遺産相続コラム
相続の当事者となると、他の相続人との交渉や役所での手続きなど、慣れない問題に対処していかなければなりません。特に遺産の中に不動産がある場合は、平等に分割することが困難で、遺産分割協議が難航する原因となりがちです。
そこで、不動産の相続に焦点を当てて「相続人の間でトラブルとなりやすい点と対処法」「相続開始から遺産分割、相続登記の手続き」「土地、一戸建て、マンションなど不動産の種類ごとの注意点」について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
被相続人(亡くなった方)の遺言がない場合、法律により決まる相続人(法定相続人)が協議して遺産を分割しなければなりません。
では、遺産の中に不動産がある場合はどのように分割すればいいのでしょうか。
不動産を遺産分割する方法は次の3通りです。それぞれのメリットとデメリットを合わせて解説いたします。
① 換価分割
相続人が不動産の維持を望まない場合は、不動産を売却して売却代金を分配する方法が用いられます。
なお、不動産を売却すると譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は、不動産の取得額からの値上がり分に課税される仕組みとなっており、値上がりによって資産価値が高くなった不動産は譲渡所得税の負担が重くなる可能性もあります。
② 代償分割
代償分割とは、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので現物分割が困難な場合に行われる方法です。
遺産分割協議書において、代償となる対価の内容を記載する必要があります。
参考:代償分割とは? 家をそのまま相続したい時の遺産分割方法をご紹介
③ 分筆による現物分割
現物分割とは、遺産をそのままの状態で分割する方法です。例えば、土地であれば、共有の土地を分筆して、複数の土地に分けて分割するという方法です。
誰が何を相続するのか白紙の状態で相続が発生すると、良好だった親族関係が険悪化することも珍しくありません。
遺産分割協議で起こりがちなトラブルについて解説します。
① 生前贈与による不公平感
被相続人が生前に行う贈与は、相続人が不公平感を抱きやすいポイントになります。
ただし、生前贈与は相続税対策としても有効な面があります。特に婚姻期間が20年以上の配偶者に対して居住用不動産を贈与した場合、2000万円まで贈与税がかかりません(おしどり贈与)。それ以外の贈与についても、贈与税は年間110万円の基礎控除があります。この年間110万円の贈与を続けることを暦年贈与といいます。しかし、相続開始から3年以内の贈与は相続税の課税対象となります(おしどり贈与を除く)。
なお、おしどり贈与を利用する場合、贈与税については2000万円まで非課税となりますが、不動産所得税や登録免許税は非課税になりません。相続の場合と贈与の場合とでは、贈与の場合の税率が高いため、注意が必要です。
また、毎年同じ相手に同じ金額を贈与していると連年贈与(贈与を毎年繰り返し行うこと)とみなされて税率が一気に上がりますので、この点も注意しなければなりません。
暦年贈与を検討される場合には、連年贈与であるとみなされないよう対処するため、弁護士にご相談ください。
② 不動産の評価額算定
代償分割など一部の相続人が不動産を相続するケースでは、その評価額の算定方法も揉めやすいポイントです。
不動産には定価といえるものがなく、不動産業者が査定した価格(実勢価格)や固定資産税算定の基礎となる固定資産税評価額を頼りにするしかありません。実勢価格と固定資産税評価額は2割程度隔たりがあるといわれているのが現状です。また、実勢価格を参考にするとしても、業者によって評価額が異なることもあり得ます。
これは不動産特有のトラブルともいえ、提示された価格に納得できない場合、家庭裁判所で調停などを行うことになります。それでも納得できない場合には、不動産鑑定士に鑑定を依頼して価格を決めることがありますが、費用がかかることが難点です。
また、感情的対立によって理性的な協議ができないということもよくあります。こういった場合には、弁護士に協議をサポートしてもらうという方法が打開策となるでしょう。
③ 不動産の登記名義が先代のままになっていた
不動産登記は実際の所有者と名義が異なっていることも少なくありません。
これは相続が原因となっているケースがほとんどです。かつての相続の際になんらかの理由で遺産分割協議がされなかったか、遺産分割協議の結果が登記に反映されないまま放置されることが原因とみられます。
この場合、先代の相続関係を調査して権利者をたどっていくほかなく、膨大な手間と時間がかかることになります。固定資産税の納付通知は登記名義人宛てに送付されますので、そういった通知書を目にした機会に登記情報を確認するなどして、早めの対処をすることが望まれます。
④ 予期しない「権利者」の出現
誰が相続人となるのかは法律で決まっているため、親族間では共通認識となっていることがほとんどです。しかし、婚外子は遺言により認知することができる(民法781条)ため、遺言によって新たな相続人が判明することがあります。
また、相続人以外の親族が被相続人の療養看護などに尽くした場合は、相続人に対して特別寄与料を請求できる制度が新設されました(民法1050条)。特別寄与料が請求できる親族は、相続人とならなかった6親等以内の血族、3親等以内の姻族です。被相続人の兄弟姉妹や、被相続人より先に他界した子どもの配偶者などが該当します。
相続開始を機にこういった問題が表面化する可能性も一応念頭に置いておくべきでしょう。
不動産を相続する場合の手続きの流れを解説します。
遺産分割には期限がありませんが、各種の権利行使や税金の申告・納付など期限について注意が必要なことがあります。
主な期限について押さえておきましょう。
遺留分侵害額請求権とは、法定相続人のうち配偶者や直系卑属(子どもや孫)、直系尊属(父母や祖父母)に認められる権利で、法で定める最低限の相続分を相続できなかった場合に行使できる権利です。
相続の対象となる財産や借金などの債務を遺品などから確認します。
不動産については登記申請手続きのオンライン化が進み、平成17年以降は権利証が「登記識別情報通知」に置き換わっています。なお、権利証や登記識別情報通知がなくても所有権が失われるわけではありません。
被相続人の財産は「財産目録」として書面化するのが一般的です。財産目録は法律で作成が求められているものではありませんが、遺産分割協議や相続税の申告の際に有用です。
相続人となる親族は法律で決まっており、法定相続人と呼ばれます。配偶者は常に相続人となり、血族相続人は、最も優先順位が高い血族が相続人となります。
法定相続人となる親族の範囲と法定相続分は次のとおりです。
順位 | 血族相続人 | 相続割合 | 配偶者の相続割合 |
---|---|---|---|
第1順位 | 直系卑属(子どもや孫) | 2分の1 | 2分の1 |
第2順位 | 直系尊属(父母や祖父母) | 3分の1 | 3分の2 |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 4分の1 | 4分の3 |
相続の開始によって、被相続人の財産は法定相続人が共有する状態になります。
各相続人が相続財産を引き継ぐためには、遺産分割協議により具体的な分割方法を全員の合意により決める必要があります。法定相続分による相続割合は、遺産分割の目安としては機能しますが、その割合に応じた財産を必ず相続できるというわけではありません。
遺産分割協議がまとまった場合は、対外的に証明するための遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産分割協議書が完成すると、被相続人の名義となっている資産を相続人名義に変更する必要があります。
預金や有価証券であれば、金融機関で手続きを行うことにより、相続人が自由に運用、処分できる状態となります。不動産の場合は相続登記をしなければ、第三者に対して所有者であることを主張できません。
遺産となる不動産の種類によっては、分割方法や税金の面で異なる問題が起きることがあります。
土地の場合、一戸建てやマンションの場合など、不動産の種類に応じた注意点について解説します。
建物がない分、分割方法に制約がありません。土地に境界線を引いて現物分割するという選択肢もあるのが大きな特徴です。その反面、土地だけでは収益力が限定的で、固定資産税の負担感が大きくなるという側面もあります。
特に一般的な宅地に適用される固定資産税の軽減措置が適用されないケースもあるので、固定資産税の負担を念頭に置いた検討が肝心といえます。
一戸建ての場合は、居住者の存在がポイントとなります。被相続人の配偶者など、その住居に愛着があり退去することに心理的抵抗が大きいということに配慮が必要な場面もあるでしょう。
被相続人の所有物件に居住している配偶者には次の権利が認められています。
① 配偶者居住権
土地と建物を住居として使用する権利で、配偶者固有の権利です。
配偶者が配偶者居住権を取得し、他の相続人が配偶者居住権を負担する所有権を相続することも選択肢となるでしょう。なお、配偶者居住権と所有権はそれぞれ財産的価値を評価した上で、相続税の課税対象となります。
② 配偶者短期居住権
配偶者は遺産分割協議がまとまるまでの間(または相続開始から最低6か月間)は、遺産となった住居に無償で居住し続ける権利が認められています。
逆に居住者がいない空き家についても注意すべき点があります。総務省が5年ごとに実施している住宅・土地統計調査によれば、平成30年には居住用住宅の空き家率が13.6%にも達していることが明らかになり、社会問題化しています。
空き家は相続により発生することが多く、空き家の増加を抑制するため次のような税制上の措置が設けられています。
マンションは、共用部分の維持・運営にかかる管理費や定期的なメンテナンスのために必要な修繕積立金を所有者が負担するため、固定資産税以外の維持費が必要となります。
また、マンションを資産としてみた場合は、築年数による資産価値の減少と修繕積立金の負担増というリスクも考慮する必要もあるでしょう。なお、マンションについても配偶者居住権の設定が可能ですが、管理費や修繕積立金を誰が負担するのかは事前に取り決めをしておく必要があるといえます。
相続問題の当事者になった場合、何から手をつければいいのか、誰に相談すればいいのか皆目見当もつかないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
前章でも触れましたが、相続手続きには各種の期限があります。これらの期限を意識しながら、短期間のうちに相続人や相続財産の調査などの繁多な事務作業に加えて、遺産分割協議を進めていかなければなりません。
法律問題についてのアドバイス、事務作業や交渉の代理まで依頼できる弁護士は、相続における最適のサポート役といえます。また、現に相続に関して争いが起きている場合だけではなく、争いが起きそうな段階でも、相続問題に関する経験が豊富な弁護士であれば、有効な対処法についてアドバイスを受けることができるでしょう。
なお、不動産が絡む相続の場合、法律問題は弁護士、登記手続きは司法書士、税金の申告は税理士など、分野によって特化した専門家が存在します。これらの専門家に必要な都度サポートを依頼することも可能ですが、伝言ゲームのように同じことを説明するのは手間ですし、誤った情報が伝わる可能性もあります。専門家同士で連携して対応してもらえる弁護士へ依頼するのが理想的といえるでしょう。
相続に関して親族間で争うことは、被相続人も望んでいないでしょう。被相続人の存命中から弁護士のサポートを受けて相続対策を行うのが最も理想的といえます。
しかし、それがかなわない場合でも、相続開始後早期に弁護士のサポートを受けることで、先を見据えた準備が可能となり、無用の争いを避けられる可能性もあります。
ベリーベストグループでは、相続問題の経験が豊富な弁護士に加えて、税理士や司法書士、土地家屋調査士などの専門家がチームになってサポートするワンストップサービスを提供しています。相続について不安があるという方はぜひお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。