遺産相続コラム
子供から虐待を受けたなど、何かしらの理由で遺産を残したくない、相続をさせたくないと思った場合、どのような手続きを取ることができるのでしょうか。
本コラムでは、相続人の廃除方法や手続きの流れについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
法定相続人は、配偶者と一定の血族と決められています。具体的には、子ども、親(祖父、祖母などの直系尊属)、兄弟姉妹が相続人の範囲です。なお、本人よりも子どもが先に亡くなっていれば、子の子(本人から見れば孫です)が相続人となります。これを代襲相続といいます。
同様に、子も、親を含む直系尊属もいない場合で、さらに兄弟姉妹が本人より先に亡くなっていれば、兄弟姉妹の子(本人から見ればおい・めいです)が相続人となります。
推定相続人とは、相続が開始される前の相続人に関する言葉です。人の出生や婚姻、死亡といった事実によって、相続人になりうる人は少しずつ変わっていきます。
たとえば、妻と子1人を持つ夫が亡くなった場合、相続人は妻子2人ですが、夫が亡くなる前に子がもうひとり生まれると、相続人が3人になります。
夫が亡くなる前に妻子全員が亡くなれば、夫の親や兄弟姉妹が相続人になります。
推定相続人とは、ある人が現時点で仮に亡くなったと仮定した場合、相続人の地位を取得するはずの人のことを言います。実際にその状態で本人が亡くなれば、推定相続人は、原則としてそのまま相続人となるわけです。
現時点で自分が亡くなった際に遺産を相続することが想定される、推定相続人を思い浮かべてください。推定相続人から、万が一ひどい虐待や侮辱行為などを受けている場合、その人物に財産を残すのが耐えられないという気持ちになる方もいることでしょう。
もしそうであれば、「推定相続人の相続廃除」という手続きを家庭裁判所に申し立てることができます。裁判所の手続きで廃除が認められることになれば、その人物を推定相続人の地位から外すことができ、遺産を相続させないことが可能となります。
生前に推定相続人の廃除手続きをすると、その推定相続人との間で、大きなもめごとになる可能性があります。
そのような場合にも適している、自分が亡くなったときに相続廃除の効果を発生させる方法があります。その方法が遺言による廃除です。
廃除とは、被相続人の意思によって遺留分を有する推定相続人の相続権をはく奪する制度を指し(民法892条)、被相続人が生前に自ら家庭裁判所へ請求する方法と、遺言によって廃除の意思表示をする方法とがあります。
なお、自らの財産の相続配分を生前に決めておく方法としては、遺言制度があります。しかし、推定相続人のうち、配偶者・直系尊属・直系卑属には遺留分減殺請求権があるため、遺言によって相続権を完全に奪うことはできません。
廃除は、この不都合を回避するための制度ですから、廃除の対象は遺留分を有する推定相続人に限られています。
なお、廃除とは被相続人の一方的な意思で相続人の相続権を完全に奪ってしまう制度ですから、その要件は次の場合に限定されています。
①虐待または重大な侮辱
ひとつ目は、「被相続人に対して虐待をし、若しくは重大な侮辱を加えたとき」です。
虐待の例としては、ひどい家庭内暴力など、被相続人に対して精神的な苦痛を与えて、その名誉を毀損する行為であって、家族の共同生活関係が破壊されて、修復を著しく困難にするほどの客観的事情があることが必要とされています。
侮辱の例としては、少年時から非行を繰り返し、両親の反対を無視して暴力団幹部と婚姻した娘が、無断で父親名義で結婚式の招待状を両親の知人に送付した事案において、侮辱による廃除を認めたものがあります(東京高決平成4・12・11判時1448・130)。
②著しい非行
ふたつ目は、「推定相続人にその他の著しい非行があったとき」です。単なる素行不良や軽い犯罪を行った程度ではなく、家族関係を破壊する程度の客観的事情が必要です。具体例としては、虚偽文書を作成して親の不動産を無断で売却し、公正証書原本不実記載等の罪で有罪が確定していた場合があります(東家審昭和50・3・13家月28・2・99)。
相続廃除のメリットは、裁判所が認めれば、自分の意思で遺産を渡さない人を完全に指定できる点です。
遺産の分け方を指定するには、遺言という方法があります。しかし、遺言で取り分をゼロにても、相続人には遺留分といって、最低限保証された権利があります。
この遺留分の権利を行使されてしまうと、いくら遺言で取り分をゼロと決めても、法定相続分の2分の1または3分の1までは、その人に取り返されてしまいます。
それに対し、相続廃除は、相続人である地位自体をはく奪するものなので、遺留分も残すことなく取り分をゼロにすることができるのです。
相続廃除のデメリットは、その条件が大変厳しいということです。
上でもご説明したとおり、かなり悪質な虐待や侮辱、非行があり、これが客観的に証明できなければなりません。家庭内の出来事は、なかなか他人にはわかってもらえないですし、特に高齢になると、社会とのつながりも薄れ、相談する人も減っていきます。
家族の虐待は家庭内という密室で起きることが多いので、結局、証明の手段もなく、廃除が認められない場合も多いのです。
生前廃除は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に廃除の申し立てを行います。
調停、審判で決定された事項は、それぞれ調停調書、審判書が裁判所から発行されます。廃除が認められた場合は、その書面を市役所などの自治体の戸籍係に届けて戸籍に記載してもらうことで手続きが完了します。
遺言廃除は、まずは遺言書に廃除の意思表示を書き記すことから始まります。遺言は、ご本人が死亡してから効力が発生しますので、それまでに廃除をする気持ちがなくなった場合は、遺言を書きなおすことによって廃除の取消しをすることもできます。
廃除の意思表示のある遺言を残して死亡すると、遺言に指定された遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。その後の手続きは、生前廃除の場合と同じです。
生前廃除は本人で行う必要がありますので、本人が元気なうちに自ら家庭裁判所で手続きを行うことになります。ポイントは、虐待、侮辱、非行の事実を本人が立証できるかという点です。できるだけ証拠を集めて、裁判官が客観的に判断できるようにすることが重要です。
遺言廃除は、本人が亡くなった後に家庭裁判所に請求する手続きです。この手続きを行うのは遺言執行者です。
廃除の遺言を作成する際には、必ず、遺言執行者を定めて遺言書に記載しておきましょう。また、遺言廃除の場合は、本人が亡くなった後に遺言執行者が推定相続人の廃除に関する事実関係を代弁することになります。そうなると、本人が生存している場合以上に客観的な証拠が重要な意味を持ちます。なぜなら、もう本人が証言することができないからです。
遺言廃除を選択する場合は、必ず証拠も残すようにしましょう。
相続時において、親族全員が円満というケースばかりではありません。時には、単なる不仲を超えて、ひどい暴力が隠れている場合もあります。
最近は高齢者虐待も社会問題化しています。自分を苦しめた家族には財産を渡さず、自分を守ってくれた家族には遺産を多く残したいと思うのは自然な感情でしょう。もちろん、つらい思いを抱えながら、複雑な廃除の手続きを進めるのは大変なことです。
ベリーベスト法律事務所では、相続はもちろん、廃除についてもご相談をお受けしております。ひとりで悩んでおられる方はどうぞ一度ご相談においでください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺産相続が始まったとき、相続人同士による相続争いが起きないようにするためには、生前に相続対策を講じておくことが重要です。
さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
本コラムでは、生前にできる遺留分対策や弁護士相談の有効性などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。