遺産相続コラム
相続したら「遺産分割」をしなければなりません。遺産分割とは、被相続人が死亡時に有していた財産に関して、個々の財産の権利者を確定させることです。
ただ、遺産分割では相続人間でトラブルも発生しやすいので注意が必要です。
このコラムでは、誰がどのような方法で遺産分割を行うのか、対象となる相続財産は何なのか、相続手続を進めるにあたってどういった点に注意しておけば良いのかなど、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産分割とは、相続人が、被相続人が死亡時に有していた相続財産の分け方を決める手続です。
人が亡くなり財産が残された場合、その人が遺言書を残していないとき、その遺産は配偶者や子、兄弟姉妹などの相続人に相続されます。そのときのために法律は、「相続割合(法定相続分)」を定めていますが、「誰がどの財産を相続するか」という具体的な方法までは指定していません。そこで、遺産分割により、相続人が自主的に、誰が、どの財産を、どのような割合で相続するか、という具体的分割方法について決定する必要があります。
遺産分割手続は、共同相続人、割合的包括受遺者及び相続分の譲受人が全員参加して行う必要があります。共同相続人とは、民法が定める法定相続人のうち、特定の場合において複数いることとなる相続人のことです。割合的包括受遺者とは、遺言によって、遺言者(被相続人)の財産の一部を、遺言で示された一定の割合に従って遺贈される者のことです。共同相続人、割合的包括受遺者及び相続分の譲受人がひとりでも欠けると遺産分割は無効となります。
以下では、原則的な共同相続人のみの遺産分割を前提として説明します。
遺産分割が必要となるのは、遺産が残されていて共同相続人が複数いる場合です。
以下のような場合には、遺産分割は不要です。
●遺産がない
遺産がなければ共同相続人らが分け合う必要がないので、遺産分割は不要です。
●相続人がいない、相続人がひとり
相続人が当初からいない場合、共同相続人全員が相続放棄した場合、相続人がひとりしかいない場合には、遺産分割する必要がありません。
●遺言によってすべての相続財産の帰属や処分方法が明らかになっている場合で、共同相続人がその内容について特段異議がないとき
遺言書が存在していても共同相続人全員の同意があれば、協議に基づいて遺言の内容とは異なる遺産の分割を行うことができますが、上記の場合には、遺言内容に従って遺産相続することとなります。相続人同士が話し合う遺産分割協議は不要です。
遺産分割の対象になるのは、以下のような相続財産です。
遺産分割を行うときには、以下の手順で進めましょう。
まずは遺言書がないか調べます。遺言書は法定相続に優先するので、共同相続人全員での遺言書の内容と異なる協議の結果に基づいて行う場合を除けば、遺言書があれば遺言内容に従って遺産相続を進めることになるからです。自宅や貸金庫などに遺言書が保管されていないか、また公証役場で遺言検索システムを利用して公正証書遺言がないか、調べましょう。
次に、被相続人の出生から死亡するまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本、改正原戸籍謄本を取得して、相続人調査を行いましょう。自分たちの知らない、被相続人の子ども(法定相続人)やその代襲相続人などが存在する可能性があります。
どのような相続財産があるか調べることも重要です。預貯金は金融機関に問い合わせて残高証明書を発行してもらい、株式や債券は証券会社又は発行会社に問い合わせを行い、不動産は市区町村役場で固定資産課税台帳(名寄せ帳)を開示してもらうなどして調べましょう。借金などの負債関係も調査しておく必要があります。
相続人と相続財産が明らかになったら、相続人が全員参加して遺産分割協議を行います。相続人の中に未成年者がいて、その親も共同相続人になっているケースでは、家庭裁判所に申立てをして特別代理人を選任しなければなりません。遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成しましょう。
共同相続人同士で意見が合わず遺産分割協議がまとまらないケースでは、家庭裁判所で遺産分割調停を行う必要があります。遺産分割調停では、調停委員が相続人の間に入って話を進めてくれるので、相続争いが起こっていても話し合いがまとまる可能性が高くなります。
調停でも相続人間の意見が合わずまとまらない場合には、遺産分割審判となって裁判官が遺産分割の方法を決定します。寄与分や特別受益などについても審判で判断してもらうことができます。
遺産分割そのものには期限はありませんが、相続税の申告納税には期限があるので注意が必要です。相続税は、相続開始後10ヶ月以内に申告納税する必要があります。それまでに遺産分割協議が間に合わない場合、とりあえず法定相続分に従って申告するしかなく、その場合には控除などが適用されず相続税が多額になってしまう可能性があります。できれば早めに遺産分割協議を行い、相続税申告時までにまとめてしまうのが得策です。
世間では、遺産分割をせずに放置してしまう方もいらっしゃいます。なぜ放置してしまうのか、その場合の問題や予想されるトラブルをみてみましょう。
●相続税が高額になる
まずは、相続税が高額になるリスクがあります。先にも説明しましたが、相続開始後10ヶ月以内に遺産分割協議ができていない場合、いったん法定相続割合に応じて相続税の申告をすることとなります。また配偶者控除や小規模宅地の特例、非上場株式相続の相続税猶予免除の特例などを適用できません。
3年以内に遺産分割ができる見込みがあれば、その旨の書類を提出しておくと配偶者控除や小規模宅地の特例は適用されますが、3年を経過するとそれも難しくなります。
●相続不動産を活用できない
遺産の中に不動産が含まれている場合には、遺産分割を成立させないと、土地建物がいつまでも相続人全員の共有状態になってしまいます。
共有状態では、不動産の賃貸や売却等について、他の共有者の同意が必要となるので、せっかくの不動産を活用することが非常に難しくなります。
結果として活用されずに放置され、経済的な損失が大きくなります。
●預貯金の払戻しができない可能性
遺産分割協議が成立しないと、金融機関が預貯金の払戻しに応じない可能性があります。多額の預貯金があってもいつまでも被相続人名義で預けられたままになっているのはもったいないことです。
●将来相続が起こり、さらに複雑になってしまう
遺産分割をせずに不動産を共有状態にしておき、そのうち一部の持分権者が亡くなってさらに相続が起こると、共有持分が細分化されて権利関係がさらに複雑になります。
このように相続が重ねて起こると共有持分が細かくなり、誰がどのくらいの持分を持っているのかがまったくわからなくなって活用どころではなくなります。
このように、遺産分割をせずに放置しているとさまざまな問題が発生するので、相続が発生したらすぐに相続人や相続財産などの調査を行い、遺産分割協議を始めましょう。
遺産分割協議が調ったら、必ず遺産分割協議書を作成する必要があります。遺産分割協議書がないと、不動産の相続登記(名義書換え)や預貯金の払戻し、株式の名義変更などの必要な遺産分割手続を一切できないからです。
相続人同士が単に口約束で「◌◌は〜〜のように分ける」と言って納得しただけでは何の相続手続もできないと考えてください。
「遺産分割協議書はどうやって作ったら良いの?」という方も多くいらっしゃいます。
遺産分割協議書は、自分でも作ることができます。次の項目でひな形(見本)をつけるので、これを参照して作成してみてください。
ただし適切な方法で作成しないと、法務局や金融機関で名義書換えなどの手続を受け付けてくれない可能性があるので、正しい知識を持って作成しましょう。わからないときや自信のないときには弁護士などの専門家に相談しておくと安心です。
遺産分割協議書を作成するときには、以下のような点に注意しましょう。
●相続財産の特定
まず相続財産を正確に特定する必要があります。これができていないと法務局や金融機関で相続手続に応じてもらうことができません。不動産は全部事項証明書の表題部を引写し、預貯金は通帳の見開き2ページ目の金融期間名、支店名、預金の種類、口座番号などを正確に書きましょう。
●相続人の特定
相続人の特定も重要です。「子どもたち」などではなく、「相続人の氏名と続柄」を正確に書く必要があります。
●実印で押印する
遺産分割協議書には、実印で押印する必要があります。法律上の決まりではありませんが、法務局や金融機関では実印で押印したものしか受け付けてもらえないことが多いです。印鑑登録証明書の添付も必要なので、一緒に取得して添付しておきましょう。印鑑登録していない相続人は先に役所で登録しておく必要があります。
●契印を忘れない
遺産分割協議書が2ページ以上にわたる場合、契印も忘れてはなりません。契印する時にも全員の実印で行う必要があります。
●署名押印は自筆
遺産分割協議書のタイトルや本文自身はパソコンでもかまいませんが、署名は必ず本人の自筆、押印は本人による押印にしてください。後日のトラブル防止のためです。
以上のように、遺産分割協議書は自分でも作成できますが、いろいろな注意点もあります。後日にトラブルを起こさず安全に遺産分割協議書を作成するには、専門家である弁護士へ依頼することもひとつの方法です。
相続が起こったら、相続権を持った相続人同士で遺産分割協議を行い、遺産分割の方法を決める必要があります。税務申告のことを考えても、早めに遺産分割協議を成立させるのが良いでしょう。
ベリーベストグループには弁護士をはじめ、税理士や司法書士も在籍しているので、遺産分割から相続税申告までワンストップで解決できます。遺産相続で対応に迷われましたら、お気軽にご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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