遺産相続コラム
相続手続を進める上で、注意しなければならないことのひとつとして「利益相反」があります。
利益相反とは、当事者が複数人いる場合に、一方にとっては有利となり、他方にとっては不利益となることを言います。利益相反は売買など一般的な取引でも起きるものですが、相続においては、どのようなケースで問題になる可能性があるのでしょうか。
本コラムでは、相続において利益相反が問題となるケースと対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、相続において利益相反が生じてしまう可能性があるのは、どのようなケースなのでしょうか。確認していきましょう。
未成年者や成年被後見人は、原則として単独で法律行為をすることができず、法律の規定により、次のように法定代理人が定められています。
こうした親権者・未成年後見人・成年後見人は、財産管理全般について代理権を行使することができます。
このような法定代理人がいるケースで、相続において利益相反が問題となり得るのは、①遺産分割と、②相続放棄の場面です。
① 遺産分割
相続人が複数人いる場合は、原則として遺産分割を行い、誰がどの財産を取得するかを相続人全員で決める必要があります。
遺産分割は、相続人全員が合意すれば自由に分割方法を決めることができますが、相続人とその相続人の法定代理人が共同相続人であれば、双方の間で利益が相反することになります。
たとえば、父が亡くなり、母(配偶者)と未成年の子どもが残された場合、法定相続人は母と子どもです。子どもが成人していれば、母と子どもで遺産分割協議を行います。しかし、子どもが未成年者であれば、親権者である母が法定代理人となります。つまり、母の思い通りに遺産分割ができてしまうことになります。
この場合、母と子どもは利益が相反する関係となるため、母は子どもを代理して遺産分割協議を行うことはできません。
なお、利益相反全般に共通することですが、利益相反の有無は実際に生じた利益や不利益から判断するものではなく、行為を外形的にみて形式的・客観的に判断されます。親権者の主観や内心の事情は判断の要素になりません。
つまり、たとえ未成年者や成年被後見人に有利な遺産分割をしたとしても、遺産分割という行為自体が利益相反行為であることから、代理人として行動することはできません。
② 相続放棄
相続人となった場合、遺産を相続せず相続放棄をするという選択肢もあります。相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます(民法 第939条)。
相続人全員が相続放棄をする場合、それによって利益を得る人がいないため、利益相反行為に該当することは基本的にはありません。しかし、法定代理人が未成年者や成年被後見人を代理して、未成年者や成年被後見人にのみ相続放棄をさせることは、利益相反となるため認められません。
たとえば、母と子どもがともに相続人になっているときに、母が子どもを代理して、子どもの相続放棄のみを行うことはできません。たとえ、その後、母自身も相続放棄するとしても、子どもだけの相続放棄をするということはできないのです。
被相続人(財産を残す方)は、遺言の中で、遺言の内容を実現させるために必要な行為(預貯金の解約や登記名義変更など)の権限を有する、「遺言執行者」を指定することができます。遺言執行者には、相続人のほか第三者を指定することも可能です。
遺言執行者は、遺言によって定められた事項を実行していくものなので、通常利益相反が問題になることはないですが、相続財産を売却するような場合は、利益相反が生じることもあります。
たとえば、「相続財産を売却して借金を清算した上で残った現金をAに相続させる」という遺言があった場合に、遺言執行者が相続財産を買い受けたとすると、民法が無権代理行為とみなしている自己契約となり、利益相反行為に該当します(民法第108条1項)。
親権者や後見人が代理行為をできない場合は、特別代理人を選任する必要があります。特別代理人は、子どもや成年被後見人の代理として、家庭裁判所が定めた行為を代理するという限定的な権限を有します。
特別代理人の人選や資格については法律上特に規定はありませんが、一般的に相続について利害関係がない親族や、弁護士などの専門職から選任されることがほとんどです。
特別代理人を選任する際の手続きの流れは、大まかに説明すると次のとおりです。
審判が下されると、審判所謄本が送られます。
特別代理人が選任された場合は、特別代理人であることを証明する書面となるため、大切に保管しましょう。
「1、利益相反行為とは? 相続で利益相反が問題になり得るケース」で解説したように、未成年者や成年被後見人に相続放棄をさせる場合は、共同相続人である親権者や後見人が代理して行うことはできません。
しかし、共同相続人である親権者や後見人自身が、相続放棄を選択することは可能です。自身の相続を放棄することで、未成年者や成年被後見人の代理人として、遺産分割を行うことができます。また、自身の相続放棄と同時に、子どもや成年被後見人の相続放棄を行うことも認められています。
ただし、共同相続人である法定代理人が相続放棄をしたとしても、未成年者の子どもなどが2人以上いる場合は、利益相反の関係が解消されないため注意が必要です。
なぜ、そのような事態になるのか、母と子ども2人(長男と次男)が法定相続人である場合を例に説明します。
母自身が相続を放棄することで、代理行為を行うことができるようになることは前述したとおりです。ただし、長男と次男、両方を代理して遺産分割を行うことはできません。なぜなら、長男の取り分を多くすれば、次男の取り分は減るということになり、子どもと子どもの間で利益が相反する関係になるためです。
このようなケースでは、長男の代理人が母で、次男のために特別代理人を選任するといった対応が必要です。
利益相反行為であるにもかかわらず、法定代理人が代理権を行使した場合は、「無権代理行為」に該当します。追認されなければ決めた事柄は無効として扱われます(民法第113条)。
追認とは、本来であれば取り消しに該当する行為ではあるものの、有効な法律行為であるとして認めることを指します。たとえば、親が無権代理行為をした場合、成人に達した子どもが追認をしなければ法律効果は子どもに帰属しないことになるため、遺産分割協議や相続登記などもすべて白紙となり、ゼロからやり直す必要が生じます。
未成年者が成年に達してから追認することや、家庭裁判所から選任された特別代理人が従前行われた遺産分割協議を追認することはできると考えられますが、追認されるまで相続財産は宙に浮いた状態となります。
未成年者や成年被後見人が相続人に含まれる場合は、特別代理人の選任が必要となるケースがほとんどです。
特別代理人は家庭裁判所が定める事項を実行するほか、その相当性を担保するという重要な役割を担います。特別代理人を頼める適任者がいない場合は、弁護士に依頼することも選択肢のひとつです。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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