遺産相続コラム
親族が亡くなって遺産相続が発生した場合、遺産を誰の間でどのように分配するかが大きな問題となります。
民法の規定や関連する注意点を踏まえつつ、円滑に遺産相続を終えられるように対応しましょう。もし遺産相続に関する不安がある場合には、お早めに弁護士へご相談ください。
今回は遺産の分配方法について、民法のルールや注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
実際に相続人間で遺産の分配方法を話し合う前に、前提となる以下の準備を行う必要があります。
有効な遺言書があれば、原則として遺言書の内容に従って遺産を分配することになります。
そのため、まずは遺言書が存在するかどうかを調べましょう。
亡くなった方(被相続人)から遺言書の話を聞いていれば、その内容を手掛かりにして遺言書を探します。
また、被相続人の遺品を調べる中で、遺言書が発見されるケースもあります。
発見した遺言書は、公正証書遺言及び法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)により遺言書保管所に保管されている遺言書である場合を除き、家庭裁判所に提出して、検認の手続きをしましょう(民法第1004条第1項、同条第2項)。
もし遺言書が封印されている場合には、開封せずに保管しておき、相続人又はその代理人の立会いのもと、家庭裁判所にて開封の手続きを行いましょう(民法第1004条第3項)。
なお、検認及び開封の手続きは、後日の紛争に備えて、偽造・変造を防止し、遺言書の現状を保全する手続きですので、遺言が有効であることが確認できるわけではありません。だからといって、検認の手続きを怠ったり、家庭裁判所外で開封したりしたときは、5万円以下の過料に処せられますので(民法第1005条)、注意が必要です。
公平かつ後顧の憂いなく遺産を分配するためには、現存する相続財産を漏れなく把握することが大切です。遺産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もありますので、幅広く調べる必要があります。
被相続人の遺品を調べ、エンディングノートがあればその内容を確認して、相続財産の網羅的な把握に努めましょう。
後から遺産が判明したときには、判明した遺産についての分割を再度行えばよいのですが、他にも遺産があることを隠して遺産分割をするなどということをしてしまうと、遺産分割がやり直しになってしまう可能性もあるので、慎重に相続財産を把握した後は、相続人全員が正確に相続財産を認識して、遺産分割を行う必要があります。
参考:相続財産の調査
遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須です。
1人でも参加が漏れていると、遺産分割協議が無効となってしまうので、事前に相続人を確定しておくことが大前提となります。
相続人の範囲は、民法上相続人として定められている、被相続人と一定の身分関係にある者に限られます。相続人調査にあたっては、原則として被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得して調査する必要があります。
まずは、被相続人の死亡の事実が記載された謄本から、被相続人の出生までさかのぼっていきましょう。そこで判明した相続人の戸籍を取得して、相続人が現存しているかを確かめます。相続人がすでに死亡していたら、被相続人の死亡前に亡くなったのであれば、代襲相続人を調べます。被相続人の死亡後に亡くなっていたら、相続人の相続人を調べる必要があります。
戸籍等の書類を集めた後に「相続関係図」を作成すると、相続人の把握がしやすいのでおすすめです。法定相続人となるのが誰かは、後ほど、民法上の相続順位および法定相続分とともに詳しく解説します。
家族構成が複雑な場合は、たくさんの戸籍を取り寄せる必要があるので、弁護士にご相談ください。
被相続人が行った過去の生前贈与は、いわゆる「特別受益」として、相続分や遺留分の計算に影響を与える場合があります(民法第903条第1項、第1044条第1項、第3項)。
「特別受益」にあたるかどうかは、生前贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準として判断されます。具体的には、婚姻または養子縁組のための贈与、高等教育を受けるための学資、居住用の不動産の贈与またはその取得のための金銭の贈与、営業資金の贈与、借地権の贈与など、生計の基礎として役立つような財産上の給付は「特別受益」にあたると判断されることが多いでしょう。
そのため、預貯金口座の入出金履歴や、被相続人が保管していた贈与契約書などを参照して、生前贈与の流れについてもすべて把握しておきましょう。
ただし、別に過去のことはいい、実際に残された遺産だけを分けたいというのが法定相続人全員の考えであれば、生前贈与について踏み込まずに、今ある遺産だけを分けて終わりにすることもできます。
遺産の分配方法を決めるにあたっては、民法のルールが基準となります。
民法では、主に相続順位と法定相続分についてのルールが定められているので、基本的なポイントを理解しておきましょう。
被相続人の遺産を相続する権利は、民法で定める相続順位に従い、被相続人との続柄に応じて割り当てられます。
遺言書がある場合はその内容が優先されますが、遺言書で分配が定められていない遺産については、相続権を有する者の間で分配することになります。これが遺産分割です。
まず、必ず相続権を取得するのが法律上の「配偶者」です(民法第890条)。
次に、第1順位の相続人は「子」です(民法第890条、第887条第1項)。子には、実子だけでなく養子も含まれます。なお、普通養子の場合には、実方血族との親族関係は断絶しないため、養子は、養親だけでなく実親も相続することができます。
子がいない場合には、第2順位の相続人として、「直系尊属」(両親など)が相続権を取得します(民法第889条第1項第1号)。
さらに、子も直系尊属もいない場合には、第3順位の相続人として、「兄弟姉妹」が相続権を取得します(同項第2号)。
したがって、相続権を取得する者の基本的なパターンは、以下の7通りです。
なお、相続権を有していた子または兄弟姉妹が、相続開始前に死亡・相続欠格(民法第891条)・相続廃除(民法第892条)のいずれかによって相続権を失った場合、直系卑属である当該子の子(被相続人からみれば孫)または兄弟姉妹の子(被相続人からみれば甥・姪)が相続権を取得します(民法第887条第2項、第889条第2項)。
これを「代襲相続」といいます。
「子」の代襲相続人である直系卑属は「子」と同じく第1順位にあたりますので、「子」および直系卑属がいない場合に限り、はじめて第2順位の相続人として「直系尊属」が相続人となります。
相続権を有する者が取得できる遺産の割合として、「法定相続分」が定められています(民法第900条)。
遺産分割協議により、法定相続分とは異なる割合で遺産を分配することもできますが、法定相続分を実際の相続割合の目安とするのが一般的です。
相続人構成に応じて、法定相続分は以下のとおり決まっています。
なお、代襲相続人の相続分は、被代襲者と同じです(民法第901条第1項)。
配偶者のみ | 配偶者:すべて |
---|---|
配偶者+子(または代襲相続人) | 配偶者:2分の1 子(または代襲相続人):2分の1 |
子(または代襲相続人)のみ | 子(または代襲相続人):すべて |
配偶者+直系尊属 | 配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1 |
直系尊属のみ | 直系尊属:すべて |
配偶者+兄弟姉妹(または代襲相続人) | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹(または代襲相続人):4分の1 |
兄弟姉妹(または代襲相続人)のみ | 兄弟姉妹(または代襲相続人):すべて |
また、子・直系尊属・兄弟姉妹が複数いる場合には、上記の相続分を人数割りします(民法第900条第4号)。例えば、相続人が配偶者・子2人である場合には、子の相続分はそれぞれ4分の1となります。
相続人が遺産分割協議を行い、話し合いで遺産の分配方法を決めなければならないのは、以下の場合です。
被相続人が作成した有効な遺言書が存在しない場合、遺産の分配に関する取り決めが全くない状態です。
この場合は、すべての遺産の分配方法を、遺産分割協議で決定することになります。
有効な遺言書があったとしても、すべての遺産の分け方が決められているとは限りません。
もし遺言書の内容が一部の遺産しかカバーしておらず、分配方法が決まっていない遺産が存在する場合には、やはり遺産分割協議が必要となります。
遺言書があるケースでも、遺言書の内容に従わず、遺産分割協議によって異なる遺産の分配方法を定めることにつき、相続人全員が合意した場合、その合意は有効であると解されています。
この場合、相続人は改めて遺産分割協議を開催し、遺産の分配方法を決定することになります。
なお、相続人以外の者が遺贈(遺言による贈与)を受けていた場合、受遺者(遺贈を受けた人)全員の同意も必要です。
ただし、遺言執行者が指定されている場合に、遺言執行者の同意を得ずに遺言と異なる内容の遺産分割協議をした場合には、遺言執行者との間で紛争が発生しかねませんので、遺言執行者の同意を得るようにしましょう。
一部の相続人のみを優遇するなど、遺言書の内容が偏っているケースでは、相続人間の不公平を調整するために、「遺留分侵害額請求」ができる場合があります(民法第1046条第1項)。
遺産をあまりもらえなかった相続人は、遺留分侵害額請求を行うことで、遺産を多くもらった者から金銭を受け取れます。
遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められており、遺留分権を有する相続人を「遺留分権利者」といいます。
ここで、遺留分割合の計算方法について確認しましょう。
まず、遺留分権利者全体に留保されるべき相続財産全体に対する割合(総体的遺留分の割合)が民法上決められており、直系尊属のみが相続人の場合は遺留分を算定するための財産の価額の3分の1、それ以外の場合は2分の1となります(民法第1042条第1項)。そして、遺留分権利者のそれぞれに留保された持分割合は、総体的遺留分の割合に各自の法定相続分の割合を乗じて計算します(同条第2項)。
例えば、被相続人に配偶者と子1人がいた場合に遺留分割合がどのようになるか計算してみましょう。
また、遺留分侵害額請求権には消滅時効があり、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効により消滅しますので(民法第1048条前段)、注意しましょう。
もし遺留分に満たない遺産しか相続できなかった場合は、遺留分侵害額請求について弁護士にご相談ください。
遺産相続において、不動産の分割方法は、もっとももめやすいポイントの一つと言えます。
不動産の遺産分割方法には、主に以下の4つのパターンがあります。
それぞれの特徴を踏まえて、適切な方法を選択しましょう。
遺産相続の方法は、各相続人の利害関心に加えて、民法のルールも踏まえながら決定する必要があります。
遺留分をはじめとして、遺産相続に関する法律上の留意点は多岐にわたるため、早期に弁護士へご相談いただくことがおすすめです。
弁護士は、各相続人と綿密にやり取りを行い、できる限り皆が納得できる形での遺産相続を実現できるようサポートいたします。
遺留分などについても、十分に配慮した遺産相続の方法をご提案いたしますので、遺産分割後のトラブルのリスクを最小限に抑えられます。
遺産相続についてのご相談は、お早めに弁護士までご連絡ください。
遺産の分配方法は、民法のルールや法律上の注意点を踏まえて決定することが大切です。
経験豊富な弁護士のサポートを受けることで、遺産相続に関するトラブルを予防できます。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続を専門的に取り扱う弁護士・スタッフが一丸となって、円満・迅速に相続手続きを完了できるように尽力いたします。
また、グループ内に所属する税理士と連携して、相続税に関するご相談にも対応可能です。
遺産相続に関するお悩みを抱えておられる方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
相続人の中に連絡が取れない人がいる場合、その相続人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。たとえ大勢いる相続人うち、1人だけと連絡が取れない場合であっても、勝手に手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。また、連絡が取れても無視されている場合は、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てる必要があります。
今回は、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、連絡が取れても無視された場合も含めて弁護士が解説します。
平成30年、全国の家庭裁判所では遺産の分割に関する処分などを求める調停、いわゆる遺産分割調停が1万3739件受理されています。
これは基本的に遺産相続をめぐるトラブルの件数と考えてよいでしょう。
被相続人が亡くなったことの悲しみが癒えないなか、その遺産をめぐって家族や親族ともめることなど、誰もが避けたいところです。
特にさまざま事情で遺産を法定相続割合で平等に分けることが難しい場合の遺産分割協議(遺産を誰が・何を・どの割合で相続するか相続人どうしで話し合って決めること)は、仲のよい関係にある人ほどもめることもあります。それがきっかけで、もっとも大事な家族や親族との関係が失われてしまうこともあります。
そこで本コラムでは、遺産をめぐり家族や親族ともめることになってしまった場合、もめる原因は何が考えられるのか、そして解決するための最善の方法について弁護士が解説します。
親族が亡くなって遺産相続が発生した場合、遺産を誰の間でどのように分配するかが大きな問題となります。
民法の規定や関連する注意点を踏まえつつ、円滑に遺産相続を終えられるように対応しましょう。もし遺産相続に関する不安がある場合には、お早めに弁護士へご相談ください。
今回は遺産の分配方法について、民法のルールや注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。