遺産相続コラム
相続財産というと、金融資産や不動産がまず思い浮かぶと思います。しかし、相続財産は非常に多種多様です。なかには相続の対象になるのか判断が難しい資産もあり、相続税評価が複雑なものもあります。その代表的な資産が、「ゴルフ会員権」でしょう。
そこで本コラムでは、相続におけるゴルフ会員権の相続の方法や評価について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
ゴルフ会員権とは、会員制のゴルフ場を利用する権利のことです。
ゴルフ会員権は、ゴルフ場を所有経営する会社の種類・性質により、その意味合いが異なっています。
ゴルフ会員権は、主に社団法人制・預託金制・株主会員制と、3つに分類されます。被相続人の財産にゴルフ会員権があることがわかったときは、まず当該ゴルフ会員権はどれに分類されるのか、ゴルフ会員権の払込証明書や会員証などで確認しましょう。
●社団法人制
社団法人制を採用しているゴルフクラブの場合、ゴルフ会員権は、社団法人の社員としての地位を有することを意味しています。
社団法人制は、会員が社団法人の社員として自主的にゴルフ倶楽部の施設の運営を行う形態のもので、プロトーナメントなどで利用されるような名門ゴルフクラブの多くで採用されています。社団法人制のゴルフ会員権は、原則として譲渡することを認めていないゴルフクラブが多いようです。しかし、相続が発生した場合は直系の親族に限定して名義変更を認めているゴルフクラブも存在します。
●預託金制
預託金制を採用しているゴルフクラブの場合、ゴルフ会員権は、ゴルフ場を所有経営する会社との契約上の地位を意味しています。
日本のゴルフ会員権の多くで用いられている制度であり、保証金制ともいいます。入会時に一定の資金をゴルフクラブに預託し、ゴルフ場施設を優先的に利用しうる権利や退会時に預託金を返還請求しうる権利を付与されます。
社団法人制と異なり、ゴルフ会員権を譲渡することは、原則として会員の自由です。しかし、当該ゴルフ会員権を譲り受けた人は、事前に当該ゴルフクラブの入会審査にパスしなければならないことが多いようです。会員には入会金や年会費の納入義務などがあることも特徴です。
●株主会員制
株主会員制を採用しているゴルフクラブの場合、ゴルフ会員権は、ゴルフ場を所有経営する会社の株主としての地位を意味しています。
預託金制と同様に、ゴルフ会員権を譲渡することは基本的に会員の自由です。しかし、ゴルフクラブによっては、譲渡にあたりゴルフクラブの理事会から承認を得ることを求められる場合もあります。
ゴルフクラブの中には、会則等の内部規則によって会員の死亡を会員資格の資格喪失事由として定めている場合があります。この場合には、会員の地位は一身専属的なものであり、会員資格は、基本的には、相続の対象とはなりません。
他方、会則等の内部規則において特に定めがない場合には、一般的には相続の対象になります。
ゴルフ会員権が相続の対象にならない場合、相続人は、預託金制会員権の場合には、預託金返還請求権や滞納年会費支払い義務等の個々の債権・債務を相続することになります。
他方、相続の対象になる場合には、ゴルフ会員権の名義書換手続を行うことになります。
相続する場合、ゴルフ会員権は相続税の課税対象となります。したがって、ゴルフ会員権を相続するときは相続税評価額を計算しなければなりません。
また、ゴルフ会員権は不動産と異なり、基本的に「共有名義で相続する」ということはできません。したがって、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議で誰が当該ゴルフ会員権を相続するかということを明確に決めておかなくてはなりません。
ゴルフ会員権の相続税評価額は、当該ゴルフ会員権に取引相場があるかないか、さらに預託金制度の採用の有無によって相続税評価額を計算する方法が異なります。
●取引相場はあるが、預託金制度がないゴルフ会員権の場合
取引相場があるゴルフ会員権については、相続の場合、被相続人が死亡した日の取引価格の70%を乗じて相続税評価額を計算します。
ゴルフ会員権の取引相場には、売価格と買価格の2つの価格があります。相続税評価額を求めるときは、被相続人が死亡して相続が発生した日の売価格と買価格を足して2で割った数値に70%を乗じて相続税評価額を計算します。
なお、ゴルフ会員権の価額はゴルフ会員権取引業者によって異なることが多いものです。そのときは、ゴルフ会員権取引業者が提示している価額のうち、もっとも低い価額を用いましょう。ゴルフ会員権の相続税評価額を計算するときは、できるだけ多くのゴルフ会員権取引業者が提示している価額をチェックするようにしてください。
●取引相場と預託金制度の両方があるゴルフ会員権の場合
預託金がゴルフクラブからすぐに返還を受けることができる場合は、返還を受けることができる預託金相当額を取引価額相当額に加算したうえで、相続税評価額を求めます。
その一方で、相続が発生しても一定の期間を経過しないかぎり返還されない預託金等は、その預託金が返還されるまでの期間に応じた基準年利率による複利現価率を、預託金相当額に乗じます。これで求められた額を、取引価格に加算して相続税評価額を算出します。
まとめますと、取引相場と預託金制度の両方があるゴルフ会員権は以下の数式で算出します。
「相続が発生した日の取引価格×70%+預託金等の金額×返還されるまでの期間に応じた基準年利率による複利現価率(すぐに変換される場合は1)」
●取引相場がないゴルフ会員権の場合
株主会員制の場合は、非上場株式と同様の評価を行います。純資産額や配当額などから算出する類似業種比準方式・純資産価額方式などの方法を用います。
預託金制の場合は、返還される預託金の金額となります。
なお、譲渡できないゴルフ会員権で、返還を受けることができる預託金等がないゴルフ会員権の場合は、相続税評価をする必要はありません。
売却するときの手続きについては、まずはゴルフクラブに連絡し必要な手続きについて聞きましょう。具体的には、
などについて確認しましょう。
市場で売却するときは、通常、ゴルフ会員権取引業者の仲介により行います。得意な地域などは、各ゴルフ会員権取引業者によって異なるものです。したがって、少しでも有利な価額で売却するためには可能なかぎり多くのゴルフ会員権取引業者や提示価額をしっかりとリサーチしておくことがおすすめです。
ゴルフ会員権を売却したときの譲渡益には、譲渡所得として所得税が課税されます。この譲渡所得に対して課税される税率は、当該ゴルフ会員権を被相続人が取得したときから相続人が売却するまで5年以上経過しているか否かによって異なります。具体的には、5年以上経過しているほうがそうでない場合よりも税負担は軽くなるのです。
また、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までにゴルフ会員権を譲渡した場合は、「取得費加算の特例」の適用を受けることができます。
これにより、譲渡所得を計算するための取得費に当該ゴルフ会員権に係る相続税の一部を加算することができるのです。相続税を加算することにより取得費が高くなるわけですから、そのぶん譲渡益が低くなり所得税の額を抑えることができます。
なお、相続税の申告期限と納付期限は、相続の開始の翌日から10か月後までです。したがって、もしゴルフ会員権の売却代金が入らないと相続税の納税資金が不足してしまう場合、かつ納税期限までに買い手が付かないと予想される場合は、相続税延納の申請を税務署に対して早めに手続きしておくことがおすすめです。
まず、ゴルフクラブに連絡したうえで名義変更に必要な書類を取得してください。そして、身分証明書など必要書類を添付のうえ提出します。その後、相続人に対して入会審査を行うゴルフクラブもあります。審査の項目は、主に年会費を支払う資力の有無、既存入会者からの推薦の有無、職業、年齢などがあるようです。
審査の結果、相続人にゴルフクラブへの入会が認められた場合、ゴルフ会員権の名義書換手数料を請求されることが一般的です。このほか、ゴルフクラブへの入会金などが必要とされる場合がありますが、相続による名義変更の場合は通常の金額よりも安くなる場合もあるようです。
リゾート会員権とは、リゾートホテルや貸別荘などの宿泊利用権のことです。リゾートマンションもゴルフ会員権同様に、相続税が課税されます。
リゾート会員権の相続税評価方法は、基本的にゴルフ会員権と同じです。なお、不動産所有権付リゾート会員権の場合、不動産所有権と施設利用権を分離することはできません。
電話加入権も、相続税の課税対象です。
覚えやすい番号などの取引相場のある場合を除き、原則として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価します。
標準価額は、毎年国税庁のサイト(財産評価基準書)で都道府県ごとに公表しており、平成26年以降は、1回線あたり1500円が標準価額となっています。
参考:相続税の対象となる財産
ゴルフ会員権の種類・性質、会則等により異なりますが、会員権が相続の対象となる場合には、基本的には、会費支払債務も相続の対象になり、相続人が会費を支払うことが一般的です。
先述のとおり、ゴルフ会員権を売却したときの譲渡益は譲渡所得として所得税が課税されます。この所得税は、翌年の確定申告により申告・税金を納付することになります。
ゴルフ会員権にかぎらず、相続の対象になるのか否かや相続の方法についての判断が難しい資産がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
また、相続は、相続財産の評価や遺産分割の方法をめぐり、相続人間でトラブルが発生しやすいものです。弁護士であれば、相続をめぐる法的なトラブルについて相談することが可能です。
相続にお悩みのことがあるときは、ぜひベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
令和6年4月1日の法改正により、相続登記の義務化が始まりました。義務が発生するのは4月1日以降の相続だけでなく、それ以前に発生した相続も対象になります。
そのため、期限までに相続登記を終えなければ過料の制裁を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
こうした制裁リスクを回避できるように新しく創設された制度が、「相続人申告登記」です。
相続登記をするには、遺産分割協議で遺産の分配を決める必要がありますが、期限内に遺産分割に関する話し合いがまとまらないケースもあるでしょう。そのようなときに、この相続人申告登記の制度を利用することで、より簡単に相続登記の申請義務を履行できるようになりました。
本コラムでは、相続登記の義務化に伴い、新たに導入された相続人申告登記の基礎知識について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。
たとえ大勢いる相続人のひとりと連絡が取れない場合であっても、勝手に相続手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
本コラムでは、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
民法・不動産登記法が改正され、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。対象となる相続登記は、法改正以降に発生した相続だけでなく過去の相続も含まれるため、注意が必要です。
相続登記を行う期限は、「改正法の開始日(令和6年4月1日)」もしくは、「不動産を相続により取得したことを知った日」の、どちらか遅い日から3年以内、遺産分割協議で取得した場合は、別途、遺産分割協議成立日から3年以内となるため、ご自身の場合の期限がどこになるかを見極めて、早めに手続きを進めていくことをおすすめします。
今回は、相続登記義務化の概要と登記しなかった場合の罰則、すぐに相続登記ができない場合の救済措置(相続人申告登記)について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。