遺産相続コラム

名寄帳とは? 請求できる人や取得方法、注意点を弁護士が解説

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更新日:2025年07月07日 公開日:2021年08月12日

名寄帳とは? 請求できる人や取得方法、注意点を弁護士が解説

ご家族が亡くなり、遺産相続が発生した場合、遺品などの整理とともに相続財産の調査をしなければなりません。

被相続人(亡くなった方)の預貯金や有価証券、不動産、貴金属、さらに借金の情報は、遺産分割を行うために必要です。また、相続税の申告の要否や税額を判断するための情報にもなります。

相続財産に不動産がある場合は、市区町村が作成する「名寄帳(なよせちょう)」をもとに確認するのが一般的です。権利証や毎年送付される固定資産税に関する課税明細書でも不動産の情報を知ることができますが、見落としが起きないよう、名寄帳を利用しましょう。

本コラムでは、名寄帳とはどういうものか、不動産の調査のために名寄帳の取得が推奨される理由や名寄帳を請求できる人と取得方法、相続財産の調査が不十分だった場合に起きる問題などについて、ベリーベスト法律律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。

1、名寄帳とは?

「名寄帳」と聞いて、具体的にどのようなものなのかを知っているという方は多くありません。まず1章では、名寄帳とは何を確認できるものなのか、基本概要を解説します。

  1. (1)名寄帳の基本概要

    名寄帳とは、以下、地方税法の規定により作成される帳簿で、市町村ごとに土地や家屋の情報をまとめたものです。

    「市町村は、その市町村内の土地及び家屋について、固定資産課税台帳に基づいて、総務省令で定めるところによって、土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならない。」(地方税法第387条第1項)

    自治体ごとに「土地・家屋名寄帳」「固定資産課税台帳(名寄帳)」など名称が異なることもありますが、「名寄帳」といえば、どこの役所でも通じます。

    固定資産税課税台帳には、以下の事項が記載されていますが、名寄帳は固定資産税課税台帳から特定の人が所有する不動産を抽出し、これらの情報を一覧化したものです。

    • 所有者の氏名・住所
    • 不動産の属性(地番・地目・地積/家屋番号・構造・床面積など)
    • 固定資産税評価額
    • 固定資産税課税標準額
    • 固定資産税額


    名寄帳とは別に固定資産評価証明書というものもありますが、これは不動産ごとの固定資産評価額についての証明目的で発行されるものです。たとえば、遺産分割後に不動産の登記名義を変更する際、登録免許税の算定に必要となります。

  2. (2)相続時に名寄帳の確認をおすすめする理由

    名寄帳は、その市区町村内で特定の人が所有する不動産を調べることができるため、相続財産の調査で有用です。

    なお、固定資産税の納税義務者に毎年送付される固定資産税の課税明細書には、固定資産税の課税対象外の不動産は記載されません。
    その点、名寄帳は課税の有無や登記・未登記を問わず、すべての不動産に関する情報が記載されます。

    自宅以外に不動産はないと思われているケースでも、自宅の敷地に隣接する私道や実家近くに山林を所有していたようなケースがないわけではありません。
    私道などの非課税物件や資産価値が低い免税物件は相続で見落としがちなので、名寄帳による確認をおすすめします。

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2、名寄帳の取得方法や注意点

2章では、名寄帳を取得する方法や請求できる人、注意点について解説します。

  1. (1)名寄帳を請求できる人

    名寄帳は個人の資産に関する情報が記載されているため、基本的に所有者(納税義務者)本人や本人から委任された代理人、本人が亡くなった場合は相続人でなければ交付申請できません

    本人以外が交付申請する際に添付しなければならない書類は、次のとおりです。

    【① 相続人が申請する場合】

    • 亡くなった方との関係がわかる戸籍謄本
    • 亡くなった方の除籍謄本
    • 申請する相続人の本人確認ができる書類


    【② 代理人が申請する場合】

    • 委任者が署名・押印した委任状
    • 代理人の本人確認ができる書類
  2. (2)名寄帳の申請先と申請方法

    名寄帳は市区町村ごとに作成されているため、不動産所在地の市区町村役場で、固定資産税を取り扱う部署に申請します。

    なお、東京都区部では東京都税事務所(もしくは都税証明郵送受付センター)が、一部の政令指定都市(大阪市、さいたま市、札幌市など)では各市税事務所が取り扱うため、事前にホームページや電話で確認しましょう。

    交付申請は窓口で行うこともできますが、郵送でも可能です。
    手数料として、所有者1名ごとに300円前後が必要とされていることが多いようですが、自治体により異なるため、郵送で申請する場合は事前の確認をしてください。

  3. (3)名寄帳の注意点

    固定資産税は1月1日現在の所有者に課税されることから、固定資産税課税台帳には1月1日現在の情報が登録されています。
    たとえば、2月に取得したり売却したりした不動産については、翌年1月1日まで、その取得・売却の結果が名寄帳には反映されないことになります。

    また、法人名義で所有している不動産は、亡くなった方個人の名寄帳には記載されません
    法人が所有している不動産は遺産分割の対象にはなりませんが、亡くなった方が代表者としてひとりで経営していた法人が所有していた不動産などは、次の代表者となった方がなんとかしないといけません。そのため、新たに法人の代表者となった方は、法人名義の不動産の名寄帳を取得して法人の所有する不動産を確認することもできます。

3、相続財産の調査が不十分だった場合に起こりうる問題

相続財産が十分に調査されていないと、遺産分割協議後に新たな相続財産が発見されるという事態が起こります。
以下では、そのような場合の対処法について、解説します。

  1. (1)遺産分割の協議後に新たな相続財産が発見されるケース

    すでに遺産分割協議を終えた後に新たな相続財産が発見された場合は、新たな相続財産について遺産分割協議を行うのが基本的な解決方法です。

    なお、先に行った遺産分割協議で新たな相続財産が発見された際の分割方法の取り決めがある場合は、基本的にはその取り決めに従うことになるでしょうが、全くそうした相続財産の存在を念頭に置かずに遺産分割を行った場合には、必ずしも、先に行った遺産分割の取り決めどおりになるとは限りません。

    遺産分割は、判明した遺産についてのみ行い、新たに発見された遺産は、発見された時に分割するというのがやはり基本となるでしょう。

  2. (2)遺産分割のやり直しになるケース

    いったん有効に成立した遺産分割協議は、原則としてやり直すことはできません。しかし、次のように、例外的に遺産分割のやり直しが認められるケースもあります。

    【① 相続人全員の合意がある場合】
    遺産分割後であっても、相続人全員の合意があれば遺産分割をやり直すことは自由にできます。
    しかし、遺産分割のやり直しにより第三者の権利を害することはできません。

    たとえば、遺産分割により取得した不動産をすでに売却している場合、その売却を取り消して遺産分割をやり直すことはできません。
    また、合意による遺産分割のやり直しにより財産のやり取りは、税法上は贈与や譲渡とみなされて、すでに納税した税金に加えて贈与税や不動産取得税などの課税対象となることにも注意が必要です。

    【② 遺産分割後に重要な相続財産が発見された場合】
    遺産分割後に新たな相続財産が発見された場合は、その財産についてあらためて遺産分割協議を行うのが原則です。
    しかし、新たな相続財産が相続財産全体からみて重要なものである場合、先に行った遺産分割は、重要な要素について認識を誤った上で成立させたことになり得ます。

    つまり、相続財産の総額が500万円である場合と3000万円である場合とでは、遺産分割における判断に違いが生じるのは当然ともいえます。

    このような認識の齟齬は、民法上の「錯誤」に該当する可能性があり、先に行った遺産分割での意思表示を取り消すことができる場合があります(民法95条)。
    このような錯誤により遺産分割の合意が取り消されると、遺産分割はさかのぼって無効となるため、あらためて遺産分割協議を行うことになります。

    この場合、すでに申告した相続税との差額について修正申告や更正の請求をしなければなりません。

  3. (3)借金などの債務が発見されたケース

    亡くなった方に借金などの債務がある場合は、財産と同様に相続することになります。

    亡くなった方が他人の借金の保証人になっていたケースでは、債権が焦げ付いて債権者から請求を受けることがきっかけで債務の存在を認識することもあります。
    借金などの債務は、プラスの財産とは異なり、相続人間で誰が債務を負担するのか取り決めをしても、債権者にはそれを主張することはできません。

    相続人の目線では、「多くの相続財産を取得した人に請求してほしい」と言いたくもなりますが、債権者は各相続人に対して、法定相続分に応じて返済を求めることができるのです。

    借金などの債務を相続したくない場合は、相続放棄や限定承認(相続財産を超える債務は負担しない方法)をするほかありませんが、これらの手続きは相続の開始を知ったとき(通常は被相続人が亡くなったとき)から3か月以内に行う必要があります。

    ただし、債務の存在を知らず、相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由があると認められる場合は、例外的に、期限後の相続放棄・限定承認が認められる場合もあるため、期限後に債務の存在を知った場合には、至急弁護士に相談しましょう

    なお、相続財産を処分したり消費したりした場合は、原則として、相続放棄や限定承認はできなくなります。

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4、名寄帳の取り寄せ以外に相続財産調査で確認すべきこと

遺産相続において、不動産以外の他の財産についても調査は必要です。4章では、主な財産の調査方法について解説します。

  1. (1)預貯金や株式などの金融資産

    預貯金は、通帳やキャッシュカードが遺品の中にあることで判明することもありますが、近年はインターネット上で口座を開設するケースも増えています。
    また、株式取引などで金融機関に口座を開設している場合、年間取引報告書などの書類が送付されることもありますが、電子交付により書類が発行されないこともあります。

    そのため、パソコンやスマートフォンの使用状況やアプリも入念に調査することが必要です。

    なお、株式取引に関しては「証券保管振替機構(ほふり)」に証券口座の開設先を照会する方法もあります。
    また、預貯金の入出金履歴により、別の金融資産や固定資産税の納付先などの手掛かりが得られることもあるため、その意味でも預貯金の調査はしっかり行う必要があります。

  2. (2)絵画や貴金属、家財道具などの動産

    亡くなった方が所有していた物品は、すべて相続財産となります。
    絵画や骨とう品、貴金属のように高価なものだけではなく、文房具や書籍、パソコン、衣類、家具なども相続財産です。また、現金やペットも、分類としては動産として扱われます。

    これらの動産は、遺産分割協議により分割方法を決めるまで勝手に処分することはできません。

    しかし、動産の中には、長期間の保管に適さないものもあれば、処分費用のほうが高くつくようなものもあり、実際には形見分けにより事実上分配されることも少なくありません。
    形見分けにより相続財産を分配する場合は、あくまでも他の相続人が異を唱えない限度で行うことになります。

  3. (3)借金などの債務

    ローンの契約書やクレジットカード、利用明細書などから借入先を特定して債務残高を問い合わせましょう。
    銀行や貸金業者、クレジット会社が加盟する信用情報機関に照会し、債務を網羅的に調べる方法もあります。

    信用情報機関は以下の3機関があるため、これらのすべてに照会すると、より確実です。

    • 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
    • 株式会社日本信用情報機構(JICC)
    • 株式会社シー・アイ・シー(CIC)


    債務の調査で見落としがちなものとして、借金の保証人になっているケースにはご注意ください。
    保証人となった履歴は信用情報機関に登録される場合とされない場合があるため、契約書などをくまなく調べる必要があります。

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5、遺産相続のお悩みを弁護士に依頼するメリット

遺産相続のトラブルは、権利義務に関する法的な問題であったり、相続税に関する税制上の問題であったり、感情面での対立であったり、さまざまな場面で生じかねません。

相続財産の調査については、遺産分割の基礎となる重要な作業ですが、行うべきことが多岐にわたり、作業量も膨大になりがちです。ポイントを押さえて調査を行うためには、経験豊富な弁護士のサポートが大いに役立つでしょう。

弁護士は、代理人として名寄帳の取り寄せや金融機関への照会を行うことも可能です。相続財産の調査後に行う遺産分割は、公平な相続を実現するために法律に従って協議を進めなければなりません。

ともすれば感情的な対立が起きやすい手続きですが、弁護士が代理人として協議に加わることで冷静に協議を進めることも期待できます。

遺産分割協議で合意に至らない場合は、家庭裁判所で調停を行いますが、その手続き全般を弁護士に委任することも可能です。なお、遺産分割をする際は、相続税のことも意識しながら協議を進めるのが理想的です。

遺産相続のお悩みやお困りごとについては、ベリーベストグループに所属する弁護士と税理士が必要に応じて連携し、最適な結果となるようにサポートいたします。お客さまのご負担を軽減しながら尽力いたしますので、まずは当事務所までご相談ください

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この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
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設立
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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