遺産相続コラム
令和3年4月に「民法の一部を改正する法律」が成立し、令和5年4月1日に施行されます。改正民法では、遺産分割協議に関して、特別受益と寄与分の主張をすることができる期間を相続開始の時から10年とするという内容の期限が設けられることになりました。
10年を経過してしまうと、本来主張できるはずの権利を主張することができなくなってしまうおそれがあります。そのため、長期間遺産分割をせずに放置しているという方は、早めに遺産分割の手続きを進めていかなければなりません。
本コラムでは、令和5年施行改正民法の概要とその影響について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産分割協議とはどのような制度で、どのような期限が設けられているのでしょうか。以下では、遺産分割協議に関する概要について説明します。
遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の遺産について、誰が、どのような遺産を、どのくらいの割合で相続するかを話し合う手続きです。
被相続人が遺言書を作成せずに死亡した場合には、被相続人の遺産は、法定相続人の法定相続分に応じた共有状態となります。共有状態のままでは、遺産である預貯金の払い戻しをすることができず、不動産の利活用も困難になるなどの弊害があることから、遺産分割協議によって遺産分割方法を話し合うことになるのです。
各相続人が遺産について共有持分を有することになるため、遺産分割協議を有効に成立させるためには、すべての相続人の合意が必要になります。したがって、相続人が一人でも欠けている場合には、遺産分割協議は原則として無効になってしまう点に注意が必要です。
遺産分割に関する期限としては、相続税の申告に関する10か月の期限や相続放棄の3か月の期限があります。他方で、改正前民法では、遺産分割協議には、特に期限は設けられていなかったため、相続開始から何十年たったとしても遺産分割協議をしていても問題ないとされていました。
しかし、令和5年施行の改正民法では、遺産分割協議において特別受益と寄与分の主張をする場合の期限が相続開始の時から10年と定められることになりました。
いずれも遺産相続における相続人間の不公平等を解消するための制度ですが、改正民法では相続開始の時から10年を経過するとこれらの権利を主張することができなくなってしまいます。
なお、民法改正によって、遺産分割協議自体に期限が設けられたわけではありません。しかし、有利に遺産分割協議を進めるためには、実質的には10年以内に行わなければならないのです。
遺産分割協議で問題となりうる特別受益や寄与分の主張について期限が定められたことによってどのような変化があるのでしょうか。
以下では、期限が定められた目的や期限が定められたことによる影響について説明します。
改正前民法では、特別受益や寄与分を含む遺産分割協議に期限が設けられていなかったこともあり、遺産分割を放置していたとしても相続人には不利益が生じませんでした。そのため、「他の相続人との話し合いが面倒」、「遺産分割の手続きに費用がかかる」などの理由で、遺産分割協議をすることなく長期間遺産分割を放置している事案も多く存在していました。
しかし、遺産分割協議を長期間放置していると、次々に代替わりが進み、いざ遺産分割協議をしようとしても誰が相続人であるかわからず、遺産分割協議に困難が生じてしまいます。また、登記簿上の不動産の名義人と実際の所有者(相続人)とが異なるため、所有者不明の土地が増加するなどの弊害が生じています。
そこで、特別受益および寄与分を主張する期限を相続開始の時から10年とすることで、実質的に遺産分割協議に期限を設けることとして、これらの問題を解消しようとしているのです。
繰り返しとなりますが、改正民法では、遺産分割において、特別受益および寄与分の主張をするためには、相続開始の時から10年以内にしなければならないとされています。そのため、相続開始の時から10年を経過してしまった後では、特別受益および寄与分の主張をすることができず、原則として、法定相続分(または指定相続分)でしか遺産分割をすることができなくなります。なお、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能です。
ただし、以下のようなケースでは、例外的に相続開始から10年を経過していたとしても、特別受益および寄与分の主張をすることが可能です。
上記のような例外的な事情がない限りは、10年経過により遺産相続において特別受益や寄与分を主張する権利を失ってしまいますので、早めに遺産分割の手続きを進めていくことが大切です。
改正民法は、令和5年4月1日に施行されますが、すでに相続開始から10年を経過している事案や改正民法施行後すぐに10年を迎えるという事案については、どのように扱われるのでしょうか。
このような事案については、民法改正による不利益が生じないようにするために、以下のような経過措置がとられています。
令和3年の民法改正では、遺産分割協議の期限のほかにも遺産分割に関係して以下のような改正が行われています。
不明共有者がいる不動産を対象として、新たに所有者不明土地・建物管理制度が創設されます。これにより共有者が不明な不動産のみを対象に財産管理人を選任することが可能になりましたので、従来よりも迅速かつ低額で財産管理人の選任を行うことができます。当該財産管理人は、遺産分割をする権限はありませんが、遺産共有持分に係る権限の範囲内での管理行為や持分の処分は可能となります。なお、本制度は区分所有建物については適用されません。
所有者不明の不動産の増加に歯止めをかけるために、これまでは任意とされていた相続登記が義務化されることになります。相続開始があったことを知り、かつ、当該不動産の取得を知った日から3年以内に、正当な理由なく相続登記をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることになります。
相続登記における資料収集等の手続き的負担を軽減するために、新たに相続人申告登記が可能になります。相続人申告登記は、相続人一人で相続登記をすることができる制度であり、他の相続人の協力がない場合や遺産分割協議が難航しているケースでの利用が期待されます。
登記官が住基ネットなど公的機関から登記名義人の死亡等に関する情報を取得して、職権により死亡の事実を登記に示すことが可能になります。
所有者不明の不動産の拡大を防止するために、所有権の登記名義人は、住所などの変更をした場合は、住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請をすることが義務付けられます。
相続人が相続又は遺贈によって取得した土地について、法令で定められた通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要する土地でないことといった一定の要件を満たすものについては、土地を手放して国庫に帰属させることが可能になります。
早期に遺産分割協議を終わらせるためには、以下のような方法を検討しましょう。
相続手続きを進める際、おそらくもっとも負担になるのは、手続きに必要になる書類が多いということでしょう。相続手続きにおいては、被相続人と相続人の関係を明らかにするために被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本が必要になるためです。
預貯金の払い戻し、相続登記、各種名義変更の場面でこれらの書類が必要になりますので、ひとつの手続きをしていると他の手続きができないという問題が生じます。
しかし、平成29年5月29日より開始された法定相続情報証明制度を利用すれば、複数の戸籍謄本などの書類を必要とせず、原則として1枚の法定相続情報一覧図を用いることができ、無料で複数枚交付を受けることができます。そのため、戸籍謄本などの束を何度も出し直す必要がなくなりますので、相続手続きに要する時間を短縮することが可能です。
相続手続きを放置してしまう原因が「手続きが面倒」、「どうやって手続きを進めればよいかわからない」などの理由であることが多いと考えられます。また、他の相続人との関係や遺産の内容によっては、争いが起きているケースもあるでしょう。
遺産分割の手続きは複雑なものになりますので、知識や経験がない方では適切に進めていくことは困難といえます。速やかに進めることが困難だと感じる場合には、弁護士に相談・依頼をすることによって、法的に適切な内容で遺産分割協議を終えることができる可能性が高まります。
弁護士であれば、相続人調査や相続財産調査にも慣れていますし、あなたの代理人として遺産分割協議を進めることができます。特別受益や寄与分が問題となる事案についても法的観点から問題を整理して、適切な解決方法を提案することが可能です。
遺産分割を長期間放置しているという方は、まずは、弁護士に相談をしてみることをおすすめします。
令和5年施行の改正民法によって、遺産分割における特別受益や寄与分の主張については、相続開始の時から10年という期限が設けられることになりました。これは、遺産分割協議自体に期限を設けるものではありませんが、特別受益や寄与分などを主張するためには10年以内に行う必要があります。実質的に10年の期限が設けられたものといっても過言ではありません。
長期間遺産分割を放置しているのであれば、改正法を踏まえて早めに遺産分割協議に着手する必要があります。まずは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自分以外の相続人による「遺産隠し(財産隠し)」が疑われるときは、被相続人(亡くなった方)の隠されたすべての財産を調査し、発見したいと考えるでしょう。
また、遺産分割協議が終わったあとに特定の相続人による遺産隠しが発覚した場合、遺産分割協議のやり直しができるのかも気になるところです。
相続人による遺産隠しが行われたとき、一気にすべての相続財産を探すことができる特別な方法はありません。預貯金、土地建物などの不動産、株式などの有価証券など個別の相続財産を相続人が根気よくコツコツ探していくことが必要です。
本コラムでは、遺産を隠された疑いがあるときの調査方法や、遺産隠し発覚後の対応方法、時効などの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
本記事では遺言無効確認訴訟について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が詳しく解説します。
不動産に関する相続手続きのなかでも、特に問題となりやすいものが「未登記建物」です。未登記建物を相続する場合、遺産分割協議書の作成には、十分に注意しましょう。
本コラムでは、未登記建物の相続に関わる問題点や遺産分割協議書の作成方法など、一連の相続手続きにおける未登記建物の取り扱いについて、相続業務を幅広く取り扱っているベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、表題部の記載のみで、所有権保存登記などの権利部の記載がない建物は、多数存在しているのが実情です。そして、そのような建物も未登記建物と呼ばれることもありますが、本コラムでは、表題部すらない未登記建物に限定して説明します。