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不要な土地(農地、山林)を相続放棄することができるかについて弁護士が解説

2019年10月23日
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不要な土地(農地、山林)を相続放棄することができるかについて弁護士が解説

相続財産のうち、大きなウエートを占めることが多い資産が不動産、特に土地です。

土地の相続は相続人にとって必ずしもプラスになるだけではありません。相続する土地の種類によっては、相続人にとってむしろマイナスの資産となる可能性もあるのです。マイナスの資産を相続し不利益を被る前に、土地の価値を事前にしっかりと見極め、場合によっては相続放棄などを検討しなければなりません。

本コラムでは、相続人にとって不要な土地となりやすい農地や山林の特徴を交えながら、マイナスの資産となってしまう土地を背負い込まないよう、相続放棄を行うときの注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、相続財産に土地が含まれているときに注意したいこと

数多くの資産のなかでも、土地は特殊な資産といえます。なぜなら、土地はその個別性の強さから(都内の一等地もあれば、原野もがけ地も山林もあります)、保有しているだけでは財産価値を生むどころか、むしろ相続人にとってマイナスの資産となる可能性があるからです。たとえ資産価値のある土地であっても、土地を相続した場合、毎年の固定資産税などの租税公課をはじめ、その土地を維持管理していくための費用が生じます。また、土地を相続することにより、新たな所有者として隣地に迷惑をかけない等の土地の管理責任を負うことになります。万が一、相続した土地が管理不備によるがけ崩れなどを起こし、それによって第三者に害が及んだ場合、第三者に対する損害賠償責任が発生する可能性があります。
また、いざ売却しようと考えても、土地の種類によってはすぐに買い手がつかない場合も少なくありません。資産価値を生まない土地を売却できなければ、延々と納税義務、管理義務、及び損害賠償リスクを負うことになります。
このように、土地を相続できるからといって、土地次第では決して手放しで喜ぶことはできないのです。土地を相続する際は、その土地が自分にとって有効に活用できるか、売却することが可能な土地かなどについて、相続放棄を行うべきかということも含めて、慎重に見極める必要があります。特に、相続した土地が農地や山林である場合は要注意です。

2、相続した土地が農地や山林である場合の手続きやメリット・デメリット

  1. (1)農地を相続する場合に必要な手続き

    土地を相続するときは、相続税の申告・納付や土地所有者の名義変更などの手続きを行う必要があります。これに加えて土地が農地である場合は、忘れてはいけない手続きがあります。それは、農地を相続する旨をそれぞれの自治体に設置されている「農業委員会」へ届け出ることです。この届出は、農地法第3条の3で「遅滞なく」行うものとされていますが、この「遅滞なく」とは、農林水産省が定めた処理基準により、相続で農地を取得したことを知った時点からおおむね10ヵ月以内の期間であると定められています。届け出を怠った場合や虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料に処されます(農地法第69条)。

    農地の相続だけではなく農業も継ぐ場合は、相続税の申告期限までに営農を開始し、引き続き営農を行うなどの一定の要件を充たせば、農地に対する相続税の納税猶予など特例を受けることができます。ただし、農地を相続した後に農業をやめた場合や農地を売却した場合は、それまで猶予されていた相続税とあわせて利子税を支払わなくてはいけないので注意が必要です。

    また、相続された農地が三大都市圏に多い「生産緑地」の指定を受けている場合は注意が必要です。生産緑地とは、農業を継続することを条件に、固定資産税・相続税等の税務上のメリットを受けることのできる農地です。
    三大都市圏の市街化区域内にある農地は、基本的に固定資産税などが宅地並みの額で課されます。しかし、生産緑地の指定を受けていることで、固定資産税は農地並みに安くなります。また、生産緑地は相続時に一定の要件を満たすことで「農地の相続税の納税猶予」などの特例を受けることができます。
    生産緑地の指定を受けている土地の用途は、原則として農地または農業関連施設に限定されており、宅地などに転用することもできません。
    ただし、農地として売買することや、自治体に買取の申出を行うことができます。市町村へ買取の申し出をするには、次の要件のいずれかに該当する必要があります。

    • 生産緑地に指定されてから30年が経過したとき
    • 農業の主たる従事者が死亡または農業に従事できないような重大な交渉が生じたとき

    相続は従事者の死亡に該当するので、農業を継ぐつもりがない方が生産緑地を相続した場合は、市町村への買取の申し出も選択肢にいれることができます。

  2. (2)山林を相続する場合に必要な手続き

    山林を相続する場合は、相続開始の日から90日以内に市町村へ届け出ることが義務付けられています(森林法第10条の7の2第1項、森林法施行規則第7条第1項)。この届け出を怠った場合や虚偽の届け出をした場合は10万円以下の過料に処せられます(森林法第213条)。また、相続開始後90日以内に遺産分割協議が調っていない場合は、法定相続人全員の共有物として届け出ることになります。
    一般的に山林は固定資産税が低く、地域によっては公示地価がなく固定資産税がゼロのケースもあります。したがって、林業などによる収益がある場合は相対的に税金が安くなる可能性もあります。
    しかし、山林は広大であることが多く、維持管理するためには手間や費用がかかるのが一般的です。山林の付近に住宅地や公共施設などがある場合は、土砂災害を発生させてしまうことも想定されます。自治体によっては、山林の所有者に条例などで管理に関する規定を設けていることもあります。管理を森林組合などに依頼する手段もありますが、いずれにせよ費用は発生します。
    このような点を踏まえると、山林を相続する際は慎重な判断が必要といえるでしょう。

3、土地を相続放棄することは可能か?

  1. (1)相続放棄とは

    相続人だからといって、マイナスの価値しか生まない土地を必ず相続しなければならないわけではありません。
    民法は、遺産を相続する権利の一切を放棄するという選択肢を相続人に与えています。これが相続放棄の制度です。
    相続放棄をするためには、相続が発生したことを知った日から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります(民法第915条第1項)。相続放棄が認められると、申述人はその相続に関しては最初から相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。ただし、相続放棄が認められると、マイナスの価値しか生まない土地を相続しなくてすむのと同時に、プラスの財産になりうる預貯金などの財産についても相続できません。相続放棄は、プラスもマイナスも含めてすべての相続財産を承継しないという制度であり、個別の相続財産を放棄する制度ではないのです。

    また、遺産分割協議の場で自分は一切財産を受け取らない、相続放棄すると表明し、それを明記した遺産分割協議書を作成したとします。しかし、これは、ただ単に自分の相続分(取り分を0にするという意思を表明しただけであり、負債などのマイナスも含めて一切の相続財産を承継しないという「相続放棄」ではありません。ですから、債権者から法定相続分に応じた債務の請求が来たら、それに応じなくてはなりません、マイナスの財産を相続したくないのであれば、必ず、家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。

  2. (2)相続財産を相続放棄するときの注意点

    たとえば、第1順位の相続人である被相続人の子ども全員が相続放棄するとどうなるでしょうか。この場合、法定相続人として後順位にいる被相続人の父母や兄弟姉妹たちが、相続放棄した被相続人の子どもたちに代わって、相続することになります。つまり、相続放棄すると、最初から相続人とならなかったものとみなされるので、次順位の法定相続人が、繰り上がって被相続人を相続していくことになるのです。子どもが相続放棄すると、被相続人の父母などの直系尊属が、直系尊属が死亡していたり、直系尊属も相続放棄したときには、被相続人の兄弟姉妹が、それぞれ被相続人を相続していくことになります。相続するものが、マイナスの価値しか生まない土地の場合、親族間のトラブルのきっかけになることもあり得ます。相続放棄をするときは、後順位の相続人にしっかりとその意思を伝えたうえで手続きを進めるのが、好ましいといえるでしょう。

4、親族全員が相続放棄した場合はどうなる?

  1. (1)全員が相続を放棄した場合

    相続人全員が相続放棄をした場合は「相続人不存在」となり、土地などの相続財産はいったん法人化されます(民法第951条)。しかし、この時点で、自動的に管理人が決まるわけではありません。家庭裁判所に「相続財産管理人」を選任するための申し立てをし、財産の管理者を選任してもらう必要があります。この申し立てができるのは、債権者や債務者、特別縁故者などの利害関係人、または検察官です。選任された「相続財産管理人」によって相続財産の整理が行われ、最終的に残った相続財産の土地などが国庫に帰属することになります。

  2. (2)管理責任は残るため要注意

    民法では、相続放棄をしても新たに相続人となった人が相続財産の管理を始めるまでは、自己の財産と同一の注意をもって、その財産の管理をしなければならないと定められています(第940条)。
    したがって、相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が選定されるまでは、法定相続人全員に土地の管理責任が残るので注意が必要です。

5、まとめ

あなたにとってマイナスの価値しか生まない土地を相続してしまうことを防ぐうえで、相続放棄は有用な手段です。しかし、相続放棄をするためには、戸籍謄本や登記簿謄本など多数の必要書類を用意しなければならず、これは予想以上に手間がかかるものです。また、家庭裁判所への申述を行う必要がありますが、家庭裁判所の開庁時間は平日の昼間なので、その時間帯に働いている人にとっては、少なからず負担になることが考えられます。
このように手間のかかる相続放棄の手続きですが、弁護士に依頼して行うことができます。
弁護士であれば、相続放棄の手続きをあなたに代わって行うことができますし、他の相続人とトラブルが生じたときは、あなたの代理人として他の相続人と交渉することも可能です。
ベリーベスト法律事務所では、相続放棄も含めた相続全般に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にご連絡ください。

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