遺産相続コラム
被相続人が死亡した場合には、相続人が相続手続きを進めていく必要があります。相続手続きは、相続財産の種類・内容によって異なります。そのため、どのような手続きが必要になるのかをしっかりと押さえておくことが大切です。
また、それぞれの手続きを進めるにあたっては費用がかかります。あらかじめ必要となる費用を知っておくことで、相続手続きに関する不安が少しは和らぐといえるでしょう。
今回は、相続手続きに必要となるケース別の費用と相続手続きを依頼できる各専門家の特徴について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続手続きはどのような流れで進むのでしょうか。また、相続手続きにおいてはどの程度の費用がかかるのでしょうか。
相続手続きの一般的な流れとしては、以下のようになります。
① 遺言書の有無を確認
亡くなった方(被相続人)が遺言書を残していた場合には、原則として遺言書の内容を遺産分割協議より優先することになります。そのため、被相続人が死亡した場合には、まずは、遺言書の有無を確認します。
自筆証書遺言であれば自宅または法務局で保管をしていることがあります。また、公正証書遺言であれば公証役場で照会することで遺言書の有無が判明します。
② 相続人・相続財産の調査
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の同意が必要になりますので、その前提として誰が相続人であるかを調査しなければなりません。相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本を取得する方法によって行います。
また、遺産分割協議では被相続人の遺産を分けることになりますので、相続財産調査も必要です。相続財産には、現金、預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産も含まれますので注意が必要です。
③ 遺産分割協議
被相続人の遺言書がない場合には、相続人による遺産分割協議によって被相続人の遺産の分け方を話し合います。遺産分割協議は、相続人全員が参加する必要がありますが、一堂に会する必要はありませんので、手紙、電話、メールなどの方法によって、遺産分割方法を決めていきましょう。
遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で押印をします。
④ 相続税の申告・納付
遺産が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を上回っている場合には、相続税の申告が必要になります。相続税の申告は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月目の日までに、被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出するとともに、納付税額が算出される場合には、納税しなければなりません。申告書の提出期限に遅れて申告と納税をした場合には、原則として加算税および延滞税がかかりますのでご注意ください。
参考:遺産相続の流れ
相続手続きを進める場合には、戸籍謄本や印鑑証明書などの必要書類を取得する必要がありますので、それらの書類を取得するための費用がかかります。具体的な費用については、以下の表のようになりますが、市区町村によって手数料が異なることもありますので注意が必要です。
書類 | 取得場所 | 手数料 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 被相続人の本籍地の市区町村役場 | 1通 450円 |
除籍謄本 | 1通 750円 | |
改正原戸籍謄本 | 1通 750円 | |
戸籍の附票 | 1通 300円 | |
住民票 | 被相続人の最後の住所地の市区町村役場 | 1通 300円 |
印鑑証明書 | 各相続人の住所地の市区町村役場 | 1通 300円 |
固定資産税評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場 | 1通 300円 |
登記事項証明書 | 法務局 | 1通 600円 |
相続手続きにかかる基本的な費用は上記のとおりですが、それ以外にも相続手続きを進めるにあたって費用が生じることがあります。以下では、相続手続きのケース別に必要となる費用について説明します。
遺産分割協議書を作成する場合には、以下の書類が必要になります。
基本となる必要書類の取得費用以外には特に費用がかかることはありません。必要書類の取得費用としては、相続人の人数や相続財産の内容によっても変わってきますが、1万円から2万円程度かかるといえるでしょう。
ただし、弁護士などの専門家に依頼をした場合には、別途費用がかかります。
遺産分割調停とは、遺産分割について相続人による話し合いで解決できない場合に利用する裁判所の調停手続きです。遺産分割調停では、中立の立場の調停委員が当事者から話を聞き、問題解決のために必要な助言や解決案の提示を行ってくれます。
家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをする場合には、以下の書類が必要になります。
また、遺産分割調停の申し立てにあたっては、以下の費用がかかります。
相続放棄とは、被相続人の遺産を相続する一切の権利を放棄する手続きです。相続放棄をすると、現金などプラスの財産を受け取らないだけでなく、負債などマイナスの財産についても責任を負うことはなくなります。被相続人に多額の借金がある場合や相続争いに巻き込まれたくないという場合、相続放棄の手続きを検討することがあるでしょう。
相続放棄は、相続開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
相続放棄をする場合には、以下の書類が必要になります。
申述人とは、その申し立てによって相続放棄をしたい人のことを指します。
また、相続放棄の申し立てにあたっては、以下の費用がかかります。
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が、侵害された遺留分に相当するお金を取り戻す請求のことをいいます。相続人には、遺留分という最低限の遺産の取得割合が保障されていますので、被相続人の遺言によって遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額請求をする場合には、遺留分侵害額請求権を行使したことを明確にしておくために、配達証明付きの内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。その場合の費用は、相手に送る文書の枚数によって異なりますが、1000円から2000円程度かかります。
上記のケースは、いずれも相続開始後の相続手続きになりますが、相続トラブルが生じないようにするためには、生前の相続対策が有効となります。生前の相続対策としては、遺言書の作成が代表的なものとなりますが、より確実なものにするためにも公正証書遺言の作成をおすすめします。
公正証書遺言の作成は、公証役場の公証人が行いますので、公証人に支払う手数料が必要になります。公正証書作成の手数料は、相続財産の金額に応じて以下のように決まっています。
相続財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万7000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 2万3000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 2万9000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 4万3000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
なお、全体の財産が1億円以下の場合は、上記の手数料額に1万1000円が加算されることになります(遺言加算)。
相続手続きにかかる費用は、相続財産の内容によっても異なります。
相続財産に不動産が含まれる場合には、不動産の名義を被相続人から不動産を相続した相続人に変更する必要があります。これを「相続登記」といいます。
相続登記をする際には、以下の書類が必要になります(遺産分割の場合)。
また、相続登記をする場合には、登録免許税という税金も発生します。登録免許税の金額は、土地または建物の評価額(固定資産税評価額)に0.4%の税率をかけて計算します。
遺産分割協議が成立した場合には、その内容に従って預貯金の払い戻し手続きを進めていくことになります。預貯金の払い戻し自体には費用はかかりませんが、遺産分割協議に必要となる書類取得費用がかかりますので、1~2万円程度の費用が必要になります。
有価証券を相続した場合には、被相続人が取引していた証券会社や信託銀行に名義変更の申請をすることによって、有価証券の名義を被相続人から相続人に変更をすることができます。
有価証券の名義変更自体には、費用はかかりませんが、預貯金と同様に遺産分割協議に必要となる書類取得費用がかかりますので、1~2万円程度の費用が必要になります。
被相続人が自動車やバイクを所有していた場合には、名義変更の手続きが必要になります。名義変更にあたっては、遺産分割協議に必要となる書類取得費用(1~2万円)のほかに、以下の費用がかかります。
相続手続きを自分だけで進めることが難しいという場合には、以下のような専門家に依頼して行うこともできます。
弁護士は、法律問題解決の専門家ですので、相続に関する問題であればどのような問題でも対応することができます。遺産相続をめぐって相続人同士で争いが生じたとしても、弁護士であれば、相続人の代理人として交渉をすることができ、遺産分割調停や審判の手続きを代理で行うこともできます。
そのため、相続に関してトラブルが生じた場合には、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。
司法書士は、登記の専門家ですので、相続財産に不動産が含まれている場合には、相続登記を司法書士に依頼することになります。
司法書士も遺産分割協議書を作成できますが、争いのあるケースでは相続人の間に入って折衝・調整をすることはできませんので、その場合には弁護士に依頼をするようにしましょう。
税理士は、税金に関する専門家ですので、相続税の申告が必要な場合には、相続税の申告を税理士に依頼することになります。また、節税対策についてもアドバイスをしてもらうことができますので、生前の相続対策も相談することができるでしょう。
行政書士は、役所などに提出する書類を作成する専門家です。相続人同士で争いがなく、遺産分割協議書だけを作成してほしいという場合には、遺産分割協議書の作成に関して行政書士に依頼することができます。
相続手続きには、さまざまな種類があります。また相続手続きの中には期限が設けられているものもありますので、迅速に手続きを進めていく必要があります。相続手続きが初めての場合、スムーズに進めることが難しい可能性もありますので、専門家に手続きを依頼することをおすすめします。
ベリーベストでは、弁護士だけでなく、司法書士、税理士といった相続に関する各専門家が在籍していますので、相続に関するあらゆる手続きにワンストップで対応することが可能です。相続問題でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。