遺産相続コラム

特別受益の持戻しとは? 生前受け取った結婚費用や学費は考慮される?

2021年10月18日
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特別受益の持戻しとは? 生前受け取った結婚費用や学費は考慮される?

遺言がない場合には、相続人が法定相続分にしたがって遺産を相続するのが原則です。しかし、たとえば、被相続人が生前、長女と次女には結婚資金として600万円ずつを渡していたような場合、結婚していない長男は不公平と思うかもしれません。

このようなことを考慮して、民法では「特別受益」という制度を設けています。特別受益とは何か、特別受益として認められるものはどのようなもので、特別受益を得ていない相続人はどのような主張をすることが許されるのか見ていきましょう。

今回は、意外に知られていない「特別受益の対象」や「特別受益の持戻し」について解説をしていきたいと思います。

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1、特別受益の持戻し

  1. (1)特別受益とは

    民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、・・・相続財産とみなし」と規定されています。
    被相続人から遺贈や婚姻費用等として多額の生前贈与を受けた相続人がいる場合、その受けた利益のことを特別受益といいます
    このような特別受益は、遺産の前渡し分と評価できます。

    特別受益の制度は、相続人間の公平のため、特別受益分を遺産に加えて具体的相続分を定めるというものです。
    特別受益者の範囲は、相続人に限られます。相続人以外に遺贈や贈与がなされてもそれは相続とは関係ありません。

    参考:「特別受益」と「寄与分」についての基礎知識

  2. (2)特別受益の持戻しの概要と具体例

    被相続人から特定の相続人に対し生前贈与等が行われた場合には、特別受益があるわけですが、特別受益分を遺産の中に入れて具体的相続分を計算することを「特別受益の持戻し」と言います。
    特別受益分を相続財産に加え、その金額に応じて具体的相続分を計算し、計算後の特別受益者の相続分から特別受益分を差し引きます。

    特別受益の持戻しについて、具体例で見てみましょう。

    <設例>
    相続財産が3000万円で、長女A、次女B、長男Cの3人が法定相続人。被相続人が生前に長女Aと次女Bに結婚費用としてそれぞれ600万円を贈与していたという場合


    特別受益を考慮せず法定相続分で相続するとした場合、次のような計算になります。

    相続財産3000万円
    Aの相続分:3000万円×1/3=1000万円
    Bの相続分:3000万円×1/3=1000万円
    Cの相続分:3000万円×1/3=1000万円


    それが、特別受益の持戻しをした具体的相続分は次のようになります。

    相続財産とみなされる金額4200万円
    Aの相続分:(3000万円+600万円+600万円)×1/3-600万円=800万円
    Bの相続分:(3000万円+600万円+600万円)×1/3-600万円=800万円
    Cの相続分:(3000万円+600万円+600万円)×1/3=1400万円

2、特別受益の対象となるもの

特別受益となる贈与の対象には限定があり、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」に限られます。
すなわち、特別受益の制度は、相続人の遺産相続に際し、相続人間の公平を図る制度ですから、対象となる生前贈与は、遺産の前渡し分と評価できるものである必要があります。

婚姻のための資金としては、支度金や持参金、結納金、挙式費用などがあります。
支度金や持参金が多額の場合は、特別受益と考えられます。結納金は、結婚相手への贈与ですから、一般には特別受益にあたらないでしょう。
挙式費用は、親や親族も参加しての費用ですから、当該相続人に対する遺産の前渡し分とは評価できないため特別受益にはあたらないと考えられています。

「その他の生計の資本としての贈与」とは、居住用の不動産の贈与やその取得のための資金の贈与、お店の開業資金の贈与等、生計の基礎として役立つような財産上の給付をいいます
学費等は、一般には親の扶養義務の範囲といえますから、私立の医科大学の入学金のように特別に高額でなければ、特別受益にはあたらないでしょう。

3、特別受益の持戻しの免除の意思表示とは?

  1. (1)特別受益の持戻し免除の意思表示

    被相続人は、意思表示によって特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます(民法903条3項)。被相続人が、遺産相続にあたり、特別受益を遺産に持戻す必要がないとの意思を示すことを「持戻し免除の意思表示」といいます。

    免除の意思表示は明示又は黙示でもよく、被相続人は免除の意思表示をした後でも自由にこれを撤回することができます。特別受益の持戻しの免除が認められるのは、被相続人が自分の財産を誰に贈与するかは自由なので、その意思を尊重するものです。

    持戻し免除の意思表示の方法については、法律上定めはありません。そのため、口頭でも構いません。ただし、免除意思の有無が争いになった場合、その意思が有ることを認めてもらうためには証拠が必要になるので、遺言に明示しておくことが望ましいといえます。遺言には、「遺言者は、令和○年○月○日、Aに対し金1000万円を贈与したが、民法903条1項に規定する相続財産の算定に当たっては、当該贈与額は、相続財産の価額に加えないものとする。」というように記載します。

  2. (2)持戻し免除の意思表示の推定規定の新設

    これまでは、配偶者が生前に自宅を譲り受けていた場合、それは特別受益だとして、遺産分割において配偶者はその分について減額されることがありました。
    しかし、夫婦の一方が亡くなった場合、持戻し免除の意思があるのが通常なので、改正法は「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住不動産の遺贈または贈与」については持戻しの免除の意思表示があったものと推定することにしました。

    その結果、結婚20年以上の配偶者に対する自宅の生前贈与については、原則として、特別受益の扱いを受けなくなりました。

4、遺留分侵害額請求について

持戻しの免除は被相続人の意思を尊重するものですが、相続人の相続財産に対する期待があるのも事実です。そのため、民法では一定の法定相続人に対して相続財産の最低保障分ともいうべき遺留分というものを認めています。

改正前民法では、被相続人が特定の相続人に対してなした生前贈与や遺贈が過大であるため、他の相続人の受け取る財産が遺留分を下回るときは、遺留分を侵害する贈与や遺贈の効力の一部を減殺請求できる(遺留分減殺請求権)ということになっていました。しかし、例えば不動産に関して遺留分減殺請求権が行使されると、当該不動産が共有になってしまい、共同相続人間での新たな紛争を生じさせてしまうとの問題がありました。

令和元年7月1日に施行された改正法は、この遺留分制度を大きく見直し、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求することとしました。これを遺留分侵害額の請求といいます。

遺留分の制度は、相続に関して被相続人の意思を尊重しつつ、相続人の相続財産に対する一定の期待を保護するものですから、持戻し免除の意思があったとしても、遺留分を侵害する額の限度では遺留分侵害額請求権の行使は妨げられません。

なお、遺留分算定の基礎となる財産には、すべての贈与が参入されず、その範囲は限定されています。具体的には、相続開始前の1年前になされた贈与(民法1044条1項前段)、相続人に対してなされた10年前になされた贈与(民法1044条3項)、遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与(民法1044条後段)、です。遺留分侵害額請求の場合の贈与と遺産分割時における特別受益の扱いが異なるのでご注意ください。

5、寄与分について

寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、その寄与者の貢献分について相続分の分配を多くするというものです。

具体的には、被相続人が営んでいた事業を無償で手伝っていた場合や家族として通常期待される程度を超えて無償で被相続人の看病を長年していた場合などです。
寄与分も特別受益の制度と同じく、共同相続人間の公平を図るものです。

特別受益者の相続計算は、相続財産額に特別受益額を加算して、分配額を計算し、特別受益者は特別受益額を減算しますが、寄与分を計算する際は、相続財産から寄与分を控除して、分配額を計算し、寄与者は寄与分を加算することになります。

特別受益者でもあり寄与者でもあるということもあり得ます。その場合には、相続財産に特別受益を加算すると同時に寄与分を控除して分配額を計算します。その上で、特別受益の価額を減算し、それから寄与分の価額を加算します。

また、改正法は、特別寄与料制度を新たに設けました。 対象となる者は、相続人以外の親族です。親族の範囲は、6親等内の血族と3親等以内の姻族になります。たとえば、長男の配偶者が、長男の父親の事業を無償で手伝っていたとしても、義理の父親の相続人ではありませんから、相続時に義理の父親の遺産を相続することはできません。
しかし、長男の配偶者は、義理の父親の親族(姻族)にあたりますので、改正後は、特別寄与料を請求することが可能になったのです。

6、相手が特別受益を認めてくれない場合は?

  1. (1)特別受益を受けた相続人が納得してくれない場合の方法

    遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要になります。特別受益を受けた相続人が特別受益の持戻しをすることに同意すれば問題はありませんが、同意が得られなかった場合、どうすればよいのでしょうか。

    特別受益があったことを認めさせようとしても、特別受益者が受け入れない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。遺産分割調停では、調停委員が間に入って相続人同士の主張を聞いて調整を試みます。相続人同士が合意に至れば調停が成立し、それに基づき遺産分割をすることができます。
    調停が不調に終わった場合には、遺産分割審判へと移行することになります。遺産分割審判では、審判によって遺産分割方法を決定します。

  2. (2)特別受益を考慮せずに遺産分割協議書を作成してしまった場合は?

    特別受益があることを知らず、「遺産分割協議書」を作成してしまった場合はどうなるのでしょうか。
    相続人全員で合意することができれば、遺産分割協議を合意解除し、新たに遺産分割することになります。特別受益者が合意しない場合には、知らなかった特別受益の金額が多額である等重要なもので、そのことを知っていたならば遺産分割協議しなかったといえる場合は、先になされた遺産分割は無効であると主張することが考えられます。それ以外のときは、発見された特別受益の分の遺産分割をすることになるでしょう。

7、まとめ

今回は、特別受益の持戻しについて解説してきましたが、相続は突然訪れるため、慌てて遺産分割協議をしたものの、後になって共同相続人の一部に特別受益があったことが判明し、争いに発展するということもあります。

遺産の調査をしっかり行い、遺産分割協議が調う前に特別受益がないかどうかを調べることが重要ですが、近親者の不幸でつらい中、仕事や家事をしながら調査するというのは非常に大変です。

そのような時は、弁護士を活用して財産調査や遺産分割協議の調整をしてもらうことをおすすめします。ベリーベスト法律事務所では、数多くの相続案件を扱ってきておりますので、お気軽にご相談ください。

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この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
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設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
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