遺産相続コラム
身内の急な不幸によって相続が開始した場合であっても、被相続人の財産状況を把握することが難しいこともあります。特に同居していた相続人がいる場合、使い込みなどされていないか心配ということもあるでしょう。
また、預金口座名義人である被相続人が死亡した場合、相続人は預金を引き下ろすことができるのか心配という人もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は相続全般の流れを確認しながら、銀行預金の取引履歴の調べ方や使い込みされていた場合の対処方などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、銀行預金の確認方法とポイントを見ていきましょう。
相続財産となる銀行預金については、通帳があれば、通帳に記帳されている残高と、入出金はわかります。しかしながら、定期的又は随時に預金が引き下ろされている場合、記帳されているもの以外の入出金があったかどうかはわかりませんし、誰が何のために引き出したのかも分かりません。口座名義人である被相続人が死亡しているため、口座名義人から事情を聞くことすらできません。
被相続人と同居の相続人がいる場合には、その人が勝手に引き出して使い込んでいるのではないかとの疑念も生まれます。
そのため、銀行預金口座の入出金の調査は必要不可欠です。
銀行預金口座の入出金を調査するためには、残高証明書と取引履歴を取り寄せて、お金の動きに不自然なところはないか確認します。
残高証明書とは、請求した特定の時点の銀行預金の残高を証明する書類です。相続税の申告などには、相続発生日の残高証明書を用いて、相続財産となった預金の評価額を決定します。
しかしながら、残高証明書では、直前に多額の預金が引き出されていても、その事実はわかりません。そのため、一定期間の入出金日と入出金額が記載されている取引履歴を一緒に取り寄せる必要があります。
なお、「(預金者の)共同相続人のひとりは、・・・共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる」との最高裁判例(最判平成21年1月22日・民集63巻1号228頁)がありますので、相続人は単独で取引履歴を取り寄せることが可能です。
また、預金は一つとは限りませんので、複数の銀行預金がないのか調査・確認しましょう。
通帳やキャッシュカードが見つからない場合、郵便物を確認することで銀行が分かることがあります。銀行からの書類が郵便物として届いていることもあるからです。最近はインターネットバンキングもあるので、被相続人のメールを確認すれば、金融機関名が分かるかもしれません。
また、相続人が利用していたと考えられる金融機関に対して故人名義の口座の有無を照会するという方法もあります。
相続人が残高証明書や取引履歴の開示を銀行に請求すると、銀行は預金名義人が死亡していたと分かるので、その口座を凍結します。口座が凍結されると、普段から利用していた家賃や水道・光熱費等の引き落としもできなくなるため、注意が必要です。
例えば、生活費を引き落とす預金口座を夫名義にしている夫婦の夫が死亡し、預金口座を凍結されてしまった場合、当然、残された妻の生活が立ち行かなくなってしまいます。
このようなトラブルを避けるためにも、残高証明書などを請求する場合には、どのようなものが普段から引き落とされるのかを把握した上で、問題がないことを確認してから行うようにしましょう。
なお、口座凍結の解除方法は、各金融機関によって異なりますが、基本的には遺産分割協議後などに手続きを行うことになります。詳しくは、対象の金融機関にご確認ください。
残高証明書や取引履歴を取る場合には、通常以下のような書類が必要となります。
銀行預金を確認して特に問題がなければ、相続を進めることになります。
しかしながら、相続開始後の生活費などのために、被相続人の銀行預金を引き出さねばならない場合にどうすればいいのかと不安に思う方もいるでしょう。相続開始後に預金からお金を引き出すことは可能なのでしょうか。
相続開始後の預金の引き出しと、銀行預金債権の相続について確認していきましょう。
相続開始後の預金の引き出しについては、家庭裁判所の判断を経るかどうかで2つの方法があります。
① 家庭裁判所の判断を経ないで預金の払戻しを行う方法
平成30年の民法改正によって、遺産分割協議前であっても預金を引き出すことが可能となりました。これを「預貯金の払戻し制度」(民法909条の2)といいます。
各相続人は、預金のうち、「相続開始時の預金額×3分の1×法定相続分」で求められる額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払い戻しを受けることができます。
引き出した預貯金については、遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。
ただし、同一の金融機関からの払い戻しは150万円が上限です。
例えば、夫・妻・子ども1人家族で妻が亡くなった場合、夫の法定相続分は2分の1です。妻名義の預貯金が1000万円とすると、以下のような計算になります。
② 家庭裁判所の判断を経て預貯金の払戻しを行う方法
家庭裁判所に対し遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合には、各相続人は、生活費の支払等の必要性があれば、他の共同相続人の利益を害しない限り、遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させてくれるよう、家庭裁判所に申立てをすることができます(家事事件手続法200条3項)。
なお、以上の2つの方法で預貯金の払戻しを受けた場合、相続放棄をすることができなくなるので注意が必要です。
また、葬儀費用のための引き下ろしであっても、「預貯金の払戻し制度」を利用して引き出したお金は、遺産の一部の分割により取得したとみなされるので、その相続人が遺産分割としてすでに取得済みのお金として扱われます。葬儀費用なのだから、それは当然相続財産から支出すべきであって、葬儀費用を控除した残りを公平に遺産分割するのだという理屈は通らないのです。
もちろん、相続人全員が合意すれば、葬儀費用は相続財産から支出して、残りのお金を公平に分割するということは可能です。ですから、後から揉めないために、「預貯金の払戻し制度」を利用して預金を引き出し、葬儀費用に充てるときには、他の相続人に予めその使途を伝えて、葬儀費用は相続財産から支出してよいという了解を得ておくと良いでしょう。
預金債権は、従来、遺産分割の対象にならない(相続人全員が合意して遺産分割の対象とすることは可能だが、合意がなければ、相続開始と同時に、当然に法定相続分で割れて各相続人に帰属する)とされていました。しかし、平成28年12月19日の最高裁判所の決定(民集70巻8号2121頁)により、預金債権も遺産分割の対象になるとされました。
したがって、その相続人に銀行預金債権を相続させるという遺言があれば遺言により、遺言がなければ遺産分割により、相続人は銀行預金債権を相続することになります。
銀行預金債権を相続した場合、銀行預金口座の名義を変更する必要があります。その際に必要となる書類は、何に基づいて名義変更の申請をするかによって異なります。
① 遺言による場合
遺言書がある場合、「遺言書」の種類や内容によって必要となる書類が異なります。基本的には、以下のような書類が必要です。
② 遺産分割協議による場合
遺産分割協議による相続の場合、以下の書類が必要となります。
③ 調停・審判による場合
家庭裁判所による調停または審判による相続の場合、以下の書類が必要です。
銀行預金債権の相続において、銀行預金の使い込みがよく問題になります。
頻繁に預貯金が引き下ろされている場合、それが何に使われたかを確認する必要があります。特に同居の相続人がいる場合、被相続人が引き出したのか、相続人が引き出したのかを特定しなくてはなりません。
また、相続開始の前と後、どのタイミングで引き出されたのかも重要です。
被相続人の生前から、特定の相続人が被相続人の預貯金を引き下ろしていた場合、まずは被相続人の同意があったのかどうかを確認する必要があります。被相続人の同意があったのかどうかによって、対処方法が異なります。
● 被相続人の同意のもと特定の相続人が貰った場合
引き出した預貯金について、被相続人の同意のもと特定の相続人が貰った場合には、生前贈与となり、特別受益(民法903条1項)の要件を充たせば、特別受益として取り扱われます。特別受益に該当した場合には、相続財産の計算においてその分を加算し、計算することになります。
● 無断で預貯金を引き下ろし使い込んでいた場合
特定の相続人が被相続人に無断で預貯金を引き下ろし使い込んでいた場合、どうすべきでしょうか。まず、特定の相続人が勝手に引き下ろしたことを認め、その分は相続において貰い済みで良いと承諾した場合は、既に当該相続人はその分の相続分を受け取っているものとして、遺産分割協議を進めることができます。
一方で、特定の相続人が勝手に引き下ろしたことすら否定する場合には、その引出行為が不法行為(民法709条)にあたるか、または引き出しによる利得が「不当利得」(民法703条)に該当するかを、民事訴訟で決めないと先に進めません。
不法行為または不当利得であると認められれば、勝手に引き出したときに、その預金の名義人である被相続人に、勝手に引き出した相続人に対する損害賠償請求権または不当利得返還請求権が成立し、この請求権を相続人が法定相続分に応じて取得するということになります。
この場合には、手続も複雑になりますし、専門的な知識も必要になるので、弁護士に相談することをおすすめします。
相続開始後に預貯金が引き下ろされた場合、相続人が引き出しと引き出したお金の取得を認めているのであれば、その分だけすでに相続財産を受け取ったものとして、遺産分割協議においてその分を相続財産の計算に加算して、すでに受け取ったものとして分割することになります。
引き出しを認めないのであれば、他の相続人から損害賠償請求訴訟または不当利得返還請求訴訟を提起して、その相続人の引き出しを主張立証し、請求が認容されたら、引き出した相続人に対し、損害賠償または不当利得返還の請求を行って決着を付けることになります。
このように、銀行預金の被相続人の預金の使い込みがあった場合には、どうしても相続人同士が感情的になり、当事者である相続人だけで話合うのは困難です。弁護士を間に入れて、物事を進めてもらうよう依頼することもおすすめします。
弁護士であれば、遺産分割協議を行う上でどのような資料が必要なのか、また、その資料はどうすれば取得できるのか判断することができます。そして、財産調査を実施し、取得した資料を確認した上、不自然なお金の動きがあれば、他の相続人に対し追及していくこともできます。
遺産分割協議においては、感情の対立が生じやすいですが、弁護士が代理人となることで、冷静に話し合うことができます。さらに、銀行預金口座や不動産の名義変更などの法律上の手続についても、適切にアドバイスをしたり、代理で行ったりすることも可能です。
今回は、銀行預金の使い込みが疑われる場合の対応について説明しました。遺産相続では、相続財産を精査し、事実関係を明らかにすることが重要です。弁護士に財産の調査などをしてもらい、見通しを立ててもらうことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、全国にオフィスがあるので、近くのオフィスで対応が可能です。また、同グループに税理士や司法書士なども在籍していますので、ワンストップでご相談いただけます。遺産相続のことでお悩みがあるか方は、お気軽にお問い合わせください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。