遺産相続コラム
最近では生涯独身の方も決して珍しくありません。そのような独身の方が亡くなると相続人不存在(相続人がいない)という状態が発生する可能性があります。
そのような場合、遺産相続はどういう取り扱いがなされるのでしょうか。今回は相続人がいない場合の相続手続きの進め方について解説します。
そもそも「相続人不存在」「相続人がいない」とはどういった状況なのでしょうか?
相続人不存在とは、「法定相続人に該当する者がいない」ことをいいます。法定相続人とは「民法が定める相続人」です。
相続人不存在となるケースには主に以下の2つのパターンが考えられます。
相続人不存在の場合、相続人を探す手続きや特別縁故者に対する相続財産の分与を行った後に、最終的に残った残余財産は国庫に入ります(民法959条)。
相続人不存在となるのは「法定相続人」がいない場合です。それでは法律上、誰が法定相続人になるのでしょうか?
法定相続人となるのは、被相続人(亡くなった方)と以下の関係にある者です。
亡くなった方に上記のような法定相続人がいれば相続人不存在にはなりません。
一方、いとこや叔父叔母、おいめいの子どもなどは法定相続人ではないので、これらの親族がいても相続人不存在となる可能性があります。
相続人不存在になるのは、戸籍上の法定相続人がいないケースと相続人が全員相続放棄したケースです。単に「相続人が行方不明」「相続人が生死不明」なだけでは相続人不存在にはなりません。
ただし、相続人が長期にわたって行方不明となり「失踪宣告」が行われると、死亡したものとみなされるので相続人不存在になる可能性があります。
相続人不存在のケースでは、亡くなった方の遺産は最終的に「国庫に入る」と規定されています。しかし、死亡と同時に財産が国のものになるわけではありません。以下のような手続き踏む必要があります。
相続人不存在のケースでは、まずは家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任します。
選任の申し立てができるのは利害関係人又は検察官です。利害関係人は、被相続人の債権者や受遺者、被相続人の内縁の配偶者、被相続人を献身的に介護していた人などです。
申し立ての際には以下のような書類が必要です。
※これら以外の人(被相続人の子で死亡した者等)の戸籍謄本が必要になるケースもあります。
かかる費用は以下の通りです。
遺産額が少ない場合、相続財産管理人の報酬に充てるため、予納金が必要となるケースもあります。
相続財産管理人が選任されると、相続人に申し出を促すため「官報」によって公告されます。
2か月が経過しても相続人の申し出がない場合、相続財産管理人はさらに2か月の期間を定めて債権者と受遺者を確認する公告を行います。そうして確定した債権者や受遺者に対して支払いや遺贈の手続きを進めていきます。
次に相続財産管理人は、6か月以上の期間を定めて相続人を捜索する官報公告を行います。期間を過ぎても相続人が現れない場合には相続人の不存在が確定します。
債権者や受遺者に支払いや遺贈を終えても財産が残っていて相続人がいない場合、「特別縁故者」へ財産分与ができます。特別縁故者とは、被相続人と特別に緊密な関係にあった人です。
特別縁故者として認められるのは、以下の者です。
特別縁故者が財産を受け取るには、相続人不存在が確定してから3か月以内に「特別縁故者への財産分与の申立て」をしなければなりません。
家庭裁判所は相続財産管理人の意見を聞き、特別縁故者と被相続人との関係性や遺産の内容などを考慮して特別縁故者に財産を分与するかどうか、分与するならどの程度与えるかを決定します。
特別縁故者への財産分与の申し立てがない場合や特別縁故者からの財産分与の申し立てが認められなかった場合、残余財産は相続財産管理人が国庫に帰属させます。
その後相続財産管理人が家庭裁判所へ手続きに関する報告書を提出し、手続きが終了します。
なお、被相続人が不動産を共有していた場合、特別縁故者がいないことが確定した段階で被相続人の共有持ち分は他の共有者へ帰属します。
相続人不存在のケースで相続財産管理人を選任して最終的に国庫に帰属させるなどして手続きが終わるまでの期間は、最低でも13か月となります。事案によってはさらに長引くこともあります。
相続人不存在のケースで相続手続きを進めるときには、以下のような点に注意が必要です。
● 関係者は財産を勝手に処分してはならない
被相続人が天涯孤独で相続人不存在のケースでは、被相続人のお世話をしていた方(いとこなど)が勝手に遺産を処分してはなりません。必ず家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。
● 特別縁故者が遺産をもらうには相続財産管理人の選任が必要
一般に「内縁の妻」などは遺産を処分しても良いのではないかと考えられそうですが、無断で遺産を処分することは許されません。内縁の妻は法定相続人ではありませんので、特別縁故者として財産を受け取るため、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し立てをする必要があります。
● 相続財産管理人には報酬が発生する
相続財産管理人に対して報酬を支払う必要があります。遺産の中から支払えない場合、申立人が数十万円もの金額を予納金として立て替え払いしなければならない可能性もあります。
● 債権者・受遺者への支払いが行われると、特別縁故者は遺産をもらえない場合がある
相続人不存在のケースでは、内縁の妻などの特別縁故者より先に債権者や受遺者への支払いが行われます。この時点で遺産がなくなると、特別縁故者は遺産を受け取れません。
相続人不存在のケースで「不動産」が残された場合、内縁の配偶者や介護していた親族が特別縁故者として不動産を引き継ぐ可能性があります。その場合、不動産の登記(名義変更)をしなければなりません。
名義変更をするときには、不動産を管轄する法務局に登記申請をします。
必要書類は以下の通りです。
また、登録免許税の金額は、固定資産税評価額の2%です。
生涯独身で相続人がいない方の場合、死亡すると相続財産管理人による長期の手続きが必要になり、残された方に大変な手間がかかります。また相続財産管理人に報酬を払わなければならないので、遺産が目減りしてしまう問題もあります。このようなリスクを避けるため、生前に遺言書を作成しておきましょう。
遺言書を書いておくべきケースは、以下の通りです。
内縁の配偶者には法律上遺産の相続権がありません。内縁の配偶者に対し自宅や預貯金などの財産を残したいのであれば遺言書を書いておくべきです。
遺言書が無ければ内縁の配偶者が相続財産管理人の選任の申し立てや特別縁故者への財産分与の申し立てなどをしなければなりません。手続きをしなければ内縁の配偶者は一切の遺産を受け取れなくなります。
事業経営者の場合、後継者に事業を引き継がせるため、事業用の個人資産を後継者に相続させる必要があります。後継者が法定相続人でないケースもあるでしょう。
遺言書を書けば事業用資産を後継者に確実に受け継がせることが可能となります。
親族や親族以外の人から介護を受けたので、お返しに財産を残したいケースもあるでしょう。その場合にも遺言書によって遺贈することにより、確実に財産を渡すことができます。
経営している法人や特別な関係のある団体などに寄付したい場合にも、必ず遺言書を書いておきましょう。
遺言書がないと、希望通りに財産を受け継がせることは困難となります。
遺言書には自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3要式がありますが、もっとも確実性が高いのは公正証書遺言です。自筆証書遺言は遺言者が自宅で手軽に作成できますが無効になるリスクも高くなります。秘密証書遺言も発見されなかったり、無効となってしまったりするリスクがあります。
公正証書遺言は公証役場にて作成できます。方法がわからない場合、お気軽に弁護士までご相談ください。
相続人のいない方が遺言書を書かずに亡くなると、残された方は大変面倒な手続きを進めねばならず費用もかかります。できるだけ生前に遺言書を作成して相続の準備をしておくとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では遺言書作成を始めとした遺産相続のサポートに積極的に取り組んでいますので、相続問題でお悩みの場合はどうぞお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
遺産相続が始まったとき、相続人同士による相続争いが起きないようにするためには、生前に相続対策を講じておくことが重要です。
さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
本コラムでは、生前にできる遺留分対策や弁護士相談の有効性などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。