遺産相続コラム
法定相続人が相続の承認、または相続放棄の意思表示をすることなく熟慮期間中に亡くなった場合、再転相続が発生します。
再転相続は、遺産分割が完了する前に次の相続が発生する数次相続とは異なり、まず当初の相続についての承認または相続放棄を検討しなければなりません。また、再転相続の状況によっては、熟慮期間中であっても相続放棄が認められないケースもありますので、注意が必要です。
今回は、再転相続とは何か、再転相続が発生する具体的なケースや熟慮期間の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
再転相続とはどのようなものなのでしょうか。以下では、再転相続の概要と代襲相続や数次相続との違いを説明します。
再転相続とは、ある相続について、もともとの相続人(一次相続)が相続承認または相続放棄・限定承認の意思表示をすることなく、熟慮期間中に亡くなった場合に発生する相続のことをいいます。
次の相続人(二次相続)は、一次相続の相続人の地位も引き継ぐことになりますので、一次相続と二次相続の双方について、相続の承認または相続放棄・限定承認を検討しなければなりません。
ただし、詳しくは後述しますが、再転相続では熟慮期間中であっても相続放棄・限定承認ができないケースもありますので、しっかりと理解しておくことが大切です。
再転相続と数次相続、代襲相続とは、どのような違いがあるのでしょうか。
① 数次相続と再転相続との違い
再転相続と似た状況として「数次相続」というものがあります。数次相続とは、一次相続の遺産分割完了前に二次相続が発生することをいいます。
数次相続は、二次相続の相続人が一次相続の相続人の地位を引き継ぐという点は、再転相続と共通です。しかし、二次相続が発生するタイミングが異なります。
数次相続は、一次相続について相続承認があった後に、具体的な分け方を決める前に一次相続人が亡くなり、二次相続が発生します。そのため、数次相続では、二次相続人は一次相続に関して、相続放棄や限定承認を選択することはできません。
一方、再転相続は一次相続についての相続承認または相続放棄・限定承認がされていない段階で一次相続人が亡くなり、二次相続が発生します。そのため、二次相続人は一次相続について、相続承認または相続放棄・限定承認を選択することが可能です。
② 代襲相続と再転相続との違い
代襲相続とは、本来相続人になる人が以下のような状況だった場合に、その人の子どもが相続権を取得する制度をいいます。
たとえば、被相続人の子どもが被相続人よりも前に亡くなっていた場合で、子どもに子ども(被相続人から見て孫)がいた場合、被相続人の遺産は、被相続人の孫が相続することになります。
代襲相続も本来相続人になる人の相続(一次相続)と被相続人の代襲相続(二次相続)という二つの相続が重なるという点で再転相続と共通しますが、相続発生の順序が異なります。
再転相続が発生するのはどのようなケースなのでしょうか。以下では、再転相続が発生する具体的なケースを説明します。
上記のケースで一次相続が発生すると、唯一の相続人である母が祖母の遺産を相続します。祖母の相続に関する熟慮期間中に母が死亡すると、再転相続が発生し、長男と長女は、一次相続の相続人の地位と二次相続の相続人の地位を取得します。
上記のケースで一次相続が発生すると、母と叔母の二人が祖母の遺産を相続します。祖母の相続に関する熟慮期間中に母が死亡すると、再転相続が発生し、長男と長女は、一次相続の相続人の地位と二次相続の相続人の地位を取得します。
一次相続の法定相続人が一人のケースと異なり、上記のケースでは、母の遺産については、長男と長女の二人で相続しますが、祖母の遺産については、叔母、長男、長女の3人で相続することになります。
父・母・子どもの3人でドライブ中に事故に遭い、父と母は即死、子どもはその1週間後に死亡したというケースがあったとします。
このケースでは、父母については同時死亡の推定が適用されますので、父と母との間には相続は発生せず、父と母の遺産は、子どもが相続することになります。しかし、子どもは熟慮期間中に亡くなっているため、代襲相続と再転相続が発生し、子どもに子ども(父・母から見て孫)がいない場合、祖父母が父母の一次相続と子どもの二次相続を承継することになります。
再転相続が発生した場合の熟慮期間はどうなるのでしょうか。
熟慮期間とは、相続が開始した際に相続の承認または相続放棄・限定承認をするかどうかを決めるために設けられた期間です。
具体的には、相続人は、自己のために相続があったことを知ったときから3か月以内に相続放棄または限定承認の手続きを行わなければ、相続を承認したものとみなされます。
再転相続では、一次相続における相続人の地位を引き継ぐことになりますので、一次相続の相続人においてカウントが始まった熟慮期間がどのように影響するかが問題となります。
この問題について、民法では、再転相続人が相続開始を知ったときから3か月を熟慮期間と定めています(民法916条)。
ただし、再転相続の事案では、一次相続があったことを知らずに熟慮期間が経過してしまうケースも少なくありません。このようなケースでは、熟慮期間経過により一次相続の相続放棄ができなくなってしまいますが、そのような結論は再転相続人にとってあまりに酷といえます。
そこで、判例では、再転相続人になったことを知らなかった場合、二次相続を知ったときからではなく、再転相続人になったことを知ったときが熟慮期間の起算点になると判断しています(最高裁令和元年8月9日判決)。
再転相続人は、各相続について、相続の承認または相続放棄・限定承認を選択する権利があります。
しかし、再転相続では、一次相続と二次相続において自由に相続の承認と相続放棄・限定承認を選択できるわけではありません。一次相続を承認すると、二次相続の放棄は認められませんので注意が必要です。
なぜなら、二次相続では一次相続の地位も含まれていますので、二次相続を放棄するということは、一次相続の地位も放棄することになるからです。
再転相続が発生した場合には、以下のような点に注意して対策を講じていきましょう。
一次相続の相続人が一人であれば、再転相続があっても、一次・二次相続の遺産分割協議に参加する相続人は同じです。そのため、遺産分割協議を一度で終わらせることができますし、遺産分割協議書も1通作成すれば足ります。
しかし、一次相続の相続人が複数いる場合、一次相続と二次相続の相続人が異なるため、別々に遺産分割協議を行い、遺産分割協議書の各相続について1通ずつ作成しなければなりません。
一次相続の相続人が被相続人から生前贈与を受けていた場合、再転相続人の特別受益として持ち戻す必要があるかが問題になることがあります。
法律上は、特別受益者の対象は「共同相続人」とのみ規定しているため、再転相続人は、一次相続との関係でも共同相続人に該当するといえます。また、再転相続人は、相続人の財産を相続するため、それに含まれる受益も一緒に承継することになります。
そのため、再転相続人は、一次相続の相続人が受けた生前贈与についても特別受益として持ち戻す必要があるといえるでしょう。
相続財産に不動産が含まれる場合には、相続登記が必要になります。再転相続では、二つの相続が含まれますので、原則として一次・二次相続のそれぞれについて相続登記が必要になります。
ただし、一次相続において不動産を単独相続した相続人が亡くなり、再転相続が生じたケースでは、例外的に一次相続と二次相続の登記をまとめて行う中間省略登記が可能です。
再転相続では再転相続人は、一次・二次相続のそれぞれについて相続の承認または相続放棄・限定承認の判断を行わなければなりません。また、再転相続に限らず、遺産相続の場面では、特別受益、寄与分、遺留分などで揉めることも多いため、相続が生じたらすぐに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談をすれば、相続トラブルの解決のアドバイスを受けることができ、相続人の代理人として遺産分割協議に参加してサポートしてもらうこともできます。
再転相続が発生した場合、相続関係が複雑となり、判断の順序にも迷われることと思います。相続放棄についても、認められる場合と認められない場合があり、熟慮期間の起算点も一般的な相続とは別の注意が必要です。また、遺産分割協議や相続登記なども複雑な対応が必要になりますので、相続に関する知識や経験に乏しい個人では適切な対応が難しいといえます。
再転相続が発生した場合には、ベリーベスト法律事務所の弁護士へご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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今回は、再転相続とは何か、再転相続が発生する具体的なケースや熟慮期間の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
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