遺産相続コラム

同時死亡の推定│死亡した順序が不明な場合はどうすべきか?

2025年03月19日
  • 遺産分割協議
  • 同時死亡の推定

同時死亡の推定│死亡した順序が不明な場合はどうすべきか?

交通事故や自然災害などにより家族を同時に複数名失ってしまった場合、亡くなった方(被相続人)の遺産はどのように相続すればよいのでしょうか。

交通事故などで誰が先に亡くなったのかがわからない場合には、「同時死亡の推定」が働き、同時に死亡したものと推定されます。同時死亡と推定されるか否かによって、遺産相続や相続税に大きな違いが生じますので、しっかりと理解しておくことが大切です。

今回は、同時死亡の推定の考え方や具体的なケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、同時死亡の推定とは

同時死亡の推定とは、事故や災害などが原因で複数の人が亡くなり、複数の死亡の前後関係がわからない場合に、複数人が同時に死亡したものと推定する制度です(民法32条の2)。
たとえば、交通事故で車に一緒に乗っていた父親と子どもが亡くなった場合や、家族旅行で利用していた飛行機が墜落して一家全員が死亡したような場合がこれにあたります。また、地震や津波、火災などにより家族全員が亡くなってしまったケースも、民法32条の2によって、同時死亡と推定されます。

2、死亡の順序によって変わること│相続割合・相続税

相続割合や相続税は、死亡の順番によって異なります。同時死亡の制度を理解するためにも、まずは相続割合と相続税の基本について押さえておきましょう。

  1. (1)相続割合

    以下のモデルケースを前提に、死亡の前後でどのように相続割合が変わるのかみていきましょう。

    【モデルケース】
    家族構成:父、母、長男、二男の4人(長男も二男も配偶者・子どもなし)
    相続財産:父の財産が1億円、長男の財産が5000万円

    ① 父が死亡し、その後長男が死亡した場合
    父が死亡した段階で、母、長男、二男の3人が相続人となり、以下の割合で父の遺産を相続します。

    ・母:5000万円(遺産の1/2)
    ・長男:2500万円(遺産の1/4)
    ・二男:2500万円(遺産の1/4)

    その後、長男が亡くなると、母が長男の相続人となります。二男は長男の相続においては相続人ではありません。母は、長男の相続において、長男の遺産7500万円(長男の遺産5000万円+父の死亡により長男が相続した2500万円)を相続します。

    ② 長男が死亡し、その後父が死亡した場合
    長男が死亡した段階で、父と母が相続人となり、長男の遺産5000万円を以下の割合で相続します。

    ・父:2500万円(遺産の1/2)
    ・母:2500万円(遺産の1/2)

    その後、父の死亡により、母、二男の二人が相続人となり、父の遺産1億2500万円(父の遺産1億円+長男の死亡により父が相続した2500万円)を以下の割合で相続します。

    ・母:6250万円(遺産の1/2)
    ・二男:6250万円(遺産の1/2)

    ③ 父と長男の死亡の先後が不明な場合
    父と長男の死亡の先後が不明な場合、同時死亡の推定により、父と長男は同時に死亡したものと推定されます。
    そのため、父の相続では、母と二男が相続人となり、父の遺産1億円を以下の割合で相続します。

    ・母:5000万円(遺産の1/2)
    ・二男:5000万円(遺産の1/2)

    また、長男の相続では、母のみが相続人となり、母が長男の遺産5000万円を相続します。

  2. (2)相続税

    相続が発生すると相続財産の総額に応じて相続税が課税されます。ただし、相続税には基礎控除がありますので、遺産相続から「3000万円+600万円×法定相続人の数」を控除して、相続税の金額を計算します。
    このように、相続税の基礎控除額は、法定相続人の人数に応じて計算しますので、死亡の先後によって基礎控除額が以下のように変化します。

    ① 父が死亡し、その後長男が死亡した場合
    父が死亡し、その後長男が死亡したケースでは、父の相続における相続人は、母、長男、二男の3人です。そのため、基礎控除額は4800万円(3000万円+600万×3)になります。

    ② 長男が死亡し、その後父が死亡した場合
    長男が死亡し、その後父が死亡した場合、父の相続における相続人は、母、二男の二人です。そのため、基礎控除額は4200万円(3000万円+600万×2)になります。

    ③ 父と長男の死亡の先後が不明な場合
    父と長男の死亡の先後が不明な場合、同時死亡と推定されますので、父の相続における相続人は、母と二男の二人です。そのため、基礎控除額は4200万円(3000万円+600万×2)になります。

3、同時死亡の推定│具体的なケース

同時死亡の推定が適用される場合、具体的な遺産相続はどのようになるのでしょうか。以下では、具体的なケースを例に挙げながら説明します。

  1. (1)同時死亡の典型的なケース

    以下のようなモデルケースにおいて、ある日父と長男が同乗する車が事故に遭い、二人が即死したものとします。

    【モデルケース】
    家族構成:父、母、長男、二男の4人(長男も二男も配偶者・子どもなし)
    相続財産:父の財産が1億円、長男の財産が5000万円

    このケースでは父と長男のどちらが先に亡くなったのかがわかりませんので、同時死亡の推定により、父と長男は同時に亡くなったものと推定されます。同時死亡と推定された人同士の間では、相続が発生しなくなります。
    具体的には父の相続においては、長男は相続人にはなりませんので、母と二男が相続人となり、父の遺産を以下の割合で相続します。

    ・母:5000万円(遺産の1/2)
    ・二男:5000万円(遺産の1/2)

    次に、長男の相続においては、父は相続人にはなりませんので、母のみが相続人となり、母が長男の遺産5000万円をすべて相続します。
    その結果、各相続人が相続する遺産は、最終的に以下のようになります。

    ・母:1億円(父の死亡により相続した5000万円+長男の死亡により相続した5000万円)
    ・二男:5000万円(父の死亡により相続した5000万円)

  2. (2)代襲相続が発生するケース

    代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が被相続人(亡くなった方)の死亡以前に亡くなっている場合に、本来相続人になる人の子どもが代わりに相続人になる制度をいいます。
    同時死亡の推定が適用されるケースでも代襲相続が発生することがあります。通常の相続よりも考え方が複雑になりますので、同時相続の推定と代襲相続が適用される場合の相続関係をしっかりと理解しておきましょう。

    【モデルケース】
    家族構成:父、母、長男、長男の妻、孫(長男の子ども)の5人
    相続財産:父の財産が1億円、長男の財産が5000万円

    このケースにおいて、ある日父と長男が同乗する車が事故に遭い、二人が即死し、父と長男のどちらが先に亡くなったかわからないものとします。
    父と長男のどちらが先に亡くなったのかがわかりませんので、同時死亡の推定により、父と長男は同時に亡くなったものと推定されます。これにより、父と長男の間では、相続が発生しなくなります。

    父の相続において、生きていれば父の相続人となるはずであった長男は、父と同時に死亡したものとみなされますので、代襲相続が発生し、代襲相続人である孫(長男の子)に相続権が認められます。その結果、父の相続では、母と孫が相続人になり、以下の割合で父の遺産を相続します。

    ・母:5000万円(遺産の1/2)
    ・孫:5000万円(遺産の1/2)

    次に、長男の相続では、長男の妻と孫が相続人になり、以下の割合で長男の遺産を相続します。

    ・長男の妻:2500万円(遺産の1/2)
    ・孫:2500万円(遺産の1/2)

    その結果、各相続人が相続する遺産は、最終的に以下のようになります。

    ・母:5000万円(父の死亡により相続した5000万円)
    ・長男の妻:2500万円(長男の死亡により相続した5000万円)
    ・孫:7500万円(父の死亡により相続した5000万円+長男の死亡により相続した2500万円)

4、同時死亡の推定における4つの注意点

同時死亡の推定が適用される相続については、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)遺言書がある場合

    遺言書がある場合には、法定相続割合に応じて分けるのではなく、原則として遺言書の内容が優先されますので、遺言書に記載された内容にしたがって遺産を分けることになります。

    しかし、遺言で遺産相続を指定した者が被相続人と同時に亡くなってしまった場合、当該遺言で遺産の受取人として指定された者が相続の際には存在しないことになりますので、遺言書の該当部分は無効になります。この場合には該当部分については代襲相続も発生せず、法定相続に戻ります。

  2. (2)違う場所で亡くなった場合

    同時死亡の推定というと、同じ車に乗っていて事故にあった場合のように、同じ場所で亡くなった場合をイメージされる方が多いでしょう。しかしながら、同時死亡の推定の適用においては、同じ場所である必要はありません
    複数の人が違う場所で亡くなった際にも、死亡時刻がわからず、それぞれが亡くなった先後が不明な場合には、同時死亡と推定されます。

  3. (3)保険金がある場合

    同時死亡の推定が働くケースでは、生命保険の契約者と受取人が一緒に亡くなってしまうケースもあります。
    このようなケースでは、保険法46条より、生命保険金の受取人の法定相続人が死亡保険金を受け取ることになります。

  4. (4)同時死亡の推定が覆った場合

    同時死亡の推定は、あくまでも「推定」ですので、それを覆す証拠がある場合には、同時死亡の推定は覆ります。
    一度は同時死亡と判断された事案であっても、目撃者の証言や明確な資料などにより異時死亡を証明することができれば、同時死亡の推定を覆すことができます。

    同時死亡の推定が覆った場合、相続人の相続割合に変化が生じますので、遺産分割をやり直す必要があります。新たに相続人になった人や新たな相続分が発生する人は、他の相続人に対して不当利得返還請求権に基づいて相続財産の返還を求めることができます。このような権利を「相続回復請求権」(民法884条)といいます。

    なお、相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知ったときから5年の時効がありますので、同時死亡の推定が覆ったときは、すぐに行動することが大切です。

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5、まとめ

交通事故や災害などが原因で家族が複数名死亡し、どちらが先に亡くなったのかがわからないときは、同時死亡と推定されます。同時死亡と推定されると、相続人や相続割合、相続税の計算が通常の相続と異なります。
誤った解釈により遺産相続の手続きを進めてしまうとやり直しなどのリスクがあります。最初から正しく対応するために、法的な知識や経験が必要です。まずは弁護士に相談することをおすすめします。

相続についてお悩みの方は、初回60分無料相談のベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。遺産相続専門チームに属する弁護士が、お客さまにとってベストな解決方法を提案し、相続トラブルの解決に尽力いたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒 106-0032 東京都港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
[ご相談窓口] 0120-152-063

※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。

URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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    今回は、同時死亡の推定の考え方や具体的なケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

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