遺産相続コラム
相続人の中に認知症の人がいる場合、遺産分割などの相続手続きをどのように進めていけばよいのでしょうか。
この場合、成年後見人を立てて遺産分割協議を行う方法と、成年後見人を立てずに法定相続分に従って相続を進める方法の2種類があります。今回は、相続人に認知症の人がいる場合の成年後見制度を使った相続の進め方や注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
一般的に相続が起こって複数の相続人が存在する場合「遺産分割協議」を行って遺産を分配します。
遺産分割協議の結果をまとめた遺産分割協議書がないと、不動産の相続登記(単独名義)や金融機関での預貯金解約払い戻しなどの手続きもできません。
しかし進行した認知症の人には、単独で有効な遺産分割協議を行う能力がありません。
認知症の相続人がよくわからないまま遺産分割協議書に署名押印してもそのような協議書は無効です。また遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならないので、認知症の相続人を除いた遺産分割協議も無効です。そのような遺産分割協議書を使って不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどをしようとしても、受け付けてもらえません。
それでは認知症の相続人がいる場合、どうやって相続手続きを進めていけば良いのでしょうか?
この場合「成年後見制度」を使う方法があります。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などの原因で、自分では適切に財産管理ができなくなった人のために第三者が財産管理を行うための制度です。
高齢者が認知症などにかかって判断能力が低下した場合、本人に契約などの法律行為を任せているとだまされる危険などがあります。そこで民法は意思能力のない人には、契約や遺産分割協議などの法律行為を認めておらず、第三者としての成年後見人を選任し、代わりに財産管理や法律行為を行ってもらいます。それが成年後見制度です。
成年後見制度には「後見人」と「保佐人」「補助人」という3段階があり、本人の判断能力低下の程度に応じて適切な成年後見人を選任します。
後見人がもっとも権限の強い成年後見人であり(本人の判断能力低下の程度が大きい)、次に保佐人、補助人がもっとも権限が弱い成年後見人となっています。
遺産分割のために後見人を選ぶときには、認知症の進行具合に応じて適切な成年後見人を選任します。
破産者や未成年者、被後見人でなければ成年後見人になれますが、実際には一般人が他人の成年後見人になることはありません。多くのケースでは、本人の子どもや兄弟姉妹、甥姪などの親族が就任します。
親族間に争いがある場合や適切な親族がいない場合には、司法書士や弁護士などの専門職が就任します。介護関係で複雑な判断や手続きが必要な場合などには、社会福祉士が選任される例もあります。
遺産相続に際し成年後見人を立てたい場合にはどのように手続を進めれば良いのか、説明します。
成年後見を利用したいのであれば、家庭裁判所に対する申し立てが必要です。
申立権限があるのは本人、配偶者、四親等以内の親族、任意後見人、任意後見監督人や検察官などです。一般的には配偶者や子ども、兄弟姉妹や甥姪などの親族が申し立てるケースが多数です。
申立先の家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
成年後見の申立てには、以下のような書類が必要です。
費用として、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。
申立て
上記の必要書類を集めたら、まとめて家庭裁判所に提出して申立てを行います。
申立人や成年後見人候補者との面接
申立てが受け付けられると裁判所から申立人に連絡があり、裁判所で裁判官と申立人、成年後見人候補者が面接をします。そのとき申し立てに至った事情や候補者と本人との関係性など、いろいろなことを確認されます。
本人との面接
本人にもまだ判断能力が残っていて話を聞ける状態であれば、本人と面接が行われるケースもあります。また本人が後見制度の利用に反対している場合や親族間でトラブルになっているケースでも、本人の意思確認が行われる可能性があります。
親族照会
成年後見制度で特定の親族を後見人として選任するには、基本的に親族間に争いがないことが必要です。親族同士で対立しているのに一方の親族を後見人にすると、トラブルが悪化しますし財産使いこみなどの危険も高まるからです。
そこで成年後見の申立をすると、家庭裁判所から関係する親族に対し、成年後見を開始することについて意見を求める照会が行われることがよくあります。
裁判所から親族宛に書面が送られてきて、後見開始に対する意見や成年後見人候補者についての意見などを求められます。
鑑定
診断書や面接などの結果、本人にどの程度の判断能力があるのか定かでなく、後見人を立てるべきかどうか判断しにくい場合には、裁判所の判断で「鑑定」が行われることがあります。鑑定が行われると10万円程度の費用かかります。
鑑定の結果、後見が必要であれば後見開始の審判が出ますし不要と判断されれば後見人は選任されません。
審判
面接、照会や鑑定調査がすべて終了すると、裁判所で後見開始の審判が行われて成年後見人が選任されます。申立てから審判までの期間は、だいたい1、2か月です。
後見開始の登記
審判が出ると、法務局で「後見開始・後見人選任の登記」が行われます。
後見登記の証明書を取得できるのは、本人と配偶者、四親等内の親族、成年後見人などに限定されています。
成年後見人を選任して相続手続きを進めるのは、かなり大変です。また成年後見人をいったん選任すると遺産分割協議が済んでも後見の効力が続くので、本人が死亡するまで後見が継続されます。
そのような結果を避けるため、後見人を選任せずに相続する方法としては、以下のような方法があります。
1つは法定相続分に従って相続する方法です。遺産相続が起こったとき、基本的にすべての遺産は法定相続分に従って相続され、分割取得されたり共有、準共有となったりします。
法定相続分通りに相続するのであれば、特に遺産分割協議を行う必要がありません。
不動産についても法定相続分に従った共有登記をするのであれば遺産分割協議は不要で、戸籍謄本などを提出して名義書換が可能です。
ただし法定相続分以外の割合で遺産を取得したい場合や、特定の相続人が特定の財産を取得したいときには、この方法では対応できません。
次に遺言書を活用する方法があります。遺言ですべての財産の分配方法を予め決めておいたら、相続人達はその内容に従って遺産を分配できます。遺産分割協議を行う必要がないので、認知症の人がいても問題なく相続手続きを進めることが可能となります。
ただし遺言者が生前に有効な遺言書を作成しておかなければ、この方法は利用できません。
成年後見人の選任を申し立てる際、親族ではなくわざわざ弁護士を立てるメリットはどのようなところにあるのか、みてみましょう。
申し立て手続を代行
1つは、面倒な申し立て関連の手続きをすべて任せられることです。たくさんの書類集めや裁判所での対応など、弁護士に任せておけば申立人に余計な手間がかかりません。また無事に後見開始の審判を出してもらえる可能性も高くなります。
適切な財産管理
成年後見人には、適切な財産管理が求められます。毎年財産目録と収支状況報告書を作成してきっちり裁判所に報告し、不正のないようにしなければなりません。弁護士であれば財産関係の資料をきっちり残して必要な書類を作成し、不正をはたらくことはありません。
重要な財産すべてを任せていても安心感があります。
法律問題に対応可能
たとえば賃貸借契約の問題、介護施設への入所や契約問題、債権債務の問題などの法律問題が起こったとき、弁護士であれば適切に対応可能です。
相続人に認知症の方がいる場合、遺産相続が開始して「遺産を分け合いたい」と考えたとき、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。
そのままでは法定相続分に従って遺産を分け合うしかないからです。法定相続分で分けてしまう前に、遺産分割協議によって個別に遺産を分け合う方法について聞いておくと、両方のメリットデメリットを知って正しい判断ができます。
49日の法要が過ぎた頃、遺産分割協議の話が出て「あの人は認知症だけど、そのまま遺産分割協議できるのだろうか?」という疑問が出たときに、一度弁護士に問い合わせてみるのがよいでしょう。
弁護士などが成年後見人を務めると報酬が発生します。金額は管理する財産額によって異なります。管理財産が1000万円程度であれば月2万円程度ですが、管理財産額が5000万円を越えてくると月5~6万円やそれ以上になるケースもあります。
またいったん成年後見人を選任すると、基本的には本人が死亡するまで後見が続きます。遺産分割協議書の作成が終わったら任期終了、というわけにはいかないので、注意が必要です。
遺産相続が起こったとき、相続人の中に認知症の人がいたらそのまま遺産分割協議を進めることはできません。将来そういった状況が予想されるなら、予め遺言書を作成したり信託を利用したりして対応しておくべきです。
対策しないまま遺産相続が発生してしまったら、成年後見制度を利用して遺産分割協議を行いましょう。成年後見人が選任されると、基本的に本人が亡くなるまで後見人に財産管理や身上監護などを任せられるので、本人の生活が守られるメリットもあります。
遺産相続のことでお困りごとがある際には、ベリーベスト法律事務所までお問い合わせください。知見のある弁護士が親身になって、適切にサポートいたします。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
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仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
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たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
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これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
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