遺産相続コラム
遺産分割協議書に署名・押印をしたものの、後日、他の相続人に騙されていたことが判明した場合、どうすればよいのか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。このようなケースでは、遺産分割協議の取り消しを行い、遺産分割協議をやり直すことができる可能性があります。
ただし、遺産分割協議を取り消すことができるのは、あくまでも例外的なケースに限られますので、どのような場合に取り消しや無効を主張することができるのかをしっかり理解しておくことが大切です。
今回は、遺産分割協議書の作成後に騙されていたことが発覚した場合の対処法と注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
他の相続人に騙されて遺産分割協議書に署名・押印をした場合、その遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか。以下では、「無効」と「取り消し」の違いに関する基本事項から、具体的に無効や取り消しを主張することができるケースについて説明します。
まずは、「取り消し」と「無効」の違いを見ていきましょう。
「取り消し」とは、法定の取消事由のある法律行為がなされた場合に、その法律効果を否定する意思表示のことです。取消事由のある法律行為がなされたとしても、取り消されるまでは有効な法律行為として扱われるという点で無効とは異なります。
一方、「無効」とは、そもそも当初から法律行為の効力が生じていないことをいいます。無効な法律行為は、法律上無効となりますので、「取り消し」のように効力を否定するために特別な行為をする必要はありません。
遺産分割協議の内容に納得できないからといって、簡単に撤回を認めてしまうと第三者等へ影響があるため、遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書に署名・押印をした後は遺産分割協議を撤回することは認められていません。
そのため、遺産分割協議書に署名・押印をする場合には、遺産分割の内容をしっかりと精査した上で、慎重に対応することが大切です。
遺産分割協議は、原則として撤回することができませんが、以下のようなケースについては、例外的に遺産分割協議の無効・取り消しによって、やり直しすることが可能です。
騙されて同意してしまった遺産分割協議を取り消すには、以下の方法を採る必要があります。
遺産分割協議の無効や取り消しを主張することができるケースは、あくまでも例外的なケースになりますので、まずは、ご自身のケースが無効・取り消しができるケースであるかを確認しましょう。
無効・取り消しの判断をするためには、法的知識が不可欠となりますので、判断に迷う場合は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
遺産分割協議に取り消し原因がある場合には、取り消しの意思表示を行い、遺産分割協議を取り消す必要があります。取り消しの意思表示は、取り消し権を行使したという証拠を残すためにも、配達証明が付いている内容証明郵便を利用して書面によって行うのが一般的です。
遺産分割協議に無効原因がある場合には、取り消しのような意思表示は必要ありませんが、無効であることを他の相続人にも周知するために、上記と同様に配達証明付きの内容証明郵便を利用して書面を送るようにしましょう。
すべての相続人が遺産分割協議の無効・取り消しを認めている場合には、再度、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容に従って遺産を分けていきます。
相続人のうち1人でも遺産分割協議の無効・取り消しを認めず、遺産分割協議のやり直しに同意が得られない場合には、遺産分割協議の無効・取り消しを確定させるために、遺産分割協議無効確認訴訟を提起しなければなりません。
遺産分割協議無効確認訴訟では、無効・取り消し原因を主張する原告の側で、無効・取り消し原因が存在することを立証していく必要があります。法律の知識や経験のない方は対応が難しい分野ですので、弁護士に依頼をして訴訟手続きを進めていくようにしましょう。
判決によって遺産分割協議の無効が確認された場合には、相続人全員で遺産分割協議をやり直す必要がありますが、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行います。
参考:遺産分割の調停と審判
遺産分割協議を取り消して、再度遺産分割協議を行う場合には、以下の点に注意が必要です。
遺産分割協議が無効や取り消しによって、効力がなくなった場合には、当初から遺産分割協議は成立していなかったものとみなされます。そのため、遺産分割協議のやり直しをしたとしても、初めて行う遺産分割協議にあたりますので、追加で税金が課税されることはありません。
しかし、無効や取り消しではなく、相続人全員の合意によって遺産分割協議をやり直す場合は、法律的には、遺産分割ではなく贈与または譲渡に該当しますので、遺産分割協議の内容によっては、贈与税や不動産取得税などの税金が課税される可能性があります。
遺産分割を前提として、相続人から第三者に財産が譲渡されることがあります。遺産分割協議に取り消し原因があることを第三者が知らなかった場合には、遺産分割の取り消しをしたとしても、譲渡された財産を取り戻すことはできません。
そのため、遺産分割協議を取り消す場合には、第三者に財産が譲渡される前に、早めに行う必要があります。
遺産分割協議自体には、期限はありませんが、遺産相続の手続きには、相続放棄をする場合は3か月、相続税申告は10か月といった期限があります。遺産分割協議が無効・取り消しとなったとしても、期間の進行がリセットされるわけではありませんので、注意が必要です。
遺産分割協議のやり直しをする場合には、これらの期限にも注意しながら進めていかなければなりません。
参考:遺産相続の流れ
遺産相続に関するトラブルは、弁護士に依頼することをおすすめします。
遺産分割のやり直しをする場合には、すべての相続人の同意がある場合または遺産分割協議に無効・取り消し原因があることが必要となります。
無効・取り消し原因は、法的判断が必要となる事項ですので、法律の専門家である弁護士でなければ正確に判断することが難しいといえます。取り消し権には、時効もありますので、取り消し原因があることに気付いた場合には早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
遺産分割協議に無効・取り消し原因があった場合には、取り消しの意思表示を行い、遺産分割協議のやり直しを進めていかなければなりません。しかし、詐欺や強迫をした相続人が自ら取り消し原因があったことを認めるとは限らないため、取り消し原因を認めない相続人がいる場合には、遺産分割協議無効確認訴訟を提起して争っていかなければなりません。
訴訟手続きは、非常に専門的知識が必要なため、弁護士のサポートなく進めていくのは難しいといえます。裁判所に適切な判断を下してもらうためにも、弁護士に依頼をして訴訟手続きを進めていくことをおすすめします。
相続人に騙されて遺産分割協議書に署名・押印をしてしまったというケースでは、詐欺を理由として遺産分割協議を取り消せる可能性があります。このような事案では、当事者同士で対立することが予想されますので、スムーズに解決をするためにも弁護士に相談をすることをおすすめします。
ベリーベストでは、弁護士だけでなく司法書士や税理士も在籍していますので、遺産分割協議のやり直しが必要になった場合の相続登記や、相続税申告についても対応が可能です。
遺産相続のトラブルでお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自分以外の相続人による「遺産隠し(財産隠し)」が疑われるときは、被相続人(亡くなった方)の隠されたすべての財産を調査し、発見したいと考えるでしょう。
また、遺産分割協議が終わったあとに特定の相続人による遺産隠しが発覚した場合、遺産分割協議のやり直しができるのかも気になるところです。
相続人による遺産隠しが行われたとき、一気にすべての相続財産を探すことができる特別な方法はありません。預貯金、土地建物などの不動産、株式などの有価証券など個別の相続財産を相続人が根気よくコツコツ探していくことが必要です。
本コラムでは、遺産を隠された疑いがあるときの調査方法や、遺産隠し発覚後の対応方法、時効などの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
本記事では遺言無効確認訴訟について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が詳しく解説します。
不動産に関する相続手続きのなかでも、特に問題となりやすいものが「未登記建物」です。未登記建物を相続する場合、遺産分割協議書の作成には、十分に注意しましょう。
本コラムでは、未登記建物の相続に関わる問題点や遺産分割協議書の作成方法など、一連の相続手続きにおける未登記建物の取り扱いについて、相続業務を幅広く取り扱っているベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、表題部の記載のみで、所有権保存登記などの権利部の記載がない建物は、多数存在しているのが実情です。そして、そのような建物も未登記建物と呼ばれることもありますが、本コラムでは、表題部すらない未登記建物に限定して説明します。