遺産相続コラム
離れて暮らしている家族が亡くなったとき、その方と同居していた他の相続人が、勝手に遺産(相続財産)の使い込みをしていた……なんてことが発覚する事例は珍しくありません。たとえば、ギャンブルや投資、不動産の売却などで遺産が使われているようなケースがあります。
被相続人(亡くなった方)の遺産を使い込まれてしまうと、知らず知らずのうちに、相続人の方々が本来取得できるはずの遺産が減ってしまうことになってしまいます。
泣き寝入りすることなく、自分勝手に横領された遺産を取り戻すことはできるのだろうかと不安に思っている方もいるでしょう。
本コラムでは、使い込まれた遺産を取り戻せる事例をはじめとして、勝手に遺産が使い込まれているのかどうかの調査方法、使い込まれた財産を取り戻す方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産の使い込みが発覚してお困りの方は、弁護士にご相談ください。
遺産の使い込みとしてよくあるのは、預貯金の使い込み・賃料の横領・不動産の無断売却・無断の株式取引、売却金の横領・介護していた人による使い込みなどです。
亡くなられた方(被相続人。たとえば父)と同居している相続人(たとえば子ども)が被相続人(父)名義の預貯金を使い込む事例です。相続人(子ども)が勝手に被相続人(父)名義の預貯金を出金して物を購入したり、自分名義の口座に送金したりすることがあります。また、自分のローンの返済に使ったり、ギャンブル、投資の資金に使い込んだりする事例もあります。
被相続人が不動産賃貸業を行っているような場合に、相続人の1人が「賃料管理」の名目のもとに、被相続人のところに入ってきた賃料を使い込む事例もあります。
被相続人が不動産を所有している場合、同居している相続人が実印などを持ち出して勝手に売却するような事例もあります。
相続人の1人が勝手に被相続人名義の株式の取引を行い、株式を売却して得られた売却金を自分名義の口座へ送金したりして使い込む事例があります。
被相続人が介護を受けていた場合、介護してくれていた人が被相続人から管理を任されていたお金を横領して使い込む事例もあります。
遺産の使い込みがあったとき、取り戻せる事例と取り戻しができない事例があります。以下でそれぞれみていきましょう。
● 使い込みの証拠がある
使い込まれた財産を取り戻すには、使い込まれたことの証拠が必要です。証拠がなければ、相手は「使い込みなどしていない」などとして否認することが予想されます。
使い込みの証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
● 相手に返せるお金がない
使い込みをした人物に対しては、不当利得としてその返還請求をするか、不法行為に該当するとして損害賠償請求をすることになります。しかし使い込みが発覚しても、相手に返還や損害の賠償をするためのお金がない場合、法的には返還や損害賠償をしなければならなかったとしても、現実的に取り戻せない可能性があります。
そこで、そうならないようにするためには、遺産の使い込みの可能性が少しでもあるのであれば、被相続人名義の預金口座を凍結させる必要があります。
場合によっては、不当利得返還請求または損害賠償請求による現実的な回収に備え、使い込みが予想される人物の名義の預金口座も仮差押さえをするなどの対応も必要です。
● 時効が成立している
すでに述べたとおり、使い込まれた遺産を取り戻す場合には、「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」を行いますが、これらの請求権には「時効」があります。
不当利得返還請求権については、権利が発生した時から10年で時効が完成し(平成29年改正民法の適用を受ける場合には、権利を行使することができることを知った時から5年で時効が完成する可能性があります。)、不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害発生と行為者を知った時から3年で時効が完成します。一般的には、不当利得返還請求権の時効の方が長くなります。
これらの時効が両方成立していたら、もはや使い込みをされた遺産の取り戻しは困難となります。
遺産の使い込みが疑われる場合には、相手に請求する前に使い込みの状況を調査しておくことが必要です。ここからは、遺産の使い込み状況を調べる方法をご紹介します。
相続人の方々が自ら調べる方法です。
ここでは例として、使い込み被害に遭うことの多い「預貯金」についての調査方法を説明します。
預貯金の場合、相続人の立場であれば、被相続人名義の預貯金口座のある金融機関に行き、「取引明細書」を発行してもらうことが可能です。通常、相続開始前後の数年間分を発行してもらえば、不正な引き出しや送金等の取引内容が明らかになるでしょう。
調査対象となる財産が多い場合や必要書類を集めることなどが負担になる場合などには、弁護士に使い込み調査を依頼することをおすすめします。
弁護士は「弁護士会照会制度」という、法律によって認められた調査制度を利用することが可能です。これにより、各金融機関における預貯金の取引明細書を効率よく取り寄せられて、弁護士に取り寄せた資料の内容分析などを任せることもできます。
相続人の方々が自ら調査をする場合でも、弁護士会照会をする場合でも、調べられるのは「被相続人名義の口座」の動きだけです。使い込んだ本人の名義の口座の取引履歴まで調べることは通常はできません。
金融機関は口座名義人のプライバシーに配慮するので、使い込んだ人物の口座については、他の相続人や弁護士が開示請求をしても明細書の開示に応じないことが多いのです。
この場合、裁判(不当利得返還請求訴訟・損害賠償請求訴訟)を起こした上で手続きをすれば、裁判所を通じて口座の開示を実現できる可能性があります。
裁判所に対して「職権調査嘱託」という手続きの申立てをすると、審理に必要な範囲で裁判所が金融機関へ照会(確認)を行い、その結果、使い込んだ人物の名義口座の取引履歴が開示されることになります。
なお、預貯金だけではなく、証券会社の取引履歴などを調べることも可能です。
調査の結果、遺産の使い込みが発覚したら、以下のように対処を進めていきましょう。
まずは使い込んだ相続人と直接話し合って使い込んだ遺産の返還を求めます。その際は、調査の際に取得した資料(証拠)を示すとよいでしょう。
なお、相続人(たとえば長男)が被相続人(たとえば父)の財産を使い込んだ場合、本人(長男)にも法定相続分があるので、その分は差し引いて他の共同相続人(たとえば次男)の法定相続分に応じた割合で返還を行います。
相続人以外の人が使い込んだ場合には、使い込んだ全額を相続人に返還することが必要です。
相続法が改正され、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意がある場合には、処分された財産も分割時に遺産として存在するものとみなすことができることになりました(民法906条の2第1項)。
そして、共同相続人の一人または数人により処分がされたときは、処分をした相続人についての同意を得ることを要しないとも定められました(民法906条の2第2項)。
被相続人の死後、遺産分割前に遺産の使い込みが発覚した場合には、使い込みによって遺産がなくなっていたとしても、共同相続人の全員の同意があれば、遺産が存在するものとして遺産分割をすることが可能になります。
相手と直接話し合いをしても、使い込んだ財産の返還に応じない場合、訴訟を起こす必要があります。この場合の訴訟は「不当利得返還請求訴訟」か「不法行為に基づく損害賠償請求訴訟」です。両方同時に起こすことも可能です(訴訟手続きは共通となり、ひとつで足ります)。
● 不当利得返還請求
遺産は、本来相続人が遺産分割によって分け合うものであるにもかかわらず、1人が勝手に取得するのは不当利得となります。
不当利得とは、法律上の原因なく利益を得ることです。この場合、損失を被った人は利得者に対し不当利得の返還請求ができます。
遺産の使い込みが発覚したら、被害に遭った相続人の方々は自らの法定相続分について、使い込んだ相手に対し不当利得の返還を求め、訴訟を提起することが可能です。
● 不法行為に基づく損害賠償請求
遺産の使い込みは「不法行為」にも該当します。不法行為とは、違法な行為によって相手に損害を与えることです。遺産を無権限で使い込むのは違法ですし、それによって相続人の方々が遺産を受け取れなくなって損害を被るので、不法行為が成立します。
被害を受けた相続人の方々は使い込んだ人物に対し、不法行為に基づいて損害賠償請求訴訟を提起することができます。
これらの訴訟で勝訴すれば、遺産を使い込んだ人物は、裁判所から使い込んだ遺産の返還や損害の賠償を命じられますので、相続人の方々は、各自の法定相続分に応じて使い込まれた遺産を取り戻すことが可能です。
遺産の使い込みトラブルが発覚したとき、弁護士に相談すると以下のようなメリットがあります。
弁護士に依頼すると、使い込まれた財産の調査が可能です。
被相続人名義の預貯金の取引明細の取得をはじめとして、使い込み財産の調査は一般の方には煩雑であることも少なくないですが、弁護士に任せれば手を煩わせることなく、着実に調査を進められます。
すでに述べたとおり、遺産の使い込み問題を解決するには、証拠の収集が必須です。そのためには、預貯金口座の取引履歴などの資料だけではなく、被相続人のかかっていた病院のカルテや介護記録など、さまざまなものを集めなければならないこともあります。
相続人の方々が自分たちで、どのようなものが証拠になり得るのか判断した上で、実際にその収集をするのは難しいでしょう。
弁護士に任せれば、必要なものを効率的に集められるので、その後の返還請求や損害賠償請求を進めやすくなります。
使い込まれた遺産を取り戻すには、相手との交渉をすることが多いです。しかし、相続人本人から話をしても、相手が応じないことも多数あります。そのようなとき、弁護士に交渉を任せると、法的な観点から相手の責任を明らかにできるので、相手も返還に応じる可能性が高まります。
話し合いで相手がどうしても遺産の返還に応じない場合には、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こす必要があります。しかし、相続人が自分たちだけで訴訟を進めるのは困難です。
そのような場合、弁護士に任せていれば安心です。被害を受けた相続人の方々が最大限有利になるように訴訟手続きを進めることできます。
遺産の使い込み問題を解決しながら、相続人の間では遺産分割協議を進めていかなければなりません。
しかし、遺産を使い込んだのが相続人の1人である場合、その相続人と遺産分割協議を進めていくのは大変です。協議ではなかなか解決できず、調停や審判になる可能性も高くなるでしょう。
弁護士によるサポートを受けていれば、遺産分割協議や調停、審判などの手続きも適切かつ有利に進められます。
遺産(相続財産)の使い込みが発覚してトラブルが発生した場合、自分たちだけで解決するのは、なかなか難しいことです。
「勝手に遺産を使った・使っていない」などの水掛け論になり、収拾がつかなくなる例も多数あります。
遺産の使い込みによるトラブル解決は、ベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。ベリーベスト法律事務所では遺産相続専門チームを組成し、多くの実績と充実したノウハウを有しております。
所属する弁護士が親身になってお話を伺い、誠心誠意サポートいたしますので、お困りの際にはお気軽にお問い合わせください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。