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自筆証書遺言の保管制度とは。いつから施行される? かかる手数料は?

2020年07月21日
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自筆証書遺言の保管制度とは。いつから施行される? かかる手数料は?

2020年7月、相続法の改正によって、法務局に「自筆証書遺言」を保管できる制度が新設されます。この制度を上手く利用すれば、せっかく書いた遺言書を紛失したり書き換えられたりするリスクを回避することができます。

今回は自筆証書遺言の保管制度がいつからスタートするのか、手数料や費用などについて、弁護士が解説します。

1、自筆証書遺言の保管制度とは? いつから預け入れができる?

  1. (1)保管制度の概要

    自筆証書遺言の保管制度とは、遺言者が自筆で作成した遺言書を法務局で保管してもらえる制度です。遺言の方式には、自筆証書遺言以外にもいくつかありますが、この保管制度は自筆証書遺言のみに認められ、公正証書遺言等には認められません。

    自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、これに押印すれば成立し、自書能力さえあれば、証人や立会人など他人の力も借りる必要もなく、また特別の費用も必要としない、いわば手軽で自由度の高い遺言の方式です(民法968条第1項)。

    しかし、これまでは、遺言者自身が自筆証書遺言を保管する必要がありました。自分で保管すると、亡くなる前に紛失してしまったり、親族等によって書き換えられたり破棄されたりして、また、遺言書の存在に気付かずに遺産分割が行われたりして、せっかくの遺言者の意思が実際の遺贈や相続に反映されないケースも少なくないと思われます。

    そこで、法務局における遺言書の保管制度は、手軽で自由度の高い自筆証書遺言のメリットをそのままに、遺言書の保管及びその画像情報等の管理によって、上のようなリスクを軽減して、遺言者の意思を保護しようとするものです。

    自筆証書遺言の保管制度を用いると、遺言書保管官が、申請された遺言が自筆証書遺言の方式に従っているかを、事前に確認してくれますので、形式上遺言として認められないことによるトラブルも防ぐことが期待できます。同制度では、相続開始後の家庭裁判所による「検認」も不要とされ、相続人側の手間が省けるとともに、相続人等が検認を受けずに開封してしまうリスクも避けることができます。

  2. (2)保管制度はいつから施行される?

    自筆証書遺言の保管制度を定めた法務局における遺言書の保管等に関する法律(「遺言書保管法」)は、令和2年(2020年)7月10日に施行されます。したがって、この日以降であれば、作成した自筆証書遺言を法務局に保管してもらえます。

  3. (3)財産目録はパソコンでの作成が可能に

    ところで、自筆証書遺言については、もうひとつ法改正が行われていて、従前からの取り扱いが変わった点があります。
    これまでは、遺言に添付される相続財産の目録(「財産目録」)も含めてすべて自筆しなければなりませんでしたが、改正法により、財産目録については、パソコンでの作成や代筆、資料の添付による代用が可能となり、自書の必要がなくなりました。
    たとえば、表計算ソフト等で財産目録表を作ってもかまいませんし、家族に代筆してもらってもかまいません。預貯金通帳や不動産登記簿(全部事項証明書)の写しを添付する方法も有効とされます(民法第968条第2項前段)。目録などを添付する場合には、すべてのページに署名押印が必要になります(民法第968条第2項後段)。

2、法務局で自筆証書遺言を保管すると費用や手数料はかかる?

法務局で自筆証書遺言を保管してもらう場合、申請の際に3,900円の手数料が必要となります。法務局や郵便局などで「収入印紙」を購入して支払いをします。

3、法務局で自筆証書遺言を保管する方法

法務局で自筆証書遺言を保管してもらいたい場合、以下の手続きが必要となります。

  1. (1)まずは自分で自筆証書遺言を作成

    まずは自分で自筆証書遺言を作成しなければなりません。形式的に不備があると預かってもらえない可能性があるので、正しい方法で作成しましょう。

    作成様式は以下の通りです。

    • A4サイズの地紋、彩色等のない用紙を使う
    • 各ページにページ番号を記載する
    • 片面のみに記載する
    • 数枚にわたる場合、とじ合わせない
    • 縦置きにした場合上5ミリメートル以上、下10ミリメートル以上、左20ミリメートル以上、右5ミリメートル以上余白をあけ、余白には何も記載しない
    • ボールペン等の容易に消えない筆記用具を使用する。


    ※その他の記載事項・方法については、法務省のHP等でご確認ください(PDF:491KB)

  2. (2)法務局へ予約

    管轄の法務局に事前に予約しましょう。

  3. (3)法務局に持参して申請する

    自筆証書遺言を作成したら、ホッチキス止めも封入しないままで、申請書、本籍の記載のある住民票、本人確認書類、手数料とともに、管轄の法務局に持参し、保管制度利用の申請書に必要事項を記載して申請を行います。必ず本人が出向く必要があり、代理人による申請はできないので注意が必要です。これは、遺言者の意思に拠らずに作成された遺言書や、その意思に反してなされる保管の申請を排除するためです。また、法務局で遺言書のチェックを受けるため、封入してはなりません。
    保管の申請ができるのは、遺言者の住所地、本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地にある法務局の本局、支局、出張所等ですが、具体的には法務省のHPなどでご確認ください。

  4. (4)チェックを受けて保管開始

    法務局に自筆証書遺言を持参したら、外形的な確認を受け、不備がなければそのまま預かってもらえます。その際、3,900円分の収入印紙の納付が必要となります。

4、相続開始後に、保管されている遺言書を確認する方法は?

遺言者が死亡して相続が開始したら、相続人等は遺産相続手続きを進めるために遺言書の内容を確認する必要があります。

自筆証書遺言を法務局で保管している場合、「関係相続人等」(遺言書保管法第9条第3項)は相続開始後に遺言書の閲覧が可能となります。法務局へ行って、遺言者の死亡の事実と相続人である事実の証明をすれば、遺言書を確認させてもらえます。モニターを通じて確認することも可能ですし、原本を確かめることもできます。モニターを通じて閲覧する場合には1,400円、原本を閲覧する場合には1,700円の手数料がかかります。
また、相続人らは、遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」も交付してもらえますが、その場合には別途1,400円の手数料が発生します。

なお、自筆証書遺言を法務局に預けた場合、家庭裁判所での検認は不要なので遺言書の原本を返してもらう必要はありません。

さらに、相続開始前は遺言書を遺言者本人しか閲覧できないので注意が必要です。関係相続人等が遺言書の内容を確認できるのは、相続が開始した後に限られます。

5、法務局で自筆証書遺言を保管するメリット・デメリット

  1. (1)メリット

    自筆証書遺言の保管制度を利用すると、以下のようなメリットがあります。

    ●紛失のリスクがない
    自筆証書遺言を作成して遺言者が自分で保管していると、どうしても紛失のリスクが高まります。法務局に預ければ確実に保管してもらえるので、なくしてしまうおそれはありません。

    ●破棄隠匿、書き換えのリスクがない
    自筆証書遺言を自宅で保管していると、親族等などが発見して自分に不利な遺言を破ったり隠したり、自分に有利なように勝手に書き換えたりする可能性も否定できません。
    法務局の保管制度を使えば原本が法務局で保管されるので、破棄隠匿や書き換えはできません。

    ●形式的な無効のリスクを軽減できる
    自分で自筆証書遺言を作成した場合、どうしても法律上の要式不備で遺言自体が無効になるリスクがあります。

    法務局で保管する場合は、遺言書を保管する前に、一定程度、遺言書保管官による自筆証書遺言の方式に適合しているかの確認を受けるので、不備があれば訂正を指示してもらえることが期待できます。具体的な中身の正確性まですべて担保できませんが、形式的な不備を理由とする遺言の無効を避けられるのも保管制度のメリットと言えるでしょう。

  2. (2)デメリット

    自筆証書遺言の保管制度には以下のようなデメリットもあります。

    ●一定の手間と時間がかかる
    自筆証書遺言の保管制度を利用するには、必ず管轄の法務局に遺言者自らが出向かねばなりません。法務局の開局時間に行かねばなりませんし、本人確認書類などの提示も必要です。
    現地でも遺言書の形式的な確認を受けてから、保管申請手続きをしなければならないので、時間をとられます。

    ●手数料がかかる
    自筆証書遺言の保管制度には手数料がかかります。ただし、1件につき3,900円と公正証書遺言に比べると低額といえます。

    ●遺言書の存在を知られない可能性がある
    自筆証書遺言の保管制度を利用しても、相続人や受遺者らに通知は行われません。遺言者が死ぬまで誰にも遺言について話さなければ、死後に遺言書が発見されない可能性があります。
    法務局の遺言書保管制度を利用した場合には、必ず推定相続人等に「法務局に遺言書を預けているので死後に確認して手続きを進めるように」と告げておくか、法務局で遺言者に交付される保管証をもって、推定相続人等に対して伝えておくこともできます。

6、自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを作るべき?

遺言書を作成するときには「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のいずれを利用するかで悩まれる場合もあろうかと思いますが、どちらの方式によるべきか、さまざまな視点から比較してみましょう。

  1. (1)費用

    公正証書遺言は、遺言の目的である財産額に応じて法定されており、また、公証人による出張が必要な場合にはその手数料が加算されることになります。概ね数万円程度ですが、高額な場合には10万円を超える場合もあります。日本公証人連合会等のHPで確認頂けます。一方、自筆証書遺言の保管制度なら3,900円で利用できるので、費用面では自筆証書遺言の保管制度が優れているといえるでしょう。もし、遺言の文案作成自体を弁護士に依頼される場合には、これに弁護士費用が別途加算されます。

  2. (2)手間

    公正証書遺言の場合、二人の証人を用意する必要があります。また、事前に公証人との打ち合わせが必要となることがあります。原則として、公証役場に赴いて、口授や読み聞かせを行いますので、その手間が発生します。
    一方、自筆証書遺言であれば、自分で書いた遺言書を持ち込むだけなので簡単です。手間の面から見ると、若干自筆証書遺言の保管制度が優れているといえます。

  3. (3)場所の利便性

    公正証書遺言を作成するときには、全国のどこの公証役場も利用可能です。自筆証書遺言の保管制度の場合、預け入れができる法務局が限定されるので、場所の利便性については公正証書遺言が優れているともいえます。ただし、遺言者にとって便利な場所や地域は限定されるでしょうから、一概にどちらが有利とはいえないのではないでしょうか。

  4. (4)本人が出頭できない場合の対応

    本人が出頭できない場合、費用は加算されますが、公正証書遺言であれば公証人に自宅や病院まで出張してきてもらって作成可能です。自筆証書遺言の保管制度では、必ず本人が法務局に行かねばならないので、この点では公正証書遺言が優れているといえるでしょう。

  5. (5)無効になるリスク

    自筆証書遺言の場合、本人が作成済みの遺言書を持ち込むだけなのでその内容の正確性まで、遺言書保管者は確認してくれません。また、本人の遺言能力が十分でなくても受け付けられる可能性があるので、後日遺言無効確認に関する紛争が生じる可能性もあります。

    公正証書遺言の場合には、公証人は遺言者から口授と公証人による読み聞かせの手続きを通じて公正証書を作成するので、その過程で不明確な点は確認がなされ、しかも、遺言者の遺言能力の有無についての確認も一定程度なされることから、後日遺言が無効とされるリスクは低くなります。

  6. (6)紛争防止機能

    自筆証書遺言の保管制度の場合、たしかに、上記のようなリスクを回避できるという点で、紛争を防止する機能が認められます。しかし、遺言書保管官が遺言内容の正確性まで確認するわけではなく、また本人の遺言能力が不十分であっても保管が受け付けられてしまう可能性もないとはいえず、一部の相続人等が遺言書の無効を主張してトラブルになる可能性がないとはいえません。

    そのようなリスクは、原則として、公証人による口授と読み聞かせの手続きを経た公正証書遺言の方が、なお低いと評価できるのではないでしょうか。

    実務上も、公正証書は、私文書よりも、その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたことについて強い推認力が働くと理解されており、その意味で紛争防止機能は強いと評価できます。

    参考:遺言書の基礎知識

7、まとめ

上記のように、自筆証書遺言の保管制度は、簡便かつ将来の紛争予防機能を有する点でメリットは大きいといえます。他方で、公正証書遺言は、法律専門家たる公証人の介在によって、遺言の内容の正確性を一定程度担保すると共に、遺言能力欠如のリスクも一定程度排除できて、より安全な方法と考えられます。

もっとも、公正証書遺言であっても、公証人が、遺産の範囲や内容、遺言者の置かれた環境について、詳しく調査するわけではなく、遺言者の利益や意思をどこまで実現できるかについては、限界もあると考えられます。
特に、相続人や受遺者が多い場合や、遺産の範囲が多岐にわたるような場合には、遺言案の作成段階から参加して、適切な助言のできる弁護士の存在は重要といわざるをえません。


ベリーベスト法律事務所では遺産相続案件に積極的に取り組んでおり、多くの経験を有する弁護士が全国規模で在籍しております。遺言書作成でお悩みの方はぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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