遺産相続コラム
相続財産のうち、大きなウエートを占めることが多い資産が不動産、特に土地です。
土地の相続は相続人にとって必ずしもプラスになるとは限りません。相続する土地の種類によっては、相続人にとってむしろマイナスの資産となる可能性もあるのです。マイナスの資産を相続し不利益を被る前に、土地の価値を事前にしっかりと見極め、場合によっては相続放棄などを検討しなければなりません。
本コラムでは、相続人にとって不要な土地となりやすい農地や山林の特徴を交えながら、マイナスの資産となってしまう土地を背負い込まないよう、相続放棄を行うときの注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
数多くの資産のなかでも、土地は特殊な資産といえます。なぜなら、土地はその個別性の強さから(都内の一等地もあれば、原野も崖地も山林もあります)、保有しているだけでは財産価値を生むどころか、むしろ相続人にとってマイナスの資産となる可能性があるからです。
たとえ資産価値のある土地であっても、土地を相続した場合、毎年の固定資産税などの租税公課をはじめ、その土地を維持管理していくための費用が生じます。
また、土地を相続することにより、新たな所有者として隣地に迷惑をかけないなどの土地の管理責任を負うことになります。万が一、相続した土地が管理不備による崖崩れなどを起こし、それによって第三者に害が及んだ場合、第三者に対する損害賠償責任が発生するおそれもあります。
さらに、いざ売却しようと考えても、土地の種類によってはすぐに買い手がつかない場合も少なくありません。資産価値を生まない土地を売却できなければ、延々と納税義務、管理義務、および損害賠償リスクを負うことになります。
このように、土地を相続できるといっても、土地の種類や立地次第では決して手放しで喜ぶことはできません。土地を相続する際は、その土地が自分にとって有効に活用できるか、売却することが可能か、相続放棄を行うべきかなど、慎重に見極める必要があります。
特に、相続した土地が農地や山林である場合は要注意です。
土地を相続するときは、相続税の申告・納付や土地所有者の名義変更などの手続きを行う必要があります。これに加えて土地が農地である場合は、いくつか注意しなくてはならないポイントがあるため、確認していきましょう。
相続は従事者の死亡に該当するので、農業を継ぐつもりがない方が生産緑地を相続した場合は、市町村への買い取りの申し出も選択肢にいれることができます。
山林を相続する場合は、相続開始の日から90日以内に市町村へ届け出ることが義務付けられています(森林法第10条の7の2第1項、森林法施行規則第7条第1項)。この届け出を怠った場合や虚偽の届け出をした場合は10万円以下の過料に処せられます(森林法第213条)。また、相続開始後90日以内に遺産分割協議が調っていない場合は、法定相続人全員の共有物として届け出ることになります。
一般的に山林は固定資産税が低く、地域によっては公示地価がなく固定資産税がゼロのケースもあります。したがって、林業などによる収益がある場合は相対的に税金が安くなる可能性もあります。
しかし、山林は広大であることが多く、維持管理するためには手間や費用がかかるのが一般的です。
山林の付近に住宅地や公共施設などがある場合は、土砂災害を発生させてしまうことも想定されます。自治体によっては、山林の所有者に条例などで管理に関する規定を設けていることもあるため、十分に確認をしなくてはなりません。管理を森林組合などに依頼する手段もありますが、いずれにせよ費用は発生します。
このような点を踏まえると、山林を相続する際は慎重な判断が必要といえるでしょう。
相続人だからといって、マイナスの価値しか生まない土地を必ず相続しなければならないわけではありません。
民法は、遺産を相続する権利の一切を放棄するという選択肢を相続人に与えています。これが相続放棄の制度です。
相続放棄をするためには、相続が発生したことを知った日から3か月以内に、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります(民法第915条第1項)。相続放棄が認められると、申述人はその相続に関しては最初から相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。
ただし、相続放棄が認められると、マイナスの価値しか生まない土地を相続しなくてすむのと同時に、プラスの財産になりうる預貯金などの財産についても相続できません。相続放棄は、プラスもマイナスも含めてすべての相続財産を承継しないという制度であり、個別の相続財産を放棄する制度ではないのです。
また、遺産分割協議の場で自分は一切財産を受け取らない、相続放棄すると表明し、それを明記した遺産分割協議書を作成したとします。しかし、これは、ただ単に自分の相続分(取り分)をゼロにするという意思を表明しただけであり、負債などのマイナスも含めて一切の相続財産を承継しないという「相続放棄」ではありません。
そのため、債権者から法定相続分に応じた債務の請求が来た場合に、遺産分割において相続放棄したと主張しても適切な反論にはなりません。マイナスの財産を相続したくないのであれば、必ず、家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。
たとえば、第1順位の相続人である被相続人の子ども全員が相続放棄するとどうなるでしょうか。
この場合、法定相続人として後順位にいる被相続人の父母や兄弟姉妹たちが、相続放棄した被相続人の子どもたちに代わって、相続することになります。
つまり、相続放棄すると、最初から相続人とならなかったものとみなされるので、次順位の法定相続人が、繰り上がって被相続人の財産を相続していくことになるのです。
子どもが相続放棄すると、次順位の法定相続人である被相続人の父母などの直系尊属が相続することになります。直系尊属がすでに死亡している場合や、直系尊属も相続放棄した場合には、被相続人の兄弟姉妹が、それぞれ被相続人の財産を相続していくことになります。
相続するものが、マイナスの価値しか生まない土地の場合、親族間のトラブルのきっかけになることもあり得ます。相続放棄をするときは、後順位の相続人にしっかりとその意思を伝えたうえで手続きを進めるのが、好ましいといえるでしょう。
参考:相続人の範囲
相続人全員が相続放棄をした場合は「相続人不存在」となり、土地などの相続財産はいったん法人化されます(民法第951条)。しかし、この時点で、自動的に管理人が決まるわけではありません。
家庭裁判所に「相続財産管理人」を選任するための申し立てをし、財産の管理者を選任してもらう必要があります。
この申し立てができるのは、債権者や債務者、特別縁故者などの利害関係人、または検察官です。選任された「相続財産管理人」によって相続財産の整理が行われ、最終的に残った相続財産の土地などが国庫に帰属することになります。
民法では、相続放棄をしても新たに相続人となった人が相続財産の管理を始めるまでは、自己の財産と同一の注意をもって、その財産の管理をしなければならないと定められています(第940条)。
したがって、相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が選定されるまでは、法定相続人全員に土地の管理責任が残るので注意が必要です。
不要な土地を相続してしまったという方は、相続土地国庫帰属法を利用することによって、不要な土地を手放すことができる場合があります。令和5年4月27日から制度がスタートします。
相続土地国庫帰属法とは、相続などによって土地の所有権を取得した相続人が一定の要件を満たした場合に、当該土地を手放して国庫に帰属させることができるという制度です。
不要な土地を相続してしまった場合には、土地の維持・管理費用や固定資産税の負担が生じてしまいますので、土地を手放したいとお考えの方は、この制度を利用してみるとよいでしょう。
相続土地国庫帰属法を利用して、土地を手放すためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 申請者
相続土地国庫帰属法を利用することができるのは、相続または遺贈によって土地を取得した人になります。売買や贈与などによって積極的に取得した土地については、対象外となります。
② 対象となる土地
国庫に帰属させることができる土地は、通常の管理や処分に過大な費用や労力を要しない土地が対象になります。そのため、以下のような土地については、国庫帰属の対象外となるため、注意が必要です。
相続土地国庫帰属法を利用して、土地を国庫に帰属させるためには、一定の費用を負担しなければなりません。申請者が負担する必要のある費用としては、以下のものが挙げられます。
建物の解体費用や境界確定の測量費用は、対象の土地を相続土地国庫帰属法の要件を満たすようにするために必要となる費用です。
審査手数料については、土壌汚染調査費用などが想定されていますが、具体的な金額については今後定められる予定です。
承認後の負担金としては、10年分の土地管理費用相当額の納付が予定されています。
あなたにとってマイナスの価値しか生まない土地を相続してしまうことを防ぐうえで、相続放棄は有用な手段です。しかし、相続放棄をするためには、戸籍謄本や登記簿謄本など多数の必要書類を用意しなければならず、これは予想以上に手間がかかります。
また、相続放棄を行う場合は家庭裁判所への申述を行う必要がありますが、家庭裁判所の開庁時間は平日の昼間なので、その時間帯に働いている人にとっては、少なからず負担になることもあるでしょう。
弁護士であれば、相続放棄の手続きをあなたに代わって行うことができますし、他の相続人とトラブルが生じたときは、あなたの代理人として他の相続人と交渉することも可能です。
ベリーベスト法律事務所では、相続放棄も含めた相続全般に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にご連絡ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。