことになります。
遺言無効確認訴訟のほか、「遺言有効確認訴訟」の提起も認められています。
遺言有効確認訴訟とは、遺言書が有効であることの確認を裁判所に対して求める訴訟です。遺言無効確認訴訟と表裏の関係にあります。
実務上は遺言無効確認訴訟が提起されるのが通常であり、遺言有効確認訴訟が提起されるケースはまれです。
遺言無効確認訴訟を提起する際には、裁判所に訴状を提出しなければなりません。また訴訟が進む中で、遺言書が無効であるという主張を記載した書面(準備書面など)やその主張を裏付けるための証拠も提出します。
一方、遺言の有効性を主張して争う側は、反論の書面(答弁書・準備書面など)や反論内容を裏付けるための証拠を提出します。
遺言無効確認訴訟を提起する際にかかる費用は、主に裁判所へ納付する手数料(印紙代)と郵便切手の2つです。
手数料は、遺言が無効となることによって原告が得ることになる権利の価額(=訴額)によって決まります。
具体的には、法定相続分から遺言に従った相続分を引いた額が訴額です。ただし、遺言の内容により訴額の計算方法は異なります。訴額に応じた手数料の額は、裁判所が公表している早見表の「訴えの提起」欄をご参照ください。
郵便切手は数千円分程度を納付するのが一般的ですが、相続人が多い場合はさらに多くの郵便切手の納付を指示されることがあります。訴訟提起の際に裁判所に確認しましょう。
また、遺言無効確認訴訟の対応を弁護士に依頼する場合は、弁護士費用も必要になります。実際の弁護士費用は依頼する弁護士によって異なるので、相談する弁護士に確認しましょう。
遺言無効確認訴訟において、遺言書が無効と判断されるケースとしては、主に以下の例が挙げられます。
遺言書を作成するためには、作成時において「遺言能力」を有していなければなりません。遺言能力とは、遺言の内容を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力をいい、15歳未満の者には遺言能力が認められません(民法第961条)。
作成者に遺言能力がなかった場合、その遺言書は無効です。
高齢になると、認知症などによって遺言能力がないと判断される可能性もあります。
もっとも、遺言能力の有無は遺言の時点で遺言の内容を判断する能力があったか否かによって事案ごとに個別に判断されることになりますので、認知症だからといって必ず遺言能力がないとされるわけではありません。
遺言書は、民法所定の方式に従って作成しなければなりません(民法第960条)。
特殊なケースを除いて、民法で認められている遺言書の方式は「自筆証書」「公正証書」「秘密証書」の3種類です。それぞれ詳細に作成方式が定められており、その方式に従っていない遺言書は無効となります。
遺言書が作成方式を理由に無効となるときの例 |
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錯誤・詐欺・強迫のいずれかを理由に遺言が作成された場合、遺言書は無効となります(民法第95条、第96条第1項)。
遺言書は、遺言者本人が作成する必要があります。本人以外の者が作成した遺言書は無効です。また、遺言書の一部が変造された場合には、変造部分が無効となります。
遺言書の内容が公序良俗に反している場合、その部分は無効となります(民法第90条)。また、遺言書全体が公序良俗違反によって無効となることもあります。
公序良俗違反によって遺言書が無効となるときの例 |
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遺言無効確認訴訟を提起する際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
まずは前述の無効事由を参考にして、遺言無効を主張できる事情に関する証拠を確保しましょう。遺言能力を問題にするには病院のカルテを取得するなど、どのような証拠が有利に働くかは具体的な事情によって異なるため、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
遺言無効確認訴訟を提起する前に、相続人全員の話し合いによって解決することが望ましいと言えます。
遺言書が無効であることを他の相続人に説明し、遺産分割協議を行う方向での調整を試みましょう。他の相続人との協議や説得が難しい場合は、弁護士への依頼をご検討ください。
相続人間での話し合いがまとまらない場合は、裁判所での手続きを利用しましょう。
いきなり遺言無効確認訴訟を提起することは原則として認められず、先に家庭裁判所に対して調停を申し立てる必要があります。調停の申立先は原則として、他の相続人のうちひとりの住所地を管轄する家庭裁判所です。
調停では、中立である調停委員が各相続人の主張を公平に聴き取り、遺言無効や遺産分割に関する合意をサポートします。
遺言が無効となるべき事情を合理的に説明すれば、調停委員が相手方に対して説得的に説明をして、調停を有利に進められることもあります。弁護士に依頼している場合は、調停にその弁護士を同席させることが可能です。
調停が不成立に終わった場合は、遺言無効確認訴訟を提起しましょう。
遺言無効確認訴訟の提起先は、他の相続人のうちひとりの住所地、または相続開始時における被相続人の住所地を管轄する簡易裁判所、または地方裁判所です。訴額が140万円以下の場合は原則として簡易裁判所の管轄となります。140万円を超える場合は必ず地方裁判所の管轄となります。
遺言無効確認訴訟では、証拠に基づいて遺言書の無効事由を立証することが求められます。弁護士のサポートを受けながら、十分な準備を整えた上で訴訟に臨みましょう。
遺言書が無効であると判断した場合、裁判所は遺言無効を確認する旨の判決を言い渡します。判決は、控訴・上告の手続きを経て確定します。
調停・和解・判決などによって遺言無効が確定したら、相続人は改めて遺産分割協議を行います。
遺産分割を公正に行うためには、被相続人の相続財産を漏れなく把握し、その価値を適切に評価することが大切です。弁護士には相続財産の調査を一任することができるため、調査の時間が取れなかったり、不安があったりする方は、弁護士にご相談ください。
遺言無効確認訴訟で敗訴し、不公平な内容の遺言が有効になってしまっても、まだ「遺留分侵害額請求」を行う余地が残されています。
「遺留分」とは、相続人が取得できるとされる相続財産の最低保障額です(民法第1042条第1項)。
遺言書の内容が偏っており、自分が相続できる相続財産の額が遺留分を下回っている場合に遺留分侵害額請求を行えば、金銭の支払いを受けられることがあります。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈を知ったときから1年を経過すると時効により消滅します(民法第1048条)。遺言が無効であると考えているからと言って、遺留分侵害額請求を行わないでいると、有効と判断された時には時効により消滅しているということもあり得ます。時効の完成を阻止するために、遺言無効を主張するのと併せて、事前に遺留分侵害額請求権の行使を主張しておかなければなりません。
弁護士に対応を依頼すれば、仮に不公平な遺言書が有効と判断されても、適正額の遺留分を確保できる可能性が高まります。遺言書に納得できない思いを抱えている方は、弁護士にご相談ください。
遺言書の内容や作成の経緯について疑問がある方は、遺言書が無効となる可能性について検討しましょう。
遺言書の有効・無効は、相続人同士の協議がまとまらなければ、最終的に遺言無効確認訴訟を通じて争うことになります。その際は法的な対応が求められるため、弁護士のサポートを受けましょう。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。遺言書の内容に納得できない方や、遺言書が無効ではないかと考えている方は、遺産相続専門チームを編成するベリーベスト法律事務所へご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
兄弟のうち、ひとりだけが生前贈与を受けて、土地などの不動産や現金を取得していることがあります。生前贈与を内緒にしていたことに対して、他の相続人は「自分の取り分が少なくなることに納得できない」と、憤りや不公平に感じるケースがあるでしょう。
一定の相続人は、「遺留分」と呼ばれる相続財産の最低限の取り分が民法上、認められています(民法1024条)。
したがって、自分の最低限の相続財産を侵害された場合には、遺留分を主張することで適切な相続分の支払いを請求することが可能です。
本コラムでは、遺留分や生前贈与の基本的な知識をはじめ、特別受益や遺留分侵害額請求の具体的な手続きの流れになどついて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
自分以外の相続人による「遺産隠し(財産隠し)」が疑われるときは、被相続人(亡くなった方)の隠されたすべての財産を調査し、発見したいと考えるでしょう。
また、遺産分割協議が終わったあとに特定の相続人による遺産隠しが発覚した場合、遺産分割協議のやり直しができるのかも気になるところです。
相続人による遺産隠しが行われたとき、一気にすべての相続財産を探すことができる特別な方法はありません。預貯金、土地建物などの不動産、株式などの有価証券など個別の相続財産を相続人が根気よくコツコツ探していくことが必要です。
本コラムでは、遺産を隠された疑いがあるときの調査方法や、遺産隠し発覚後の対応方法、時効などの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
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