遺産相続コラム

特別受益にあたる生前贈与は相続開始から10年以内|遺留分と計算法

2023年11月14日
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特別受益にあたる生前贈与は相続開始から10年以内|遺留分と計算法

令和元年の相続法改正により、遺留分の計算時に基礎とされる特別受益の範囲が、相続が開始される前から「10年以内」の贈与に限定されることになりました。

遺産相続における遺留分を計算するルールは、非常に複雑なものとなっているため、お困りになる方も少なくありません。
しかし、遺産相続は誰しもが経験し得るものであり、法改正の内容や相続のルールなどを正しく理解することはとても重要です。

本コラムでは、特別受益や遺留分に関する基礎的な知識や、相続法で規定されているルール、具体的な計算方法について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。特別受益や遺留分のことでお悩みがある方は、ぜひ最後までご一読ください。

1、特別受益とは何か?

まずは、「特別受益」という言葉の意味から解説いたします。

  1. (1)法定相続人間の公平な相続を図る制度

    特別受益とは、遺贈・死因贈与・生前贈与によって、法定相続人が被相続人から受けた「財産上の特別な利益」のことです。

    遺産相続では、遺贈・死因贈与・生前贈与により、法定相続人たちの間で承継する遺産に偏りが生じる場合があります。このとき「優遇を受けた相続人」の相続分を少なめにして、それ以外の相続人の相続分を多めに設定することが、「特別受益」に関する制度のポイントとなるのです。

  2. (2)特別受益の対象となる遺贈・贈与

    特別受益の対象となる遺贈と贈与は、法定相続人に対するものに限られます。
    特別受益はあくまでも法定相続人間の公平を図るための制度であり、法定相続人以外の者に対して行われた遺贈・贈与については、特別受益は問題とならないのです。

    法定相続人に対する遺贈・贈与のうち、特別受益の対象となるものは、以下の通りになります(民法第903条第1項)。

    ① 遺贈
    すべての遺贈

    ② 死因贈与・生前贈与
    以下のいずれかに該当する贈与
    • 婚姻のための贈与
    • 養子縁組のための贈与
    • 生計の資本としての贈与


    すべてが特別受益の対象となる遺贈とは異なり、贈与(生前贈与・死因贈与)の場合は、特別受益の対象となるものが限定されているのです。

    特別受益の対象となる贈与の具体例としては、以下のようなものがあります。

    <特別受益の対象となる贈与の例>
    • 婚姻、養子縁組時の持参金、支度金
    • 居住用不動産の贈与やその取得のための金銭の贈与
    • 土地を無償で使用させていた場合の土地使用借権相当額
    • 事業を開業するための資金
    • 相続分の前渡しと認められる程度に高額の金員の贈与
    など

    <特別受益の対象とならない贈与の例>
    • 受取人が指定されている死亡保険金
    • 少額の贈与
    など
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2、特別受益の「持ち戻し」とは?

一部の相続人に特別受益が認められる場合、各法定相続人の相続分を計算する際には、特別受益の「持ち戻し」が行われます。
特別受益の「持ち戻し」について、具体的な計算例とともに、解説いたします。

  1. (1)特別受益相当額を相続財産に含めて計算する

    特別受益の「持ち戻し」とは、特別受益相当額を相続財産に加算したうえで、法定相続分にしたがって各法定相続人の相続分を計算することをいいます。

    このとき、特別受益のある法定相続人については、特別受益相当額の遺産をすでに受け取ったものとして相続分が計算されます。これにより、結果的に、法定相続人間の公平が図られることになるのです。

  2. (2)特別受益の「持ち戻し」の計算例

    特別受益の「持ち戻し」の計算について、具体例に基づいて解説いたします。

    <設例>
    • 相続人は配偶者X、長男Y、長女Zの3名
    • 相続財産の総額は4000万円
    • 長男Yに特別受益が1000万円
    • 長女Zに特別受益が600万円


    この設例では、実際に存在する相続財産は4000万円ですが、合計1600万円相当の特別受益が認められます。
    この特別受益相当額を相続財産に「持ち戻し」を行うと、計算上の相続財産は「5600万円」となるのです。

    これを法定相続分にしたがってX、Y、Zに分配すると、Xの相続分は2800万円、Yの相続分は1400万円、Zの相続分は1400万円となります。

    しかし、Yは1000万円、Zは600万円の特別受益をすでに得ていますので、特別受益相当額が上記の金額から控除されます。

    計算の結果、実際の相続分は、以下の通りになるのです。

    • 配偶者X:2800万円
    • 長男Y:400万円
    • 長女Z:800万円
  3. (3)「持ち戻し」は被相続人の意思で免除できる

    相続における被相続人の意思を尊重するという趣旨により、相続分の計算に際しては、特別受益の「持ち戻し」は被相続人の意思で免除することができるとされています(民法第903条第3項)。持ち戻し免除の意思表示の方法は明示・黙示のいずれの方法も有効です。

3、特別受益は遺留分にも影響する

特別受益は、相続分の計算に加えて、法定相続人の権利である遺留分の計算にも影響します。
「遺留分」に関する制度の概要と、特別受益がある場合の遺留分計算について、解説いたします。

  1. (1)遺留分とは?

    遺留分とは、法定相続人に認められた「遺産を相続できる最低保障金額」のことを指します。
    遺留分は、法定相続人が相続に対して抱いている期待を保護する目的で、設定されているのです。
    たとえば、遺言によって「長男に全財産を譲る」という相続分の指定が行われた場合、他の相続人は全く遺産を相続できないので、遺留分を侵害された状態が生じます。

    このとき、遺留分を侵害された法定相続人は、遺産を多く相続した他の相続人に対して、金銭の支払いによる補償を請求できるのです(民法第1046条第1項、遺留分侵害額請求 後述)。

  2. (2)遺留分権利者の範囲と遺留分割合

    遺留分を有するのは、「兄弟姉妹以外の相続人」です(民法第1042条第1項)。
    各法定相続人の遺留分は、法定相続分に対して以下の割合を乗じた金額、とされています(同項第1号、第2号)。

    ① 直系尊属のみが相続人である場合
    3分の1

    ② それ以外の場合
    2分の1


    また、先述した<設例>においては、各法定相続人の遺留分割合は、それぞれ法定相続分の2分の1です。
    そのため、遺留分は、法定相続分に対してそれぞれ以下の割合を乗じた金額となります。

    • 配偶者X:4分の1
    • 長男Y:8分の1
    • 長女Z:8分の1
  3. (3)遺留分の計算例

    先述した<設例>に以下の事情が加わったと仮定して、遺留分の具体的な計算を行ってみましょう。

    <設例>
    • 被相続人が生前、「長男Yに全財産を相続させる」という遺言を残していた
    • 相続人は配偶者X、長男Y、長女Zの3名
    • 相続財産の総額は4000万円
    • 長男Yに特別受益が1000万円
    • 長女Zに特別受益が600万円


    遺留分を計算する際には、相続分の計算を行う場合と同様に、現実に存在する相続財産に特別受益相当額を加算する「持ち戻し」を行います。
    したがって、合計5600万円の相続財産を基準として、前の項目で示した遺留分割合を乗じて各法定相続人の遺留分を求めると、以下のようになるのです。

    <各法定相続人の遺留分>
    • 配偶者X:1400万円
    • 長男Y:700万円
    • 長女Z:700万円


    これに対して、遺言書による相続分の指定と特別受益を併せた金額は、以下のようになります。

    <遺言書による相続分+特別受益>
    • 配偶者X:0円
    • 長男Y:5000万円
    • 長女Z:600万円


    つまり、Xは1400万円、Zは100万円の遺留分を侵害されていることになります。
    このため、遺産を多く受け取っているYに対して、Xは1400万円、Zは100万円を、それぞれ請求することができます。

    参考:【無料計算ツール】 法定相続分・遺留分、あなたはいくら受け取れる?

4、遺留分計算で考慮される特別受益は相続開始前「10年以内」のもの

前述の通り、特別受益には生前贈与も含まれる場合があります。
しかし、遺留分計算の場面においては、特別受益に含まれる生前贈与は、相続開始前から10年以内のものに限られているのです。

  1. (1)相続法改正以前は期間制限がなかった

    令和元年の相続法改正以前は、法定相続人に対する生前贈与が遺留分計算における特別受益に含まれるかどうかに関して、期間制限は設けられていませんでした。

    しかし、期間制限を設けないことにより、相続が開始されるより何十年も前に行われた生前贈与までもが遺留分計算の基礎とされることが、以前から問題視されていたのです。

  2. (2)令和元年の相続法改正で「10年以内」に限定

    令和元年に施行された改正相続法によって、法定相続人に対する生前贈与が特別受益として「持ち戻し」計算の対象になるのは、相続開始前10年間にしたものに限定されることになりました(民法第1044条第1項、第3項)。

  3. (3)「10年以内」の制限は遺留分のみ|相続分の場合は期間無制限

    現行法上、特別受益に含まれる生前贈与に「10年以内」の制限が設けられているのは、遺留分計算の場面のみとなります。

    これに対して、相続分の計算については「10年以内」の期間制限が設けられていません。期間無制限で過去にさかのぼって、生前贈与が特別受益の対象となるのです。

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5、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)とは

特別受益の持ち戻しもふまえて計算した結果、自分の遺留分が侵害されていることが分かった場合には、「遺留分侵害額請求」(旧:遺留分減殺請求)を行いましょう。

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害する遺贈・贈与を受けた受遺者・受贈者に対して、遺留分を侵害された人が金銭の支払いを請求することを指します(民法第1046条第1項)。遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をすることで足りますが、証拠を残すために内容証明郵便で行うことが一般的です。

特別受益を含めて、遺留分計算の基礎とすべき相続財産を漏れなく把握することができれば、より多くの遺留分を認定してもらうことができるのです。
しかし、遺留分計算に関する法律上のルールは複雑なものとなっています。詳しい計算については、弁護士に相談することが確実でしょう

参考:遺留分侵害額請求についてもっと詳しく知りたい方はこちら

6、まとめ

遺留分計算の基礎となる特別受益に該当する生前贈与は、相続開始前10年以内に行われたものに限られます。
その一方で、相続分の計算においては「10年以内」の期間制限が適用されないなど、遺留分・相続分・特別受益をめぐる法律上のルールはたいへん複雑です。

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この記事の監修
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所在地
〒 106-0032 東京都港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
[ご相談窓口] 0120-152-063

※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。

URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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