遺産相続コラム
日頃から仲が良い兄弟姉妹であっても、遺産相続のようにお金が絡む問題になると、感情的になり対立してしまうことも少なくありません。
特に、被相続人(亡くなった方)が生命保険を契約していた場合は、受取人として指定されていた1人の相続人が保険金を受け取ることになります。
その際、生命保険金を独り占めして他の相続人に分配せず、その上でその他の相続財産も均等に分けるよう主張してきたときには、他の相続人としては到底納得できないでしょう。
このように、遺産相続においては親の生命保険金の扱いで兄弟姉妹のトラブルが起こってしまうケースがあるため、注意が必要です。
本コラムでは、生命保険と遺産相続の関係について、みなし相続財産や特別受益なども踏まえながら、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
母はすでに他界していて、父が亡くなった場合、子どもがいればその子どもが相続人になります。生命保険の受取人は長男Aに指定していますが、この保険金は相続財産になるのでしょうか。
また、父が生前「生命保険の受取人を長男のAにしておくから、仲良く3人で平等に分けなさい」と言っていた場合、長男のAが弟らに保険金を分配しないことは許されるのでしょうか。
結論から言うと、生命保険金は、遺産分割の対象になりません。保険契約に基づいて、あくまで受取人であるA自身が保険金を取得するからです。したがって、上記事例では、生命保険金は父の遺産ではなく、保険金受取人である長男Aの固有の財産ということになります。
上記の事例とは異なり、受取人として「相続人」が指定されている場合、特別な事情がない限り各相続人が法定相続分に従って保険金を取得します。
そのときには保険金が各相続人に分配されることにはなりますが、上記の事例と同様、保険金は各相続人固有の財産となりますので、やはり遺産分割の対象とはなりません。受取人を指定していない場合や、被相続人自身が受取人になっている場合にも、同様に各相続人が受取人となっているものとして扱われるのが実務上の一般的な考え方です。
すなわち、受取人の定め方によっては相続人間で不均衡を生じる場合があるものの、生命保険金は基本的に相続人固有の財産となるため、遺産分割の対象にはなりません。したがって、父が生前に「仲良く平等に分けなさい」と言っていたとしても、法的には、Aが保険金をBやCに分けなければならないわけではないのです。
なお、生命保険金は相続財産にはならないと説明しましたが、相続税の計算においては、「みなし相続財産」として相続財産に加算されます。「みなし相続財産」とは、相続財産ではないけれども相続財産とみなして計算するというものです。つまり、生命保険金は相続財産ではありませんが、被相続人の死亡を原因として財産の移転が行われることから、相続財産と同じように相続税を課税するのが適切と考えられているわけです。
ただ、生命保険金については、「500万円×法定相続人の数」について非課税となっていますので、他の相続財産より有利な扱いとなっています。たとえば、法定相続人が3人いる場合、「500万円×3人=1500万円」までが非課税になります。
生命保険が遺産分割の対象にならないことはわかりましたが、次のようなケースではどうなるのでしょうか。
たとえば、相続人が2人で、1人の相続人が3000万円の生命保険金の受取人であり、遺産である定期預金が1000万円あるという場合、生命保険金の受取人は、3000万円と定期預金の半分の500万円の計3500万円を受け取るということになります。これに対して、他方の相続人は500万円しか受け取ることができません。果たして、これでよいのでしょうか。
民法では、遺産分割の不公平を是正するものとして「特別受益」という考え方があります。特別受益とは、特定の相続人が被相続人から特別な利益を受けていることをいいます。つまり、特定の相続人だけが被相続人から多額の贈与を受けていた場合などに、そのことを考慮せず相続を考えるのは不公平なので調整するための制度です。特別受益があるとされた場合には、その額を相続財産に加算して(持ち戻して)遺産分割を考えることになります。
問題は生命保険金が特別受益といえるかですが、最高裁(平成16年10月29日決定)は「死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当」として、特別受益には当たらないと判断しています。
ただ、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当」とも述べているので、特別受益と同様に、遺産分割の際に考慮される可能性はあります。
なお、その判断基準としては、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」としています。
先ほどの例では、生命保険金が3000万円で、遺産総額が1000万円ですから、生命保険金の割合が遺産総額の300%にもなるので、上記基準にあてはめたときに、著しい不公平が生じていると評価されて、持ち戻しが認められる余地があると考えられます。
遺言がある場合には、遺言の内容に従って相続されるのが原則ですが、遺留分権利者(最低限の相続の取り分を主張できる者)は、生命保険金についてもその取り分を主張できるのでしょうか。
この点については、明確に判断している最高裁判所の判例はありませんが、やはり生命保険金が特別受益に準ずるものとして認められる場合には、これを含めた額を基に自身の遺留分を主張できる可能性があります。
これまで説明してきたとおり、生命保険金は保険金受取人の固有の財産となります。これについてはまず、上で述べたとおり、みなし相続財産として相続税の課税対象になる点に注意が必要です。ただし、相続税の計算では非課税となる枠があり、その計算式は「500万円×法定相続人の数」です。そのため、たとえば法定相続人が3人いる場合、1500万円までは非課税となります。
相続人のうち特定の1人が受取人として指定されていた場合に、生命保険金が特別受益に準ずるものとして遺産分割において考慮されることがあるのは上述のとおりですが、そのときは、生命保険金自体を相続人間で分けるわけではありませんので、相続人の間で贈与の問題は生じません。
それに対して、単に保険金受取人が兄弟姉妹など他の相続人に平等に分けるべきであると考えて、任意に生命保険金を分配した場合には、保険金を他の相続人に贈与したということになり、相続税とは別に、贈与税が発生する可能性があります。
他の相続人が贈与税の基礎控除額である110万円を超える額の保険金を受け取った場合には、贈与税を支払う必要がありますので、この点には留意しておきましょう。
生命保険金の額が大きく、兄弟姉妹間で不公平が生じている場合には、特別受益と同様に扱われる可能性があることを説明してきましたが、実際そのような状況になったときに、具体的にどうすればよいのでしょうか。
特別受益に該当するかどうかは、判例の規範に該当するか法的判断が求められます。また、相続税の計算や贈与税が発生するかなどの税金処理も求められるほか、財産調査や戸籍の取得などの手続きも必要です。
その点、弁護士であれば、法的な判断についての見通しを立てることができますし、各手続きなども代わりに行うことができます。また、税金の計算や申告については、税理士に依頼するのがよいでしょう。
何より、相続の分配は身内での話し合いとはいえ、揉めやすく感情的になりがちです。仲の良かった兄弟が相続を機に仲たがいするということもよくあります。そうならないためにも、第三者である弁護士などに依頼することをおすすめします。
万が一、相続人間で話がまとまらない場合、遺産分割調停を申し立てたり、遺産分割審判で裁判所に分け方を決めてもらったりすることになりますが、裁判所での手続きになるため、その申し立てをするのも専門家でないと大変です。弁護士であれば、申し立てはもちろん、調停や審判で代理人となって手続きを行えるので、お仕事で忙しい相続人の方にはその点も大きなメリットになるでしょう。
生命保険金は基本的に相続財産に含まれず、遺産分割の対象にはなりません。よって、遺産分割協議で生命保険金を考慮するためには、特別受益に準じるものと認められることが必要です。
しかし、「特別受益に準じる」といえるかどうかの判断は法的判断が求められるため、一般の方では難しく、兄弟姉妹など他の相続人との間でトラブルになる可能性があります。ただでさえ、相続財産の分配は感情的になりやすくトラブルに発展しやすいものであり、より慎重な対応が求められるでしょう。
兄弟姉妹での遺産相続トラブルを避けるためには、弁護士に依頼することをおすすめします。第三者が介入することで冷静に話し合いができるだけでなく、法的な判断が必要な場面でも、弁護士の意見を聞くことが可能です。
ベリーベストグループには、遺産相続について経験豊富な弁護士だけでなく税理士も所属しておりますので、法律問題はもちろん税金の問題についても対応することができます。「遺産相続や生命保険の問題で困っている」という場合には当事務所までご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。