遺産相続コラム
「遺産分割の禁止」によって遺産分割をいったん保留とすることで、遺産相続での予期せぬトラブルを回避できる可能性が高まります。
ただし、遺産分割の禁止を行うときは、相続税申告に関して通常とは異なる留意事項が生じるため、弁護士や税理士のアドバイスを受けながら対応するようにしましょう。
本コラムでは、遺産分割の禁止が行われるケースや遺産分割の禁止を行う方法、禁止される期間、相続税申告に関する注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続では、何らかの理由により、相続開始直後から遺産分割協議を行うことが不都合なケースが存在します。その場合、「遺産分割の禁止」によりトラブルの回避を試みることがあります。
「遺産分割の禁止」とは、文字通り、一定期間において遺産分割を禁止することをいいます。
遺産分割が禁止されている期間中は、仮に遺産分割協議によって遺産分割が行われても、原則として無効となります(相続人間の合意による禁止の場合を除く)。
遺産分割の禁止は、以下のようなケースで活用されることが多いです。
【①相続人の中に未成年者がいる場合】
未成年者と親権者がともに相続人の場合、未成年者と親権者は相続財産という「パイ」を分け合う関係にあるので、両者の利益が相反している状態といえます。この場合、親権者は未成年者のために特別代理人を選任することを、家庭裁判所に請求しなければなりません(民法第826条)。
しかし、親族だけで遺産分割協議を行う場合に比べると、特別代理人を交えての遺産分割協議は紛糾する可能性が高く、また手続き自体も面倒です。
そのため、未成年者があと少しで成人するという場合などには、一定期間遺産分割を禁止して、特別代理人の選任を回避しようとするケースがあります。
【②相続開始後遺産分割までの間に冷却期間を置きたい場合】
相続開始直後は、親族間で亡くなった被相続人や相続財産への思い入れが強くなりすぎて、冷静に遺産分割協議を行うことができないおそれがあります。
そのため、被相続人の意思または相続人同士の自発的な話し合いにより、一定の冷却期間を置く意味で、遺産分割が禁止される例も見られます。
【③相続財産や相続人について慎重に調査する必要がある場合】
相続財産の規模が大きいケースでは、遺産分割の漏れをなくすために、相続財産の調査を慎重に行う必要があります。また、家族関係が複雑な場合には、遺産分割を有効に成立させるために、相続人を確実に特定することが大切です。
このように、相続財産や相続人について慎重に調査する必要があるケースでは、調査期間を設ける意味で、遺産分割が禁止されることがあります。
遺産分割を禁止するための方法は、「遺言」「相続人間の合意」「家庭裁判所の手続き」の3つがあります。
被相続人(遺言者)は、遺言によって遺産分割を禁止することができます(民法第908条)。
遺言により遺産分割を禁止する場合、禁止期間は最大で相続開始のときから5年です。遺言による遺産分割禁止の期間が5年を超えている場合には、5年間の分割を禁止するものとして効力が認められます。
相続人全員の合意がある場合にも、遺産分割を禁止することができます。
遺産分割が完了していない相続財産は、相続人全員の共有となります(民法第898条)。共有関係にある相続財産は、共有者全員の合意によってその処分方法を決定できます(民法第251条)。
そして、5年以内であれば、共同相続人全員の合意によって分割を禁止することができます(民法第256条1項但書)
さらに、相続人全員による遺産分割禁止の合意は、期間満了時に5年以内の期間を定めて更新することが認められます(同条第2項)。
なお、禁止期間中に相続人全員の合意により成立した遺産分割(遺産分割協議書)は、遺産分割禁止の合意が上書きされたものとして有効と解されます。
共同相続人は、遺産分割協議が調わないとき、または遺産分割協議をすることができないときは、遺産分割を家庭裁判所に請求することが可能です(民法第907条第2項本文)。
しかしこのとき、「直ちに遺産分割をすべきでない特別の事由がある」と判断される場合には、家庭裁判所は期間を定めて、遺産分割を禁止することができます(同条第3項)。
特別な事由に該当するのは、相続人の資格や遺産の範囲などに争いがあり、即座に分割することが適当でない場合や、分割をしない方が共同相続人ら全体にとって利益になると考えられる場合です。
上記の各方法によって遺産分割が禁止された場合、相続税申告との関係で留意すべき点があります。必要な申告やその他の対応に漏れがないように、弁護士や税理士などに確認しながら慎重に手続きを進めましょう。
相続税申告には、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」という期間制限が設けられています。
この期間制限は、遺産分割が禁止されている場合でも延長されることはありません。相続税申告の期間制限を過ぎた場合には、延滞税や加算税が追加で課税される可能性があるので、十分注意が必要です。
遺産分割の禁止により、相続税申告の期限内に遺産分割が完了しない場合には、法定相続分に従って遺産分割をしたと仮定して、相続税の仮申告を行います。その後、遺産分割の禁止が解除され、遺産分割が完了した段階で、更正の請求または修正申告を行いましょう。
遺産分割が未了のまま相続税申告をする場合、以下の特例を受けることができません。
これらの特例は、相続税額を大きく軽減する効果を持つので、特例の適用を受けられないとすれば大きなデメリットとなってしまいます。
遺産分割の禁止によって、遺産分割未了のまま相続税申告を行う場合、以下の手続きを経ることで、上記の各特例の適用を受けることが可能となります。
【①相続税の仮申告時に「分割見込書」を提出する】
まず、相続税の仮申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出することが必要です。「分割見込書」には、以下の事項を記載します。
【②遺産分割完了から4か月以内に修正申告または更正の請求を行う】
分割見込書が提出され、かつ当初の相続税申告期限から3年以内に遺産分割が完了した場合、その後の修正申告または更正の請求により、特例の適用を前提とした相続税額の再計算・精算を受けることができます。
修正申告・更正の請求は、遺産分割が完了した日の翌日から4か月以内に行うことが必要です。
【③申告期限後3年以内に遺産分割が完了しない場合の対処法】
遺産分割協議が長引いた場合、当初の相続税申告期限から3年以内に遺産分割が完了しない可能性もあります。
その場合、上記の各特例の適用を受けるためには、申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。
[参考:「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」|国税庁]
共同相続人全員の合意によって遺産分割を禁止する場合には、以下の理由から、弁護士に相談することをおすすめいたします。
遺産分割の禁止には、相続開始直後に遺産分割を行うことによる各種のトラブルを防止できるメリットがある反面、相続税申告の手続きが煩雑になるデメリットが存在します。
実際に遺産分割を禁止すべきかどうかは、これらのメリット・デメリットを適切に比較して判断する必要があります。
弁護士に相談すれば、遺産分割の禁止によるメリットとデメリットのどちらが大きいか、客観的・専門的な視点からアドバイスを受けることが可能です。
弁護士と税理士が連携できるところに依頼をすれば、遺産分割の禁止に伴う相続税申告上の留意点について、適切なアドバイスを受けることが可能です。
特に、特例の適用を受けられるかどうかは相続税額に直接かかわってくるので、必要な手続きに漏れがないように、税理士によるサポートを受けることをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所では、グループ内に税理士が所属しているため、相続税申告についても弁護士と連携しながらワンストップでサポートすることが可能です。遺産分割の禁止をご検討中の相続人の方は、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
遺産分割の禁止が行われるのは、相続開始直後から遺産分割を行うことに問題がある、比較的特殊なケースです。
遺産分割の禁止には、相続税申告に関するデメリットもあることから、本当に遺産分割の禁止を行うべきかどうかの判断には難しい部分があります。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続専門チームを組成しており、知見・経験豊富な弁護士が在籍しています。また、グループ内には税理士も在籍しているため、相続税に関するご相談もワンストップで対応しています。
遺産分割の禁止を含め、遺産分割全般に関する適切なアドバイスをご提供いたしますので、遺産相続に関するお悩みをお抱えの方はベリーベストまでご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
被相続人(亡くなった方)が相続人の一部を優遇しており、生前贈与などをしていた場合、その相続人は「特別受益」が認められる可能性があります。
他の相続人に特別受益が認められた場合、ご自身の相続分が増える可能性があるため、生前贈与があったのかどうかなど、背景事情をきちんと調査することが大切です。
調べないままに遺産分割を進めてしまっても、後のトラブルを招くことになってしまうため、ご注意ください。
本コラムでは、生前贈与が特別受益に該当するための要件や、相続分の計算方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
父親が亡くなると「母の面倒は僕が全部みるから」などと言い出して、実家の不動産や現金・預金など、すべての遺産を長男が独り占めにしようとするケースがあります。
あるいは、面倒を見ていなかったのに「長男だから」という理由で、不公平な分配を主張してくるケースもあるでしょう。
このようなとき、「特定の相続人が遺産を独占する主張は、法的に通用するのだろうか」「親の遺産相続で財産を独り占めされたくない」などと考える方は少なくないはずです。
本コラムでは、親の遺産相続で長男が財産をすべて独り占めしようとするとき、将来的に想定されるリスクや注意点、相続トラブルの対処方法などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
交通事故や自然災害などにより家族を同時に複数名失ってしまった場合、亡くなった方(被相続人)の遺産はどのように相続すればよいのでしょうか。
交通事故などで誰が先に亡くなったのかがわからない場合には、「同時死亡の推定」が働き、同時に死亡したものと推定されます。同時死亡と推定されるか否かによって、遺産相続や相続税に大きな違いが生じますので、しっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、同時死亡の推定の考え方や具体的なケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。