遺産相続コラム
親族関係が込み入っていて、親族同士が疎遠なケースでは、いざ相続が発生した場合に、一部の相続人が行方不明になっていることがあります。
相続人が行方不明のままでは、遺産分割協議を進めることができないので、早急に対処が必要です。
この記事では、相続人が行方不明な場合の対処方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
共同相続人のうち、1人でも行方不明・生死不明の場合には、残りの相続人だけでそのままでは遺産分割協議を進めることはできません。
遺産分割協議は、相続人(および包括受遺者)全員で行うことが必要です。
仮に行方不明の相続人を無視して、他の相続人だけで遺産分割協議書を作成しても、その遺産分割は無効になってしまいます。
そのため、行方不明の相続人がいる場合には、その相続人を探し出すか、他の何らかの方法により遺産分割協議を始められる状況を整えなければなりません。
相続人の一部が行方不明の場合、相続税の申告期限との関係で、早めの対処が必要になります。
相続税申告は、原則として、相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
できる限り10か月の相続税の申告期限に間に合うように、行方不明の相続人に関する対応を早急に完了して、遺産分割協議を開始しましょう。
相続人が行方不明な場合の対処方法は、おおむね以下のとおりです。
行方不明の相続人の現住所は、「戸籍の附票」を確認すればわかります。
戸籍の附票には、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住民票の移り変わりが記録されているので、記載内容を確認して、行方不明の相続人に連絡を取ってみましょう。
戸籍の附票は、本人の本籍地の市町村役場において、同一戸籍または直系親族の人が請求できます。
行方不明の相続人と連絡が取れない場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります。
不在者財産管理人とは、「従来の住所または居所を去った者」について、その者の財産を管理する権限を持つ人をいいます(民法第25条第1項)。
他の相続人は利害関係人として、行方不明の相続人について、不在者財産管理人の選任申立てを行うことができます。
ただし、不在者財産管理人は、あくまでも不在者の財産を管理する権限しか持ちません。
そのため、不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させようとする場合は、家庭裁判所の許可を得ることが必要です(民法第28条)。
行方不明の共同相続人の生死が7年間以上明らかでない場合は(普通失踪は7年間、危難失踪は1年間)、失踪宣告の申立てを行うという選択肢もあります。
失踪宣告とは、普通失踪の場合7年間の生死不明期間が経過した時点、危難失踪の場合にはその危難が去った時で、失踪の宣告を受けた者を死亡したものとみなす制度です(民法第30条第1項、第31条)。
行方不明の共同相続人について、失踪宣告が行われた場合、その者は死亡したものとみなされ、失踪宣告のなされた不在者については相続が開始することになります。
この場合、失踪者は死亡した者とみなされるため、代襲相続人に遺産分割協議に参加させ、代襲相続人がいない場合には、失踪者を除いた共同相続人で遺産分割協議を進めることができるようになるのです。
失踪宣告は、行方不明の相続人を死亡したものとみなして遺産分割協議を進められるので、遺産分割の考え方がシンプルになるメリットがあります。
しかし、失踪宣告の申立てが行われると、家庭裁判所調査官による調査や、官報や裁判所の掲示板における生存の届出の催告などの手続きが実施されます。
これらの手続きには、トータルで1年以上の期間がかかることもあり、事実上相続税申告の期限に間に合わなくなってしまいます。
また、普通失踪の場合、相続人が行方不明になってから7年間を経過していない場合には、そもそも失踪宣告の審判はなされません。
上記の事情を考慮すると、行方不明の相続人がいる場合には、失踪宣告ではなく、不在者財産管理人選任の申立てを行う方が現実的な選択肢でしょう。
不在者財産管理人の選任を申し立てる際の申立人・申立先・費用・必要書類について解説します。
不在者財産管理人選任の申立人は、「利害関係人」または「検察官」です。
相続人が行方不明の場合、その相続人がいないことで遺産分割協議を進められなくなっているので、他の相続人が「利害関係人」として申立てを行うことができます。
申立先は、「不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所」となります。
申立てに必要な費用は、「収入印紙800円分」と、「連絡用の郵便切手」です。
郵便切手の金額は、申立先の家庭裁判所に確認しましょう。
なお、不在者の財産を管理するために必要な費用が不足する可能性がある場合、予納金の納付を求められることがあります。
不在者財産管理人選任の申立てに必要となる書類は、以下のとおりです。
失踪宣告を申し立てる際の申立人・申立先・費用・必要書類について解説します。
失踪宣告の申立人は、「利害関係人」です。
相続人が行方不明の場合に、他の相続人が「利害関係人」として申立てを行うことができるのは、不在者財産管理人選任の申立てと同じです。
申立先は、不在者財産管理人選任の申立てと同じく、「不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所」となります。
申立てに必要な費用は、「収入印紙800円分」、「連絡用の郵便切手」、「官報公告料4,816円」です。
官報公告料には、失踪者に対して生存の届出の催告を行う分と、失踪宣告を行う分が含まれ、裁判所の指示があってから納付することになります。
失踪宣告の申立てに必要となる書類は、以下のとおりです。
失踪宣告が行われると、行方不明の相続人(失踪者)が死亡したものとみなして遺産分割協議を進めることができますが、後から失踪者が生きていたことが判明したらどうなるのでしょうか。
この場合には、「失踪の宣告の取消し」という制度が設けられています(民法第32条第1項)。
失踪者が生きていたとしても、一度行われた失踪宣告の効果は、何もしなければそのまま残ります。
しかし、失踪者本人または利害関係人が失踪者の生存を証明した場合、家庭裁判所はその請求により、失踪宣告を取り消さなければなりません。
この場合、遺産分割は遡って無効となり、各相続人は遺産分割によって得た財産を元に戻して、遺産分割をやり直す必要があります。
ただし、財産を既に処分してしまい、手元に残っていないという場合は、その相続人は「現に利益を受けている限度においてのみ」、財産を返還すれば足ります(同法第2項)。
共同相続人の1人が、行方不明である場合、そのままでは遺産分割協議をすることができません。
相続が発生して、一部の相続人が行方不明である場合には、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、相続を専門に取り扱うチームが、相談者の置かれている状況に応じた親身のアドバイスを差し上げます。
相続人が行方不明の場合についても、できる限り後からトラブルが生じにくい対処方法を、専門的な観点から検討・提案いたします。
行方不明の相続人への対処方法は、考えなければならないことがたくさんあるので、専門家である弁護士へのご相談をおすすめいたします。
相続に関してお悩みの方は、お一人で悩むことなく、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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