遺産相続コラム
被相続人が死亡して相続が開始したとき、被相続人の遺産は、相続人同士が話し合う「遺産分割協議」によって相続人で分割することになります。
しかし、遺産の評価や分割方法について争いがある場合には、相続人間の遺産分割協議では合意が成立しないケースがあります。そのようなケースにおいては、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、遺産分割の問題に関して解決を図ることになるのです。
本コラムでは、遺産分割調停はどの家庭裁判所に申し立てをすればよいのか、調停の相手方が複数人いる場合にはどのように対応すればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まず、遺産分割調停はどこの家庭裁判所が管轄するのかについて、基本的な事項から解説します。
相続は、被相続人が亡くなったときに開始します。この際、被相続人が遺言書を残さずに死亡した場合や遺言書があっても遺産の分け方について割合のみ決めてあったような場合には、被相続人の遺産をどのように分割するかを決めるために、相続人全員で話し合いをしなくてはなりません。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議によって相続人全員で合意が成立すれば、協議の内容に従って遺産を分割することが可能です。
しかし、遺産分割協議が成立するためには、相続人全員の同意が必要となります。遺産の評価や分割方法などについて争いがあり、ひとりでも遺産分割に反対している相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることはできないのです。
このような場合には、話し合いを継続しても解決を図ることが困難であるため、次の段階として、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人の間に入って話し合いを進行します。そのため、調停では、当事者同士で話し合いをするよりも話し合いがスムーズに進み、合意が成立しやすくなるのです。
遺産分割調停をするためには、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをする必要があります。
「どこの裁判所が事件を担当するのか」ということを、法律用語で「管轄」といいます。裁判所は全国に複数存在しますが、当事者が勝手に好きな裁判所を選んで申し立てをすることができるわけではありません。
遺産分割調停については、家事事件手続法245条1項にしたがい、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることが多いです。当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てることもできますが、これについては後述します。
たとえば、申立人が東京都に住んでおり、相手方が大阪市に住んでいる場合には、相手方の住所地の大阪を管轄する家庭裁判所である大阪家庭裁判所に調停の申し立てをしなければならないのです。
遺産分割調停を申し立てる場合には、相続人全員を相手方として申し立てをしなければなりません。相続人が複数いる場合には、調停に関わる当事者の数も増えるため、管轄も複雑になってきます。
このように複数人が関わる遺産分割調停のケースでは、申立人は、他の相続人である相手方の住所地を管轄する家庭裁判所から自由に選ぶことが可能です。
たとえば、申立人が神奈川県に住んでおり、相手方Aが大阪市、Bが名古屋市、Cが札幌市、Dが東京都に住んでいる場合には、以下の家庭裁判所が管轄となります。
A:大阪家庭裁判所
B:名古屋家庭裁判所
C:札幌家庭裁判所
D:東京家庭裁判所
調停においては、原則として家庭裁判所に出頭する必要があります。したがって申立人としては、遠方の裁判所よりも自宅から近い裁判所を選択した方が交通費などの負担を抑えることができます。
上記のケースでは、自宅に近い東京家庭裁判所を選択することになるでしょう。
以下では、遺産分割調停から遺産分割審判に移行した場合の管轄について解説します。
遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官が当事者の主張を聞いたうえで、遺産の分け方を判断するという手続きです。
遺産分割調停では、基本的には、各当事者が話し合いによって遺産分割方法を決めることになります。一方で、遺産分割審判では、法定相続分に従った分割となります。
遺産分割審判のメリットは、当事者である相続人間の意見が一致しないような場合でも必ず結論が出るという点です。
しかし、法律に拘束された裁判官の判断となるため、相続人が望んでいた解決とは異なる結果になる可能性がある、というデメリットも存在します。
遺産分割審判は、遺産分割調停が不成立になった場合に、特別の申し立てを要することなく自動的に審判手続きに移行します。
また、遺産分割調停を経ることなくいきなり遺産分割審判を申し立てることも可能です。
ただし、調停を経ずに審判の申し立てをしたとしても、家庭裁判所が「当事者による話し合いの余地がある」と判断した場合には、審判ではなく調停に付されることもあります。
遺産分割審判には、「調停から移行した場合」と「当初から審判を申し立てる場合」の、2つのケースがあります。
そして、どちらに該当するかにより、管轄も異なる可能性があります。
「管轄裁判所が遠方であり、移動が大変だ」という場合には、合意管轄や電話会議システムを利用することによって、負担を軽減することができます。
遺産分割調停では、当事者の合意によって担当する家庭裁判所を選ぶことができます。これを「合意管轄」といいます。
たとえば、申立人が東京都に住んでおり、相手方が大阪市に住んでいる場合、遺産分割調停を申し立てるには、相手方の住所地である大阪家庭裁判所に申し立てをするのが原則です。
しかし、移動の負担を考慮して、申立人と相手方の中間地点である名古屋家庭裁判所を合意管轄にするということも可能です。
なお、合意管轄を利用するためには、当事者が合意をしていることを示すために、「管轄合意書」という書面を作成して裁判所に提出する必要があります。合意管轄は、あくまでも当事者の合意によって選択するものであるため、ひとりでも反対している当事者がいる場合には利用することはできません。
初めから遺産分割審判を申し立てる場合には、当事者の合意によって担当する家庭裁判所を選ぶことはできません。ただし、上記のとおり、調停から審判に移行するケースでは、遺産分割調停を行っていた家庭裁判所で引き続き遺産分割審判を行うこともあり得ます。
合意管轄を利用することができない場合には、遺産分割調停の申立人は、遠方の裁判所に出頭しなければならないこともあります。しかし、本人の病気や年齢の問題、または小さい子どもがいるなどの理由から、遠方への移動が困難であるという場合も少なくありません。
そのような場合には、「電話会議システム」を利用して遺産分割調停を行うことも可能です。
電話会議システムとは、管轄裁判所に出頭することなく電話で手続きを進めることができる方法です。当事者は、最寄りの家庭裁判所に行き、管轄の家庭裁判所と最寄りの家庭裁判所で電話をつないで、話し合いを進行することができます。
また、弁護士に依頼している場合には、最寄りの裁判所ではなく、代理人である弁護士の事務所で電話会議システムを利用することも可能です。代理人の法律事務所に家庭裁判所から電話連絡があり、法律事務所で調停の手続きを進めることが可能です。
ただし、電話会議システムは、「希望すれば必ず利用することができる」というものではありません。利用する必要性があることを裁判所に伝えて、認めてもらう必要があります。
また、電話会議システムの利用を認められたとしても、話し合いの進行状況によっては、一度は裁判所に出頭を求められる可能性がある点に留意してください。
遺産分割調停の申し立てをお考えの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
遺産分割調停は、基本的には話し合いの手続きになります。
しかし、家庭裁判所という慣れない環境で、初めて会う調停委員に対して、ご自身の主張をすべて伝えることが困難な場合もあるでしょう。話し合いであっても、全く自由な話し合いができるものではなく、法的なルールは存在します。弁護士は、依頼された方の代理人として遺産分割調停に同席することができます。依頼された方に有利な事情がある場合には、法的観点から、説得的に調停委員に伝えることも可能です。また、弁護士は、必要に応じてそれらの主張を書面にして裁判所に伝えるので、ご自身の主張をより明確に裁判所に伝えることができます。
また、相手方から提案された遺産分割方法が適切なものであるかについても弁護士であればその場で判断することもできます。初めての調停で不安がある場合にも、弁護士が一緒にいることによって、安心して手続きを進めることができるでしょう。
遺産分割調停では、管轄の問題によって遠方の裁判所に申し立てをしなければならないということも少なくありません。
遠方の裁判所で遺産分割調停をする場合には、移動のための交通費や弁護士への日当などの費用負担も大きくなってしまいます。
ベリーベスト法律事務所では、全国各地に複数のオフィスを有しております。そのため、遠方の裁判所で遺産分割調停をすることになったという場合でも、最寄りのオフィスと連携して対応することにより、ご依頼者さまの負担を最小限に抑えることが可能です。
審判に移行した場合にも、引き続き弁護士が対応しますので、安心してご依頼ください。
遺産分割調停を申し立てる場合には、「どこの裁判所に申し立てるのか」という管轄の問題が生じます。
遠方の裁判所に申し立てをしなければならないというケースでも、合意管轄や電話会議システムなどを利用することで、負担を軽減することが可能です。
ベリーベストには、弁護士だけでなく税理士や司法書士、弁理士なども在籍しており、相続に関するさまざまな問題について、ワンストップで対応することができます。遺産分割調停などの相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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