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納得のいかない遺言書を無効にすることは可能か? 無効にしたいときにはどのようなところに着目すればいいのか

2020年05月26日
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納得のいかない遺言書を無効にすることは可能か? 無効にしたいときにはどのようなところに着目すればいいのか

遺言は、亡くなった方の意思が書かれたものなので、有効な遺言があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったので、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているからです。

しかし、相続人が遺言の内容に納得がいかないということもあると思います。そのような場合に、遺言を無効にして(遺言の内容を無視して)遺産を分配することはできないのでしょうか。

まず、遺言書が存在していても、それが無効な遺言で、法律上効力を認められないものであれば、その遺言は法的に意味がありません。そもそも遺言がされなかったということと同じですから、遺言書を全く無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
また、遺言が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことができます。

そこで、今回は、有効・無効な遺言の見分け方と、有効な遺言があっても遺言の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合にはどうすればよいか等について解説したいと思います。

1、遺言書の内容に納得がいかない場合は変更可能?

特定の相続人に多くの財産が分配されているなど、遺言の内容に納得がいかないという場合、相続人の合意で遺言を無効にして分配割合を変えることは可能なのでしょうか。

まず、相続人が相続分について納得がいかないという場合、一定の相続人には「遺留分」がありますので、遺留分に相当する金員を支払ってもらうことはできます。一定の相続人とは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。遺留分とは、最低限の遺産の取り分で、直系尊属の場合には、法定相続分の「3分の1」、それ以外の場合には、法定相続分の「2分の1」です。
どんな遺言があっても、遺留分がある法定相続人は、遺留分だけは確保できるようになっているのです。

ですが、遺留分だけでは満足ができないときには、どうしようもないのでしょうか。
相続人全員の合意があれば、遺言の内容とは異なる遺産分割協議を行うことができます。これは、遺言を無効にするということではありませんが、遺言を無視して、遺言とは異なる内容の遺産分割をすることは認められています。ですから、全員で合意して納得ができる分け方ができるのであれば、遺言が有効であっても無効であっても、遺言を無視して、話し合いで相続人それぞれがどのように相続財産を取得するかを決めれば良いということになります。相続税も、遺言の内容とは異なる遺産分割協議の結果に従って申告し、納税することになります。

また、遺言は、厳格な要件が定められていますので、遺言が存在していたとしても、有効要件を欠いていて、無効であるという場合もあります。相続人が遺言を無効にするのではなく、もともとその遺言が、有効な遺言と認められる要件を欠いていたのであれば、遺言は無効です。
遺言が無効な場合には、無効な遺言に拘束される理由はないので、遺産分割協議を行って遺産を分割することになります。遺産分割協議を行っても合意が得られない場合には、家庭裁判所が遺産をどのように分けるかを決める審判を下すことになります。

遺産分割協議が合意に至れば、遺産分割協議書を作成し、それによって、相続登記などの手続きを行うことができます。なお、遺産分割協議後、財産が発見されることもあるので、遺産分割協議書では、どの遺産を対象にして分割の協議をしたかが明確になるよう、分割協議の対象とした遺産を明記した遺産目録を必ず添付します。新たな財産については、また改めて協議することになります。

このように、たとえ有効な遺言があったとしても、相続人や受遺者全員で合意をすれば、遺言と異なる内容の遺産分割を行うことは可能です。
しかし、ひとりでも合意に応じない者がいて、遺産分割協議が成立しなかったとすれば、遺言が無効と認められない限り、遺言書どおりの相続をするしかありません。
こうなると、そもそもその遺言が、法的に有効なのかということが大きな問題になってきます。

2、有効・無効な遺言書の見分け方は?

遺言が無効の場合には、遺言に拘束されずに遺産分割協議をすることができますが、遺言書が有効か無効かをどのように見分ければいいのでしょうか。

まず、遺言は遺言者の死後に効力を発するものなので、厳格な方式を充たした書面だけが有効な遺言として扱われます。単なるメモのようなものにいちいち効力を認めるわけにはいかないのです。
方式を欠く遺言は無効なので、まず、方式に違反があるかどうかをチェックしましょう。

遺言書には、「普通方式」の遺言書と「特別方式」の遺言書があります。普通方式の遺言書は、さらに①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類に分かれます。特別方式の遺言は、①一般危急時遺言、②難船危急時遺言、③一般隔絶地遺言、④船舶隔絶地遺言の4つに分かれます。

① 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で作成する遺言書です。方式として、①全文を自筆で書くこと、②自書した作成日があること、③署名があること、④押印があること、が挙げられます。

自筆で書けるため手軽に誰でも作れますが、上記要件を欠いてしまったり、遺言書自体が発見されずに終わってしまったりというリスクがあります。なお、平成30年の民法改正により、自筆証書と一体となるものとして添付する財産目録については、自筆ではなく、ワープロ等で作成することも可能になりました。

また、変更については、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければならないとされています。遺言書を発見した場合には、家庭裁判所で検認の手続きを経なければならず、封印してある場合には家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとに開封することになります。

②公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が、公証人の面前で、2人以上の証人の立会いのもとで、遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が、遺言者の真意を正確に文章にまとめ、読み聞かせ、遺言者・証人・公証人が署名をして、公正証書遺言として作成するものです。法律の専門家である公証人が遺言を作成しますので、方式の不備で無効になることはなく、もっとも確実な遺言方法です。

公正証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続きを経る必要がなく、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。また、原本が公証役場に保管されていますので、遺言書が破棄されたり、改ざんをされたりするおそれもありません。

高齢になると、自筆で文書を書くのも困難になりますが、公正証書遺言であれば、公証人が作成し、署名も代書できます。また、病気などで、公証役場に出向くことが難しい場合には、公証人が、遺言者の自宅または病院に出張して遺言書を作成することもできます。ただ、公正証書遺言は、公証人と遺言者に加え証人2人の立ち会いが必要であり、費用もかかるので、その点はデメリットと言えます。

③秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が、遺言の内容を記載した書面(自筆でもワープロでも可)に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上、公証人および証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨およびその筆者の氏名および住所を申述し、公証人が、その封紙上に日付および遺言者の申述を記載した後、遺言者および証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。

公証人と証人2人が立ち会うので、その遺言書が遺言者本人のものであることが明らかであり、公正証書遺言と異なり、内容は誰にも知られないので、秘密にすることができます。ただ、遺言内容に不備があると無効になってしまうので、その点では公正証書遺言に劣ります。また、自筆証書と同様、遺言書は検認手続きが必要になります。

特別方式の遺言は、病気やケガで死が迫っている場合や船舶や飛行機で危機が迫っている場合など、緊急事態が起きている状況下での特別の遺言になります。このような遺言は極めてまれな事なので今回は説明を省略させていただきます。

それでは、どのような場合に遺言が無効になるかですが、上述したような方式が充たされていなければ遺言は無効です。
自筆証書遺言の場合、ワープロ等で書かれた場合、署名・押印がない場合、作成日付がない場合は無効です。
公正証書遺言の場合、証人欠格者が立ち会った場合や証人の人数が足りなかった場合に無効になります。もっとも、公証人がその点は確認すると思われるので、公正証書遺言が方式の不備で無効になることは極めて稀でしょう。秘密証書遺言は封印がないなど、秘密証書遺言に要求される方式を充たしていない場合には無効ですが、自筆証書遺言の方式は充たしているのであれば、自筆証書遺言としては有効です。

また、遺言書がいかなる形式であったとしても、重度の認知症などで遺言する能力が無かった場合、偽造された場合、第三者に強要された場合、内容が不明確な場合、公序良俗に反する場合など、一般的な意思表示の有効要件を欠く場合も無効です。
しかし、このような内容面の瑕疵は、日付がなかったなどのように、一見して明らかな方式の瑕疵と違って、瑕疵があるかどうか判断が難しく、最終的には遺言が無効であるということを(家庭裁判所ではなく)地方裁判所で確認してもらい、その後で家庭裁判所で遺産分割を行わなければならないとことになり、解決までに長期間を要することが多々あります。

参考:遺言についての基礎知識

3、遺言書を無効にしたい場合はどこをどう見ていくか?

  1. (1)遺言書自体が有効なものかどうか確認する

    遺言書が無効であるというのは、方式に違背があるか、強要された、遺言するだけの能力が無かった、公序良俗に反するなど、内容的に法律上許されないものであるか、いずれかの無効原因がある場合です。相続人が遺言書を無効にできるということではありませんが、納得できない遺言書であっても、無効な遺言書であればそれに拘束されるいわれはありませんので、遺言書を無効にしたい(遺言書に拘束されたくない)と考えるのであれば、遺言書が無効になる原因がないかしっかり確認していく必要があります。
    前項でも説明しましたが、改めて方式ごとにチェックすべきポイントをまとめましたので参考にしてください。

    【自筆証書遺言をチェックするポイント】

    (方式のチェックポイント)

    1. ①財産目録以外、全て自筆で書いているか
    2. ②作成日が自筆で書いてあるか
    3. ③署名と押印があるか
    4. ④訂正がある場合、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、かつ、その変更の場所に印を押しているか


    (内容のチェックポイント)

    1. ⑤言作成時遺言能力(15歳以上で判断能力があること)があったか
    2. ⑥遺言の内容が理解可能であること
    3. ⑦公序良俗に反しないか
    4. ⑧第三者からの強要がなかったか


    【公正証書遺言をチェックするポイント】

    (方式のチェックポイント)

    1. ①証人欠格者が立ち会っていないか
    2. ②証人の人数が足りなくなかったか
    3. ③遺言者・証人の署名・捺印があるか
    4. ④公証人の付記、署名、捺印があるか


    (内容のチェックポイント)

    1. ⑤遺言作成時遺言能力(15歳以上で判断能力があること)があったか
    2. ⑥遺言の内容が理解可能であること
    3. ⑦公序良俗に反しないか
    4. ⑧第三者からの強要がなかったか


    【秘密証書遺言をチェックするポイント】

    (方式のチェックポイント)

    1. ①作成日が書いてあるか
    2. ②署名と押印があるか
    3. ③遺言書に押印した印章と同じ印章で封印しているか
    4. ④封紙上に日付と公証人、遺言者、証人2人の署名押印があるか
    5. ⑤証人欠格者が立ち会っていないか
    6. ⑥証人の人数が足りなくなかったか
    7. ⑦訂正がある場合、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、かつ、その変更の場所に印を押しているか


    (内容のチェックポイント)

    1. ⑧遺言作成時遺言能力(15歳以上で判断能力があること)があったか
    2. ⑨遺言の内容が理解可能であること
    3. ⑩公序良俗に反しないか
    4. ⑪第三者からの強要がなかったか
  2. (2)無効を主張する場合

    遺言をチェックしたところ、日付がないなど、方式に欠けるところがあり、無効であることが明らかで、相続人全員に異論がないのであれば、遺言の内容に縛られること無く、遺産分割協議を行えばよいことになります。問題なのは、一部の相続人が有効だと主張する場合です。この場合、当事者だけでは解決できないので、調停や訴訟という法的手続で解決を図ることになります。

    家事調停は、調停委員会が当事者の間に入り、話し合いによる解決を目指す、家庭裁判所で行われる手続きです。 調停委員会は、裁判官1人と2人の調停委員の計3人で構成されています。調停委員は、弁護士や大学教授、公認会計士、不動産鑑定士などの専門家が任命されることが多いですが、通常、この調停委員が各当事者から意見や事情を聞いて、公正中立な立場から助言などを行って、合意の形成を目指します。
    合意ができれば、合意した内容を調書に記載して調停が成立します。調停調書は判決と同じ効力を持ちます。
    合意ができないときには、調停は不調となり、調停手続は終了します。
    遺言が無効なのかどうなのかで意見が対立するときは、調停で話し合うこともできますが、話し合いがつかなければ、遺言無効確認または遺言有効確認の訴訟(無効だと主張する当事者が遺言無効確認訴訟を提起することが一般的ですが、無効確認訴訟を起こしてこないときには、遺言有効確認訴訟を提起することが可能です)を提起して、地方裁判所で裁判官に無効か有効かを判断してもらうことになります。

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  3. (3)有効な場合

    遺言書をチェックしたところ有効ということがわかった場合、遺言どおりに配分するのが原則となります。もし、遺言の内容と異なる分配をしたい場合には、冒頭でも述べたとおり、相続人全員の合意を得て、遺産分割協議をすることになります。なお、相続人以外に受遺者がいる場合には、受遺者の同意も必要になります。また、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の同意も必要になります。

    相続人全員の合意が得られない場合には、遺留分が認められている一定の法定相続人は、遺言によって多額の遺産を承継した相続人や受遺者に対して、侵害額の請求をすることができます。(遺留分侵害額の請求)。遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ってから1年または、相続開始の時から10年を経過すると時効により消滅するので注意が必要です。期間内に相手方に請求すれば、消滅時効にはかかりませんが、(期間内に請求したということを残しておくために、内容証明郵便・配達証明郵便を利用することをおすすめします)相手が支払わない場合には、侵害額の支払を求める裁判を提起するということになります。

    どのような遺言がなされたとしても、遺留分だけは相続人が確保できるよう定められていますので、遺言を無効にすることもできず、遺言と異なる内容の遺産分割を行う合意も得られなかったときでも、遺留分を侵害した部分については侵害額相当額を支払うよう請求することができます。

    参考:遺留分とは?

4、まとめ

今回は、遺言の内容があまりに不平等な場合、相続人全員が合意することで遺言書と異なる配分をすることができること、遺言が無効であれば遺言に拘束される必要はないこと、無効には形式面の無効と、内容面の無効があることなどを説明してきました。

結構、相続は複雑で、相続人間でもめやすいことから、もし、遺言の内容に納得がいかないという場合には、弁護士に中に入ってもらい調整することをおすすめします。弁護士が詳細にお話を聞くことで、一見して明らかな方式面の無効だけではなく、内容的な面でも無効と主張できる余地はないか、あるいは、遺言書どおりではなく、このような内容の遺産分割をするのがもっとも全員に有利ではないかといったような提案をする余地は無ないか等、おひとりでは考えられなかったようなところまで考えていくことができる場合があるのです。ベリーベスト法律事務所では、相続に経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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