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遺産はすべて長男が独り占め。そんな主張は通用するのか? 相続問題を弁護士が解説

2019年06月05日
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遺産はすべて長男が独り占め。そんな主張は通用するのか? 相続問題を弁護士が解説

父親が亡くなると「母の面倒は僕が全部みるから」などと言い出して、実家の不動産や現金・預金などのすべての遺産を長男が独り占めにしようとするケースがあります。このように特定の相続人が遺産を独占する主張は法的に通用するのでしょうか?
今回は、長男がすべての遺産を独り占めしようとするとき、将来的に想定されるリスクや注意点、対処方法などを弁護士が解説します。

1、長男がすべての遺産を相続できる?

そもそも、長男がすべての遺産を相続し、独り占めにすることなど許されるのでしょうか?

  1. (1)現在では「家督制度」は廃止されている

    戦前の民法では「家督相続」といって、長男が「すべての遺産を相続する」という、いわゆる独り占めを公然と認めるような制度が存在しました。 しかし、このように特定の相続人が遺産を独り占めする制度は近代民主国家の思想に適さないということで戦後に改正され、現行民法において家督制度は廃止されています。
    今の民法では、法律上「法定相続人」と認められる人が遺産を相続する「法定相続制度」が適用されます。この法定相続制度では、被相続人の配偶者や子ども、孫、親や祖父母などの親族が、それぞれ法律上指定された順位で、原則として法律上決められた割合で相続することになっています。そのため、原則として、長男が遺産を独り占めするのではなく、長男と同じく被相続人の子どもである次男も長女も次女も長男と同じ割合で相続することになります。

    法定相続において、例外的に、長男がすべての遺産を独り占めして相続できるのは以下のようなケースに限られます。

  2. (2)遺言によって「長男にすべての遺産を相続させる」と指定されている

    父が遺言書を残しており、その中で「長男にすべての遺産を相続させる(すべての遺産を遺贈する)」と書かれていた場合には、長男が遺産を全部独り占めして相続できます。ただし、他の相続人には「遺留分」に関する権利が認められるので、他の相続人の「遺留分」を侵害して、長男が遺産を独り占めすることはできません。遺留分を侵害された他の相続人は長男に対し、遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)を行使できます。なお、他の相続人より遺留分減殺請求権を行使された長男は、遺留分侵害額に相当する財産を請求者に返還する必要があります。

  3. (3)遺産分割協議ですべての法定相続人が長男一人による相続に同意した

    相続人同士で遺産分割協議を行う際、相続人全員が合意すれば分割割合は自由に決められます。そこで他の相続人が全員「遺産は長男がすべて相続すること」に合意した場合には、その内容は有効となり、長男が遺産を独り占めして相続できます。一人でも反対者がいたら、長男による独り占めの相続はできません。

2、「母の面倒を見るから」と長男がすべて相続したとき、考えられるトラブルとは?

  1. (1)遺産を独り占めしたい長男は「母の面倒を見る」と言ってくるケースが多い

    父が亡くなって母が残されると、長男が他の兄弟姉妹に対し「母の面倒は僕たち夫婦がみるから、父の遺産は自分がすべて相続し、母の財産も管理する」などと言うことがよくあります。たしかに、高齢の母には介護が必要になることがあり、介護による肉体的経済的な負担は大きいことが予想されるため、父の遺産や母の財産をすべて預かりたいという長男夫婦の言い分にも一理あるようにも思えます。

    このようなとき「母の面倒を見る」という長男夫婦の言葉を信じて、長男夫婦に父の遺産を独り占めさせ、母の財産管理を任せることに問題はないのでしょうか?

  2. (2)母の財産を使い込むおそれ

    長男による独り占めを認めると、長男が預かった母親の財産を長男一家のために使い込むおそれがあります。預貯金だけではなく、母名義の実家を勝手に抵当に入れて借金したり、実家を勝手に売却したりする事例もありますし、新たな借入に際して母の実印を使って母を勝手に連帯保証人にする可能性もあります。当然、母の財産を無断で長男が処分をすることは許されるものではありません。

    母のために父の遺産や母の財産が使われないのであれば、何のために長男に父の遺産や母の財産を託したのかわかりません。

  3. (3)財産管理がずさんで散逸するおそれ

    長男が母の財産を使い込まなかったとしても、長男がお金にルーズであれば、適切に母の財産の管理が行われず、いつのまにか財産が散逸してしまうこともよくあります。

  4. (4)母の面倒を途中でみなくなるおそれ

    長男夫婦が「母親の面倒をみる」と言っても、最後まで面倒を見続けてくれるとは限りません。途中でしんどくなって放棄する人もいます。そうなると、長男夫婦に父の遺産や母の財産を託したにもかかわらず、結局、他の相続人が介護による負担を負うことになります。

  5. (5)他の兄弟に負担を求めてくるおそれ

    長男が遺産を独り占めしたにもかかわらず、長男は「父の遺産や母の年金だけではお金が足りなくなった」などと言い出して、他の兄弟姉妹に金銭的な負担を求めてくるケースもあります。また「お金は出すが、実際に介護施設に行ったり必要なものを持っていったりするのは無理だから、そういったことはそちらでやってほしい」などと他の相続人に労力的な負担を求められるケースもあります。

  6. (6)財産内容を開示してもらえない

    長男が母親の財産を独り占めした場合、他の兄弟姉妹が長男に対し「現在の収支状況や残高がどうなっているのか?」と尋ねても、財産の管理情報について開示してもらえないケースが多々あります。そうなると、他の兄弟姉妹としては長男を疑わざるを得ず、お互いに不信感が高まって対立関係が深まっていきます。

    以上のように、父の相続が発生したときに「母の面倒を見るから自分がすべてを相続したい」という長男の言葉を信用して父の遺産の独り占めを認めると後にさまざまなトラブル要因となるので、おすすめできません。

3、まずは知っておきたい相続分と、遺産分割の流れや注意点

長男が「父の遺産は全部長男である自分が相続すべき」などと言って独り占めしようとしてきたとき、他の兄弟姉妹としては「相続に関する法制度」について正しい知識を持って反論する必要があります。

以下で現行民法が定める法定相続の方法と遺産分割の流れ、注意点をご説明します。

  1. (1)法定相続の基本的なルール

    法定相続制度において、法定相続人になるのは以下のような人です。

    • 配偶者は常に相続人
    • 子どもが第1順位の相続人、ただし子どもが被相続人より先に死亡していたら孫が相続する
    • 親が第2順位の相続人、ただし親が被相続人より先に亡くなっていたら祖父母が相続する
    • 兄弟姉妹が第3順位の相続人、ただし兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていたら、おい・めいが相続する


    それぞれの法定相続人の法定相続割合は以下の通りです。

    • 配偶者と子どもや孫が相続…2分の1ずつ
    • 配偶者と親や祖父母が相続…配偶者が3分の2、親(もしくは祖父母)が3分の1
    • 配偶者と兄弟姉妹やおい・めいが相続…配偶者が4分の3、兄弟姉妹(もしくはおい・めい)が4分の1
  2. (2)遺産分割の流れ

    ①相続人が全員参加して遺産分割協議を行う
    まずは法定相続人が全員参加して遺産分割について話し合いを行います。全員が合意した場合には「遺産分割協議書」を作成し、それに従って遺産を分割します。

    ②遺産分割調停を行う
    話し合いをしても合意できない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を行います。

    ③遺産分割審判で裁判官に遺産分割方法を決めてもらう
    調停で話し合いをしても合意できない場合、手続きは「審判」となり、裁判官が遺産分割の方法を決定します。

    ④遺言がある場合
    有効な遺言がある場合、遺言者の意思が優先されるので基本的に遺言内容に従って遺産相続手続を進めます。ただし、遺留分権利者が侵害者に遺留分を請求すると、遺留分割合に相当する財産については遺留分権利者に返さねばなりません。
    また遺留分請求権には「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年間」の時効が適用されるので、1年以内に内容証明郵便などで遺留分減殺請求書を送付し、遺留分請求の意思表示を行う必要があります。遺留分請求の相手方は共同相続人などの遺留分侵害者または遺言執行が未履行の場合の遺言執行者です。

  3. (3)遺産分割の注意点

    遺産分割をするとき、以下の点に注意しましょう。

    各遺産分割方法の特徴、メリット・デメリットを知る
    遺産相続の方法には、現物分割、代償分割、または換価分割があり、それぞれの方法には、メリットとデメリットがあります。長男の独り占め問題を解決できたとしても、どういった方法で遺産分割をするかを決めることができない場合には、やはりトラブルになります。それぞれの遺産分割方法を正しく知って対応しましょう。

    無理な主張をしない
    遺産分割協議において、寄与分や特別受益などが主張されるとトラブルに発展しやすくなります。 証明できる資料がないならば、むやみにこういった主張をしないことが遺産分割を円滑に進めるポイントです。

    審判では期待した結果にならないケースもある
    遺産分割調停がまとまらずに審判になると、いきなり実家の競売が命じられたりして相続人が誰も望まない結果になるケースも存在します。遺産分割の手続きは、できるだけ相続人たちが自分たちで話し合って解決することが望ましいと言えます。

4、話し合いに応じない長男への対処法と、弁護士へ依頼するメリット

遺産相続の際に長男が遺産を独り占めしようとしてきたとき、弁護士に依頼するとどのようなメリットがあるのかご説明します。

  1. (1)長男を説得できる

    「長男だから、すべての遺産を独り占めしたい」というのは今の法律では認められない主張です。法律の専門家である弁護士から長男に対し、そういった主張は通らないことを説明し、協議に応じるよう説得します。

  2. (2)遺産分割協議での交渉を任せられる

    遺産を独り占めしようとする長男を交えて遺産分割手続を進める際、弁護士を代理人にすればすべて任せられます。交渉も弁護士に任せていれば有利になりやすく安心感があります。

  3. (3)遺産分割協議書の作成や相続手続きを相談できる

    遺産分割協議が成立したら遺産分割協議書を作成しなければなりません。そういった書面作成や、その後の預金の払戻などの具体的な相続手続に関しても相談できます。

  4. (4)遺産分割調停や審判のサポート

    遺産を独り占めしようとする長男ともめて遺産分割調停や審判になった場合にも、弁護士に依頼して手続を有利に進められます。

  5. (5)遺留分の計算や請求手続きを任せられる

    遺言書によって遺産のすべて、もしくは、その多くが、長男に与えられた場合には、他の兄弟姉妹は遺留分を計算して、長男に相続財産の返還を請求できる可能性があります。
    遺留分計算をするときには、総体的遺留分と個別的遺留分などの専門的な概念についての正確な理解と、事案ごとの検討が必要となり、その計算等は複雑です。遺留分の返還方法について話し合いで解決できなければ、遺留分減殺調停(遺留分侵害額調停)をしなければなりません。
    弁護士に相談すると、適切に遺留分の計算をした上で、侵害者に財産の返還を請求することで、早期に財産を取り戻せる可能性があります。

    弁護士には早期に相談すればするほど相談者にとって有利になりやすいので、長男の遺産独り占め問題が発生したら、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。

5、まとめ

遺言がない限り、遺産分割は法定相続分に従って行うのが原則です。無理な主張をして遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合には、まずはその人の説得から始めなければなりません。対応に迷われたときには、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。

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