遺産相続コラム
亡くなった方(被相続人)の遺言が残されていた場合には、原則として、その遺言に従って遺産を分けることになります。
しかし、遺言の内容が「一部の相続人にすべての遺産を相続させる」といったものであった場合には、遺産を相続できない他の相続人から不満が出てくることが予想されるでしょう。このような遺言があったとき、他の相続人は一切遺産をもらえないのかというと、そうではありません。
相続人には、法律上保障された「遺留分」という最低限の遺産の取り分があります。そのため、遺言の内容に不満のある相続人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継、または相続分の指定を受けた相続人を含む)等に対して遺留分侵害額請求をすることが可能です。
今回は、遺言の内容に不満があったときの対応や遺留分と法定相続分の違いなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
法定相続分と遺留分は、いずれも「法定相続人」に認められる権利です。そのため、法定相続分と遺留分について理解するには、それぞれの概要に加えて、法定相続人の範囲についても知っておくことが必要です。
まずは法定相続人・法定相続分・遺留分について、基本的な事項を解説します。
法定相続人とは、被相続人の遺産を相続できると法で定められた相続人のことです。
民法が規定する法定相続人の範囲は、以下のとおりです。
参考:相続人の範囲
民法は、遺言がない場合に備えて、法定相続人が相続できる割合をあらかじめ定めています。これを「法定相続分」といいます(民法900条)。もっとも、実際の遺産分割協議等においては、この法定相続分とは異なる割合による遺産分割案が合意されることも多くあります。
具体的な法定相続分は、法定相続人が誰であるかによって異なってきますので、以下の表をご参考にしてください。
配偶者のみ | 配偶者にすべて |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者に2分の1、子どもに2分の1 |
配偶者と親 | 配偶者に3分の2、親(親が死亡、祖父母が生存なら祖父母)に3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1 |
子どものみ | 子どもにすべて(人数に応じて等分) |
親のみ | 親にすべて(人数に応じて等分) |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹にすべて(人数に応じて等分) |
被相続人は、生前同様、死後においても、遺言によって自己の財産を自由に処分できるというのが原則です。しかし、被相続人が遺言によって特定の個人に対して全遺産を与えてしまうと、他の相続人の生活が脅かされるなどの不都合が生じ得ます。
そこで、この遺産の自由な処分を制限して、一定範囲の相続人に対して最低限の財産を取得する権利を付与するのが、遺留分制度です。
たとえば、被相続人が遺言書で、相続人や相続人以外の特定の個人(以下、「受遺者」)に全遺産を相続させる旨の遺言書を残していたとしても、それによって、相続人の遺留分がなくなることはありません。
遺留分が認められる相続人の範囲と請求できる財産の割合については、民法1042条によって以下のように定められています。
上記のとおり、遺留分が認められている相続人は、「兄弟姉妹以外の相続人」です。
遺留分として保障されている相続割合は、父母などの直系尊属だけが相続人の場合には、「法定相続分×3分の1」、それ以外の者が相続人の場合には、「法定相続分×2分の1」となります。
法定相続分と遺留分の違いをまとめると、以下のとおりです。
法定相続分が問題となるのは、基本的には遺言書がない場合です。遺産分割協議において遺産の分け方を決める際に、法定相続分を基準とすると、公平な遺産分割を行うことができます。
これに対して、遺留分が問題となるのは、主に遺言書がある場合です。遺言書によって偏った相続分が指定された際に、冷遇された相続人と優遇された相続人との間の公平を図るため、遺留分による調整を行うことになります。
遺産分割をするにあたって、まずは、被相続人の財産をすべて調べた上で、相続財産の範囲を確定する必要があります。その際、どの財産が遺産分割の対象となるかが問題になる場合があります。
以下では、相続分の計算に算入される財産と遺留分の算定のために算入される財産の違いについて説明します。
相続人は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(民法896条)ことになります。そのため、相続財産には、被相続人に帰属した積極財産(プラスの財産)のみならず、借金などの消極財産(マイナスの財産)も含まれることになります。消極財産の方が多いような場合には、相続放棄を検討するとよいでしょう。
具体的には、以下のような財産が相続分の計算に含まれる代表的なものになります。
被相続人に属していた権利義務であっても、相続財産に含まれないものがあります。相続財産に含まれない財産としては、以下のようなものがあります。
他方で、遺留分を算定するための財産については、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする」(民法1043条1項)と定められています。これをわかりやすく説明すると、以下のような計算式になります。
「積極財産」と「消極財産」については、上記で説明した内容と同じになりますが、遺留分算定においては「贈与した財産」の扱いが通常の相続財産の算定と異なってきます。
相続財産の計算において、被相続人から相続人に対する贈与については、特別受益として加算されます。しかし、遺留分算定の際には、相続人に対する贈与だけでなく第三者に贈与した財産についても加算される、という点が異なりますので、注意が必要です。
ただし、第三者への贈与については、遺留分権利者に損害を与えると知って贈与したものを除き、相続開始前の1年にされた贈与だけが加算の対象になります(民法1044条1項)が、相続人に対する贈与は、相続開始前10年になされたものが対象になります(同条4項)。
ここからは、相続財産の総額が「4500万円」であると仮定して、実際に法定相続分と遺留分を計算してみましょう。
以下の4つのケースについて、法定相続分と遺留分の計算例を紹介します。
相続人が配偶者だけの場合、配偶者の法定相続分は、遺産全額にあたる「4500万円」です。
一方、配偶者の遺留分は、法定相続分の2分の1となります(民法第1042条第1項第2号)。したがって、配偶者の遺留分は「2250万円」です。
相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合、遺産総額に対する法定相続割合は、配偶者が2分の1、子どもが4分の1ずつです(民法第900条第1号、第4号)。
したがって、配偶者の法定相続分は「2250万円」、子どもの法定相続分は「1125万円」ずつとなります。
一方、配偶者と子どもの遺留分は、それぞれ法定相続分の2分の1です(民法第1042条第1項第2号)。
よって、配偶者の遺留分は「1125万円」、子どもの遺留分は「562万5000円」ずつとなります。
相続人が配偶者と父母の計3人の場合、遺産総額に対する法定相続割合は、配偶者が3分の2、父母が6分の1ずつです(民法第900条第2号、第4号)
したがって、配偶者の法定相続分は「3000万円」、父母の法定相続分は「750万円」ずつとなります。
一方、配偶者と父母の遺留分は、それぞれ法定相続分の2分の1です(民法第1042条第1項第2号)。
よって、配偶者の遺留分は「1500万円」、父母の遺留分は「375万円」ずつとなります。
相続人が配偶者と兄・妹の計3人の場合、遺産総額に対する法定相続割合は、配偶者が4分の3、兄・妹が8分の1ずつです(民法第900条第3号、第4号)
したがって、配偶者の法定相続分は「3375万円」、兄・妹の法定相続分は「562万5000円」ずつとなります。
遺留分は、配偶者については認められた権利です。配偶者の遺留分は、法定相続分の2分の1となるため(民法第1042条第1項第2号)、配偶者の遺留分は「1687万5000円」となります。
これに対して、兄・妹には遺留分が認められません。よって、兄・妹の遺留分はいずれも「0円」です。
遺産相続に関しては、時効についても注意しなければならないことがあります。
遺産分割請求権自体には、時効はありません。何十年も前に相続が発生したものの、そのまま放置してしまっていたという場合であっても、遺産分割を他の相続人に対して請求する権利がなくなることはありません。
ただし、相続を放棄しようとするのであれば、原則として、相続が始まったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の手続きをする必要があります。そのため、相続放棄をする可能性がある方は、まずは、この3か月の期限を意識して行動するようにしましょう。
ご自身が実際に取得した遺産の金額が遺留分を下回っている場合、「遺留分が侵害された」状態にあります。
たとえば、相続財産の総額が4500万円、相続人が配偶者だけのケースでは、配偶者の遺留分は2250万円です。
仮に被相続人が、懇意にしていた友人に3000万円を遺贈し、残りの1500万円だけを配偶者に相続させる旨の遺言を残していたとします。この場合、配偶者が取得できる遺産額は遺留分を「750万円」下回っているため、750万円分の遺留分侵害が発生している状態です。
ご自身の遺留分が侵害されていることが判明したら、「遺留分侵害額請求」(民法第1046条第1項)を行うことをご検討ください。遺産を多く取得した者に対して遺留分侵害額請求を行うことで、遺留分に不足する額につき、金銭の支払いを受けることができます。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する遺贈・贈与を知ったときから1年で消滅時効が完成します。
時効完成後は遺留分侵害額請求権ができなくなってしまうので、それまでに内容証明郵便の送付や訴訟の提起などにより、時効の完成を阻止しなければなりません。そのため、遺留分侵害が判明した場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
相続問題でお困りのときは、ひとりで悩むのではなく経験豊富な弁護士に相談することがおすすめです。
相続が発生したときには、遺産分割をする前提として、相続財産調査を行う必要があります。
相続財産に漏れがあったときには、再度遺産分割協議を行わなければならないこともあるため、正確に被相続人の財産を調べることが重要です。特に、被相続人に負債があるときには、相続放棄するかどうかを判断するためにも、早期に調査を行わなければなりません。
相続人であったとしても、被相続人がどのような財産を有していたかについて正確に把握をしていないこともあるでしょう。そのため、可能性のある機関に対して広く照会をかけていく必要があります。弁護士であれば、弁護士会照会などの専門的な照会手続きを利用することによって、広く相続財産の調査を行うことが可能です。
相続財産調査に慣れていない方だと、調査が完了するまでに相当時間がかかります。相続財産調査は、経験のある弁護士に任せるのが安心です。
遺産分割や遺留分の問題は、相続人同士でもめることが多い事項です。当事者同士での話し合いでは、法律上の問題ではなく、お互いの感情的な問題が前面に出てきてしまうので、冷静に話し合って解決することが難しいといえるでしょう。
弁護士であれば、依頼者の代理人として冷静な立場に立って交渉を進めることができるため、感情的な理由で話し合いが困難になるような事態を回避することが可能です。また、法律上の根拠に基づき依頼者の言い分を構成することによって、説得力を持って交渉を進められます。
仮に、遺産分割調停や審判、遺留分侵害額請求の調停や訴訟に発展したとしても、弁護士であればその対応を任せることができる点も安心です。
法律上の争点が多く含まれる相続問題をひとりで解決することは困難ですので、なるべく早めに弁護士へご相談ください。
今回は、法定相続分と遺留分について解説してきました。親族と遺産分割や遺留分などでもめている場合、それを自力で解決するのは至難の業といえます。早めに弁護士への依頼をし、適正な相続分を求めていきましょう。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関する多くの相談実績と知識を有する弁護士が、相続問題に悩む方のサポートをいたします。おひとりで悩むのではなく、なるべく早めに弁護士に相談し、解決のための道筋をつけていくことが大切です。遺産相続のことでお困りごとがある際は、お気軽にお問い合わせください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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