遺産相続コラム
さまざまな事情から、婚姻関係にない(結婚していない)相手との間で子どもが生まれることがあるでしょう。
婚姻関係にない男女間に生まれた子どもは「婚外子(非嫡出子)」として扱われることになるため、「認知」という手続きを行わないままでいると、婚外子の父親が亡くなったときに遺産を相続させられない可能性があります。
婚外子に対しても父親の遺産を相続させたい場合には、生前にしっかりと準備をしておくことが大切です。
本コラムでは、婚外子の遺産相続における割合の考え方や相続税の計算方法、相続争いを避けるための対策方法について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
どのような子どもが婚外子(非嫡出子)といわれるのか、また、婚外子と父母との法律上の関係はどうなっているのかなど、以下で詳しく説明します。
婚外子とは、法律上の婚姻関係がない男女間に生まれた子どもを意味する言葉です。婚外子は、別称で「非嫡出子」と表現されることもあります。
他方、婚姻関係にある男女の間に生まれた子どものことを、婚内子(嫡出子)といいます。
このように、両親の婚姻関係の状況によって、子どもは必ず婚外子か婚内子のどちらかに区別されるのです。
婚内子とは異なり、婚外子と両親との法的関係に関しては、父と母で区別して考える必要があります。
① 婚外子と母との法的関係
婚外子と母との母子関係は、出産という事実から明らかです。そのため、出生届の提出によって、母と婚外子との間には法的な親子関係が生じます。
出生届以外の特別な手続きを行わずとも、婚内子と同様に、婚外子は母の遺産を受け取ることが可能です。
② 婚外子と父との法的関係
婚外子と父との父子関係は、出産という事実だけでは明らかではなく、その子どもの父が誰であるかが明確になりません。
そのため、原則として婚外子と父との間には、法律上の親子関係が生じないことになっています。つまり、出生後に何の手続きも行っていない状態のままでは、父が死亡したとしても婚外子は父の遺産の相続権がなく、遺産を受け取ることができません。
婚外子にも父の遺産の相続権を与えたい場合には、「認知」と呼ばれる手続きが必要になります。
父が婚外子を認知する方法には、以下の3つがあります。
① 任意認知
任意認知とは、父が生前、自らの意思により婚外子の認知を行う方法です。
本籍地の市区町村役場に認知届を提出することで、認知の手続きを行うことができます。
任意認知で認知される子が成年の場合、認知される子の承諾書が必要です。
② 遺言認知
遺言認知とは、遺言書を活用することで婚外子を認知する方法です。
生前に作成した自身の遺言書に婚外子を認知する旨を記載することで、死後、遺言執行者(遺言に記載した内容にもとづき、手続きを進める役割をもつ者)によって認知届が提出されます。何かしらの事情があり、生前にどうしても婚外子を認知することができないようなときには、遺言認知を行いましょう。
届け出は、遺言者の本籍地、子どもの本籍地、遺言執行者の住所地のいずれかの市区町村役場で行い、認知届出書に遺言書など必要書類を添付して提出します。
遺言認知で認知される子が成年の場合、認知される子の承諾書が必要です。
③ 強制認知(裁判認知)
強制認知とは、父が認知を拒否している場合において、強制的に婚外子を認知させる方法です。
強制認知を行う場合、まずは認知調停を申し立てなければいけないことになっており(調停前置主義)、調停が不成立となった場合には、認知の訴えを提起することになります。
認知調停の申し立ては、原則として子ども自身が行いますが、子どもが未成年の場合には母親が法定代理人として申し立てることになります。
親が死亡した場合に、婚外子はどのような割合で遺産を受け取ることになるのでしょうか。具体的な計算例とともに解説します。
認知により相続権をもつ婚外子は、婚内子と等しい割合で遺産を受け取ることが可能です。
かつて、婚外子が受け取れる遺産(法定相続分)は、婚内子の半分(2分の1)と定められている時代がありました。しかし、平成25年の最高裁判所の判例によって、婚外子と婚内子で相続分に差を設ける民法の規定は「違憲」と判断されました(最高裁判所平成25年9月4日大法廷判決)。
最高裁判所が違憲と判断した理由としては、主に以下の3点が挙げられます。
最高裁判所は、このような認識の移り変わりに伴い、父母の婚姻関係の有無という、子どもにとって選択・修正する余地のない事柄を理由に、その子どもに不利益を及ぼすことは許されないとしました。
最高裁判所のこの違憲判決から、婚外子の相続分に関して、「婚内子の相続分の半分(2分の1)に制限する」という規定の部分が削除され、婚外子と婚内子に定められる相続の割合は等しくなりました。
婚外子・婚内子の法定相続分を等しくする改正民法が適用されるのは、平成25年9月5日以降に開始した相続が対象です。
ただし、上記の最高裁判所の判決において、婚外子・婚内子の法定相続分を区別する規定は、遅くとも平成13年7月の時点で違憲の判断がなされたことから、遺産分割が未了の事案については、平成13年7月以降に発生した相続も、婚外子・婚内子の相続分は同割合で差分なく計算します。
父が死亡して、父の遺産1000万円を配偶者、婚内子、婚外子の3人で分ける場合を例に、相続分について見ていきましょう。
まず、法定相続分は民法で以下のように定められており、通常、その割合に沿って遺産分割を行います。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者が2分の1、子どもが2分の1 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1 |
前述のとおり、父に認知された婚外子には相続権が認められるため、父の遺産の相続人になることができます。上記ケースでの婚外子の法定相続分は、婚内子の割合と差分なく計算するため、各人の具体的な相続分は以下のようになります。
※カッコ内は法定相続分
一方、認知を受けていない婚外子は相続権がないことから、父の遺産は配偶者と婚内子の2人で、以下のように分けることになります。
※カッコ内は法定相続分
このように、婚外子が父の認知を受けているかどうかによって、婚内子の相続分も変わってくるため、婚内子との間でトラブルが生じるケースがあるということに留意してください。
相続が発生した場合には、相続財産の総額に応じた相続税を負担する必要があります。
もっとも、相続税には基礎控除額があるため、相続財産の総額が基礎控除を下回る場合には、相続税の申告は不要となり、相続税の負担もありません。
相続税の基礎控除額については、以下のように計算します。
このように、相続税の基礎控除額については、法定相続人の数に応じて変わってきます。婚外子を認知しているときには、法定相続人の数に含むことを念頭に置いておきましょう。
また、相続税の基礎控除額の計算以外にも、認知された婚外子が計算の人数として含まれるものは、以下のような項目が挙げられます。
相続人に対する相続税の負担を少しでも抑えたい場合には、婚外子を認知するという方法も相続税対策として有効な手段といえるでしょう。
婚外子への相続を考えている方は、相続人同士の争いを避けるためにも、生前にしっかりと対策を講じておくことが必要です。
実際に遺産分割の手続きを進める際には、まずは亡くなった方(被相続人)の戸籍謄本(出生から死亡までの全ての戸籍)などを集めて、相続人の範囲を確定させる工程があります。そのため、たとえ被相続人が認知した婚外子の存在を生前のうちに家族に明かしていなかったとしても、取得した戸籍の記載から婚外子の存在が明らかになります。
先に述べているように、認知された婚外子がいる場合は婚内子の相続分が減ってしまうことになるため、婚外子に対して相続放棄をせまるなど、遺産分割をめぐるトラブルが生じやすくなります。
認知されている婚外子の存在は、遺産相続の手続きを進めるなかで必ず明らかになります。もし婚外子にも遺産を相続させようと考えている場合には、遺される家族のためにも、あらかじめ「認知した婚外子がいる」ということを伝えておいた方がよいでしょう。
その際に、相続財産の分け方についての話し合いを進めておくこともおすすめです。
婚外子と他の相続人との間のトラブルを避けるためのもっとも基本的な方法としては、生前の遺言書作成があります。
遺言書の作成が必要不可欠な理由としては、主に以下の2つが挙げられます。
被相続人に「婚外子に相続をさせたい」という意向があったとしても、生前に認知をしておらず、遺言書での認知も行わなかった場合、婚外子には法定相続人としての相続権を与えることができません。単に認知をしないまま遺言で遺産を相続させることは可能です。
また、被相続人が生前に婚外子を認知している場合でも、遺言書がなければ、相続人全員による遺産分割協議を行うことになります。それまで他の相続人とまったく交流のなかった婚外子が遺産分割協議に参加し、肩身の狭い思いをすることにもなりかねません。それに加え、相続人同士で対立が生じてしまえば、遺産分割が長期化することもあります。
なお、被相続人が生前に婚外子の認知をせず、遺言認知もしていなかったとき、婚外子自身が「強制認知」を求める場合もあります。強制認知はDNA鑑定の結果などをもとに認知を求める手続きのため、たとえ父親の死後であっても、子どもとの血縁関係が認められれば、強制認知されます。すると、認知された婚外子は相続権を得るため、遺産分割を求める権利を有することになり、婚内子や親族との遺産分割争いが起きるとも考えられるでしょう。
このようなトラブルを避けるためにも、あらかじめ家族に婚外子の存在を打ち明ける、遺言認知を行う、などの対応を取っておく方がよいでしょう。
生前に遺言書を作成しておけば、認知したい婚外子に対する遺言認知が実行されます。さらに、遺産分割協議が行われることなく、遺言書の内容に従って遺産分けを進めてもらうことが可能です。そうすれば、相続人同士で遺産をめぐって争うという事態を回避することができます。
ただし、遺言書を作成する場合は、法的に有効なものにするというのはもちろんのこと、他の相続人の遺留分(相続人に保障されている最低限の相続分)にも配慮した内容としなければなりません。
他の相続人の遺留分を侵害する遺言書であっても法律上有効ですが、侵害している相続人に対する遺留分侵害額請求が行われるなどのトラブルが生じる可能性があります。
形式面と内容面で不備のない遺言書を作成するには、専門家である弁護士のサポートが必要不可欠といえるでしょう。
相続でのトラブルを避けるためにも、遺言書の作成をお考えの方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
参考:遺言とは
婚姻関係にない女性との間に子どもがいる男性は、認知という手続きをすることによって、婚外子にも遺産を相続させることが可能です。
ただし、認知をしただけでは、婚外子と婚内子との間で遺産をめぐるトラブルが生じる可能性があることに留意しなければなりません。相続争いに発展させないよう、トラブルを回避するための対策を講じておくことも必要です。
遺産相続に関してお悩みがある方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。スムーズな相続手続きの実現に向けて、経験豊富な弁護士が親身にサポートを行っていきます。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺産相続が始まったとき、相続人同士による相続争いが起きないようにするためには、生前に相続対策を講じておくことが重要です。
さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
本コラムでは、生前にできる遺留分対策や弁護士相談の有効性などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。