遺産相続コラム
被相続人(亡くなった方)の遺産に農地が含まれている場合には、農地の相続をめぐって相続人同士でトラブルになることがあります。
被相続人から農業を承継することを予定している相続人としては、相続によって農地を取得することが必要不可欠となりますが、そのためにはどのような方法があるのでしょうか。
今回は、農地を相続する場合における円満な相続方法と注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
農地を相続する場合には、一般的な土地に比べて注意しなければならない点がいくつかあります。以下では、農地の相続・遺産分割の際の注意点について説明します。
一般的な土地であれば、建物を建てたり、駐車場にして第三者に貸したりするなどの活用が可能であり、不要な土地については売却してしまうことも比較的容易です。
しかし、農地の場合には、農業経営者以外の方では自分自身で利用することは難しく、売却の場合には農業委員会の許可(農地法3条)、宅地などに転用する場合には、都道府県知事の許可(農地法4条)が必要になるため、売却や活用が困難になることが多いでしょう。また、農地を利用せずに放置していても固定資産税が発生したり、管理義務の負担があったりするなど、資産価値に比べて負担が多いというのも特徴といえます。
そのため、遺産分割の際には、農地を取得する相続人がいないために遺産分割協議が長引くこともありますし、反対に農地を相続したいと考えても農地以外に遺産がないため他の相続人から不満が出るといったことも起こりえます。
このように、遺産に農地が含まれる場合には、遺産分割がしにくくなる傾向にあります。
遺産分割は相続人全員の権利ですので、複数の相続人が土地の相続を希望する場合には、土地を共有とすることや土地の分筆などによって各相続人に分割することがあります。
しかし、農業を営んでいる農地の場合には、食料・農業・農村基本法23条によって、裁判になったとしても田畑の分割は推奨されない傾向があります。そのため、複数の相続人が農地の取得を希望する場合には、田畑の分割では解決することができず、遺産分割が成立するまでに長期間を要するということも少なくありません。
農業を営むことなく放置された農地については、「耕作放棄地」となりさまざまなデメリットが生じます。たとえば、耕作放棄地になると、土壌が荒れて農地として再利用することが困難になる、雑草や害虫が発生する、廃棄物を不法投棄される、などの問題が生じやすくなります。
このような問題を抱えてしまい農地としての有用性が失われると、売却や寄付などによる処分がさらに難しくなります。
被相続人があらかじめ農業後継者である相続人に農地を渡せるよう、遺言書を残していることもあります。
遺言書があればスムーズに遺産相続ができるように思えますが、遺言書で指定されている財産を、その相続人が必ず相続できるというわけではないため、注意が必要です。また、被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合は、話し合い(遺産分割協議)によって遺産分割を進めていかなくてはなりません。
以下では、遺言書があるケースとないケースに分けて遺産分割の方法を説明します。
被相続人が遺言書を残していた場合には、遺言書の内容に従って遺産を分けることになります。特定の相続人に対して、すべての遺産を相続させる旨の遺言書も有効となりますので、たとえば農地を有する被相続人が「長男にすべての遺産を相続させる」という内容の遺言書を残した場合には、農地を含めてすべての遺産を長男が相続することになります。
しかし、相続人には、遺留分という最低限の遺産の取得割合が保障されています。そのため、遺言によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることによって、侵害された遺留分に相当する金銭を請求することが可能です。
このように、遺言があればすべての農地を取得することも可能ですが、遺産に占める農地の割合によっては他の兄弟(相続人)から遺留分の請求を受けるリスクがあります。
参考:遺留分とは
遺言書がない場合には、被相続人の遺産は、相続人全員による遺産分割協議によって分けることになります。相続人には、法定相続分がありますので、基本的には各相続人の法定相続分に応じて遺産を分けていきます。
しかし、被相続人が生前に特定の相続人に対して「自分が死んだら農地のすべてをあげる」などと言い、これに対して当該相続人が承諾した場合には死因贈与契約が成立している可能性があります。死因贈与とは、贈与者の死亡を原因として効力が生じる贈与契約のことであり、口頭でも有効に成立します。
もし、他の相続人が死因贈与契約の成立を認めてくれない場合には、裁判によって決着をつけなくてはなりません。この場合には、契約書などの書面が存在しない場合には、死因贈与契約の成立を客観的に証明することが困難となります。
このため、死因贈与契約をする場合には、必ず契約書を作成するようにしましょう。
遺言のある・なしにかかわらず、相続人の間で遺産分割について争いが生じる可能性はあります。
農業後継者が農地を単独で相続したいという場合には、以下のような方法を検討しましょう。
遺産分割においては、法律上、「寄与分」という制度が認められています。寄与分とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人がいる場合には、その相続人は貢献に応じて他の相続人よりも多くの遺産を取得することができるという制度です。
遺産分割は、基本的には相続人の法定相続分に応じて遺産を分割することになります。遺産に含まれる農地の評価額が農業後継者の法定相続分を上回っている場合には、寄与分の主張が認められれば、法定相続分を上回る遺産を取得することができ、結果として農地を単独で取得することができる場合があります。
ただし、遺産の大部分が農地であるような場合には、寄与分の主張だけでは農地を単独で取得することは難しい場合が多いでしょう。
遺産分割の方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割という4つの方法がありますが、代償分割の交渉をすることによって、農地を単独で相続することができる場合があります。
代償分割とは、特定の相続人が遺産を相続する代わりに、他の相続人に対して自己の資産から代償金を支払うという分割方法です。代償分割を選択することによって、農業後継者としては、農地を単独で取得することができ、他の相続人としても自己の法定相続分に相当する代償金の支払いを受けることができるため、公平な遺産分割を実現することができます。
しかし、代償分割を行うためには、相続人に代償金を支払うだけの資力があることが前提となりますので、代償金を支払うだけの資力がない場合にはこの方法をとることは難しいでしょう。
被相続人が農業従事者であり、相続人のうちの1人が被相続人の農業を継ぐという場合には、農業後継者がすべての農地を取得することになったとしても、一般的な相続に比べて、配偶者や兄弟などから反対が出ることは少ないといえます。
生前の被相続人の意向などを踏まえて他の相続人を説得することによって、農業後継者がすべての農地を取得することが可能になるケースもあります。そのため、農業後継者がすべての農地を取得することに納得してくれた相続人に対しては、相続分の放棄や相続分の譲渡をお願いしてみるとよいでしょう。
遺産分割を経て、農地を相続することになった場合には、以下のような手続きが必要になります。
一般的な不動産の相続と同様に、農地を相続した場合には農地の名義変更が必要になります。これを「相続登記」といいます。相続登記は、現行法上は義務ではありませんが、今後、罰則付きで義務化されることになりますし、権利に関する紛争防止のために、農地を相続した場合には、必ず名義変更を行うようにしましょう。
農地を相続した場合には、農地の存する市町村の農業委員会に対して農地法に基づく届け出が必要になります(農地法3条の3第1項)。相続によって農地を取得したときから10か月以内の届け出が必要となり、届け出をしなかったり、虚偽の届け出をしたりした場合には10万円以下の過料に処せられます(同法69条)。
なお、農地を処分する場合には、農業委員会の許可が必要になりますが、相続によって農地を取得した場合には、許可ではなく届け出で足りることになっています。また、生産緑地を相続した場合には、生産緑地の指定を継続する場合でも解除する場合でも農業委員会への届け出が必要になります。
被相続人の相続財産の総額が「3000万円+600万円×相続人の数」という相続税の基礎控除を超えている場合には、相続税の申告が必要です。農地が相続財産に含まれている場合には、相続税の申告の要否および相続税額の算定にあたって、農地の評価額を算定する必要があります。
農地は、その種類に応じて「倍率方式」または「宅地比準方式」という評価方法が採用されています。
農地の種類 | 評価方法 |
---|---|
純農地(農用地区域内にある農地など、宅地の価格の影響を受けていない農地) | 倍率方式 |
中間農地(都市近郊の農地で、売買価格が純農地よりも高い水準にある農地) | 倍率方式 |
市街化周辺農地(市街化農地ほどではないものの、宅地化の傾向が強い農地) | 市街化農地として評価した価額の80% |
市街化農地(都市計画により市街化区域と定められた地域における農地および既に転用の許可を受けた農地などで、宅地化の傾向が強いもの) | 倍率方式または宅地比準方式 |
なお、農地を相続した相続人が農業を継続するという場合には、相続税の納税猶予を受けることができる可能性があります。そして、相続税の納税猶予の適用を受けた相続人が死亡した場合には、相続税も納税が免除されます。
相続財産に農地が含まれている場合には、分割しにくいなどの特徴があるため、一般的な相続に比べてトラブルが生じやすいといえます。このようなトラブルを回避するためには、早めに弁護士に相談をすることが大切です。
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兄弟のうち、ひとりだけが生前贈与を受けて、土地などの不動産や現金を取得していることがあります。生前贈与を内緒にしていたことに対して、他の相続人は「自分の取り分が少なくなることに納得できない」と、憤りや不公平に感じるケースがあるでしょう。
一定の相続人は、「遺留分」と呼ばれる相続財産の最低限の取り分が民法上、認められています(民法1024条)。
したがって、自分の最低限の相続財産を侵害された場合には、遺留分を主張することで適切な相続分の支払いを請求することが可能です。
本コラムでは、遺留分や生前贈与の基本的な知識をはじめ、特別受益や遺留分侵害額請求の具体的な手続きの流れになどついて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
自分以外の相続人による「遺産隠し(財産隠し)」が疑われるときは、被相続人(亡くなった方)の隠されたすべての財産を調査し、発見したいと考えるでしょう。
また、遺産分割協議が終わったあとに特定の相続人による遺産隠しが発覚した場合、遺産分割協議のやり直しができるのかも気になるところです。
相続人による遺産隠しが行われたとき、一気にすべての相続財産を探すことができる特別な方法はありません。預貯金、土地建物などの不動産、株式などの有価証券など個別の相続財産を相続人が根気よくコツコツ探していくことが必要です。
本コラムでは、遺産を隠された疑いがあるときの調査方法や、遺産隠し発覚後の対応方法、時効などの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
本記事では遺言無効確認訴訟について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が詳しく解説します。