遺産相続コラム
行方不明になっている相続人がいる場合、そのままでは遺産分割を進めることができません。
行方不明の期間が長期間にわたる場合には、不在者財産管理人の選任申し立てのほか、失踪宣告を申し立てる方法も考えられます。失踪宣告の申し立ては、法律上多くの注意点が存在するため、弁護士にご相談ください。
今回は、長期間行方不明の相続人がいる場合の対処法となる「失踪宣告」について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「失踪宣告」とは、長期間生死が明らかでない行方不明者を、裁判所の宣告によって死亡したものとみなす制度です(民法第30条)。
(参考:「失踪宣告」(裁判所))
不在者の死亡を確定させることによって、関係者間の法律関係を安定させることが、失踪宣告制度の目的です。なお、戸籍法上も「認定死亡」という制度がありますが、失踪宣告とは要件・効果などが異なるのでご注意ください(後述)。
失踪宣告には、「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。普通失踪と特別失踪の要件は、それぞれ以下のとおりです。
遺産相続で失踪宣告が必要になるケースは以下のような場合です。
失踪宣告と似た制度で、戸籍法に基づく「認定死亡」と、民法に基づく「不在者財産管理人」があります。以下では、認定死亡と不在者財産管理人が失踪宣告とどのような違いがあるのか解説します。
「認定死亡」とは、水難・火災その他の事変によって死亡した者につき、取り調べをした官庁・公署の報告に基づいて死亡が認定され、その旨が戸籍に記載されることをいいます(戸籍法第89条)。
失踪宣告は利害関係人の請求によって家庭裁判所が行うのに対して、認定死亡は官庁・公署の報告に基づき、市区町村長によって行われるという点が異なります。
また、認定死亡は死亡の事実を「推定」させるのみで、訴訟において反証された場合、対象者の生存を認定することも可能です。
これに対して失踪宣告は、対象者が死亡したものと「みなす」制度であるため、失踪宣告が取り消されない限り、訴訟において対象者の生存を認定することはできません。
失踪宣告 | 認定死亡 | |
---|---|---|
制度概要 | 不在者が死亡したものと「みなす」制度 | 不在者の死亡を「推定」する制度 |
死亡の確実性 | 死亡したことが不明 | 死亡したことが確実 |
認定機関 | 家庭裁判所 | 行政機関 |
「不在者財産管理人」とは、従来の住所または居所を去った者(=不在者)が財産の管理人を置かなかった場合に、家庭裁判所によって選任される当該財産の管理人です。不在者財産の管理・保存や、家庭裁判所に権限外行為許可を得た上で処分行為などをします。
不在者財産管理人の選任は、失踪宣告と同じく、相続人が行方不明の場合に申し立てられることがあります。不在者財産管理人のメリットは、失踪宣告とは異なり、不在者財産管理人の選任を行うための行方不明期間の要件がないため、早い段階で申し立てられる点です。
ただし、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法第28条)。
また、不在者財産管理人が選任されても、不在者が死亡したとみなされるわけではないため、あくまでも不在者を遺産分割の当事者とすべき点にご注意ください。
失踪宣告 | 不在者財産管理人の選任 | |
---|---|---|
制度概要 | 不在者を死亡したものと「みなす」制度 | 不在者の財産を代理で管理・保存する管理者を選任する制度 ※不在者は死亡したとはみなされない |
制度を利用できるようになるまでの期間 | 普通失踪の場合は7年、特別失踪の場合は1年 | 要件なし |
遺産分割協議 | 対象者を死亡したとみなしたうえで協議を実施できる | 遺産分割協議への参加は家庭裁判所の許可が必要 |
失踪宣告の審判を得るためには、普通失踪の場合で7年の行方不明期間が必要です。
そのため、行方不明になってから7年が経過している場合には失踪宣告を申し立てることで遺産相続の手続きが進められますが、多くの場合、7年もの間遺産分割をせずに待つことは現実的ではありません。
また、なるべく早く不在者の財産などを処理したい場合や、居場所がわからないが時々連絡が取れ、生きていることが判明している場合には、失踪宣告ではなく、不在者財産管理人の選任を申し立て、遺産分割を行うことも検討すべきでしょう。
失踪宣告の申し立て方法および手続きの流れを解説します。
失踪宣告の申立権者・申立先・申立書類・費用は、それぞれ以下のとおりです。
<失踪宣告の申立権者>
利害関係人(失踪宣告を求めることについて、法律上の利害関係を有する者)
<失踪宣告の申立先>
不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所
<失踪宣告の申立書類>
<失踪宣告の申立費用>
失踪宣告を申し立てた後の手続きの流れは、以下のとおりです。
失踪者が生存していることなどが判明した場合には、失踪者本人または利害関係人が家庭裁判所に対して、失踪宣告の取り消しを請求できます。
失踪宣告が取り消されるのは、失踪者が生存していること、または死亡したとみなされる時期とは異なる時期に死亡したことの証明があった場合です(民法第32条第1項)。
失踪者本人または利害関係人は、失踪者の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、失踪宣告の取り消しを請求することができます。家庭裁判所調査官による調査などを経て、家庭裁判所は失踪宣告取り消しの審判を行います。
2週間の即時抗告期間を経て審判が確定した後、確定日から10日以内に市区町村役場への届出が必要です。
失踪宣告が取り消された場合、すでに完了している相続手続きをやり直すべきかが問題となります。
失踪宣告については、要件・手続きなどについて複雑なルールが定められており、法律上の注意点も多数あるため、行方不明の相続人について失踪宣告を申し立てる際には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、失踪宣告の代理申し立てを行うだけでなく、関連する法律上の注意点についても分析・検討した上でアドバイスすることができます。その後の相続手続きについても一貫してサポートし、早期・円滑な相続手続きの完了を目指します。
失踪宣告の申し立てや、その後の相続手続きへの対応については、お早めに弁護士までご相談ください。
長期間行方不明の相続人がいる場合、遺産分割を進めるためには、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることがひとつの選択肢となります。
ただし、不在者財産管理人制度との使い分けを検討する必要があるほか、失踪宣告の申し立てには法律上の注意点が存在するため、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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