遺産相続コラム
相続人による遺産分割協議がまとまったとき、遺産分割協議書を作成したほうがよいといわれています。
しかし、遺産分割協議書が必要とされる理由や、遺産分割協議書を自分で作る場合に必要な下準備・掲載すべき項目などについて、熟知されている方はさほど多くないでしょう。遺産分割協議書は、専門家でなければ作成できないというものではありませんが、自分で作る場合には、注意すべきポイントがいくつかあります。
今回は、遺産分割協議書を自分で作る場合のポイントや弁護士に相談すべきケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産分割協議書を自分で作ることはできるのでしょうか。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議によって相続人全員が合意した内容をまとめた書面のことをいいます。
まず、不動産の相続登記や預貯金などの名義変更の手続きにおいては、遺産分割協議書が必要となります。さらに、遺産分割協議書は、相続人の間で成立した合意内容を客観的に証明できる書面です。確実に作成しておくことで、後日になって水掛け論になるなど、合意内容をめぐるトラブルが発生する事態を防止することができます。
したがって、遺産分割協議書は、遺産分割協議が成立した場合には、作成すべき書面といえるでしょう。
遺産分割協議書は、弁護士や司法書士といった専門家でなければ作成することができない書面であると考えている方もいますが、実は、個人でも作成することが可能です。
内容に不備がなければ、個人で作成した遺産分割協議書であっても有効なものとして扱われます。したがって、個人が作成した遺産分割協議書を使って相続登記や、預貯金の名義変更などの手続きを行うことができます。
ただし、被相続人(亡くなった方)の遺産に関する権利関係を確定したことを証明する重要な書面が遺産分割協議書です。万が一、内容に不備があった場合には、相続人同士でトラブルになるリスクがあります。
そのため、個人で作成することに関して少しでも不安があるという場合には、弁護士に相談をしたほうがよいでしょう。
法的に有効な遺産分割協議書を作成するためには、作成前の下準備が必要となります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ有効に成立させることはできません。相続人のうち1人でも協議に参加していなかったり、合意していなかったりすれば、当該遺産分割協議はすべて無効になってしまいます。
そのため、遺産分割協議書を作成する前提として、まずは、誰が相続人になるのかを確認する必要があります。相続人を確認するためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本を取得します。
相続人の調査をするためには、法定相続人の範囲について、民法の規定を理解しておくことが大切です。
相続放棄をした相続人は、相続資格を失いますので、遺産分割協議には参加できません。
参考:相続人調査
遺産分割協議では、被相続人の遺産を相続人で分配していくことになります。そのため、遺産分割協議書を作成する前提として、被相続人の相続財産を調査する必要があります。
被相続人の相続財産に漏れがあった場合には、漏れがあった財産に対して再度遺産分割協議をしなければならなくなったり、場合によっては遺産分割協議自体のやり直しが必要になったりすることもありますので、正確な調査が必要です。
相続財産調査は、不動産、動産、現金、預貯金、有価証券、保険など相続財産の種類ごとに調査方法が異なります。多岐にわたる調査が必要となるので、個人の方が仕事などの間を縫って進めることは難しいかもしれません。
参考:相続財産(遺産)調査
相続人の調査と相続財産の調査が終了した段階で、相続人による遺産分割協議を行います。
遺産分割協議では、誰がどの財産を相続するのかを決めていきますが、相続財産の種類や内容によっては、現物分割ではなく、代償分割、換価分割、共有分割という遺産分割の方法をとることもあります。
また、被相続人の生前に多額の現金を受け取っていた相続人がいた場合には、特別受益の持ち戻しをしなければならないこともありますし、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人がいる場合には、寄与分を考慮して相続分を決める必要もあります。
このようなことをすべて考慮した結果、遺産分割協議が成立した場合には、その内容を遺産分割協議書に記載することになります。
遺産分割協議書は、遺産分割の具体的な状況に応じて記載すべき項目が異なってきます。以下では、ケース別に遺産分割協議書に記載が必要になる項目について説明します。
相続財産に不動産が含まれる場合には、相続の対象となる不動産を特定する必要があります。
遺産分割協議書には、不動産全部事項証明書を参照しながら、以下のような情報を記載する必要があります。
被相続人に借金があった場合には、相続の対象の財産に借金も含まれることになります。被相続人の借金については、法定相続分に応じて各相続人が負担することが原則となりますが、遺産分割協議の結果、法定相続分とは異なる負担割合にすることも可能です。
ただし、相続人間でそのような合意をしたとしても、それはあくまでも相続人間での約束事にとどまります。つまり、債権者の同意がない限りは、法定相続分とは異なる負担割合を債権者に主張することはできません。
なお、相続財産に借金が含まれる場合の遺産分割協議書への記載例としては、以下のようになります。
「相続人○○は、被相続人の債務をすべて負担する。」
遺産分割協議の対象になっていなかった新たな財産が見つかった場合には、その財産を対象として、再度遺産分割協議を行わなければなりません。
しかし、わずかな遺産であるにもかかわらず、再度遺産分割協議をしなければならないというのは相続人にとっても負担となります。そこで、当初の遺産分割協議において、後日新たな財産が見つかった場合の処理について定めることもあります。
具体的な遺産分割協議書への記載例としては、以下のようになります。
「本協議書に記載のない遺産および後日新たに判明した遺産については、相続人〇〇が取得する。」
遺産分割協議書を自分で作成する場合には、以下の点に注意が必要です。
遺産分割協議書には、法律上決まった書式があるわけではありません。手書きでもよいですし、パソコンを利用して作成することも可能です。
しかし、パソコンを利用する場合であっても相続人の住所・氏名の記載は、相続人の手書きが望ましいといえます。また、実印での押印といった必須事項を落とさないように注意しましょう。
遺産分割協議書のひな形(テンプレート)は、インターネットや書店などで入手することができます。そのため、自分で遺産分割協議書を作成するときは、それらを利用して遺産分割協議書の作成をしようと考える方は多いようです。
しかし、インターネットなどで掲載されているひな形は、あくまでも一般的な相続のケースを想定したひな形になっています。個々の具体的な事案でそのひな形が利用できるとは限りません。
また、最新の法令に対応したものであるかどうかの判断も難しいため、ひな形はあくまでも参考程度にとどめておき、弁護士に相談をしながら具体的な内容を考えていくことをおすすめします。
遺産分割協議が成立した場合には、その内容を遺産分割協議書に記載することになります。しかし、遺産分割協議書を自分で作成する場合には、遺産分割協議書への記載漏れや曖昧な記載によって、後日相続人同士でトラブルが生じる危険があります。
遺産分割協議書の記載事項は、遺産分割協議の内容を踏まえて、過不足なく記載していかなければなりません。しかし、そのような記載をするためには遺産相続に関する知識と経験がなければ適切に行うことが難しいでしょう。
そのため、後日のトラブルを防止するためにも遺産分割協議書の作成は、弁護士に一任してしまうほうが、後日発生しがちなトラブルを回避することができます。
遺産分割協議書は、専門家でなくとも作成すること自体は可能です。しかし、一般的なひな形を利用した遺産分割協議書では対応できないケースも多いですし、個々の事情は異なるものです。さらに、記載内容に漏れがあった場合には将来トラブルに発展するリスクがあることは否定できません。
そのため、遺産分割協議書の作成については、専門家である弁護士に任せることをおすすめします。遺産相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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