遺産相続コラム
近年、金融商品の多様化により、亡くなった方の遺産(相続財産)の中に投資信託が含まれていることもめずらしくありません。
投資信託協会が公表する「投資信託に関するアンケート調査報告書-2022年(令和4年)投資信託全般」によると、令和4年(2022年)に投資信託を現在保有している層は26.5%、過去に保有していた層は8.6%とのことです。
投資信託は内容が複雑な商品も多く、「投資信託を遺産相続することになったときの手続きはどうしたらよいのだろう」「遺産分割でどのように分配すればよいのかわからない」ということもあるでしょう。
金融商品に詳しくなく、被相続人(亡くなった方)が所有していた投資信託がどういうものなのか見当もつかないという方もいるはずです。
本コラムでは、投資信託とはどういうものなのか、投資信託の相続手続き、遺産分割での注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
投資信託とは、投資家から預かった資金を資産運用の専門家が株式や債券などに投資して運用し、その運用成果を投資額に応じて投資家に分配するという仕組みの金融商品です。運用により得られた収益は、投資額に応じて投資家へ分配されます。
投信信託の種類は多種多様で、投資対象を国内に限定するもの、世界に分散投資するもの、株式のみに投資するもの、債券のみに投資するもの、金融資産にバランスよく投資するものなどがあります。これらの投資方針はあらかじめ示されていますが、具体的な投資対象の選定や投資時期は専門家が判断します。
投資信託は、「販売する会社(証券会社、銀行など)」と「運用する会社(投資信託運用会社)」と「資産を保管する会社(信託銀行)」の3社がかかわっているのが特徴です。
契約型投資信託は、「クローズ型投資信託」と「オープン型投資信託」の二つがあり、日本においては、「オープン型投資信託」が主流となっています。クローズ型投資信託は、「単位型投資信託」や「ユニット型投資信託」とも呼ばれ、投資信託を購入できるのが設定前の募集期間だけに限られ、設定後は償還まで資金の途中追加ができない投資信託をいいます。オープン型投資信託は、「追加型投資信託」とも呼ばれ、運用開始後もいつでも追加購入できる投資信託のことをいいます。
投資信託の運用収益などの利益を受益者が受ける権利のことを「受益権」と言いますが、受益権には、「収益分配請求権」と「償還金請求権」があります。収益分配請求権は収益分配金を請求する権利です。収益分配金とは、決算日に投資家に分配される分配金のことです。償還金請求権は償還金について請求する権利です。償還金とは、信託投資の期間終了時に、信託財産の純資産額を保有口数(受益権口数)で割ったもので、保有口数に応じて支払われます。
このように、投信信託は、財産的価値があるので相続の対象になります。ただし、権利関係がやや複雑で、価額も変動するので、いつの時点の価額で評価するのか、また、どのような権利を相続するのかなど、他の金融商品に比べ難しいという問題があります。
預貯金であれば価額の変動はなく、預金残高を分配すれば済みます。株式の場合、価額変動はあるものの、上場株式であれば株価は明確なので、いつの時点で算定するかを決めるだけになります。
それらに対し、投資信託はその中身が株式だけでなく、債券などさまざまなものが組み合わされているので、価額算定が難しくなる傾向があります。投資信託では、一口あたりの価額を「基準価額」と言い、純資産総額を総口数で割って求めます。基準価額は、1日にひとつ価額が公表されます。ただし、上場している投資信託の場合、株価と同様、市場が開いている限りリアルタイムで価額は変動します。
遺産の中に「投資信託」が含まれている場合、他の財産と同様、相続手続きにのっとり処理していくことになります。
かつては、投資信託の受益権は可分債権なので、相続と同時に当然に分割され、遺産分割の対照にはならないという考え方もありました。しかし、平成26年2月25日の最高裁判所の判例で、投資信託の受益権は当然に分割されることはないという判断がなされたので、現在は、ほとんど問題なく、投資信託も遺産分割の手続きにより相続されることになります。
有効な遺言書がある場合には、遺言の内容に従い分割します。
たとえば、「○○ファンドについては、すべて長女Aに相続させる」と記載があれば、長女が単独で相続することになります。ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人がいる場合には遺留分(被相続人の財産の中で、取得が留保されている利益)が認められているので、令和元年7月1日以降に相続が発生し、遺留分を侵害された場合には、遺留分侵害額の支払を請求することができます。ですから、遺産が○○ファンドだけだった場合には、兄弟姉妹以外の他の相続人は、遺留分侵害額の支払を請求することができます。
有効な遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議で相続人全員の合意が得られた場合、「遺産分割協議書」を作成して全員で署名と押印をし、その内容に従い遺産分割することになります。遺産分割協議書を作成する際、投資信託の受益権を誰が相続するのか、あるいはどのような割合で相続するのかを明記します。
遺産分割の方法には、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割がありますが、投資信託には様々な商品があり、共有にしてしまうと解約手続きも煩瑣になるので、1商品を1相続人が取得し、過不足があれば代償金で調整するといった、代償分割を活用する方法が最もスムーズでしょう。
遺産分割協議で話がまとまらず、合意に至らなかった場合、遺産分割調停を行います。
遺産分割調停は相続人のうちのひとりもしくは何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てます。調停手続きでは、調停委員が当事者から事情を聞いたり、必要に応じて資料を提出してもらったりして、合理的と判断される解決案を提示したり、解決のために必要な助言を行ったりします。相続人全員の合意が得られれば、遺産分割調停が成立し、遺産分割は終了します。
調停で合意に至らなかった場合、審判手続きに移行することになります。
審判手続きでは、裁判官が遺産に属する物や権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して審判をします。
投資信託の相続手続きをするためには、どの金融機関で取引しているかを特定する必要があります。運用報告書や取引残高報告書が送付されている場合には、当該報告書が送られてきた金融機関で手続きをすることになります。
オンラインで投資信託を購入している場合、運用報告書や取引残高報告書は送付されない場合がほとんどです。被相続人が使用していたメールなどが確認できる場合には、その内容から金融機関を特定する必要があります。メールが確認できない場合には、投資信託の分配金や償還金などが預金に入金されていることも多いので、その預金の履歴から金融機関を特定するという方法もあります。
投資信託を行っていた金融機関が特定できたら連絡を行い、口座名義人について相続が発生したことを告げてください。金融機関は相続の連絡を受けると口座をロックしますが、これにより不正に引き出されることがなくなります。また、相続時の残高証明書も発行してもらえるので、その金額を元に相続手続きを進めることができます。
金融機関に対して、相続があったことを連絡すると必要書類を送付してくれますので、案内に従い記入し提出して、金融機関での相続手続きを行います。
一般的には、①被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、②相続人全員の戸籍謄本、③相続人全員の印鑑登録証明書、④遺言書、⑤遺産分割協議書などが必要になります。
遺言書または遺産分割協議書に従って換価分割する場合には、投資信託を解約し、各相続人の相続割合に応じて金銭を分配します。特定の相続人が単独で相続する場合には、相続人がその金融機関に口座を作り、被相続人の投資信託残高を移管させることが一般的です。
投資信託の手続き面で注意すべきは、遺産分割協議で合意した時点と投資信託の解約時点で、基準価額の変動により大きく価値が変わる可能性があるという点です。
たとえば、遺産分割協議の時点で投資信託に1,000万円の価値がある場合、その金額を前提に遺産分割協議で合意したのにも関わらず、解約時点でその価値が「500万円になっていた」あるいは「1,500万円になっていた」ということがあり得ます。遺産は遺産分割時点で評価するというのが原則で、その後の値下がり、値上がりは、その投資信託を取得した人の自己責任になります。投資信託を取得される場合には、この点をよく考えてください。この点にこだわるのであれば、相続人全員で協力して先に売却し、その金員を分けるなどの方法により分割するということも考慮したほうが良いでしょう。
投資信託は価額が変動するという性質上、税金にも注意が必要です。
被相続人の取得価額より相続時の時価が高くなっている場合、それを換価あるいは解約した場合、利益となった差額について20.315%の税金が発生します。また、ひとりが投資信託を相続し代償分割をした場合、その旨を遺産分割協議書に記載しておかないと贈与税が発生する場合があります。
相続税については投資信託の種類により多少異なりますが、換価するかどうかに関わらず、相続開始時の時価で評価されることが一般的です。相続開始後に価額が下がったとしても相続後の下落分は考慮されません。
相続財産に投資信託があるケースでは、引き継ぎをするための相続手続きでいくつか注意すべきことがあります。しかし、金融商品に詳しくない場合、「投資信託を相続しても扱いがわからない」と困ってしまうはずです。
特に、投資信託は変動があるので、遺産分割協議の時点とその後で価額が変わるという点で気を付けなければなりません。また、遺産分割協議書の作成方法や換価あるいは解約のタイミングも、課税を見据えると非常に難しいという問題があります。
投資信託の相続手続きを進めていくのに、適切に処理できる自信がないという場合には、弁護士や税理士に相談することがおすすめです。
ベリーベストグループには、弁護士だけでなく税理士も所属しており、法律の問題から税の相談までワンストップで対応することができます。相続関連の手続きや遺産の分割方法にお困りの方は、ベリーベストグループまでお気軽にご連絡ください。知見豊富な各士業が連携しながら、最適な解決案をご提案いたします。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
日頃から仲が良い兄弟姉妹であっても、遺産相続のようにお金が絡む問題になると、感情的になり対立してしまうことも少なくありません。
特に、被相続人(亡くなった方)が生命保険を契約していた場合は、受取人として指定されていた1人の相続人が保険金を受け取ることになります。
その際、生命保険金を独り占めして他の相続人に分配せず、その上でその他の相続財産も均等に分けるよう主張してきたときには、他の相続人としては到底納得できないでしょう。
このように、遺産相続においては親の生命保険金の扱いで兄弟姉妹のトラブルが起こってしまうケースがあるため、注意が必要です。
本コラムでは、生命保険と遺産相続の関係について、みなし相続財産や特別受益なども踏まえながら、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
亡くなった方(被相続人)が独身で、子どもや親兄弟がおらず法定相続人に該当する人がいない場合や、法定相続人がいても全員が相続放棄をするような場合は、相続財産(遺産)を管理する人がいないことになります。
相続人がいないことに伴う不都合があるときには、家庭裁判所に申し立てを行って、相続財産清算人(相続財産管理人)を選任してもらいましょう。
申し立てにあたっては、相続財産清算人(相続財産管理人)の選任方法や必要になる費用などについて、事前に知っておくべきポイントがあります。
本コラムでは、相続財産清算人(相続財産管理人)制度の概要や必要になるケース、選任申し立ての方法や流れ、費用について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
株式投資好きの父親や母親が亡くなった場合、多種多様な株式が遺産として残されている可能性があります。
東京証券取引所が令和6年(2024年)7月に発表した「2023年度株式分布状況調査の調査結果について」の資料によると、個人株主数は7445万人(前年度比462万人増)で10年連続で増加しており、株式投資を行う方が年々増えているようです。
相続財産に株式が含まれているときは、どのように相続手続きを進めていけばよいのか、よく分からないという方は少なくありません。
本コラムでは、上場株式の相続について、証券会社への問い合わせ方法をはじめ、株式評価額の評価方法や遺産分割の進め方などをベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。