遺産相続コラム
平成30年、全国の家庭裁判所では遺産の分割に関する処分などを求める調停、いわゆる遺産分割調停が1万3739件受理されています。
これは基本的に遺産相続をめぐるトラブルの件数と考えてよいでしょう。
被相続人が亡くなったことの悲しみが癒えないなか、その遺産をめぐって家族や親族ともめることなど、誰もが避けたいところです。
特にさまざま事情で遺産を法定相続割合で平等に分けることが難しい場合の遺産分割協議(遺産を誰が・何を・どの割合で相続するか相続人どうしで話し合って決めること)は、仲のよい関係にある人ほどもめることもあります。それがきっかけで、もっとも大事な家族や親族との関係が失われてしまうこともあります。
そこで本コラムでは、遺産をめぐり家族や親族ともめることになってしまった場合、もめる原因は何が考えられるのか、そして解決するための最善の方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続財産は多種多様なものがありますが、一番もめやすい相続財産は不動産といわれています。
相続財産の中でも不動産は、一般的に価値が高く、個別性が高いため、客観的な価格を把握しにくい資産です。さらに不動産の現物を分割する場合、分割方法によってその後の価値が大きく左右されます。
公平な現物分割が難しい不動産については、売却したうえで売却代金を相続割合に応じて分ける現物分割を検討する必要があります。
また、代償分割という特定の相続人が財産を相続し、その相続人が他の相続人に対して相応の金銭などを支払うという方法もあります。
なお、分割に関する話し合いがまとまらないといっても、ひとつの不動産を複数以上の相続人で共有して相続することはおすすめできません。共有する不動産に対して売却や建て替えなどをする場合は必ず共有者全員の合意が必要となり、共有者単独では何もできなくなります。
さらに、共有者が死亡することで代替わりが進んでいくとネズミ算のように共有者が増えていく可能性があり、権利関係が一層複雑になってしまいます。その結果、後世が互いに面識がないのにもかかわらず、ひとつの不動産を共有するようになることも考えられるのです。
つまり、後世にもめる原因を残すことになってしまうのです。
夫婦は離婚すれば法的に他人になるため、被相続人の前妻は相続で財産を譲りうける権利がありません。
しかし、被相続人と前妻のあいだに生まれた子どもは違います。たとえ前妻と離婚しても、子どもが他の第三者と特別養子縁組をしていないかぎり、前妻との子どもと被相続人の親子関係は切れることがないのです。そして、前妻との子どもは第1順位の血族相続人とされ、遺留分(各血族相続人の最低限の取り分として規定された相続割合)も認められます。
しかし、被相続人の実の子どもとはいえ、被相続人が再婚して新しい配偶者や子どもがいる場合、後妻とその子どもにとって前妻の子どもに遺産が渡ることは納得いかないこともあるでしょう。双方の関係が希薄であればなおさらです。このような状況で前妻の子どもが相続する地位を主張した場合に、もめることは多くあります。
婚姻関係にない父と母の間に出生した子どもがいる場合、その子どもは、母親をは分娩によって当然に母子関係が生じますが、事実上の父親である被相続人とは当然に父子関係は認められません。しかし、父親が非嫡出子を認知していた場合(任意認知の他、認知を求める調停・審判や訴訟などを行って認知を行うこともあります)、または遺言などで認知した場合、は被相続人と法律上の親子関係が認められます。
たとえば、生前の非相続人に愛人がおり、その愛人との間に子どもがいる場合など、その子どもは非嫡出子などと呼ばれることもあります。
たとえ婚姻関係にない父と母の間に生じた子であっても、認知された子どもは、第一順位の法定相続人たる地位を有しています。
認知された子がいる場合、前妻とのあいだに子どもがいる場合と同様に、相続のもめることが考えられます。
被相続人が亡くなるまで、家族が被相続人に認知した子どもがいるとの事実を知らなかったなどというケースもあります。遺産分割協議は、法定相続人の全員で行わなければなりません。必ず相続人が誰であるかを確定して、相続人全員で遺産分割協議を進めるようにしましょう。
法定相続人が複数いる場合、相続人間で遺産の種類や額についての「情報の非対称性」が生じることはよくあります。
たとえば同じ兄弟姉妹でも、被相続人と同居していた相続人と、遠方に住んでいて被相続人と年に数えるほどしか会わない人とでは、日ごろから被相続人の財産状況について知る機会に大きな差が生じます。
これをいいことに、相続人の中には独り占めするために、遺産を隠したりするケースもあるようです。また、その逆で何ら隠し遺産がないにもかかわらず、他の相続人から遺産の独り占めや隠匿を疑われてしまう相続人もいます。
ささいなことが原因で相続人間で疑心暗鬼になり、もめる原因となってしまうのです。
たとえば、一部の同居していた相続人が被相続人が亡くなる前に被相続人の財産を使い込んでいたなどの事情が疑われるケースがあります。
調停や審判で判断しうるのは、調停や審判時に存在する財産に限られるので、既に費消してしまっているような場合には、当該財産は、原則として、遺産分割協議の調停や審判の対象にはなりません。
使途不明金などの使い込みがある場合には、別途、その使い込みをした者に対して、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求等を行う必要があることもあります。被相続人が居なくなってしまった時点で、使途不明金の詳細をすべて追及しようとすると、時間と労力がかかるので、これもまた、もめる原因となることが多いです。
被相続人による遺言に遺産の分割方法が定められていれば、それが法的要件を満たしているかぎり原則として被相続人の意向通りに遺産を分割することになります。そして遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者が遺言の内容通りに遺産分割を行います。
したがって、遺産分割方法を指定した遺言があれば、相続人間でもめることがない円満な遺産分割が期待できるのです。また、遺言には財産の内容が記載されていることが多いため、生前の被相続人の資産に何があったのか、どこにあるのか、どれだけあるのかについて相続人が調査する手間が大きく省けます。
しかし、遺言書がないと遺産分割は、遺産分割協議による相続人全員の合意が必要です。多くの遺産トラブルは、この遺産分割協議がまとまらないことにより発生します。そして相続人間で話し合いがまとまらない場合、遺産分割調停・審判、場合によっては地方裁判所での通常訴訟手続などで争うことになってしまうのです。
遺産の分割について、民法第906条では「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とだけ規定しています。
もちろん、民法では法定相続人の範囲(第887条、第889条、第890条)や法定相続割合(第900条)、法定遺留分(第1042条)など遺産の分割について一定の基準を設けています。しかし、これはトラブルになったときの裁判所における判断基準のひとつにすぎず、当事者間での話し合いの段階では強制力があるわけではありません。結局のところ、遺産の分割は相続人どうしで決めることが原則なのです。
そのため、遺産分割をめぐる話し合いでは各相続人の心情が大きく前面にでることになります。この心情とは、できるだけ多くの遺産を相続したいという願望はもちろんのこと、亡くなった被相続人との思い出や思い入れによるものもあるでしょう。
たとえば、被相続人と長年同居していた人が被相続人との思い出が詰まった家を相続したい、あるいは被相続人の事業を継ぐ決意をした人が土地や建物などの事業基盤を相続したいと主張することもあるでしょう。このような遺産に対する思い入れに基づく主張と経済的価値に基づく主張がぶつかりあうことにより、遺産をめぐってますますもめることになるのです。
同じ順位の相続人であっても、被相続人に対する立場の違いによってもめることがあります。それがもっとも顕著に出やすいのが、特別受益(同第903条)と寄与分(民法第904条の2)に関する紛争です。
生前に被相続人から学費や結婚費用、あるいは自宅購入費や事業資金、生計の資本として多額の財産贈与や援助を受けていた場合、これを特別受益といいます。特別受益は実質的に遺産の前受け分であり、特別受益がある相続人はその分だけ遺産分割により相続できる遺産の額が少なくなるとされています。
しかし、何が特別受益に相当するのか、特別受益はどの程度なのかという客観的な判断基準を示すことは難しいものです。このため、特別受益をめぐってもめることは多いようです。
続いて、寄与分です。
寄与分とは、相続人のうち、被相続人の介護をするなど相続財産の増加や維持に特別に貢献したと認められる人には、その人の相続分を多くするという制度です。たとえば、被相続人の法定相続人が子どもたち(兄弟)で、長男家族が被相続人と同居し介護に尽くしていた場合、長男には寄与分が認められる可能性があります。
ただし、特別受益と同様に何が寄与分に該当するかという判断は難しいものがあるため、これをめぐりもめることは多いのです。
また、寄与分が認められるのは基本的に法定相続人だけです。先の例で長男の配偶者が実際に被相続人の介護をしていたとしても、その配偶者自身には寄与分が認められません。もっとも、長男の配偶者に特別寄与料(民法1050条)の請求が可能な場合はあります。このような現実と制度のギャップが、心情面でもめる遠因になることもあるようです。
このように、特別受益や寄与分は、同じ相続人であっても被相続人に対する立場の違いによって生じます。この2つをめぐりもめることになった場合は、お互いの立場に立って考えることが解決に向けた最良の方法といえるでしょう。
遺産分割をめぐり、家族や親族ともめるとなってしまった場合は、弁護士に相談することがおすすめです。あなたの依頼に基づき、弁護士はトラブルの解決に向けて以下のような活動を行います。
遺産分割協議を行うためには、まず遺産の全体像を調査して明らかにする必要があります。
ただし、遺産の調査は非常に手間と時間がかかります。なぜなら、遺産を調査するための資料や方法は遺産の種類ごとに異なるのです。また、金融機関や役所は平日しか開いていないため、平日の日中に働いている人には大きな負担です。
この点、弁護士であればあなたの代理人として遺産の調査を依頼することができます。
前述の通り、遺産相続において、被相続人との特別思い出のある家や品などを相続したいと思うのは当然のことです。しかし、あなたの遺産分割割合に関する主張が法的にも常識的にも道理が通らないものであれば、審判や裁判にならないかぎりトラブルは解決しません。
弁護士であれば、無用なトラブルの長期化を避けるために、あなたの心情を十分にくみ取ったうえで最適な遺産分割に関するご提案をします。
遺産分割協議は、お互いに感情的になってしまうことも珍しくありません。それがトラブルの長期化の原因になることも多いのです。
もしそのようなことになった場合、弁護士はあなたの代理人として他の相続人と冷静に話し合い、遺産分割協議がまとまるように取り計らいます。当事者同士だと感情的になってしまう場合でも、第三者があいだに入るだけで冷静に話し合えることも少なくありません。
遺産分割協議がまとまったとしても、それがあなたの名義に変わるまで安心はできません。弁護士は、約束をした相手がその約束を果たさなかった場合に備えて、どのような手続きが予想されるかを含めて、交渉にあたり、書面作成をします。
万が一、他の相続人が約束を果たさなかった場合には、適切な対処を行います。
相続はトラブルがつき物です。遺産が多いか少ないかに関係なく、このような悲しいことは誰にでも生じ得ることなのです。
もし遺産をめぐりもめることになってしまった場合は、お早めに弁護士へご相談ください。ベリーベスト法律事務所では、相続全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。